いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

東大和市元占い師マインドコントロール事件

概要

2023年2月7日、東京都東大和市芋窪の元占い師・渋谷博仁容疑者(74)と元妻で飲食店アルバイト・渋谷千秋容疑者(43歳・渋谷は旧姓)が、準強制性交未遂の疑いで逮捕された。前年12月に千秋容疑者がアルバイト先で同僚の10代女性に「いい占い師がいる」などと言って自宅に誘い出し、博仁容疑者が性的暴行を加えようとしたものと見られている。
 
博仁容疑者は女性に「UFO」などの映像を見せながら長時間にわたって「あなたは宇宙人に連れ去られ皮を剝がされて食べられる」「死を回避するためには私と性交するしかない」等と言葉をかけてマインドコントロールしようとしたとされる。
女性は「他の人や警察に知らせると助けられなくなる」と口止めされて3日後にまた来るように言われていたが、相談した家族が警視庁に通報。他にも同様の被害相談が1件寄せられていたことから捜査へと進展した。
 
渋谷容疑者は木造3階建ての一軒家で女性9人と子ども3人と共に暮らしており、事実上の一夫多妻生活を営んでいた。
6時過ぎ、家宅捜索に訪れた6人の捜査員に対して、博仁容疑者はドアの隙間から催涙スプレーを噴射するなどして抵抗し、公務執行妨害で現行犯逮捕。警察車両のほか消防や救急も呼び出され、6時20分頃には周辺住民に「有害物質が出ているので窓を閉めてください」と防災放送で注意を促す騒ぎとなり、逮捕のやりとりで博仁容疑者と捜査員一名が軽いけがを負った。
 
逮捕時点で、博仁容疑者は「UFO」の話をしたことについては認めているが準強制性交の容疑を否認、千秋容疑者は黙秘した。
渋谷博仁容疑者は2006年にも女性に対する脅迫容疑で逮捕されており、公判では「女性たちには全員家に帰ってもらう」と解放を約束し、「こんなことは2度とやりたくありません」と反省を誓っていた。しかしその後も共同生活は解消されなかったばかりか、17年経って尚も新たな「妻」を増やそうと画策していたものと見られている。
 

ハーレム生活とは

男性はスキンヘッドで一見すると強面な印象だが、実際に話してみると優しくおとなしい印象だという。
「渋谷さんは声に力があって声優さんのような声でした。ご自宅の玄関にバナナの木が植えてあって、近所の方に配るなど優しい一面もあった」と話す住民もいる。
近隣では40~70代くらいの女性や子どもたち5、6人で連れ立って歩く姿や、博仁容疑者が緑色の小さなワゴン車を運転して女性たちを買い物に連れていく姿も見られていた。

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博仁容疑者が送っていた女性たちとの共同生活とはどんなものだったのか。
2006年1月26日、当時21歳の女性に対する脅迫容疑で逮捕され、5月に懲役1年6か月執行猶予4年の有罪判決を受けた。
公訴事実によれば、女性を自宅に連れ込み、「ここを出ていけば肉を削ってミンチにしてやる」「ここで見たことを誰かに話したら病気になったり事故を装って殺される」と共同生活に加わるよう脅迫していたとされる。
 
2006年『週刊ポスト』誌が、10代から50代の11人の女性たちと暮らす東大和市の自宅でインタビュー取材を行っている。博仁容疑者は、一夫多妻の理由について問われると「6年前、最初のカミさんと別れてから、色々と考えるようになって“男だったらこれまで夢に見ていた生活を実現しよう”と思ったんです」と回答していた。(『女性ポストセブン』リンク)
 
博仁容疑者は1974年7月に最初の妻と結婚。二児を授かり、95年に東大和市に引っ越してきたが99年10月に離婚した。体調を悪くして運送業の仕事をリタイアし、資格なしでもできる仕事として占い師を始めたという。求人誌でアシスタント募集を掛けたところ多数の応募が寄せられ、「面接の際に呪文を心の中で唱えると、複数の女性が好意を持つようになった」と説明している。
その後、アシスタント女性たちと肉体関係や婚姻関係となり、彼女たちも職場などで別の女性たちを勧誘してその数を増やしていった。法律で重婚が認められていないため女性たちとは結婚・離婚を繰り返して、相互に財産分与の取り決めも行っている。博仁容疑者は「女性たち全員を妻だと思っている」と話し、全員が渋谷姓を名乗っていた。
 
女性の心をつかむために、占いや面接の際、「女性が怖がるようなこと」を言ったりすることもあったという。「近い将来、身内に不幸がありますよ」等といった心理的圧迫を掛けて「教え」に従わせる手法はもはや詐欺のテンプレートと言っても過言はなく、相手を動揺させて思考力を奪った上で言いなりにさせる古典的手法である。
女性たちは監禁状態に置かれていた訳ではなく、半数が日中アルバイトやパートに出て稼ぎ、半数が大量の洗濯物や育児など家事を分担していたとみられる。女性たちは1人当たり月8万円の「供出金」を出して、実質的に博仁容疑者を養っていた。夜の仕事はさせず、19時に揃って食事をとることを習慣にしていたという。

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女性との性生活について聞かれると、「女性たちの表情を見ていると、したいと思っている子は分かるんです。するとどちらともなくそういうことになりますし。他の子たちもそれを分かっていますから」と、言葉にせずとも全員が関係性を了承していると語っている。
2006年1月、TBSの取材に対して「“ハーレムみたい”と報道していたけど、そんな生活をやる気は毛頭ないですから」「たまたまこうなっちゃった。考えてみたら一夫多妻になっちゃった」と金銭やわいせつ目的を否定し、成り行きでそうなった偶発的な関係であると主張している。
どうして結婚しているのかと問われた同居女性たちは「誠実ですよね。嘘はつかない」「信頼できるから」と男性の人柄を称賛している。男は独身記者に対して「結婚するんだったら5人以上集めると家庭が安定しますよ」と冗談めかしたアドバイスを送っていた。
ポスト誌では「こんな生活をしていると絶倫と思われるかもしれないがそんなことはない。私は体も弱く、体力もないですから。みなさんが想像するほど頻繁ではありません」と世間の下世話な関心をたしなめるような発言もしている。
 
近隣住民によれば、地域の清掃活動にも参加し、他の家との目立ったトラブルもなかった。2006年の逮捕後は防犯カメラや貼り紙もあったが、その後も男女は和気あいあいと生活しており、周囲は奇異の目で見てはいたが、女性が増減しているような様子もなく静かに暮らしていたという。
 
 
 
◆所感
女性たちをマインドコントロール下に置いていた可能性が高い事案であり、年齢から見て2006年当時の女性関係が維持されてきたものと推測される。おそらくは家に連れ戻そうとした縁者もあったであろうに、なぜ女性たちとの関係は解消されなかったのか。犠牲者がないことは幸いだが、元妻たちは「被害者」と認定されなかったことで20年近くもそのまま放置されてしまった。
また警視庁は2度目の逮捕前にも被害相談をすでに一件受けており、再犯の疑いが強いにも関わらず、10代女性の被害届が出るまで積極的に動かなかったと見られても仕方がない。おそらく前に相談女性やこれまで同居してきた元妻たちは「成人」だったため、積極的に「事件化」できなかったのではないか。成人は本人の「意志」が尊重され、家族の合意を経ずとも家出や結婚が許される。一夫多妻の男女関係は今日の日本社会では特異とみなされているが、それだけでは法を犯していることにはならない。
事件でなければ動けないという警察の理屈も分かるが、「事件化」させなければ見逃されるという犯罪の抜け道にもなっている。略取誘拐による軟禁や虐待、宗教二世問題など、洗脳やマインドコントロール犯罪は相手の意志や思考を奪って従属下に置いてしまうもので、警察が介入しづらい家庭や宗教内部、ブラック企業などでのブラックボックス化が危惧されている。
また新宿のトー横キッズ・大阪ミナミのグリ下キッズなど繁華街の路上に集う若者たち、行く当てもなくネットカフェや安宿を転々とする家出少女、SNSに漂うパパ活女子なども、ともすれば本件のように「飼育」されてしまう危険性は高い。籠の鳥事件のような疑似恋愛的な人心掌握に加えて、福島悪魔祓い事件のような集団生活による同調圧力が掛かった脱出困難な状況である。

悩みや生きづらさを抱えて「占い師」を頼ってみると、一層不安を煽られて行き詰まるが、「救いの手」を差し出し、悩みに共感し合い励まし合って生きる、認めてくれる同胞たちがいることで、「ヒロハウス」は女性たちの駆け込み寺、心の拠り所となったのだ。だが残念ながらこれはヒッピー・コミューンの指導者となったチャールズ・マンソンのごとく、理想郷を掲げたカルト犯罪である。幸いにして殺人を指示することなく、元妻らの家族が訴えを起こさなかっただけに過ぎない。

UFOだ宇宙人だといった荒唐無稽な物言いになぜ騙されるのか、女性たちが能動的にこうした生き方を選択しているならばそれでよい、と人は思うかもしれない。害を与えられることもない、今までのように苦しまなくて済む、人と違う生き方を認めてくれる場所、それは内から見ても外から見ても「幸せな場所」であるかのように錯覚させる。占い師という屋台骨を失ったとき、彼女たちは人生を奪われていたことに、完全に行き場を失ったことに気づかされるだろう。

sumiretanpopoaoibara.hatenablog.com

売春あっせんの「ヒモ」は勿論のこと、水商売人と客、アイドルと単推し支援者、ライバー(ライブ配信者)と視聴メンバーなど表面化することは稀だが、お互いの距離感を見誤ればこうした洗脳支配に近い「自覚なき被害者」を生み出しかねない。どこからどこまでを犯罪と裁定すべきなのか、どうやって被害を被害と見抜くか、被害者らをどうやって救出していくかなど、改めて突き付けられた課題は大きいように思う。