いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

映画『ノロイ』(2005)感想

白石晃士監督作品、映画『ノロイ』(2005)について記す。

自宅が全焼して妻を亡くし、自身も行方不明となった怪談作家・小林雅文。2004年、彼が最後に発表した映像作品を主軸に構成され、作中で彼が真相を追い求めた怪奇な出来事の因果が、最終的に彼の身にも降りかかったのではないかと言われている。

 

横溝正史作品などに出てくる土着風俗のおどろおどろしい雰囲気が好き

小野不由美原作で竹内結子主演で映画化もされた『残穢』やウェブ作家・雨穴(うけつ)さんのミステリ作品のようにいくつもの謎が連鎖していくサスペンス展開が好き

・ネットフリックスで話題となった映画『呪詛』のように主人公が大きな闇に陥っていく展開が好き

といった方や物語を愉しめる心の清らかな方にオススメ。

ノロイ [DVD]

監督 白石晃士

脚本 白石晃士、横田直幸(『口裂け女』『呪霊 THE MOVIE』『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE』)

製作総指揮 一瀬隆重(『帝都物語』『リング』『呪怨』)

キャスト 村木仁、久我朋乃、松本まりか菅野莉央寺十吾

 

 

以下、忘備録として本編全体をふりかえる。

各場面の区切りとして「■」を付した。

 

■内容

■イントロダクション

1995年デビューの怪奇実話作家・小林雅文

怪奇実話の第一人者として多くの本を執筆し、近年は取材にビデオカメラを取り入れ、怪奇の真相を追究する映像作品も発表する。

 

しかし2004年に新作『ノロイ』を完成させた直後、小林の自宅が全焼。

中から妻の遺体が発見されたものの、小林自身は行方不明となった。

はたして小林の不可解な失踪の原因は何だったのか。

ノロイ』のビデオ冒頭には、怪奇現象に対する小林の信条が記されている。

真実を知りたい。たとえそれが、おぞましいことであっても

 

 

 

■2002年11月12日、東京都小金井市での聞き取り。

主婦・奥井涼子さんは、「赤ちゃんの泣き声」のような気味の悪い声が「2、3か月前から」「お隣の家の方から」聞こえると証言する。

半年前に引っ越してきたとき、隣家に小学校低学年くらいの男の子を見かけたが以来一度も姿を見ていないという。お隣の奥さんも滅多に見掛けず、偶に会っても挨拶も返ってこない。自らも5歳の娘を育てる奥井さんの表情は不安げである。

一通り相談を聞いた小林は撮影スタッフと共に隣家へと向かう。敷地内は雑草の伸びた植木鉢や使わなくなったものが放置されたままになっている。

中から出てきた女性は、小林とカメラを険しい顔で見定めると、「すいません、ちょっとお話を…」と低姿勢に出る小林に「なんでそんな言い方ができるんだよ!言い方っ!」と逆上して扉を閉める。

参ったなぁと退散する小林だったが、去り際に隣家を映したカーテン越しに男児の顔が一瞬写り込む。

その後、取材時の録音を解析にかけると、「人間の赤ん坊特有」の泣き声が確認され、その数は「5人以上あるいはもっと多数」に上るものとみられた。

 

■11月20日、小林が奥井さんの元へ再訪。

隣人は「4、5日前に引っ越した」と言い、以来赤ん坊の声は聞こえてこないという。

小林は再度隣家を訪れ、郵便物から「イシイジュンコ」の名前を確認する。庭先の荷物は放置されたままで、なぜか新しい鳥の死骸がいくつも転がっていた。

その取材の5日後、奥井さんが5歳の娘を乗せて車を運転中、突然中央分離帯を越えて反対車線に飛び出してトラックと衝突し、2人とも死亡した。

警察では「運転ミス」と判断されたが、小林はどこか煮え切らない表情である。

 

■2003年8月3日放映のTV番組『驚異の超能力スペシャル』

実践超能力者・広津宏一がゲスト講師として招かれ、「10人のエスパー小学生による超能力実験」が行われた。ひとつめは、黒いフィルムケースの中にある紙に何が書かれているかを当てる透視実験。東京都・小学6年生の矢野加奈ちゃんは紙に書かれた漢字や記号を5問中4問まで精緻に透視して見せた。つづく栓で密閉した空のフラスコに水を出現させる実験でも、加奈ちゃんは見事フラスコ内に少量の液体を生じさせた。

「頭が痛くなってくる」

鑑定結果によれば、動物性プランクトンを含んでいること等から河川・湖などの淡水である可能性が高いとされた。また黒い繊維状の物質も含まれており、少なくとも「動物の毛」であることが認められ、毛髄質が含まれないことから「新生児の毛髪」の可能性が高いという。

 

■8月27日、東京都府中市。小林は矢野加奈ちゃん自宅へ取材に訪れた。

母・喜美子さんによれば、番組での実験以来、微熱が下がらない状態が続いていると言い、病院でも原因は不明とされたという。

 

■10月23日に撮影された心霊スポットロケ(お蔵入りとなった未公開映像)。

芸人アンガールズと女優松本まりかが心霊スポットを訪れた。

こどもの頃から霊感があるという松本は、到着早々首の不調を訴え、神社に近づくと「こっち、こっち」と急に二人を先導し始める。青々と茂る林の中になぜか2本だけ枯れたような木を見つけ、木に触れてみようとするアンガ田中に「だめ!離れて!」と松本が強く制する。

その場を離れた一行だったが、松本は「何か分からないんだけど、すごいたくさんきた」と怯えだし、「男の人の、低い声が聞こえる」と言うと、急に奇声を上げて卒倒し、撮影は中断される。

 

■11月26日、小林のトークライブ『怪奇実話ナイト』

松本が上述のダビングテープを持ち込んで参加。「なんかすごい低い声で呼ばれてる感じがして…そこから記憶が全くなくて…」と振り返る。

そんな松本を霊視する運びとなり、霊能師ホリミツオが登場。銀紙で全身を覆い、「人類を霊体ミミズから守る活動」を続けているという人物で、明らかに挙動がおかしい。進行役の説明を遮ってホリは松本に飛び掛かり、「お前ヤバいぞ!お前ヤバいぞ!鳩!鳩~っ!」と叫んで半狂乱になり、ライブ会場は騒然となる。

 

■小林は番組ディレクターから心霊スポットロケについて聞き取り。

松本にダビングテープを渡すとき、「怖がらせるといけないと思って、一部分をカットして渡した」と語るD。マスターテープの映像には、松本の遠景、神社の枯れ木の背後に奇妙な人影が写り込んでいた。

小林が奇妙な人影の映像を松本に見せる。松本は「関係あるか分かんないんですけど…」と自身の手帳を開き、いつ書いたものか分からないがおそらく神社での収録後に不可解な絵?記号?が書き込まれていたと伝える。

 

■12月4日、矢野加奈ちゃんの母親から連絡が入る。

母親によると、その後、「誰もいないのに部屋で誰かと話している」様子だという。

小林は加奈ちゃん本人に「話している相手はだれなのか」を尋ねる。

「多分ね、もう全部だめなんだよ」

「それはどういう意味?」小林の問いに加奈ちゃんの返答はない。

その後、矢野家三人で夕飯の場面。

しかし加奈ちゃんは食事に口を付けようとしない。

「いやーーー!」

急に叫んだかと思うと卓上に並んだ食器が吹き飛ばされる。両親に部屋に連れていかれる加奈ちゃん。卓上に残された彼女のスプーンは首の部分で千切れている。

 

■12月9日放映、「高木マリアが最強の霊能力者に熱中レポート」。

ワイドショーのワンコーナーで、レポーターの高木が霊能力者の自宅を訪問する内容。近隣住民にインタビューするが、霊能力者について「キ×××」扱い。玄関には無数の粗大ごみが置かれ、謎の怪文書が掲げてある。家から出てきたのはホリミツオ。

「最強の霊能力者さんですか?お話を伺っても…」と交渉を試みる高木をホリは部屋に招き入れる。部屋中が銀紙に覆われており、何か文言が書かれたチラシが大量に置かれている。

「何年も前から危険な情報が届いてる…」

「宇宙と通じてて…未来も見える」

「悪い奴らがいっぱいいる」

「霊体ミミズ…シューってシュッ、バーン…」

言葉にはならないが、ホリは身振り手振りで霊体ミミズが襲撃する危険を訴えようとする。

 

■矢野加奈ちゃんが行方不明となり、小林が事情を聞きに矢野家へと訪れる。

父・照之さんは「いなくなる一週間くらい前から加奈に会わせろってしつこく訪ねてくる男が居まして…」と明かし、母親も「何を言っているのかよく分からないような男でしたね…アルミを…帽子とコートに貼ってる…」と語る。その特徴はまさしく前述のホリと思われた。

しかし加奈ちゃんは「あの人は大丈夫だから」と父親に話していたという。

いなくなった日、加奈ちゃんの部屋の机の上には意味不明な文言が書かれたチラシが裏返しに置かれていた。裏面にはチラシとは異なる筆致で小さく「たすけて」と書かれ、加奈ちゃんの筆跡とみられた。さらにチラシ裏には松本まりかの手帳にあったものと同じ絵?記号?のようなものが書き込まれていた。

 

■小林はホリの自宅を訪れる。

「矢野加奈ちゃんについてお伺いしたいんですけれども」と言われてもホリは動揺することなく、小林を部屋へ招き入れた。銀紙やチラシについてホリに問うと、「ビリビリを防ぐもの。いま、霊体ミミズが来てるから。」「霊体ミミズは色んな所で現れて、人間を食べて、殖える…」と怯えた様子を見せたかと思うと、「加奈も食われた…」と不穏なことを口にする。

「あんた、加奈ちゃんのこと、何か知ってるんでしょ!?ねぇ」と問いただす小林。

「加奈…加奈―っ!」ホリは急に暴れ始めたかと思うとやおら小林のバッグから「加奈ちゃんの机に置かれていたチラシ」を奪い取ると、ペンを手に取り、何かを「受信」しながら《地図》を描き始める。

「青い…青い建物…」「トタン」「クマ」「駐車場」「霊体ミミズが出てる」「若い男」「霊体ミミズが加奈を連れて行った」。方角を指し示すホリだったが、興奮が収まらず、「カグタバって何だ…カグタバって何だ!?」と叫びながら半狂乱に陥って小林を追い出してしまう。

車内で映像を確認してみると、ホリの発狂前後に無数の髑髏のようなグリッチ(映像のバグ)が生じていた。小林と撮影スタッフは、加奈ちゃんの行方を探そうと試みるもホリの描いた拙い地図と断片的な情報だけではすぐに特定することはできなかった。

 

■松本から小林に「見てほしいものがある」と連絡が入る。

12月26日、目黒区にある松本の自宅マンションを訪問。目覚めると、出した覚えのない毛糸がテーブルの上に置かれており、いくつもの小さな輪をつなげたようなかたちに結ばれていた。寝ている間に何が起きているのか、不安で眠るのが怖いという。

小林は部屋にカメラを設置し、睡眠中に何が起きているかを録画するよう提案する。その晩撮影された映像には、起き出して部屋の電気コードを抜き取り、ベランダに出、再びベッドへ戻る松本の姿があった。

ベランダには「小さな輪をつなげたようなかたち」にした電気コードがぶら下げられていた。

上の階からゴツゴツと物音が響くのが気になった小林。上階には松本と同じ事務所の後輩みどりちゃんが暮らしていたが、物音の心当たりはなく、身辺での変調は何もないという。

 

■ホリの地図に合致するマンションを発見。

小林はマンション3階の「大沢」と表札のある部屋を訪問する。中から物音はするが応対に出てはこない。隣人の男性に確認してみると、大沢は25歳くらいの男性で挨拶をしても一人でぶつぶつ呟いているような人物だと言い、加奈ちゃんらしき女児の出入りも確認されなかった。

 

■1月7日、マンションを張り込むことに。

ベランダにはゴミが放置され、なぜか鳩が何匹もとまっている。しばらくするとベランダに大沢とみられる若い短髪の痩せぎす男が出てきたかと思うと、おもむろに一匹の鳩を素手で掴んでそのまま室内へと戻っていった。

「数日後、男は部屋からいなくなった。」

 

■1月10日、松本の部屋で録画したテープを見直す。

専門家に鑑定を依頼すると、男性と思われる低い声が録音されていた。ノイズを処理してじっくり聞いてみると「かぐ…たば…」と呟いているように聞こえる。

松本に音声を聞かせてみると、神社で聞いた声とよく似ているが、「かぐたば」と聞こえる文言については何の心当たりもないという。小林は「かぐたば」という言葉の意味について調査に乗り出し、各方面の専門家に連絡を取る。

 

■1月15日、昭島大学民俗学研究室・塩屋和秀教授のもとを訪れる。

教授によれば、『長野県渡喜多郡の民俗』という資料に「かぐたば」の記述があるという。かつて渡喜多郡にあった下鹿毛村に「鬼祭(きまつり)」という祭事があり、その鬼のことを「かぐたば」と称したというのだ。

信濃国渡喜田郡風土記』にさかのぼると「禍具魂」の字が宛てられている。曰く、西方から呪術者たちが彼の地に移住し、彼らが興した呪術は「下陰流」と呼ばれた。中でも秘術とされるものが「禍具魂法」といわれ、禍具魂を呼び起こして相手を呪ったのだとされる。しかし呪術師の意を離れて悪さをする禍具魂があったため、祈り続けて彼の地深くに封じ込めたと伝えられており、鬼祭は封じ込めの儀式の継承、鬼の鎮魂が目的とみられた。

だが1978年、下鹿毛村はダムの底に沈み、禍具魂を鎮めるために続けられた鬼祭も途絶えてしまったという。

 

■小林は長野県に向かい「鬼祭」について教えてもらうことに。

地元の郷土史研究家・谷村さんによれば、鬼祭は部外者には非公開で行われていたが、廃村直前となる78年、神官の石井家が業者に記録撮影を依頼していたという。

村人たちは信心深く、家の表にカマを掛ける風習などは移住先でも続けられ、下陰流では犬を使うことが多かった名残で、多くの家で犬が飼われていた。

鬼神社では神具魂の面を被った巫女が荒ぶる舞を踊り、それに神官が鎌を持って立ち向かい、1拝4拍1拝で魂を鎮めるのが通例の儀式であった。

しかし記録されていた78年の儀式では、最後になって禍具魂役の女性が錯乱してしまい、中断されてしまっていた。信心深い人々によってはそれを禍具魂のノロイという者もいたとされる。

 

■三日石での取材。

すでに石井神官と妻は亡くなっており、記録フィルムで「最後の禍具魂」役を演じていた神主の娘が存命だという。小林は谷村さんにお願いして村の者が多く移住した「三日石」に暮らしているという娘の元へ取材に訪れた。

「なんだ、これ!」

小林は、家の周囲に膨大な量の縄やロープが、しかも松本の家で目にしたような「いくつもの小さな輪をつなげたようなかたち」のものが幾重にも張り巡らされているのを見て驚愕する。壁には松本の手帳や、加奈ちゃんの机に置かれていたチラシにあった不可解な絵?記号?が書かれている。

関係ないはずないね

一連の出来事とのつながりを確信する小林だったが、家から出てきた人物は

なんでそんな言い方ができるのかって聞いてるんだ!なんでそんな言い方ができるのかって聞いてんだよ!」と玄関先の小林を突き返す。

一瞬の出来事ではあったが間違えようもない、2002年11月に取材した奥村さん宅の隣に住んでいた「イシイジュンコ」そのひとである。小林は周辺に聞き込みに回るが、多くの村人は口をつぐんだ。

だが下鹿毛村時代はジュンコの友達だったという女性が取材に応じ、家へ招いてくれた。かつてのジュンコはごく普通の少女で、村を出てから東京の看護学校へと進んだという。おかしくなったのは鬼祭での神がかりが影響したのだとその女性は言う。

「禍具魂のノロイだ、なんて噂をちょっと聞いたんですがね」

小林がそういうと女性はやおら立ち上がり、無言で部屋の奥へと去ってしまった。

 

■1月21日、東京都武蔵野市、かつてジュンコが通ったという武蔵看護専門学校

ジュンコは82年に卒業、その後、八王子の産婦人科に勤めていたが、病院自体は2000年に廃業していた。

 

■1月27日、東京都八王子。産婦人科時代のジュンコの同僚を取材。

「真面目に働く人だったが、怖いくらい無口で、仕事以外の話をしたことがない」という。その病院では22週を過ぎての違法な中絶手術を行っており、ジュンコはその胎児の処理を任されていた。ジュンコには「中絶した胎児を自宅へ持ち帰っている」という噂があったという。

胎児を持ち帰ったのが事実なら、なぜ持ち帰ったのか

 

■2月6日、松本からマンションの上階に住んでいた後輩みどりちゃんが亡くなったと報告を受ける。

警察から聞いた話によれば、「公園で知らない人たちと首を吊って自殺した」のだという。松本は自分の所為ではないかと不安になって荷物を持ってマンションを出、その日は、小林の家で世話になることになった。

その日のニュースでは、公園のブランコ上部からロープで首を吊った集団自殺と報じられたが、7人の関連は不明とされる。

 

■2月10日、「集団自殺ミステリー」として週刊誌に顔写真入りで大きく報じられた。関連不明とされる自殺者7人の中には、松本の同僚みどりちゃんのほかに、ホリが指示したマンションで暮らしていた若い痩せぎすの男「大沢」も含まれていた。

 

■翌11日、小林は「大沢」の隣人に再度聞き込み。

当初は明るい普通の若者だったが、去年の夏ぐらいから逆隣りの部屋に怒鳴り込むようになったという。その部屋の住人の中年女性も気が強く、しばらく言い争っていたようだったがはやがて引っ越してしまったという。言い争いの発端は、「赤ちゃんの鳴き声がうるさい」というもの。しかし女性は5、6歳くらいの男の子と暮らしており赤ん坊はいなかった。

もしやと思い、小林が映像から引き伸ばした「ジュンコ」の写真を見せると、隣人は「この人です。間違いない」と答えた。

 

■2月12日のニュース。

府中市のマンションで会社員矢野照之(40)が妻喜美子(36)を包丁で刺したと自ら通報、殺人容疑で逮捕され犯行を認めているが動機については供述していないという。行方不明中の矢野加奈ちゃんのご両親である。

 

■小林宅

小林家での生活で松本はすっかり落ち着きを取り戻していた。その日は和やかなムードで小林夫人に昼食を手作りしていた。

しかし、突然松本が「うーーーーーー」と低い唸り声を上げたかと思うと、そばのガラス窓に立て続けに何かが衝突し、直後に松本も卒倒する。松本は意識を取り戻したもののそのときの記憶がなく、衝突音のした窓の下を確かめてみると複数の鳩の死骸が落ちていた。

「次は私の番だ」

トークライブでホリの叫んでいた「鳩」の発言を思い出し、自らの死を予感して怯える松本。

小林は再度ホリに会って、相談してみようと松本を慰める。

 

■2月13日、ホリ宅。

小林と松本はホリの許を訪れ、イシイジュンコの映像を見せて反応を見る。新たな「受信」のメッセージを求めるも、ホリは極度に怯えて会話にならない。

ホリの自宅を後にした小林と松本。

松本は「ダムで沈んだ村に行って、鬼祭の儀式を自分でやる」と言い出し、小林が止めても、危険は承知の上だが「何もせずに死にたくない」との硬い意志に返す言葉を失う。

長野再訪を決め、何らかを「受信」することを期待してホリにも同行するよう強引に説得した。

 

■鹿見ダムに到着した一行。

ダム湖のかつて神社地点には二人乗りの手漕ぎボートで行く以外手段がなく、小林と松本が乗船。ホリとカメラマンのミヤジマは沖で待つことになった。

近づくにつれ、呼吸が乱れる松本。ボート上、鎌で縄を断ち切る儀式を再現し、続いて1拝4拍1拝を終えると、すぐに松本は「楽になった」と歓喜し、落ち着きを取り戻す。

 

2人が沖へ戻ってみると、今度はホリが変調をきたし、「加奈!加奈!」と山中へ走り出す。慌てて小林が追いかけると、暗い山中には村人が飼っていたと思われる犬の死骸が転がり、先には鳩の羽根と脚を結った結界と思しき紐が張られている。

ミヤジマと松本は車に戻って2人が戻るのを待っていたが、突如松本は何かに憑依され、奇声を上げて車外へ飛び出し、闇の中に走って行ってしまう。イイジマも叫び声を頼りに暗闇の中を追いかける。

 

はたしてホリが向かった先には古い鳥居と崩落した神社のような残骸が。

「加奈!加奈!」夢中で追い求めるホリだったがやがて何かを見つけてその場にへたり込んでしまう。

小林がライトを頼りに周辺を探すと、柱石に彫られた絵?記号?を見つける。へたり込んだホリは絶句したまま失神状態となったことに気付いた小林。その視線の先、鳥居の下には…

 

■イシイジュンコの家に向かった小林。

家から応答はなく、小林とミヤジマは無断で侵入する。

家の中にも人の気配はなく、あちらこちらに鳩が生息している。壁には呪文、床には犬の死骸が転がり、家の周囲同様に無数の輪縄がぶら下げられている。おぞましい空気が充満したその家の奥へ奥へと進んでいくと、真っ赤な服を着たイシイジュンコが首を吊って息絶えていた。

部屋には無数の禍具魂の面が掲げられ、縄には鳩の死骸も括られている。気付けば部屋の角に青白い顔をした男の子が無言で座っており、その足元には行方不明になっていた加奈ちゃんが真っ白な顔で冷たくなっていた。

 

2人は警察に通報し、男児は一命を取り留めた。当初、イシイジュンコの息子かと思われたが戸籍上彼女に息子はいなかった。小林は生き残ったその少年を引き取ることにした。

 

■3月6日。少年は進んで食事を食べるまでになったが、何も語ろうとはしなかった。

■3月8日。松本は異変もなく落ち着いて仕事にも復帰。

■3月13日。ホリは回復せず精神病院に入院。面会できない状態が続いた。

 

■3月17日、長野県の郷土史家谷村さんは祖父の所持していたものの中に禍具魂の呪法を記した絵巻を発見したという。「猿のこども」を生贄にして巫女に食べさせていたようだという。

山中の鳥居の前でホリが腰を抜かして絶句した原因、彼が見てしまったものとはかつて儀式で多くの屍を築いた巫女の姿だったのかもしれない。

 

■小林は「推測に過ぎない」としながらも一連の事件について考えをまとめる。

イシイジュンコは、優れた能力者の片鱗を見せた矢野加奈ちゃんを「巫女」として利用し、中絶で得た胎児たちを「猿のこども」の代用として生贄とし、禍具魂の呪いを現代に蘇らせようとしたのではないか。。。

 

映像作品『ノロイ』はここで終わる。

 

■後日譚

作品完成の2日後、小林の自宅が全焼し、妻ケイコさんが焼死。小林は行方不明となった。

その3日後、精神病院を抜け出し、行方が分からなくなっていたホリミツオが死体で発見される。ダクトにぴったり詰まったような不可解な変死体であった。

 

■2004年5月19日、杉書房へビデオカメラの小包が届けられた。

送り人の名義は行方が分からなくなっている小林。中にはテープが入ったままの状態。テープには撮影する小林本人の肉声が記録され、そして病院から脱走直後とみられるホリの姿が映っていた。

「加奈の声が頭ん中に入って来て…禍具魂は生きてる…」

こぶし大の石を手に、小林家に突入するホリ。

小林の妻を弾き飛ばして、引き取られていた男児を捕まえる。

「冷静に!できることがあったら何でも協力しますから、まずはその子を放して…」と説得を試みる小林。

「ちがーーーーーう!!!」

狂乱したホリは手にした石で男児を殴打する。制止しようとする小林さえも殴り飛ばし、執拗に殴り続ける。

突然ホリが殴打を止めてたじろいだ様子を見せる。立ち上がった男児の血まみれの顔はあろうことか禍具魂の面そのものであった。

妻ケイコは何かに憑依されたように唸り声を上げながら、台所で自らの体に火を点ける。

小林は抵抗を試みるがホリに強か殴りつけられてどうにもできず、そのまま男児を連れ去られてしまう。家中に火が回るなか、テープは途切れた。

その後の小林の安否は知れない。

 

 

■感想

ホラー映画の主人公は、「好奇心」が強く「冒険心」があり、数々の異変に「恐怖」しつつ仲間の危機に立ち向かう「勇敢さ」を備え、生き延びるための「知的さ」が必須条件とされる。本作や『残穢』では「作家」が主人公、舞台回しとなって怪奇事件に巻き込まれていく。2010年代以降は『コンジアム』や『呪詛』のような動画配信者、いわゆるユーチューバーが格好の「標的」として採用されるようになった。

sumiretanpopoaoibara.hatenablog.com

1999年公開の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の大ヒットによって、低予算のPOV(主観映像)作品が数多く発表され、本作もその系譜に連なるものといえる。劇中では90年代に人気を博した「実話怪談」や、怪奇小説やホラー動画をメインコンテンツとする「竹書房」などを彷彿とさせるモチーフが登場し、公開当時には登場人物「小林雅文」を実在する作家として扱う「公式ホームページ」「公認ファンサイト」などがメディアミックス広告として制作された。

また映画の原作ノベライズとは異なり、物語世界を補完するため「小林雅文の取材ノートを元に書き起こした」という触れ込みで『ノロイ―小林雅文の取材ノート』(角川ホラー文庫)が映画公開前に妖怪研究家、小説家の林巧氏の名義で発表されている(林先生は実在の作家さんです)。

《小林雅文公式ホームページ》

https://web.archive.org/web/20050618023633/http://koba1964.hp.infoseek.co.jp/

《小林雅文公認ファンサイト》怪奇実話ファン

ノロイ―小林雅文の取材ノート (角川ホラー文庫)

単なるPOV作品と大きく異なる点として、ビデオ作品内で登場するオカルト番組やバラエティなどの再現、「作中作」が豊富に取り扱われており、非常にクオリティが高いこと。本格ブレイク前の松本まりかさんを筆頭に、「号泣。」時代の島田秀平さんや「じゃんがじゃんが」時代のアンガールズらも多くの芸能人(荒俣宏さんまで!)が本人役として登場する。

実在性を謳った宣伝、作品構造が功を奏し過ぎたのか、文庫リリース~映画公開前の期間には以下のような反応もあった。

http://www.tanteifile.com/tamashii/scoop_2005/07/15_01/index.html

http://blog.livedoor.jp/darkaqua/archives/27126138.html

あるいは熱烈なファンによる釣りネタなのかは不明だが、「ヤフー知恵袋」などでは公開から何年も経ってからも「小林雅文さんの事件って本当なんですか?」といった質問も散見される。

DVDでもネタバレなしで小林雅文による特別取材や禍具魂伝説の資料が特典とされるなど、徹底した事件再現を行った。

 

怪奇作家と若手女優と変人とカメラマンのミヤジマくんという実在すれば世にも不可思議なパーティーが作中では絶妙なバランスで成立している。主要な登場人物にM.ナイト・シャマラン監督の『サイン』等でもあったような「毒電波」受信体質のホリ、「なんでそんな言い方ができるのかって聞いてんだよ!」と気迫を見せたイシイジュンコを配した点は極めて挑戦的である。

かつては「5G」と戦う人々をよく目にしたし、今日も新たな電磁波の襲来に怯えたり、見えない敵・聞こえない声との抗戦を続ける人たちは少なくない。古来より心身に異常がある者は、たとえば目が見えないものは聴覚・嗅覚が研ぎ澄まされるといった無類の特殊能力、霊力を兼ね備えると考えられた。幻視・幻聴はときに神がかりの予言や霊界との交信とみなされ、一種のシャーマン(巫女)として祀られる者もあった。

今日の日本社会では「障害者」の括りとされる彼らの使命には、目に見えない世界の出来事・別次元に隠れた事件の真相につながる可能性があることを本作は示唆している。「キ×××」のいうことなんか真に受けていられるか、という人間が現在では大半だが、ひと昔、ふた昔遡れば、巫女や予言者、拝み屋・探し屋は全国に何千何万人とおり、市民社会と密接に関わっていたのは事実である。

シャーマンの人並外れた能力が事実であれ虚像であれ、人々はそうした言葉に真実を垣間見、真と信じることで癒され救われる面も少なからずあったにちがいない。人によっては今日でいうところの“インフルエンサー”や“スピリチュアリスト”と大きな差はないのかもしれない。フィクショナルな存在として悪霊との闘いをする「エクソシスト」や「陰陽師」と異なり、本作の憑依体質まりかさんや電波体質ホリは霊と戦う能力をほとんど持たない。怪奇に対する人並以上の好奇心と勇気を備えた小林ですら帰らぬ人となった今、私たちはこれ以上の詮索を止めておかなければならないのかもしれない。