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気になる事件と考えごと

那須経営者夫婦死体遺棄事件

栃木県の山道で拘束された男女の焼損遺体が発見されるショッキングなニュースが注目を集めている。2024年4月現在、捜査は続いているが、報道の経過整理も含めて記していきたい。〔5月1日追記〕

 

事件の発生

4月16日(火)午前、福島との県境に近い栃木県那須町伊王野の河川敷で身元不明の男女の焼損遺体が発見された。

午前6時50分ごろ、車で通りがかった会社員男性(55歳)が山林から煙が上がっているのに気づいた。だが山中で携帯電話の電波が通じなかったため、近くの森林組合関係の知人男性(37歳)に現地確認を依頼した。この男性が現場を訪れ、8時10分頃に「マネキンのようなものが燃えている」として伊王野駐在所を訪れて通報した。同署員が現場に駆けつけて焼損遺体を確認し、那須塩原署に応援を求めた。

遺体は道路から5~6メートル下りた河川敷で十字に折り重なるように倒れた状態で見つかり、周囲の地面も楕円形に焼け焦げていた。手を結束バンドで拘束され、顔に黄色い袋のようなものを被せられ、その上から粘着テープで幾重にも巻き付けられていた。足元にはガソリンの携行缶のような赤い容器もあった。

現場は那須町の中心部から約10キロ南東、伊王野支所から6キロ離れた山間部の車一台がやっと通れる一本道で、周辺は僅かに民家が点在するばかり。山の最奥・行き止まりに近い場所であることから、地元住民でも林業関係者、山菜採りか渓流釣りの人くらいしか立ち入らないような場所である。

河川敷近くの道路には血痕や何かを引きずったような跡があり、別の場所で殺害されて車などで運ばれ、火を点けられた可能性があるとみられた。

県警は死体遺棄事件と断定して那須塩原署に捜査本部を設置し、殺人事件も視野に80人体制で被害者の身元の確認などを開始する。地元住民らは「普段はのどかで事件とは無縁の場所」「早く解決してほしい」と不安を募らせた。

同日中に男性の身元が宝島龍太郎さん(55歳)と判明し、東京・上野を中心に焼き肉店などを十数店舗を展開する「サンエイ商事」社長とメディア各社が報じた。女性はすぐに特定されなかったが、事件後連絡がつかなくなっている龍太郎さんの妻幸子さん(56歳)ではないかと見られた。

司法解剖の結果、男女の死因は頸部圧迫による窒息死と判明。二人の首には圧迫されてできたような皮下出血の跡があり、ともに死後数日以内とされた。女性の頭部には複数の骨折があり、鈍器のようなもので複数回殴られての頭部外傷が死因に関連するとも見られた。遺体や現場の状況から、強い怨恨を動機とする何らかのトラブルに巻き込まれたとみて男性の交友関係などを中心に捜査が進められた。

17日、20代の男が「自分が関与したかもしれない」と被害男性の所持品を持って都内の警察署に出頭。県警では複数犯の関与もあると見て任意聴取で詳しい事情を聞いた。

 

捜査の進展

18日までの調べで、宝島さんら男女の姿が15日夜9時に都内の防犯カメラで確認され、その後、別の場所で別の車に乗り込んだことが報じられる。車には男女のほかに少なくとも男二人が乗っていたとされ、事件との関連が強く疑われた。

遺体が見つかった16日の午前4時過ぎには、遺棄現場から約1.5キロ手前の道路沿いの防犯カメラに現場方向に向かう「黒っぽい車両」が映り込んでおり、およそ30分後には引き返す不審な動向が捉えられていた。

18日、県警は出頭していた男名義の車(黒色のトヨタ・プリウス)を押収し、指紋等試料の採取など詳しい検証作業を行った。男は殺害への関与は否認しているものの、「頼まれて車を貸した」「他の人と出頭しようとしていた」と複数人の関与を匂わせる供述をしており、慎重な裏取りが続けられた。

4月21日、出頭していた埼玉県越谷市、建設業平山綾拳(りょうけん)容疑者(25歳)が二人に対する死体損壊容疑で逮捕された。容疑は氏名不詳者らと共謀して15日深夜から16日早朝にかけて、二人を車で那須町の山中に運び、死体損壊に関わった疑い。

男の住むアパートの近隣住民は「会えば挨拶してくれた」と言い、15日頃にはゴルフバッグを持って外出する姿も見られており、「事件と関係するとは思わなかった」と不安を漏らした。男は5か月ほど前にアパートに入居し、住民男性は「切れ長の目と筋肉質の体型が印象的だった」と話した。勤務先の建設会社では数年前からとび職として昼夜を問わず真面目に働いており、職場関係者も驚きを隠せない様子だった。

 

4月22日、栃木県警と警視庁は品川区にある大崎署に合同捜査本部を設置。本事件に俗にいう「闇バイト」で集められた匿名流動型犯罪グループ(「トクリュウ」)が関与した可能性があるとした。

男は調べに対し、「(被害者の)名前も知らないし、見たこともない。栃木には行っていない」などと供述。一方で、粘着テープ、ガソリン、携行缶について「指示を受けて買った」と説明し、事件前の13~14日に都内や埼玉県内で購入していたことを認めた。同日、東京地検へ送検された。

また捜査関係者によると、押収された車両からは被害者のものと見られる所持品、鈍器のようなもの、血痕が見つかったとされる(4月23日『下野新聞』)。

15日の夜、東京・上野の防犯カメラに被害者男性と妻と見られる女性が車に乗り込む姿が映っており、午後11時半ごろ、品川区内で複数の人物と一緒にいる姿が映っていたという。

平山容疑者は15日夜9時ごろに品川区内のコンビニエンスストアで二人組と合流し、黒い車を貸し、本人は11時ごろに徒歩で店を離れ、栃木県の現場には訪れていないと主張。防犯カメラでも動向が確認された。容疑者は16日未明から3時半ごろ、都内の居酒屋に一人で訪れていたことが判明し、捜査本部では車を借り受けた二人組が実行役と位置付けた。

平山容疑者の車の後部座席やトランクから血痕が検出されていたが、DNA型鑑定の結果、宝島さんの妻幸子さんのものと一致。24日、改めて宝島さんの妻で会社役員を務める幸子さんが被害者と特定された。また車の後部座席の足元には犯行に使われたとみられる粘着テープや結束バンド、幸子さんの運転免許証が見つかったことも明らかとされた。

FNNの取材に応じた平山容疑者の祖母は、「綾拳はやさしいよ。私のこともばあちゃん、ばあちゃん、ばあちゃんって…(悪い話は)今までに一回も聞いたことない。今まで心配なんでしたことない、一回も。私が知るかぎりは」と述べ、供述の変遷も報じられるなか「正直なことをきちんとしてもらわなきゃ。素直に、本当のことを話してもらいたい、ちゃんと」と孫への思いを語った。

15日

21時 被害者、上野で車に乗る

21時半 平山容疑者、品川区のコンビニで二人組と合流

23時 平山容疑者、二人組と別れて徒歩でコンビニを離れる

23時半 品川で二人組と被害者が合流か

16日

0時 被害者ら品川の空き家に到着か(1~2時間滞在か)

2時 平山容疑者、一人で都内の居酒屋へ

4時 現場周辺カメラに黒っぽい不審車両。30分で引き返す

6時50分 第一発見者が煙を見かける

8時10分 知人男性が駐在へ通報

捜査本部では、指示役を含め、関与したグループの役割などについても調べを進めた。事前に平山容疑者と二人組とは数回面識があるが、「あだ名で呼んでおり本名などは知らない」、「(事件発覚後)連絡がつかなくなった」という。遺棄場所などについて相談があり、「田舎の方がいいのでは」「人に見つからないところがいい」等のやりとりがあったという。

また容疑者は、「名前は言えないが、アニキに頼まれ車や凶器を準備した」と話しており、出頭前にこの知人に携帯電話を渡したと供述している。夫妻の殺害に至った動機は不明ながら「遺体の処理を頼まれて二人に依頼した」と犯行の下請けだったことを説明。名前の明かせない知人について「怖い人」とも話している。

実行役の二人組は15日午後11時半ごろに「物件探し」と称して夫妻と合流し、16日0時頃に品川区の空き家を訪れていたとみられている。コンクリート打ちっぱなしの地上3階地下1階の豪邸とされ、1年ほど前までは何かの事務所に使用されていたという。

捜査関係者によれば、敷地ガレージから血痕が見つかっており夫妻が暴行を受けた可能性があると伝えられた。平山容疑者は指示役から「空き家の場所を伝えられ、二人に行くように指示した」「かなりの金額を受け取った」などと話しているという。

4月27日、押収されていた平山容疑者名義の車内から凶器に使用された疑いのあるハンマーが見つかっていたことが明らかとされた。

 

怨恨による依頼殺人か

被害者の宝島さんはJR御徒町駅から上野駅周辺に掛けて14店舗を展開し、その一角は「宝島ロード」と呼ばれる辣腕経営で知られていた。元従業員によれば、龍太郎さんが店の経営管理、幸子さんは従業員の指導を担い、自転車で毎日夜まで集金などに走り回っていたという。一方で、周辺の飲食店と客の奪い合いなどで度々揉め事が生じていたともいう。

4月10日未明の防犯カメラ映像には被害者夫婦と警官の姿も


宝島さん夫妻と幹部社員D氏の3人は、2023年3月にある飲食店社長C氏から暴行を受けたとして11月に東京地裁に損害賠償請求の訴訟を立て続けに起こしていた。その直前にはC氏側から営業妨害を受けたとして損害賠償の訴えを起こされていた。

宝島さん側はC氏側がサンエイ商事の従業員を引き抜かれたとしてかねてより立腹していたという。だがC氏側は引き抜いたことはないと主張しており、従業員から「D氏が入墨を露出しながら頻繁に店に侵入している」と連絡を受けて、宝島さんやD氏らを店外に追い出そうとしたとされる。その際、傘で腹を刺したり、中国語や韓国語で暴言が飛び交い、C氏も思わず手を出したとされるが、営業妨害との過失相殺を求めているという。

サンエイ幹部D氏は存命だが、裁判の今後の見通しは不明とされる。

下のリンク『NEWSポストセブン』記事では、コロナ禍で店の入れ替わりで中国系の飲食店が増加し、競争意識が過熱して界隈ではトラブルも多く見られたと伝えている。

《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今|NEWSポストセブン

一方で、被害者夫婦が15日夜に外出した目的は新規事業のための物件探しとの情報もある。平山容疑者らに1000万円以上とされる多額の報酬が支払われたと見られており、はじめから殺害計画であったこと等から、下のリンク『集英社オンライン』では、単純な恨みごとの報復ではなく大金が絡んでいたのではないかとする社会部記者の見解を伝えている。夫婦がいなくなることで利権を得る立場の人物・集団とは一体何者なのか。

〈那須2遺体〉逮捕の刺青男らへの報酬は1000万以上「客引きトラブルではない」と捜査員らが注目するXの存在とは…「Xは日本人。外国人犯罪グループなら平山は使わない」 | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕け

平山容疑者に指示したとされる「アニキ」の詳細は明らかにされてはいないが、警察は早い段階で大崎署に強盗殺人の捜査本部を設置していることから、すでに対象の目星はついており裏付け捜査に追われているものと考えられている。 

 

指示役・実行役の逮捕

4月29日午後、警視庁は、平山容疑者と共謀して宝島さん夫妻の死体損壊に関与したとして住居・職業不詳佐々木光容疑者(28歳)を逮捕する。

捜査関係者によれば佐々木容疑者は16日午前3時半ごろ、品川区の居酒屋で平山容疑者と合流して5分後に退店して街を歩く姿が防犯カメラに映っていた。その後、佐々木容疑者は沖縄に移動していたとみられ、28日に那覇空港から福岡に向かおうとしているところを発見し、身柄を拘束した。スマートフォン2台と現金数百万円を所持していたという。

調べに対し、佐々木容疑者は平山容疑者とは「2~3月に渋谷で知り合った」「実行役は平山容疑者が集めたので知らない」とし、「宝島夫妻とは面識がない」、別の人物から「報酬を受けて遺体の処分を指示された」と供述しているという。

30日午前、警視庁は佐々木容疑者を東京地検に送検した。

 

5月1日、実行役の2人組を立て続けに逮捕。

平山容疑者は実行役の2人組について「昨年末から年明けに知り合い、その後何度か飲んだ」と話していた。指名手配して行方を追っていたところ、30日午後、そのうちの一人で住居・職業不詳姜光紀(カングァンギ)容疑者(20歳)が神奈川県大和市のホテルで知人らといるところを身柄を確保され、任意で事情を聞いていた。

30日午後10時半過ぎ、千葉県内の知人宅にいた若山耀人(きらと)容疑者(20歳)の身柄を確保し、1日早朝(5時頃)を逮捕。若山容疑者は元俳優として活躍し、過去に『仮面ライダーウィザード』(2013)や『軍師官兵衛』(2014)などの人気作品にも出演があった。

捜査本部では、姜容疑者、若山容疑者が16日の午前0時ごろに夫妻と品川区の住宅で接触し、暴行を加えた可能性が高いと見て調べを進めている。また佐々木容疑者の上にも指示をしていた別の人物がいると見て、スマートフォンの解析などが進められている。