マイアミ・ゾンビ事件

人が人を食う行為は有史以来、様々な形で記録に残されている。広くタブー視されながらも、地域・集団における慣行・儀式など習俗としてのカニバリズムのほか、遭難や飢餓のためにやむを得ず捕食する事例は現代でもしばしば聞かれ、猟奇殺人における異常嗜好としても知られている。

世界的に見ても、家族や敬愛する相手の血肉を受け継ぐ、親愛の情を示すといった意味や、勝利を誇ったり恨みを晴らす意味合いでの食人エピソードは多く伝わる。また中国では古くから薬食として人肉や血が漢方に用いられ、日本でも1902年にハンセン病治療の効用を求めて起きた「臀肉事件」など民間療法として迷信は根強く残っていた。

 

本稿では厳密な意味では食人行為に当てはまらないものの、2012年にフロリダ州マイアミで発生した突如相手に襲い掛かり顔の肉を噛み千切った「ゾンビ」を彷彿とさせる事件について記す。

 

■概要

2012年5月26日13時55分頃、フロリダ州マイアミの湾岸を通るマッカーサー・コーズウェイの高架下の歩道で寝そべっていたホームレス男性Ronald Poppoロナルド・ポッポさん(65)が見知らぬ男に襲われた。全裸姿の男はポッポさんに喋りかけ、不意に殴りかかったかと思うと、羽交い絞めにして衣類を剥ぎ取り、左の目玉をえぐり取り出すと一心不乱にその顔に噛みついた。

 

襲撃から約8分後、偶々そこに通りかかったサイクリストLarry Vegaラリー・ベガさんは驚くべき惨状を目の当たりにする。馬乗りになって血まみれの老人の顔面にしゃぶりつく男に「Get off!」と叫んだが聞く耳を持たなかったことから、すぐに911に通報した。

襲撃から約18分後、マイアミ警察Jose Ramirezホセ・ラミレス巡査が現場に駆け付け、男に拳銃を構えて攻撃を止めるよう5度に渡って警告した。男はラミレス巡査に下がれと命じられても唸りながら咀嚼を続けた。1発の威嚇射撃の後も老人への攻撃を執拗に繰り返したことから、警官は危害の拡大を防ぐためその場で射殺する決断を下した。(CBSマイアミ支局によると、ラミレス巡査は過去4年間のキャリアで初めての発砲だった)

被害に遭ったポッポさんは髭の生えた顎周辺を除く、鼻、頬、瞼、眉、額などを食い千切られ、顔面は原形を留めていなかった(当初顔面の75~80%が失われたと警察発表があり、後に約50%と訂正された)。襲撃から約27分後、救急車で搬送された。

下は事件当時、マイアミヘラルド本社ビルの監視カメラから捉えられた映像。年齢による視聴制限あり。

Timeline: Face-eating attack in Miami (with narration) - YouTube

 

その後、射殺された犯人の男はノース・マイアミで自動車販売店の洗車係として働くRudy Eugeneルディ・ユージーン(31)と特定された。警察は過去の事例との比較から、薬物誘発性の精神疾患の疑いが強いとして捜査を続けた。

通報者のベガさんは「男は、ゾンビさながらに血が滴り落ちて、強烈でした。私が知る中では『ウォーキングデッド』に最も近い」と取材で語っており、この白昼の狂気は、Frorida Face-eating Attack、Miami Zombie、Causeway Cannibal等と呼ばれ、米国中を震撼させた。

 

■Church boy

加害者ルディ・ユージーンは1981年生まれのハイチ系移民で、出産直前に両親が離婚し、父親は6歳の時に亡くなった。貧しい農民の娘だった母親は靴工場で働きながら子育てを続け、85年に再婚して新たに2人の息子を授かった。それから毎週のように家族で教会に通った。

高校でフットボールに打ち込むようになると教会通いは辞めてしまったが、8歳の時に母から与えられた聖書は彼にとって「人生の教科書」とされた。卒業後はCD販売、マクドナルド店員、電話勧誘などの職を転々とした。母親は自身の幼いころの貧困経験から、職にあぶれることのない医療系の道に進むことを望んでいたというが実現はしなかった。

高校時代からの交際相手と2005~08年にかけて結婚していたが、家庭内暴力が原因で離婚、夫婦に子どもはいなかった。友人たちはユージーンについてスポーツとヒップホップが好きな普通の若者だと評しており、事件当時は雇われの洗車係だったが、将来的には独立して移動洗車業を興すアイデアを周囲に語っていた。

マイアミ・ヘラルド紙によれば、16歳以降で4件のマリファナ関連の事件を含む計8件の逮捕歴があったが、直近では2009年9月が最後の逮捕だった。2004年には母子喧嘩がエスカレートして、母親に銃を突き付けて脅迫する騒ぎを起こしたこともあった。

彼の母親は、息子について、いつも聖書を持ち歩いている「church boy(教会に通う敬虔な少年)」だったと語った。共に聖書研究をしていた友人ボビー・チェリーさんは、「彼は自分の人生を改めたい、神に近づきたいと願っていました」と述べた。

ユージーンは離婚前の2007年から別の女性と交際を始めたが、彼女に対しては暴力を振るうことはなかった。男は寝る前などに聖書に目を通し、休みの日には教会の番組を一緒に見たりしていた。悩める知人や聖書を知らない仲間に講釈して聞かせることもあったという。

 

事件前夜、男はガールフレンドの家で過ごした。未明に彼女が目を覚ますと、ユージーンはクローゼットを引っ搔き回して部屋中服だらけになっていたという。

「何かを探しているように思いましたが、それが何だったのかはわかりません」

男は彼女に口づけし、何も問題はない、愛してるよ、と伝えた。5時半ごろ、愛用の聖書と聖書研究のノートを携えて部屋を後にした。普段そんな時間帯に外出することはなかったので不審に思い、彼女は恋人の携帯電話に何度も掛けたが連絡がつかず、心配になって正午ごろからマイアミの町へ捜しに出たという。

恋人の部屋を出た後、男は友人に連絡を取り、マイアミ・サウスビーチで開催されているヒップホップやレゲエの大型野外フェス「アーバン・ビーチ・ウィーク」に誘っていた。しかし友人は仕事があることを理由に誘いを断り、ユージーンは一人でビーチに向かったものとみられている。

このフェスは2000年代初頭からメモリアルデーに草の根的に開始され、プロモーターが不詳、自治体からの認可を得ていないが、5日間で計25万人以上の来場者数がある大きなイベントである。

2011年に参加者が警官に暴行し、警官から射殺される事件(警官3名が負傷、傍観者4名が警官の銃撃により負傷)が起きており、地域住民は暴力や犯罪の温床になることを危惧しているが、公共ビーチでのプライベートなイベントのため解散命令などの法的介入は困難とされている。2012年には警官隊の出動を600人近くに増員し、ビーチ周辺地域での厳しい対応を行い、イベント中に431人の逮捕者、25丁の銃が摘発された。

 

紫色の車体をした95年製シボレーはサウスビーチからダウンタウン方面を走行中に何らかのトラブルに見舞われたらしい。運転者ユージーンは数十分間の立ち往生の後、正午頃に車を乗り捨てて西へ向かって歩き始めた。シボレーがレッカー移動されていた位置から逆算すると少なくとも3マイルの距離である。

ポッポさんへの攻撃を開始する直前の1時53分、フロリダ・ハイウェイパトロールに「背の高いアフリカ系アメリカ人男性が全裸でターザンのようにして電柱に登っている」「ハイウェイに衣服が捨ててある」と通報があった。路傍に脱ぎ捨てられた衣服の中には免許証なども含まれていた。

犯行現場近くの路上には聖書の断片が発見された。全裸男は白昼、聖書を破り捨てたり、途中で電柱に登ったりしながら、数マイルにもわたって彷徨いつづけた。事件後、発見された車内から空のペットボトル5本と聖書の切れ端が発見されている。

 

■「バスソルト」と大麻

検死の結果、ユージーンの歯には人肉が詰まっていたが、胃の中からは発見されず、多数の未消化の丸薬が残留していたと報告された。現場には噛み千切られた肉片が吐き出されており、結果的に見れば「食人」行為ではなかったことになる。

http://www.autopsyfiles.org/reports/Other/eugene,%20rudy_report.pdf

胃から発見された「丸薬」について詳細は明らかになっていない。ある医師は警察の見立て通り、当時流行していた「バスソルト」と呼ばれるアンフェタミン・カクテル(合成麻薬)が攻撃の背景にあるのではないかと指摘した。

だが解剖前の予備毒物検査の結果は、事件の数時間前に摂取した大麻の陽性反応だけしか確認されなかった。長らく半同棲状態にあった恋人いよると「ルディはタイレノールアセトアミノフェン系の経口鎮痛薬)を摂取することさえなかった」と語り、友人ボビー・チェリーさんは「長らくマリファナの使用があったことは事実だが、ルディは辞めたいと考えていた。彼に(大量の丸薬や別の薬物の)服用を迫った第三者がいるにちがいない」と私見を述べている。

 

違法薬物は法律の目を搔い潜るために、しばしば香料や洗剤など別の化学製品にダミー化し、「人体への摂取は有害である」と謳って売買されるケースが多い。2000年代はオンライン取引が盛んとなり、そうした脱法的流通・生産が国際的に増加して多くのデザイナードラッグが出回った。

MCAT、「バスソルト」や「モンキーダスト」と呼ばれる合成ドラッグは、21世紀になってから英国、ヨーロッパ諸国で、2010年に米国毒物管理センターに報告がなされた。米国での「入浴剤」に関する通報は2010年に304件だったが、2011年には6138件に激増していた。過剰摂取により興奮状態を起こすと、せん妄や幻覚、過度の運動や発作、高血圧や熱気を帯びて衣類を脱ぎ去ろうとする報告例もある。

 

過去の「バスソルト」事件として、2010年7月にバージニア州ロアノーク郡に住むキャリー・シェーン・パジェット(当時21)は「バスソルト」「合成マリファナ(通称スパイス)」を併用しての誘拐・強姦殺人が知られている。地元高校を卒業したばかりのカーラ・マリー・ホリーさん(18)を誘拐・監禁・強姦の末に殴り殺し、目玉をくり抜いたり、口から胃にかけてタイヤ交換用の工具を突き刺したりした上、遺体を携帯電話で写真撮影していた。

2010年11月にはルイジアナ州マンデビルに住むBMXライダーとして知られたディッキー・サンダース(20)が「クラウド9」と呼ばれるバスソルトの鼻腔吸引で錯乱状態に陥り、自殺した。母親によれば「薬のせいでまともに動けない。もう二度とやるもんか」と言って自分の喉を刃物で裂き、数時間後に銃で自ら命を絶った。いわゆるバッド・トリップ、異常恐怖のせん妄に囚われてしまったものとみられる。

2011年5月、ウェストバージニア州アラムクリークのマーク・トンプソンは隣人のヤギを殺害した容疑で逮捕された。訴状によれば、血塗れの女性服を着た半裸のトンプソンがヤギの死体とともに寝ているところを発見され、その傍らにはポルノ写真が落ちていたという。事件前3日間にわたって「バスソルト」を摂取していたことも明らかになった。性的興奮が昂ってヤギとの性交を試みたものとみられている。

 

国立薬物乱用研究所のデザイナードラッグ・リサーチユニット責任者マイケル・バウマン氏によると、「バスソルト」はコカインやエクスタシー(MDMA)のように作用するといい、快楽物質ドーパミンの生産と吸収を助長するものと説明している。当然、他の違法薬物同様に依存症リスクが高く、人体にとって悪影響を及ぼすものだが、「凶暴性の助長」や「人肉食への渇望」を示す研究結果は示されていない。

上のバージニアの事案などにおいても、薬効によって残虐な犯行に走ったというよりは、元々の反社会的性格、暴虐な性向の持ち主が興奮剤のひとつとして「バスソルト」を使用していたものと捉えられる。

 

2012年6月5日、マイアミでの事件を受けて、デラウェア州上院議員クリス・クーンズ氏は「バスソルト」の全国的な禁止につながる法案を検討するよう求めた。7月、オバマ大統領は薬物政策の修正を決定し、「バスソルト」に含まれる薬物メフェドロン、メチロン、MDPV等が禁止された。規制以降、米国での通報件数は年間500件台にまで急激に減少したが根絶には至っていない。

2013年2月、ダスティン・ミルズ監督は「バスソルト」がもたらす予期せぬ影響として中毒者が人食い人種に変貌するB級ホラー・コメディ映画『Bath Salt Zombies』をDVDでリリースした。筆者は未見だが、本事件からインスパイアされたアイデアであることは火を見るより明らかである。

 

世間一般には、ユージーンの狂った蛮行は得体の知れない薬物によって引き起こされた異常行動と解釈された。専門家の間では、なぜ検査に大麻以外の反応がなかったのかと疑問が呈されたが、検査薬があらゆる新種の合成麻薬に対応するものではないとの見解もあった。

しかし当初から「バスソルト」の使用が疑われる中、相応の化学物質を検知できない検査など行うものだろうか。コカイン、LSDアンフェタミン(MDMA、覚醒剤など)、ヘロイン、フェンシクリジン(PCP、俗称エンジェルダスト)、合成マリファナといった広く普及した違法薬物とは全く異なる新種の違法薬物に手を染めていたとでもいうのだろうか。

胃から「大量の丸薬」が見つかったとの報告書はあるものの、厳密にその成分を示す検証結果は公開されていない。また毒物に関する外部研究機関によって6月27日に提出された追加報告で、「バスソルト」、合成マリファナLSDに相当する合成薬物の使用は明確に除外された。ユージーンの体内から検出された薬物は、2012年11月にワシントン州コロラド州を皮切りに合法化が認められた「大麻」のみであった。

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大麻(ここでは薬物としてのマリファナ)はタバコ、アルコールに次いで最も一般的に使用されている依存性薬物である。葉・茎・種子・樹脂に含まれる化学物質THC(テトラヒドロカンナビノール)によって精神に高揚感などの変容をもたらす。手巻きタバコ(ジョイント)、パイプ、菓子やお茶にしての経口摂取のほか、今日では電子タバコの普及によって手軽にレクリエーション目的で使用する層も多く、米国では高校生の30.5%が使用経験があると答えている。

国立衛生研究所によれば、肺から血流に移行して脳細胞受容体に作用し、正常より過剰に活性化させて以下のような効果をもたらすことが確認されている。

・感覚の変化(より明るい色が見える、など)

・時間感覚の変化

・気分の変化

・体の動きを鈍らせる

・思考と問題解決を困難にする

・記憶障害

・幻覚(高用量)

・妄想(高用量)

・精神病(高用量での定期使用によりリスクが高まる)

10代からの定期使用は学習能力・認知発達への悪影響がある。頻繁な喫煙習慣は呼吸器へのダメージを与えるが、肺がんをはじめがん発生リスクは認められていない。血圧や心拍数を高めるため、心臓発作や脳卒中のリスクが高まる。妊娠中の使用は胎児の発達上の悪影響や早産のリスクを高めることが指摘されている。

多くの場合、その効果は「多幸感」「リラックス」を経験させ、知覚の高まりを感じるほか、笑いや食欲増進といったかたちで現れる。そうした効用は医療用にも広く利用されており、そのほか依存性のない化学物質CBD(カンナビジオール)には皮膚炎の鎮静作用や抗酸化作用があり、化粧品分野などからも注目されている。

経験が乏しい場合や摂取量が多すぎるとバッド・トリップに陥りやすくなると考えられ、幻覚、妄想、アイデンティティーの喪失など急性精神病の症状が現れる。使用者の9~30%がいわゆるマリファナ依存に陥る可能性があるとされる。

マリファナによる興奮・酩酊効果はアルコールに近いものとされ、心身への弛緩効果によって横柄な態度や雑な行動になることは少なくない。摂取後、幻覚・錯乱によって犯罪に手を染めたり、自ら命を絶ったりした者は数知れないが、少なくともマリファナだけの影響で「ゾンビ化」が誘発されたとは到底考えづらいのである。

 

■橋の下のポッポさん

襲撃後、ポッポさんの顔面再建手術が行われ、長らく昏睡と治療を繰り返した。事情聴取は経過を見てから行われることとなった。

事件の翌週、ニュージャージーに住むポッポさんの娘ジャニスさんがニューヨーク・デイリー・ニュースの取材を受けた。彼女が2歳の頃にポッポさん夫婦は離婚して家を出て以来、40年以上会う機会がなく、報道で名前が出て生存を知ったという。

ポッポさんは1947年ニューヨーク・ブルックリン生まれ。マンハッタンの名門校スタイベサント高校から近郊の私立大学に進学したが66年頃に中退し、70年頃に離婚をして家を出たものとみられた。

1976年にも何者かに銃撃されてジャクソン記念病院で5日間を過ごしており、当時の記録によれば、ニューヨークからニューオリンズへ移って、バンドのローディー(楽器の手配・輸送・管理をする職業)などをして暮らしていたとされる。銃撃後はマイアミで30年ほどホームレス生活を送っていた。

下のリンクは、ジャクソン記念病院で撮影された被害から2週間後のポッポさんの写真。すでに幾度かの顔貌形成手術が行われたものだが、目鼻のない傷口や手術痕が生々しい(非常に刺激が強いため閲覧に注意)。

Ronald Poppo Picture (Warning: Extremely Graphic) - CBS Miami

浮浪者の老人を突然襲った悲劇に米国中が憐れみを寄せ、病院によって設立された基金には顔面再建手術やその後の心理ケア等のために10万ドル以上が集められた。

 

■回復

7月19日になって長期療養施設へと転院したポッポさんはマイアミ警察の事情聴取に対し、全裸姿で歩く男をヒッチハイカーだと思っていた、と話し、「はじめは悪い奴には見えなかった」と印象を語った。

1、2分して男はシュープリームスのヒットソング「Lover’s Concerto」を歌いながらポッポさんに近づき、ビーチへ行ったが思ったように楽しめなかったことなどの不満を漏らし始めた。そして男は「死にたい」といった旨のことを打ち明け、老人は「私もだ」と相槌を打った。

ポッポさんは長年の路上生活での経験から、男の神経を刺激するようなことは何も言わなかった。しかし突如「聖書を盗んだのはお前か」等と意味不明な因縁をつけてきたかと思うと老人に襲い掛かり、力づくで顔面を歩道に打ち付けた。鼻は折れ曲がり、苦痛に顔を歪めると、更に全裸男はレスリングホールドのようにして老人の首を絞めつけ、目玉をえぐり出した。

ユージーンの聖書の断片は道に沿って散らばっていたが、ポッポさんは彼の聖書の存在については知らなかったと証言している。

また事件後、メディアの調査によってユージーンがホームレス向けシェルター(保護施設)に従事した経験があり、そこでポッポさんと面識のあった可能性が指摘されていたが、視力を失った老人は「面識がない」と語った。

 

・ポッポさんの供述調書

https://assets1.cbsnewsstatic.com/i/cbslocal/wp-content/uploads/sites/15909786/2012/08/poppo-audio-transcripts.pdf

 

事件から約1年後、ジャクソン記念病院から多くの人々からの支援に感謝を述べるポッポさんの映像が配信された。体は全体的にふっくらとし、盲目となったもののギターを手にして語り掛ける様子は穏やかそうに見える。

A Message from Ronald Poppo | Jackson Health System - YouTube

 

敬虔なクリスチャンが起こした人類の禁忌ともいえる食人行為。天使と悪魔ともいうべき青年のふたつの顔は、宗教の枠組みにおいて完全に理解するのは困難だった。マイアミ・ゾンビと呼ばれた射殺された青年は、4つの教会で葬儀礼拝を断られた。

「人々は彼をゾンビと呼びますが、私はそうでないことを知っています。彼は私の息子です」

「人間の顔を食べたのは自分の知る息子ではない」と嘆き、「彼は何者かに薬物を注射されてゾンビに変えられてしまった」と、幾度も衝突を繰り返しながら育ててきたルディの母親はメディアに訴えた。

 

■所感

ルディ・ユージーンの内なる欲望として、食人的暴力が芽吹いていたのか。それとも友人に誘いを断られ、ビーチでフェスに乗り切れず、大麻のバッド・トリップで「キマっていた」ことで説明がつくのだろうか。

たとえばガールフレンドの部屋で探し物をしていたときには、すでに何か「内なる声」に支配、命令されて…といった精神疾患の影響も考えられはしまいか。「服など脱ぎ捨てろ」「聖書を盗んだのはこいつだ」「噛みつけ、皮を剥ぎ取れ」と命じられ、男は素直にも従ってしまった。大麻の影響下にあった彼は、その声を「」と勘違いしてしまっていたのではないか。

当初の警察の見解には「ゾンビ化」とドラッグの影響を、ドラッグの専門家はとりわけ「バスソルト」と凄惨な事件を結びつけた。人々は「新たな合成麻薬がもたらした悲劇」と推測し、議会で瞬く間に規制法が整備された。しかし彼の体内からは大麻しか検出されてはいない。胃に残された大量の丸薬とは何だったのか。睡眠薬か何かを大量摂取して路上へ飛び出し、自殺を図ったものなのか。

大麻合法化の最中に起きた事件だけに、「バスソルト」説は大いに疑問が残る。陰謀論的な見方をすると、合法化勢力が専門家らに働きかけを行ったり、大麻から目をそらせる世論誘導が行われた可能性を勘繰るのは行き過ぎた妄想であろうか。

www.nbcmiami.com

2019年のリポートでポッポさんの生存は確認されているが、その後はどうなっているか分からない。視力を奪われ、以前の顔は元通りにはならなかったものの、安らかな余生を過ごしていることを願う。