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【この人は誰?】千丈寺湖殺人死体遺棄事件【青野ダム】

2011(平成23)年2月14日、兵庫県三田市千丈寺湖でコンクリート塊の中から人間の頭部の骨が発見された。

www.police.pref.hyogo.lg.jp

朝10時45分頃、釣りに来ていた男子高校生(16)が、岸辺にランドセル大のコンクリート塊を見つけ、中から人間の頭蓋骨のような目鼻の部分が露出していたことから110番通報した。

湖を管理する兵庫県宝塚土木事務所によれば、当時は、少雨による渇水状態で、満水時から約4.5メートルの水位低下が確認されている。普段は水没している旧県道・曽地中三田線が見えるほどに干上がっていた。

塊の大きさは26×35×17センチの直方体だったとされる。頭から上顎にかけての骨がむき出しの状態で、全体的に崩れていた。骨の表面は茶色く変色しており、死後1~5年ほど経過していると見られ、コンクリートには髪の毛のようなものも残っていた。付近から左足首、頸椎の骨も発見されたが、その他胴体は見つかっていない。

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 千丈寺湖周辺と発見現場(赤印)   [google map]

湖東部にある「黒郷橋」の北詰付近で発見されたことから、三田署は橋から投入れた可能性があると見ている。

千丈寺湖青野ダム)は1988年に完成した大規模な貯水湖で、ブラックバスやワカサギ釣りの人気スポットとして広く知られている。湖の外周には市道が走り、湖畔には多くの公園が整備されている。

発見場所付近の飯森山公園周辺にも民家が数十軒まとまって存在するが、店舗などはあまりなく夜間の人通りは少ない道である。近くに住む男性は「約15年前に一度、渇水があったが、普段は水量も多い。現場付近は夜間真っ暗で、誰が居ても分からない」と話している。

ダム湖はJR新三田駅から北に約2.5キロ、兵庫県南部や大阪市といった都市部からも車で1時間程度でアクセス可能な立地。

 

司法解剖の結果、遺体は30~40歳代の男性、身長は推定145~165センチの小柄な体型と見られ、血液型はAB型だった。特徴として「歯並びが非常に悪く、治療もあまりしていない」点が指摘されている。

三田署は歯科医にカルテ照合の協力を要請したが、捜査の進展は見られず、警察庁の被疑者データに照会しても適合する人物は見つけられなかった。

 

コンクリート詰めにされていたことから、単なる行旅死亡人(身元不明の行き倒れ)や災害・事故死ではなく、明らかな他殺体だが、頭蓋骨と骨片だけで「被害者」特定にたどり着くのは容易ではない。遺棄から発見までの歳月も、人物の絞り込みを難しいものにしている。

兵庫県警は、頭蓋骨とコンクリートに残った顔跡を元に、特殊メイクや特殊造形を手掛ける会社に「復顔像」の作成を依頼。2011年11月に復顔像が公開された。

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公開された復顔像

これにより県内外から21年2月現在までで計183件の情報が集められたが、身元判明には至らず、新たに寄せられる情報の数は年々減少してきている。発見から10年を迎えた21年2月14日、署員11人がJR三田駅前で情報提供を呼び掛けるビラ400枚を配った。

県警は10年間で捜査員延べ3万2000人以上を動員。死体遺棄容疑の時効はすでに経過したが、三田署は県警捜査一課と共に殺人容疑で合同捜査を継続している。

 

三田市千丈寺湖における男性死体遺棄事件合同捜査班
  兵庫県三田警察署
電話 (079)563-0110(代)

 

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事件内容どころか被害者が身元不明という謎の殺人事件である。すでに頭部発見から10年が経過し、事件の風化が危惧されている。

インターネット上ではすでに発見現場周辺は“心霊スポット”の汚名を着せられている。どういった現象が起こるといった話は知らないが、かつて千丈寺湖周辺にはお供え物が置かれ、しめ縄の巻かれた“首吊りの木”というスポットがあったことや、阪神都市部から車で一時間という立地も肝試しに手頃なのであろう。

しかし未解決事件のまま都市伝説化(風化)させてしまえば、犯人を野放しにすることにつながる。殺人犯が大手を振って歩いている、一般市民を装って生活していることの方が筆者にとってはどんな怪現象より不穏でおそろしい。

本稿は一日も早い被害者の特定と、事件の解明を期待して、風化阻止を目的に執筆するものである。以下では、他の事件を参考にどのような事件が考えられるか想像力を働かせてみたい。

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まずコンクリート詰めというと、1988年から89年にかけて起きた綾瀬女子高生事件が思い出される。不良少年グループが17歳少女を猥褻略取誘拐から監禁し、強姦、暴行、虐待の限りを繰り返した末に殺害へ至り、遺体をドラム缶にコンクリート詰めして、東京湾の埋め立て地に遺棄したものである。

この事件では、少年の一人がかつての勤め先からトラックを借り、セメントを貰い受け、近くの建材屋から砂やブロックを盗み出し、付近でごみ入れに使われていたドラム缶を持ち去ってきて詰め込んでいる。

コンクリートというと土木建築業で使われることが多いものの、家の外構や車庫スペース、ブロック塀などをDIY(自工自作)する人もいる。成分分析や製品識別がどの程度まで有効なのかは不明だが、入手経路の特定すら容易ではないだろう。綾瀬事件からも分かる通り、10年以上前のセメント材や砂の購入者や持ち主を探し出したとて、コンクリートの元所有者から直接犯人へとたどり着けるかは難しいところだ。

 

また発見されたコンクリート塊は「直方体」と表現され、部位は頭蓋骨、左足首の骨、頸椎部位とそれぞれ体の異なる箇所であること、他の部位が付近で発見されなかったことから考えると、バラバラに解体したものを小さなサイズで固めたと見られる。

丸ごと固めればサイズも相当であるし、重さ200キロ近くともなり、大人2~3人でも容易に持ち出すことは難しい。たとえばゴミ箱状の容器を型にして各部位を詰め合わせて固めれば、一人でも車に積んで遺棄することが可能となる(18リットル一斗缶の規格は約238×238×349のためやや異なる)。発覚を遅らせるために、すべてを千丈寺湖には投入せず、海や各地のダムに投棄したとも考えられる。

作業の手間を思うと、単独犯による殺害・解体・コンクリ詰め・遺棄は骨の折れる仕事量であり、少なくとも大人2人以上が関与していたのではないかと感じさせる。

 

 渇水時のダム湖から・・・というと、2002年9月に広島県世羅町にある京丸ダムで、ほぼ白骨化した一家4人と飼い犬の乗った車両が発見された広島一家失踪事件(2001年6月3~4日発生)が思い浮かぶ。失踪から1年以上経って、干水したところを発見されたものだ。

この事件では、車が転覆してフロントガラスが割れていたこともあり衣類や遺体が激しく損傷していた。明確な死因は特定されなかったものの、骨折や外傷の痕跡は認められず、エンジンキーはONにかかっていたこと、運転席に乗っていた父親はかつてダム湖建築に携わっていて周辺に詳しかったこと等から一家心中として処理された。

しかし「母親は翌朝からの社員旅行の支度を整えていた」、家の中も「食事の支度が残されており、乱れた様子もない」、「娘は婚約者があった」など他殺や一家心中を匂わせる証拠もみられなかった。失踪当初は“神隠し”として取り沙汰されたものの、のちに母親の不倫、親類筋の借金問題など様々な憶測を呼んだ。

現代では法医学によって「死体」から殺害方法や犯人の特徴など様々な情報が導き出されることは知られているが、結果的に見れば水中での遺体の風化浸食によって「死体に語らせない」効果があったといえる。

 

被害者が身元不明の殺人事件というと、1996年4月に栃木県芳賀郡市貝町多田羅の竹やぶで発見された男性遺体が思い起こされる。部活帰りの男子中学生らが竹林に落ちていた布団袋に遺体を発見。栃木県警は殺人死体遺棄事件と断定して捜査を進めたが、身元が判明しなかった。

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ズボンのタグ  [栃木県警]

遺体は死後一カ月以上経過し腐敗が進んでおり、着衣の乱れや目立った外傷もなく死因は特定できなかったが、年代や体格は判別しうる状態。遺留品となった着衣が重点的に捜査され、ズボンのタグに記載された「トナリ」「山本」が千葉県内のクリーニング店2店で書かれたものと判明。2017年に「千葉県内に住んでいた可能性が高い」として千葉県内で再度の情報提供を呼び掛けた。

この男性も「歯槽膿漏が著しい」「大量の虫歯が治療されずに放置されている」といった特徴が挙げられている。保険未加入などで治療する経済的余裕がなかったのか、歯磨きする習慣がない歯医者嫌いな人物だっただけなのか、は判断が難しい。

 

行方不明であっても正式な届け出がされない点については、少なくとも殺害当時、「定職についていなかった」「安否を気に掛けてくれる近親者がいなかった」と見てよいのではないか。

住人が消えたとなれば通常であればアパート管理者や近隣住民から情報提供がありそうなものだが、もしかすると“迷惑住人”として長らく忌避されていたり、関わり合いを持ちたくない等の理由でだれも届け出ないことも考えられる。住所不定でだれも失踪に気付かなかった、あるいはその逆に、同居人や近親者との諍いによって殺害された可能性も十分ありうる。

そう考えていくと、社会的地位は低く、頼れる身よりもない生活に困窮していた人物だったと想像され、事件の背景としては“金銭をめぐるトラブル”が濃厚ではないか。

たとえば男性数人で生活を共にしていたが、あるとき被害者が病気や解雇などで周囲への借金返済のめどが立たなくなる、男性らは紛糾して殺害するに至り、周囲には「夜逃げした」などと口裏を合わせた筋書きなどが思い付く。

妄想は尻切れトンボで終わりにするが、遺体は見つかり、事件は明るみに出た。たとえどんな人物であろうとも、死因が「事件」である限り、被害者は無念のうちに亡くなったことを意味する。

被害者のご冥福をお祈りしますとともに、今後の捜査の進展を願ってやみません。

 

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千丈寺湖死体遺棄事件から10年 「この人は誰?」情報提供、今年も呼び掛け 三田|三田|神戸新聞NEXT