いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

札幌すすきの首なし男性事件

2023年7月、北海道すすきのにあるホテルで発生した猟奇事件。

不可解な殺害状況のみならず、その背景にも大きな注目が集まっている。

 

事件の発生

2023年(令和5年)7月2日(日)午後3時20分ごろ、札幌市中央区南8条5丁目のホテルで、チェックアウトしないことを不審に思った従業員が202号客室を訪れ、男性が倒れているのを発見し、関係者を通じて119番通報した。

駆けつけた警察と救急隊がその場で男性の死亡を確認。浴室内でうずくまるように倒れた状態で見つかった遺体は、首を刃物のようなもので切断されており、頭部を持ち去られていた。

居室内に目立った血痕はなく、洗い流されたかのようではあったが殺害現場は浴室と見られた。死後それほど時間は経っておらず、男性の着ていた衣服や身元の分かる所持品は部屋に残されていなかった。

 

ホテルフロントの防犯カメラ記録は不鮮明で人相の特定はできなかったが、被害者と見られる男性と一緒に入店し、その後1人で退店した人物が映っていた。同伴した人物はチェックインから4時間も経たない2日午前2時過ぎに「先に出る」とフロントに電話で伝えてホテルを出た。電話で応対した従業員によれば「女性のような声」だったとされている。

警察は、現場から立ち去った人物の性別は公表しなかったが、関係者の証言では小柄な体格で、女性のような衣服を身に着けていたと言い、つばの大きい帽子を目深に被り、入退店時の服装が異なった。大型の黒っぽいスーツケースを持っており、頭部や所持品を持ち去った可能性が高い。刃物と見られる凶器は見つかっていない。

警察は殺人・死体遺棄事件として捜査本部を立ち上げ、殺害された男性の身元確認を急ぐとともに、防犯カメラの人物の行方を追った。

 

司法解剖の結果、死因は出血性ショック死とみられ、体の一部には刃物のようなもので刺された致命傷があった。遺体に防御創はなく、遺体のあった浴室内に争ったような形跡はなかった。

首の切断は男性の死後に行われたことが判明。年齢は45から70歳、身長160から170センチ前後と推定された。

現場は札幌市の繁華街すすきのエリアの一角で、ホテルや雑居ビルなどが密集する地域である。中心部からはやや外れているが、ホテルを利用する観光の宿泊客やカップル、酔っ払いなどで人通りは多い。

行方を眩ませた同行者はホテルを出たあと、一度は南の方角に向かい、すぐにホテル出口へと引き返して西の方角に向かったことが確認されている。周辺でタクシーや車に乗り込むような様子は確認されておらず、大きな荷物を持っての徒歩移動も旅行者のようにカモフラージュされていたとも言える。

 

待ち合わせ

その後の調べで、首を切断された遺体で見つかったのは、北海道恵庭市和光町に住む会社員・浦仁志さん(62歳)と判明。浦さんは7月1日に行き先を告げずに車で移動し、3日夜に浦さんの妻が千歳署に行方不明者届を提出。指紋や手術痕などから本人と特定された。

知人によれば、まじめな性格で地元町内会役員を務めていたこともあり、周囲に慕われる存在だったという。

 

関係者によれば、浦さんは発見現場から約200メートル離れた会場で行われた音楽イベントに、1日午後4時から終演する午後10時まで参加していた。

1970~90年代のディスコミュージックを中心としたイベントで、仮装者や道外からの参加者などもおり、中高年を中心に約1000人が参加する大規模なもので、コロナ禍で4年ぶりの開催であったが大いに賑わったという。

イベント終了後、浦さんは午後10時半頃に周辺の繁華街で相手と待ち合わせをしていたと見られ、防犯カメラにはその場で数分間にわたって立ち話をする様子が映っていた。2人は午後10時50分にホテルに入店。同伴者が午前2時過ぎに一人で退出するまでの3時間半のうちに殺害、首の切断が遂行されたことになる。

恵庭から札幌までの移動に使った浦さんの車(白色のFIT)は、4日、中央区内の有料駐車場に施錠された状態で残されているのが確認された。だが車のキーはホテル客室から見つかっておらず、同行者が衣類、携帯電話、財布などと共に持ち去った可能性がある。

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5日、浦さんの遺族は「あまりにも突然のことで心を痛めており、現実を受け入れることができません」とコメントを出した。関係者によれば車や自宅に遺書のようなものはなく、事件翌日の7月3日も休暇は取っておらず出勤予定だった。

 

専門家の見解

7月6日スポニチアネックスでは、元警視庁刑事で防犯コンサルタントの吉川祐二氏の見解を伝えている。吉川氏は「無防備な状態で刺されたのではないか。シャワーを浴びているときなどに不意に背後から一撃を受けたり、頭部を殴られ気を失った可能性がある」と推察。

犯人が頭部を持ち去ったねらいについて「被害者の判別をしづらくして捜査かく乱をしようとしたのがひとつ。また強い憎悪や怨念なども考えられる」と述べた。

 

7月6日夕刊フジでは、精神科医・日向野(ひがの)春総氏のコメントを掲載。首を持ち去った動機について、日向野氏は「首は古代から『勝利の象徴』『戦利品』と言う意味があり、その切断は『その人の存在を消す』という意味になる。金銭や恋愛などの怨恨で殺害するよりも異なるレベルの行動。極端なサディズムの傾向もある」と指摘した。

また短時間での犯行について「高齢ならば一時間で失血死することもある。医療関係者など刃物の扱いに慣れたプロであればメス1本でも人体を切断できる」と言い、「殺害後は心理的に通常より以上の力が出ることもあり、仮に加害者が女性であっても、男性を浴室に運んで首を切断することは不可能なことではない」との見解を示した。

 

 

所感

一見すると、その状況から被害者は「妻に隠れてススキノに遊びに行った」ように捉えられる。だが路上で待ち合わせていることや、相手は大荷物で現れたこと、その後も周辺で車で立ち去る様子も確認されていないことから、デリヘルのような派遣風俗ではない浮気であろう。

警察が重要参考人の性別を明らかにしないことから「女装した男」といった見方もあるが、顔を判別できないだけで女性犯ではないかと思う。

「首の切断」「頭部持ち去り」という犯行形態から、相当な私怨があったとする見方もあるが、所持品を持ち去っていることからも発覚を遅らせる意図が大きいように見受けられる。首以外の外傷に関する情報が報じられていない点も気になるところであり、入店後、それほど間を開けずに犯行に及んでいることからも、吉川氏の指摘するように入浴時に不意を突いて襲われたのではないか。

被害者が訪れたのはふらっと立ち寄れるような街なかのクラブイベントではなく、ホールで開催された大型ディスコイベントであることから、大半はかつてディスコで出会った・当時を懐かしむような熟年夫婦の参加が多い。イベントに獲物を捜しに来たシリアルキラーであれば恐ろしい話だが、シングルで参加していた男女がその場で偶々出会ったのではなく、事前に街中で会う約束をしていたと見る方が自然であろう。

だとすれば当然、通信履歴から相手の特定は可能であり、警察も人物の特定はできているのではないか。以前から不倫関係にあった、あるいは縁を切りたいが脅迫されて逃れられないといった事情を抱えた女性による意を決しての犯行と言うのが、事件から一週間後の筆者の見立てである。

 

だが作家、やくざ分野のライターとして知られる鈴木智彦氏はTwitterで下のような投稿をしている。

暴力団関連の事件性があることを意味しているのか、「そういうこと」がどういうことなのか詳しい事情は分からない。

発見しやすい、むしろ従業員によってすぐに発見される場所で、被害者の指紋鑑定の余地を残したまま頭部だけを持ち去ったということに意味を見出すならば、犯人側の意図として社会的制裁や「見せしめ」の要素も存在するのかもしれない。

謎が深まるこの事件、道警による今後の捜査の進展に期待したい。

 

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事件発生から10日経った〔7月12日まで〕に入った続報、関連情報について追記。

 

https://bunshun.jp/articles/-/64197

https://www.news-postseven.com/archives/20230709_1886492.html?DETAIL

文春オンライン、NEWSポストセブンなどでは、被害者と一緒にホテルに入った人物が二人とも女性のような服装をしていたことを報じた。

被害者はショートヘアに白いカーディガンのような服、黒のロングスカート姿で白っぽいバッグを持っていた。一緒にいた人物は入店時は白っぽい服装だったが、退室時には上下とも黒っぽい服装に着替えていた。

また被害者は親子二代で内装建材会社に勤め、妻と成人した子どもが二人いるとしている。

当日ディスコイベントで撮影された画像も公開されており、浦さんは光沢のある銀色のセパレート水着のようなコスチューム、電飾の付いたリュックを背負った参加者の中でも目立ついで立ちだったという。

一人で参加し、来場者と踊ったり喋ったりする様子も見られているが、一人で会場を後にしたとされる。

被害者男性は、少なくとも7、8年前からススキノのダンスクラブやバーなどで見かけられており、知人から「トモちゃん」という愛称で呼ばれていた。一人で静かに飲んでいることもあれば、知人と会話を楽しんだり、ときに女性数人と来店することもあったという。知人によれば「女装はするが、好きなのは女の子」と話しており、性自認は男性のいわゆる「女装家」と見られている。

 

https://shueisha.online/newstopics/145766

集英社オンラインでは、現場となったホテル関係者の証言を伝えており、そもそものチェックアウト予定時刻は11時だったとしている。発見現場の浴室は、客室出入り口から一番離れた位置にあり、スタッフは声掛けをしながら室内を隅々まで確認したが、異臭などはせず、備品を使用した形跡はなく、ベッドも「使用前」と変わらない状態だったという。

第一発見者のスタッフが浴室のドアを開けると、洗い場の床に手をついて土下座しているような被害者の背中が目に入り、呼びかけても返事がないことから首がないことまでは確認せず、すぐに救急に連絡した。

またホテル関係者によれば、二人には見覚えがないと言い、同伴者について「年齢は何となくですが20代から30代くらいに見えました」「行きも帰りもマスクをしていたので、顔はほとんど見えません。日本人か外国人かもよく分かりません」「(被害者より)10センチ以上は小柄に見えました」と話している。

 

HTB(北海道テレビ放送)では、被害者が趣味のバイクで度々訪れていた稚内の宿にも捜査があったことを伝えている。捜査員から容疑者と見られる人物が泊まりに来たことはなかったか話を聞かれたという。宿の関係者は「犯人だろうという人が、広いつばの帽子をかぶって金髪で。そういう人は泊まっていませんね、という話をした」と語っている。

 

また元北海道警の捜査一課長・斉藤穣氏は、以前あのホテルを利用したことがあり、「はじめからあそこに入るつもりで示し合わせて待ち合わせた可能性が強い」と述べ、カメラも人通りも多い土地柄もあって、逃走は「場当たり的」との見方を示した。だがかの人物が向かった西側には住宅街があることから「中島公園側に駐車場があって、いったん南側に行ったけれど人通りが多いから西側にルートを変えた可能性がある」「あと付近に自宅があるという2通りしか考えられない」と見解を述べた。

 

そのほか一緒にいた人物がホテルを出た時間帯(2日午前2時過ぎ)に被害者男性の携帯電話の電源が切られていたことを各誌報じている。

 

筆者は先入観から、初期報道で同伴した人物が「女性のような」見た目をしていたものと思い込んでいたが、発見された被害者も女装していたとは予想外だった。一部には、儀式や象徴として首を持ち去った説もあるが、解体を意図してスーツケースで持ち出そうとし、途中で断念したとする見方も大いにありうる。被害者の指紋切除までしなかったのは面倒だったためか、手違いで残していったのかは分からない。

進路を南から西へと変えた点について、単に慌てふためいていたようにも捉えられるが、ススキノ周辺に土地鑑があり、行き先が定まっていたとも受け取れる。電車も不通の時刻とあって、当然周辺のタクシー会社でも確認されているはずだが浮上しないとなれば、ススキノ近郊で暮らしているという仮説もにわかに現実味を帯びてくる。

道警も稚内の旅行先まで確認しに行っていることからも、被害者とは旧知の間柄と見ている公算が高い。通信履歴等の解析結果が明らかとなれば、公開手配に切り替わる可能性もある。捜査の進展を注視したい。

 

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〔7/24追記〕

24日、札幌中央署は防犯カメラ映像や聞き込みなどにより、事件の被疑者2名を逮捕したことを発表した。

被疑者は、札幌市厚別区に住む職業不詳、田村瑠奈(29歳)、医師、田村修(59歳)。

両名は、共謀のうえホテルの一室において刃物様の凶器を用いて被害者の頸部を切断し、離断した頭部を領得して不詳の場所まで運搬したとされる。

罪名はともに死体損壊、死体領得、死体遺棄罪で、警察は2人の認否を明らかにしていない。

瑠奈容疑者と被害者男性は知人関係だったと見られており、殺人の疑いも視野に動機や経緯などの調べを進めている。父親の修容疑者は、犯行の前後に車で送り迎えなどしたものとみられている。

近隣住民の証言では、瑠奈容疑者は小学生のころから不登校だったと言い、ここ2年近く姿が見られなかったという。修容疑者は市内の総合病院に精神科医として勤務しており、物腰柔らかいまじめそうな印象だったが、夜に病院から帰るとすぐに車で出掛けてしまい、家で過ごす時間はあまりない様子だったという。

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〔7月30日追記〕

父娘逮捕の翌日となる7月25日、第三の容疑者として瑠奈容疑者の母親・田村浩子容疑者(60歳)が二人と同じく死体損壊、死体領得、死体遺棄罪の容疑で逮捕された。

現在も役割分担や動機の詳しい解明が続けられているが、殺害や首切断の実行は被害者と共にホテルに入った瑠奈容疑者ひとりで行ったとされ、事前に両親も犯行計画を知り、修容疑者が車で送迎し、浩子容疑者も協力して頭部を保管していた共同正犯と捜査関係者は見ている。

 

近隣住民によれば、浩子容疑者は「とっても話しやすい人」だったと言い、事件後も花に水やりをするなど普段通りの様子に見えたという。以前は旭川にいた頃に学芸員をやっていたため絵画に詳しく、自らも水彩画を嗜んだという。正月には知人宛にコロナ息災を願う「アマビエ」と干支のウサギを描いた年賀状が送られていた。

仲睦まじい夫婦とされ、二人共通の趣味で昆虫好きだったと言い、住民が浩子容疑者に幼虫がいたと教えると、修容疑者が網で飼育箱をつくって成虫になるまで育てていたという。健康状態も良好と見られ、近頃は朝7時からパート勤めをしていたとされる。

浩子容疑者が描いた年賀状のイラスト

また同25日、ホテルから持ち去られたものとみられる頭部が、3人の暮らす住宅の2階浴室から一部腐敗した状態で発見され、歯型から被害者本人のものと確認された。

医師である修容疑者が遺体の歯型から本人確認されることを恐れて、切断を指示したものなのだろうか。例えば1995年4月に京都府船井郡の山中で発見された女性の遺体は、首と手首が切断された状態で見つかった事件がある。その後の調べで女性の身元は判明し、不倫関係にあり失踪直前にラブホテルに同伴した男性が逮捕されたが、容疑を否認。凶器や頭部、手首といった犯行を裏付ける証拠は発見されず、男性は処分保留で釈放され、未解決事件となった。この事案では逮捕に至るまでも4か月以上かかっている。

捜査関係者によれば、修容疑者と瑠奈容疑者は事件前に札幌市内の商業施設で、「のこぎり」「ナイフ」「スーツケース」、変装して特定を免れるため「金髪のウィッグ」を購入しており、犯行に使用されたものと見られている。

送迎に使われた車両

現役の精神科医だった修容疑者は「リエゾン科」に所属し、過労自死やホームレス問題などに取り組み、事件後も普段通り勤務を続けていた。患者の必要に応じて精神医療と身体医療の各科をつなぐ役割を担い、同業者からも頭の切れる臨床医として講演の依頼は絶えず、「親身になってくれるよいお医者さん」として内外からの評判は高かった。

院内では娘が引きこもりだったことを隠すこともなく、家族思いだったという。1年ほど治療を受けた元患者は、悩みを周囲に打ち明けられなかったが「家族と悩みを共有するように」「家族なら分かってくれる」と繰り返し薦められたと振り返る。

修容疑者は事件後も週末に訪れたラベンダー畑の風景や大阪、愛知など出張先でもSNSの更新を続けていた。13日には「近所のカレー屋さんテイクアウト頼んだんだけど たむら じゃなくて HAMARA に なってる件( ノД`)…」と日常のひとこまをユーモアを交えて投稿している。

一方、自宅にはおよそ1年前から白い布の幕が張られ、周囲から屋内の様子が窺えないようになっていたと近隣住民はその変化を指摘する。またやはり1年ほど前から、夜に帰宅した父親がなぜか家に入らず、庭でキャンプでもするように弁当やカップ麺を啜る姿も見られていた。以前はモノがなかった庭先にはいつの間にか大量のクーラーボックスなどが積まれるようになった。

別の住民は、「1年くらい前はコンテナガーデニングみたいに花を飾って綺麗にしていた」と言い、庭に幕を張ったのも雑草がはみ出ないようになのか、人目を避けるためではないかと推測している。

修容疑者の身柄確保は、自宅から1.5キロ離れたシャワー完備のネットカフェだった。事件前の6月末に夫婦は居酒屋のカウンター席を利用し、深刻そうにも楽しそうにも見えなかったが静かに二人の時間を過ごしている様子が目撃されていた。家族との関係が悪化していたのか、首の置かれた自宅で寝食をすることができなかったのか。

 

修容疑者の親族は、両親は娘に対して「溺愛も溺愛、ひどいんだ」と3人の家族関係について語った。仕事では周りの人から感謝されているが、と記者が家族の内実を尋ねると、「そういう人(困っている患者さん)にとっては神様みたいだった、修はね。だけども自分の子どもに対してはどこか生温い溺愛が勝っちゃったんだなと思うんだ」と話した。

 

当初、瑠奈容疑者について不登校で引きこもりの情報だけだったが、元同級生の証言や外部との接触を断って生活していた訳ではないようで目撃談が複数報じられている。

大人しく目立たなかったとの声が挙がる一方、小学時代の同級生は「ちょっと高そうなドレスを着ていて、服をちゃかしたときにカッターを持ってきて教室で追いかけられ、馬乗りになられて首に突き付けられて『次言ったら刺すからな』と言われた」とかつての経験を振り返る。

週刊文春では、符合するような証言として「気難しい持病があって、突然、感情が抑えきれなくなって。歯止めが利かないんだよな。そうなったら何をやるか分からんというか…。」という祖父の証言を報じている。病名は明らかではないが精神性の疾患と見られている。

「浮いている存在だったのでかなり目立っていた」と言うが、6年時にはほとんど登校しなくなっており、修学旅行の参加も担任教諭が声を掛けての参加となった。卒業文集には「楽しかった修学旅行。女子で木刀を買ったのが私だけだった」というユニークなエピソードが綴られている。

 

昨年来、何度か事前予約しての来店があったという居酒屋の店主は、「ぱっと見は明るくていい子という感じ」と彼女の印象を語り、その都度相手は違ったが同年代の女性たちと一緒に「仕事終わりの普通の飲み会」のようなかたちでアルコールを頼み、楽しそうに過ごしていたという。店で彼女を見かけたという客は「オシャレな服装、モデルさんのような感じ」と印象を述べた。

容疑者の元交際相手の友人がANNの取材に応じ、7~8年前に紹介された当時の印象などを語っている。交際していた相手の男性の詳細は明らかにされていないが、2人はマッチングアプリを通じて知り合い、約1か月交際して別れたという。紹介してもらったとき、スラッとして顔立ちはきれいだと思ったが「あまり明るくはない感じ」だったという。車内で「はじめまして」と挨拶をしても無視され、助手席の彼女は無言で携帯電話の画面ばかり見ていたという。

また近所の高齢女性は、昨冬に近くの雪道で転倒したところ、瑠奈容疑者に「立てないの?車で送っていこうか?」と介助してもらったと話した。

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被害者男性とは事件前にすすきのの飲食店などで複数面識があったとされ、何らかのトラブルから事件に発展したと見られている。

集英社オンラインでは、事件の発端は被害者側の「不同意性交」だとして、父娘の逮捕当日に浩子容疑者から事情を聞かされたという瑠奈容疑者の祖父の証言を詳しく報じている。

「瑠奈は結婚もしたことないし、男が大っ嫌いなんさ。私が知るかぎり家族以外の男に気を許してるのを見たことないからな。そういう特殊な性格を持った子なんだ」

「そうだよ、瑠奈は襲われてるんだよ。相手が女の格好してたから瑠奈は女だと思ってたの」

祖父は、2人の出会いはカラオケかディスコかそういうところだと聞いていると言い、ホテルに入った途端に相手は男に豹変したと話した。祖父はなぜ警察に言わないのかと問い詰めたが、瑠奈容疑者の両親が表沙汰にすることを望まず被害者男性と話し合い、「決着がついた」と聞かされていたという。

浩子容疑者も「娘が男性から暴行されトラブルになっていた」趣旨の供述をしており、怨恨が事件の動機とみられる。

 

一方、被害者の浦仁志さんについて性的奔放さが以前から周囲とのトラブルを招いていたとの見方もある。

デイリー新潮では、バイク乗りだった浦さんがこの8年来、年に4回ほど訪れていたという民宿を取材。元は女装していなかったが、アニメの美少女フィギュア好きが嵩じて自らも女装を始めたと言い、「面白いものを見せてあげる」と言って女装を披露したという。この民宿では談話室で宿泊者揃っての宴会が常で、女将によれば常連だった浦さんは「こんな格好でも普通に男です!」と話して人気者だったと振り返っている。参加者によれば、「この子、きれいになるわ」と言って目の前で客にメイクを施して変身させていき、体験者も面白がって、浦さんを悪く言う人はいなかったという。

同記事では、世間体を気にして恵庭市内では控えていたようだが、化粧品や衣装などの掘り出し物を出先で購入していたとされる。浦さんの話では、妻にも「小遣いの範囲ならいいんじゃない」と了承を得ていたという。

集英社オンラインの取材に答えた知人によれば、かつては一人で混浴温泉を訪れ、女性やカップルたちの裸を覗き見するいわゆる「ワニ」と呼ばれる行為を嗜んでいたという。そのうちワニでは満足できなくなったのか、知人に会員制のバーを紹介してくれるように頼んできたという。

しかし浦さんは女装して何度か店を訪れたが、女性客に電話番号を聞くなど御法度とされる行為を繰り返したため、オーナーが出入り禁止にしたとされる。他店でも店内ナンパなどを繰り返したためか、界隈では要注意人物として評判はよくなかった。

3、4年前に別の店で「ともちゃん」と知り合ったという女性は、ニューハーフやドラァグクイーンの知り合いもおり、彼が同性愛の女装家たちとは雰囲気が違うとすぐに察したという。そのときは事件当時の写真で見るよりスリムだったが、肩幅などを見ればひと目で男性の体ということは分かった。表面的には女性同士のような口調や態度であったが、腕を絡めたり、胸を触ったりといった過剰なスキンシップを図る挙動からナンパやわいせつ目的だと察したという。

酩酊した女性に接近しようとしたり、友人がホテルに連れ込まれそうになったこともあったと言い、「あまり世間慣れしていない子だと騙されてホテルまで行ってしまうこともあるかもしれません」と話した。

 

7月30日の北海道新聞では、瑠奈容疑者と被害者の出会いは、5月下旬のススキノだったと報じており、短期間のうちにトラブルから事件へと発展したことが分かっている。

家族共謀による第三者の殺害。ここまでの流れを総合すると、娘が性被害などを受けてトラブルとなり、両親の介入で一度は決着したかに思われたが更に深刻な問題に発展し、犯行を決意したとみられる。あくまでも推測の域を出ないが、父親が精神科医、娘が何かしらの精神疾患とされていることは、刑法第39条心神喪失者の行為は、罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」を想定して実行役とした可能性を予感させる。

 

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〔2023年8月22日追記〕

8月14日、田村瑠奈容疑者、修容疑者、浩子容疑者の親子3人は殺人の容疑で再逮捕された。3人は容疑を否認または黙秘しており、犯行を認めていない。

【独自映像】ダンスクラブに瑠奈容疑者と被害男性 その後トラブルになったか すすきの殺人事件 | 北海道 | ニュース | STV札幌テレビ

被害者と瑠奈容疑者の出会いは5月26・27日に行われたクラブの閉店イベントとされ、踊りながら笑顔で耳打ちするような映像記録が確認されている。その晩、クラブを訪れていたのは瑠奈容疑者だけでなく父・修容疑者の姿も確認されている。

それと聞くと異常なほどの過保護のようにも思えるが、医師の目から見てもひとりで夜遊びはさせられない重篤精神疾患だったのかもしれない。とはいえ家に籠らせたままでは不憫に思う親心がそうさせたのか。親族は、何かしたいと言えばついていく親だから「心配だから行ったんじゃないか」と述べている。

 

自宅のPCを解析したところ、事件前に指紋や洗剤について検索履歴があり、入室前に手袋を着用し、痕跡隠蔽のために漂白剤を持ち込む下調べをしていたとみられている。

殺害実行と頭部切断は瑠奈容疑者の単独で行われ、返り血が付かないようにレインコートを着用し、男性を後ろ手に拘束して無抵抗な状態にし、後ろから首付近に刃物を突き刺したとみられている。致命傷は肺近くまで達する刺し傷だった。

北海道新聞によれば、刃物で襲撃する様子を持参したビデオカメラで撮影していたとみられ、その動機や経緯には不可解な点が多い。

殺害直後には工具を使って被害者のスマートフォンを破壊しており、本体は発見されていないが、修容疑者の車内から被害者のSIMカードが発見・押収された。また修容疑者が瑠奈容疑者を迎えに訪れる際、コンビニに立ち寄って大量の氷を購入していたとされ、腐敗の進行を抑える目的があったと考えられる。

被害者の頭部は田村家の2階浴室でビニール袋に包んで容器に入った状態で見つかっており、当日に着用していた女性ものの衣装も発見された。また瑠奈容疑者と思われる人物が手袋をはめて頭部を触っている動画があったと報じられている。

3人のスマホには、事件直後の7月2日午前2時過ぎから午後3時ごろにかけて「すすきの 殺人」という検索履歴が残っていたことが伝えられている。

 

8月17日、逮捕当初、浩子容疑者は「娘の犯行を止めたかったが止められなかった」と供述したと捜査関係者から伝えられ、大きく報じられた。

しかし翌18日、両親の弁護人がコメントを発表し、「娘の犯行を止めたかったが止められなかったと供述した事実はなく、両親は瑠奈容疑者が事件を起こすとは全く想像しておらず、殺人と死体遺棄について共謀していない」としている。

 

日本テレビは、事件後の7月中旬に瑠奈容疑者と会ったという友達の証言を伝えている。

「仲間内にはいつも笑っていて明るい感じ」

「ふつうの子。楽しく遊べるし」

「(事件後も)普段と変わらず。普通」

「久しぶりに会って、共通の話題で盛り上がって、何も変わっていない。だから怖い」

 

8月21日の北海道新聞では、母娘が札幌市内のアクセサリー教室などに通っていたことを報じており、浩子容疑者は「外の世界を学ばせたい」と考えていたらしいが、いずれの教室も長続きしなかったという。さる教室講師によれば「外を歩くのも怖い。転んでケガをしたり、誰かにケガをさせそうで怖い」と瑠奈容疑者が漏らしていたという。

すぐに自立とはいかなくとも、友人や両親の力を借りながら徐々に外の世界に翼を広げていた矢先、予期せぬトラブルに巻き込まれたのか。娘のトラブルを関知していたとみられる両親には警察や外部機関に助けを求めるという選択肢はなかったのか。今後の裁判の争点についても気になるところである。