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気になる事件と考えごと

カナダ・バンクーバー邦人留学生殺害事件

都市圏の人口約250万人、カナダ西部の都市バンクーバーで邦人留学生が行方不明となり、20日後、空き家で遺体となって発見された。彼女の身に何が起きたのか。

 

事件の発生

2016年9月8日(木)、カナダ・バンクーバーに語学留学していた青森県出身の古川夏好(こがわなつみ)さん(30歳)が午前11時半頃にカナダ人の友人とSNSでやりとりしたのを最後に消息が分からなくなった。

 

夏好さんは5月から語学留学の目的でカナダに訪れており、バンクーバー中心市街から東へおよそ10km離れたバーナビー市ホルダム駅に近いシェアハウスで生活していた。

7日(水)の午後、夏好さんはバンクーバーダウンタウンでカリグラフィー教室の説明会とレッスンに参加していた。午後5時半に終了すると、近くの公共図書館で1時間ほど勉強してから帰宅した。

深夜に友人Dとメッセージをやり取りして、翌8日に会う予定を立てており、午後5時半に彼女の自宅前で落ち合うことになっていた。友人Dによれば、現地で仕事を探していた夏好さんに親戚が手掛けている日本食レストランの職を紹介する約束になっていたという。

8日、友人Dは11時20分頃に夏好さんとLINEでやりとりしていた。だが午後4時半頃になって「会う時刻を遅らせてほしい」旨のメッセージを送ったが「既読」マークが表示されなくなったという。

友人Dは当初の予定より1時間遅れて待ち合わせ場所に到着したが、夏好さんの姿はなく、その後も連絡がつかなかった。Dさんは友人たちに彼女の様子を確認してみると、他の人たちも夏好さんと連絡がつかなくなっていることが判明した。

9月12日、彼女と親交の深かった知人Jさんがバーナビー連邦警察に捜索願を提出した。

行方不明当時の捜索ビラ

知人らが夏好さんの部屋を確認したところ荒らされた形跡などはなかった。また部屋からは普段から持ち歩いていた黒色のバックパックiPhone、財布等が持ち出されていたことから、自発的に外出した先でトラブルに遭ったのではないかと考えられた。尚、iPhoneの接続はWiFi通信の可能な範囲のみに設定されていた。

留学代理店関係者や留学仲間らがビラの作成やFacebookページを立ち上げるなどして情報を募り、バンクーバー周辺に在住の邦人会メンバーらも協力して懸命の捜索が続けられた。

 

疑惑の男

バンクーバー警察は捜査の中で「シーモアヘイスティングス付近」で8日午後1時27分に撮影された監視カメラ映像を入手した。夏好さんは白人男性と一緒に居り、警察では彼が何かしらの事情を知っていると見て、9月27日に静止画像の一部をメディアに公開した。

夏好さんの姿が確認されたのは、最寄りのホルドム駅から電車で約30分のウォーターフロント駅からつながる「ハーバーセンター」の地下フードコート通路付近とされる。駅周辺は、海沿いに「カナダ・プレイス」と呼ばれる大型コンベンションセンターやシーバス乗り場、市街に出れば展望台や美術館、スタジアムやシアターなど大型施設が立ち並ぶバンクーバー中心市街である。

白人男性は30代ほどと見られ、黒地のスウェットにデニム、キャップにサングラス、足元はスニーカーといった旅人風のいでたちで、大きな黒色のバックパックを背負い、手にも大きなスポーツバッグのような袋を抱えていた。

公開された静止画像では、夏好さんの方から男性に語り掛けているように見え、旧知の間柄を思わせたが彼女の友人たちに男性の心当たりはなかった。夏好さんはベージュ系のチュニックにチェック柄のパンツルックにサンダル履きで、普段から使っているバックパックを背負っていた。その足で夜の面接に行く格好とは思えず、特別着飾ったよそ行きのスタイルのようにも見えない。

2週間後に公開された監視カメラ画像

翌9月28日午後7時前、ウエストエンド・デイビー通り1523番地にある歴史建造物「ガブリオラハウス」の敷地内で捜索中だった邦人留学生が遺体となって発見された。

これにより行方不明捜査は殺人・死体遺棄事件として重大犯罪課へと引き継がれることとなる。

同じ28日深夜、バンクーバー警察は、およそ300km離れたブリティッシュコロンビア州バーノンで、カナダ騎馬警察が死体侮辱罪(日本でいう死体遺棄罪…カナダ刑法第182条。損壊、凌辱、公衆道徳に反する遺棄など、死体への不適切な干渉に対する罪)の容疑でウィリアム・ビクター・シュナイダー(48歳)を逮捕したことを発表した。

死体発見と逮捕のきっかけは、ウィリアムの兄ウォーレン・シュナイダー氏による通報だった。

 

男は調べに対し、「彼女とは知り合って3度目のデートだった」と語った。夏好さんは酒を飲まない人だったが、クレジットカードの履歴にはウォッカの購入歴があり、事件当日にシュナイダーに買い与えたものであった。

しかし二人の間でメールやSNSなどでのやりとりは確認されず、恋人関係とは考えにくかった。

バンクーバー警察は、夏好さんと男の接点などについて調べを進め、10月初旬、外国人同士が英会話を練習する交流カフェで男女が出会った可能性があると報告した。

夏好さんはそうした交流会に積極的に参加しており、中心市街のカフェや図書館で自習する機会が多かった。店の常連客はシュナイダーについて「よく女性を口説いていた。男性参加者には興味がないように見えた」と語った。また別の日本人女性客グループに言い寄る姿も見られており、女性に「大丈夫か」と聞くと「(シュナイダーが言い寄ってくるのは)いつものことだから」と答えたという。

男はホームレス向けの簡易シェルターや格安ホステルを転々としながら住所不定の生活を送っていた。警察では、容疑者の男について1998年以降、武装強盗や暴行、窃盗、規制薬物所持、保護観察違反、住居不法侵入、器物損壊など併せて48件の犯罪歴、およびケント州最高警備刑務所で4年間の服役があったことを伝えた。

だが本件での殺人、死体遺棄の認否については明らかにされなかった。

カナダメディアはシュナイダーの地元バーノンの旧友らに取材を行い、子どもの頃からいじめを主導するなど素行不良な面があったこと、クラレンス・フルトン中等学校を9年生で中退したこと、猫に火を点けてどの方角に逃げるか悪友と賭けをしていたことなどを報じ、「彼を知る人間には今回の事件を驚かない者もいる」と伝えた。

またローワー・メインランドである日本人女性と結婚したが、女性は妊娠中に帰国し、10年以上前から離婚を求めていたとも報じられた。

翌2017年1月末に至り、シュナイダーは別の都市での性的暴行未遂の容疑で新たに起訴されるなど、疑惑の色はますます濃厚となっていった。

 

被害者について

古川夏好さんは青森市に住む一家の長女として1986年に生を受けた。6人きょうだいの唯一の女児として育てられ、下の子たちの面倒をよく見る子だったという。

一家は自然豊かな環境で子育てをしたいとの意向から、青森市街から八甲田山の山村へと引っ越した。村全体が家族のような環境で、きょうだいたちは山間部の小さな学校に通い、人々の愛情に恵まれて育った。

夏好さんは中学を出ると弘前高校に通うため、育った山村を離れて自炊生活を始めた。高校卒業後は石油関係の民間企業に就職し、海外旅行に出掛け、いつしか海外での暮らしに憧れを抱くようになったという。

2015年に夏好さんの父親が早逝したことを機に、後悔しないように自分のやりたいことを実現したいという思いを強めたと言い、翌年1月に退社。カナダ行きを決断して準備を進めた。

計画では1年半の渡航計画で、観光ビザの有効な半年間で英語力の習得や交友関係を広げ、近々ワーキングホリデーに切り替えて仕事を見つける予定だった。留学から12週間はバンクーバーにあるカプラン語学教室に通っていたが、元々旅行経験が豊富で日常の英会話は問題ないレベルだったという。


明るく前向きで社交的、バイタリティに溢れていた夏好さんは周囲の人たちからも好かれていたという。一方で、行方不明当時はカフェや図書館で独学する日々を送り、興味の赴くまま様々な活動に参加して交友関係を積極的に広げていたことから、留学仲間も知らない人間関係が事件の発端とも考えられた。

 

バンクーバーは英経済紙『エコノミスト』誌で2011年まで5年連続で「世界で最も住みやすい都市」に選出され、北米では比較的安全な都市として知られている。日本人留学生も多く、およそ3万人の在留邦人がいる。

尚、バンクーバー市警の統計資料によれば、2010年代半ばの暴力犯罪は年間5500件前後、殺人事件は2014年に9件、15年に16件、16年に20件、17年に16件で、10万人当たりの殺人発生率は概ね2件前後となっている。犯罪全体の発生率は日本のおよそ5倍とされている。

Crime Statistics - Vancouver Police Department

2016年12月、Facebook上の捜索情報アカウントを介して、夏好さんの家族から捜索協力してくれた人たちへの感謝が伝えられた。また10月に夏好さんの葬儀をバンクーバーで執り行い、日本に戻ったことが綴られた。

 

彼女の部屋に残されていた手帳のスケジュールには、行方不明当日の9月8日も朝7時起きで課題をこなしていたことが記されていた。

日々の勉強ぶりを物語るノートや今後の生活設計などを記したメモなどが残されており、家族は、夏好さんが語学の勉強だけでなくボランティアや現地に住む人々との交流など、滞在期間中できるかぎりのことを吸収しようと精力的に活動していたことが感じ取れたという。

夢をかなえ、短い期間に多くの人たちから愛され、刺激を受けて思い描いていた新たな夢に満ちていたであろう夏好さんの無念さはどれほどのものだっただろうか。

バンクーバーに住む夏好さんの友人クリストファー・マイズナー氏は、彼女のことを思慮深く、勉強熱心で、友好的だったと振り返り、誰に対しても偏見を持たなかったことがホームレスの犯罪常習者に付け入る隙を与えてしまったのではないかと嘆いた。

 

ガブリオラハウス

遺体が発見されたガブリオラハウスは1901年に実業家ベンジャミン・T・ロジャースのために建てられた個人住宅で、当時ウエストエンドに建てられた最も豪奢な邸宅であった。

ロジャーズ亡きあとは全20戸のマンションとして転用され、70年代半ば以降は改装されて何軒かの高級レストランに生まれ変わった。2015年10月に地元開発業者に売却され、事件当時は再び集合住宅とするための改築工事が進められていた。

かつては周囲に馬小屋や作業小屋などを備えた広い敷地を誇ったが、当時は商業地域の一画にある鬱蒼とした公園のような佇まいである。

 

余談になるが、ガブリオラハウスはバンクーバーの歴史を振り返るうえでしばしば都市伝説と結びつけて語られる。

1905年に建てられ、禁酒法時代を生き延びたビッドウェル通りの飲食店「Maxine’s Hideaway」(2010年閉店) につながる秘密の地下坑道があり、密造ラム酒の供給ルートだったというエピソードや、売春サロンへのトンネルとして機能しており、FBI初代長官J.エドガー・フーバーが潜入して逃亡犯を捕まえたといった逸話が語られる。

尚、マキシンズの取り壊しの際に「地下坑道」は実在しないことが確認されている。

gabriola mansion

マキシンズも同様だが、こうした歴史的遺構には様々な「いわく」がつきもので、いわゆる心霊スポットとしても知られていた。マンションだった時代には食器が宙に浮かぶといった怪奇現象が頻発し、レストラン時代にも「若い男の幽霊」の目撃談が絶えなかったとされる。

「幽霊が大階段の頂上から店のマネージャーを無表情で見下ろしていた」「無人のキッチンから鍋釜を叩くような音が聞こえた」「ある内装工が深夜まで改装工事に追われていると、ハシゴの下に見知らぬ紳士が立っていた。内装工は『どうしましたか』と言ってハシゴを下りると、紳士はどこにも見当たらなくなっていた」といったエピソードが知られている。

 

類似とまではいかないが、日本の事件で心霊スポットに遺棄された事例として、2004年に千葉県東金市で起きた女高生殺人「ホテル活魚(油井グランドホテル)」事件が思い当たる。素行不良グループが駅前で女子高生を拉致し、廃墟化したモーテル跡地に連れ込み、強姦・殺害・遺棄した卑劣な事件である。

また歴史遺構として見れば、薩摩藩の島津家別邸として知られる「仙厳園」の裏手に当たる土地で白骨遺体が見つかり、13年前に行方不明となった当時高3の少女と判明した鹿児島女子高生死体遺棄事件などが想起される。こちらは殺人ではないが、協力者が遺体処理に困って山林に遺棄した事件である。発見は死後1年以内とされ、発覚を免れる意思があれば別の場所でも遺棄できたようにも思うが、なぜこの場所だったのか。

sumiretanpopoaoibara.hatenablog.com

本件では加害者が車などの移動手段を持たなかったことが最大の要因と思われるが、市街地であっても周囲に比べてひと気がない、出入りや変化が少ないことが犯罪者の心理を引き付けるのだろうか。不法投棄や落書きが放置されていれば管理が行き届いていないようにも見え、心霊スポットは犯罪現場と同じく「破れ窓」理論で接続されるかもしれない。

だがその一方で、その場所で暮らしてきた人々、亡くなった人々の情念のような人知を超えた力が、新たな事件を引き寄せて、「早く見つけてあげて」「解決して」と事件を発覚へと導いてくれているような気がしないでもない。犯人が犯行現場を見つけたのではなく、現場に犯人は引き寄せられたのではないかとさえ思えてしまう。

本件のシュナイダーはダウンタウンで物乞いなどをしながら点々としていたが、2012年頃にはガブリオラハウスで不法な「見学ツアー」をしようと客引き行為をしていたことで警察に通報されていたことも確認された。

 

裁判

2018年9月24日からブリティッシュコロンビア州上級裁判所で、第二級殺人罪と死体侮辱罪により起訴されたウィリアム・ビクター・シュナイダーの陪審裁判が開始された。

検察側は、シュナイダー被告が事情聴取の中で相手の口と鼻を押さえて気道を塞ぐようなジェスチャーを2度示したこと、過去にエドモントンのアパートで女性の首を絞める暴力行為があったことから、女性に薬物を飲ませて昏睡させようとしたが、帰ろうとしたため衝動的に窒息させたか絞殺したとの説を主張した。

これまでの調べで、事件のあった9月8日午後、被告は被害者と会い、スタンレーパークに誘い出し、テントで性行為に及ぶ目論見があったことを認めていた。そして同日、彼女の衣服や所持品、自らのテントも処分していた(前掲の監視カメラ画像で、男が手にしていた黒いバッグの中身がテントだった)。

被告人は起訴事実を否認し、無罪を主張した。酒を飲み、テントで行為に及ぼうとしたがうまくいかず、外でタバコを吸って戻ると、発作か何か分からないが気づいたときには彼女が息をしていなかったと主張した。

 

遺体は車輪の壊れたスーツケースに押し込まれ、ガブリオラハウス敷地内に放置されていた。付近を捜索中だった警察犬が発見したが、すでに腐敗が著しく外傷は確認できず、法医病理学者の調査では死因が特定できなかった。(その後、シュナイダーのDNA型も採取され、照合が試みられたがこちらも特定できず。)

しかし、その後の薬理学検査により、肝臓から鎮静剤ゾピクロンとロラゼパムの未定量の痕跡が確認されたという。夏好さんにそれらの処方箋はなく、シュナイダー被告には過去の処方歴が確認された。遺族によれば、彼女は風邪をひいても薬を飲まないほど「薬嫌い」だったと言い、自分から服用することはないと断言する。

スーツケースの近くには、ビール缶、使用済みコンドーム、潤滑剤のボトルが散乱していた。近くの茂みの奥には黒いブーツと結束バンドも散乱していたとされる。

被告人は9月21日に退去するまで51日間、バンクーバー市内のホステルに滞在しており、日本人女性に会ったことを従業員にも話していた。ホステルの監視カメラにより、9月9日早朝にスーツケースを持ち出したが、持たずに帰ってきたことが確認された。

通報した被告人の兄ウォーレン氏も証人として出廷した。夏好さんの遺体発見前に、防犯カメラ映像について問いただしたところ、ウィリアムは無言のままだったという。その反応は殺害疑惑の容認と捉えられ、「最悪の事態を想定した」という。

兄弟は地元バーノンで再会し、詳しく追及することはなかったが、行方不明中だった夏好さんと3回のデートをしたこと等をウィリアムから聞かされた。

その後、被告人は父親から借金して50ドル相当のヘロインを購入した。ヘロインを摂取して人里離れた場所で自殺する心づもりだったとされる(被告人によれば粗悪品か偽物を掴まされたという)。ウォーレン氏は困惑する父親に「ウィリアムと会うのはこれで最後になるかもしれないから」と諭し、弟との抱擁を勧めた。

二人はポルソン・パークでテントを張って、酒を酌み交わし、「遺体は工事現場にある」「俺が死んだら、警察に通報してくれ」と告げられたと証言した。だがウォーレン氏は弟と別れた直後に警察に通報したため、検挙につながった。

またシュナイダーが疎遠になっていた日本人妻に連絡をしたいと言ったので電話を貸してやったと証言した。傍で聞き耳を立てていると、留学女性の話を始め、「I did it.(私がやった)」と犯行を示唆していたという。

それに対し弁護側は、ウォーレン氏が通話の一言一句まで正確には記憶していないことを追及し、会話内容が「I kill her.(私が彼女を殺した)」を意味するものとは限らないと反論した。

 

 

シュナイダー被告は傍聴席にいる夏好さんの家族に向けて憐憫の情を示したが、「あなたは私に死んでほしいと願っているかもしれません、その気持ちはわかります。ですが、それはとても残念です」と述べ、殺人犯とみなされるのは誤解であると主張した。兄の証言を受けて、女性の死体遺棄については概ね認めたが、殺害を認めたり謝罪することは一切なかった。

 

10月19日、陪審団は、第二級殺人罪で有罪、また遺体をスーツケースに押し込んで放置し、腐乱に任せていた事実は「無礼で冒涜的」だとして死体遺棄でも有罪とする評決に至った。

検察は、被告人にはサディスティックな暴力の前歴があり、早期出所が認められる余地を残せば社会にとって脅威となると述べ、重罰の必要を唱えた。

弁護人ジョー・ドイルは、殺害の直接証拠は存在せず、遺体の場所についても自ら(兄に)告知していたとして、仮釈放の剥奪期間を第二級殺人罪に適用される最低限の10年間とすべきだと主張した。

11月2日、被告人に対して、第二級殺人罪終身刑、および14年間の仮釈放申請禁止が言い渡された。これに死体遺棄で懲役3年6か月が加えられる。

Williamschneider〔Corrections Canada〕


2019年4月、被告側が判決には重大な誤りがあるとして控訴を申請する。コロナウイルスの感染拡大の影響で延期となったが、10月に控訴公聴会が行われた。

弁護人クリストファー・ナウリンは、被告人と妻との電話で語られたという「I did it.」発言について、あくまでウォーレン氏による主張であるとし、会話の全容を関知する立場にない彼の証言を「殺害」の証拠とするのは不適切だと指摘した。さらに裁判所がその適法性の判断を陪審団に委ねたのは「不合理かつ不正確」だと控訴理由を説明した。

公聴会はWebビデオ通信アプリ「Zoom」を通じて行われ、夏好さんの家族らも視聴していたが、シュナイダー被告の登場はなかった。

 

夏好さんの遺族は「人の気持ちがあるのなら反省し、罪を認め、謝罪するところなのに、人の心を全く持たない人間がなぜまた弁護され、守られようとしているのか、私には理解できません」と怒りを滲ませた。

国外で事件に遭った被害者の家族は、現地の情報が届きづらく、精神的にも肉体的にも追い詰められるうえ、経済的にも大きな犠牲を払うことになる。

母恵美子さんは、夏好さんが築いてきたこれまでの人間関係だけでなく、故人との面識がないにもかかわらず似たような境遇・留学経験などから支援してくれた人たちが多くいたことに感謝を述べた。

何かと自己責任論に収斂されがちな世相にはあるが、彼女の人柄や懸命に生きる姿がさまざまな人の心を突き動かしたのかもしれない。

古川さん殺害、終身刑の男が控訴 | 日加トゥデイ/JC Today

 

2021年2月2日、ブリティッシュコロンビア州上訴裁判所は、控訴審の開廷を決定した。兄ウォーレン氏の「伝聞」証言を証拠認定すべきか否か、裁判官でも意見が分かれ、最終的に2対1で不採用となり、一審判決が取り消された。

これに対し、検察側は異議を申し立て、最高裁に上告する。

22年10月、カナダ最高裁は審理部による7対2の評決で、ウォーレン氏の供述を例外的に証拠採用可能と認める判断を下した。これによりシュナイダー受刑者の有罪判決が復活された。

カナダ最高裁マルコム・ロウ判事は、多数派意見として、裁判の争点に関わる重要証言であり、陪審団に判断を求めるにあたり適切な裁量が示されたことから、証拠と認定しうると説明した。判決文においても(一審の)陪審団による評議は適正に行われたと結論付けた。

反対意見は、ウォーレン氏が夫婦の会話に直接参加しておらず、言葉の意味する正確な内容や相手の反応を知ることは「不可能」であり、証拠として陪審団に示されるべきではなかったとの見解であった。

 

2023年6月、アボッツフォードのマツキ厳重警備刑務所から治安等級が引き下げられ、中等警備刑務所へと移送されることが報じられた。

これに対して、夏好さんの友人クリストファー・マイズナー氏は「カスタネット」誌にコメントを寄せ、シュナイダー受刑者はいかなる矯正プログラムも受講しておらず、矯正計画の進展なきまま犯罪セキュリティが格下げされるのは納得できない、と失望を表明した。

そもそもシュナイダー受刑者の高い暴力性や性犯罪の再犯リスクが過去にしっかりと矯正され、適正な管理下のもとで社会復帰できていれば、邦人留学生の悲劇は起こらなかった。カナダ当局はまた同じ過ちを繰り返そうとしているのであろうか。

 

夏好さんのご冥福をお祈りいたします。

 

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https://www.canlii.org/en/bc/bcca/doc/2021/2021bcca41/2021bcca41.html

Supreme Court of Canada - 39559

Supreme Court of Canada - SCC Case Information - Docket - 39559

Friend of murder victim tells story of Natsumi Kogawa, victim of former Vernon man Willy Schneider - Vernon News - Castanet.net

【衝撃事件の核心】カナダ邦人女性遺体発見から1週間、残る謎 逮捕の男、「英会話の勉強相手」口実に近づく? 前科、悪評…浮かぶ点と線(1/5ページ) - 産経ニュース

B.C. man who murdered Japanese student gets life with no parole for 14 years | CBC News

Update: Body of Missing Woman Found - Vancouver Police Department

https://www.facebook.com/findnatsumikogawa

Vancouver Shinpo - その十二「亡き夏好さんの思い出」

Natsumi Kogawa's body found at West End mansion, man arrested | Vancouver Sun