いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

埼玉・千葉連続通り魔事件(2011)について

[2021年5月9日加筆修正。2020年12月に投稿したものだが、捜査の進展から内容を修正する。事実内容だけでなく、当時の報道および筆者の見解などが含まれる]

 

2020年11月20日、埼玉県三郷市鷹野4丁目の自宅に硫黄約45キロを貯蔵し、危険物取扱基準に反したとして、埼玉・茨城の両県警は三郷市火災予防条例違反の容疑で、無職・岡庭由征容疑者(25)を逮捕した。

 

同容疑者が危険な薬品や刃物を所持していると茨城県警から情報提供があり、2日に合同捜査班を設置し、19日朝から家宅捜索を行っていた。「保管していたことは間違いない」と容疑について認めているという。

 

www.saitama-np.co.jp

 

硫黄は、消防法で危険物第2類(可燃性固体)に分類され、指定数量は100キログラム未満と定められており、粉塵爆発を起こす可能性があるほか、鉄と化学反応させると硫化水素が発生する。

それと聞くと「危険だ」「なぜこんな大量に」と訝しむ向きもあるかもしれないが、ブルーベリー等の酸性を好む農作物向けの土壌改良剤として一般的に用いられるもので、もちろん市販されている。その硫黄を貯蔵保管していた自宅1階倉庫が、三郷市火災予防条例の定める基準を満たしていないという名目で逮捕された。

 

たしかに違法所持には該当するが、農業用の薬剤をみんながみんな厳密に管理しているかといえば、無施錠の倉庫に大量に積みっぱなしだったりといった実情も少なくない。

何を言わんとしているかというと、「硫黄45キロ」は県を跨いで合同捜査する類の違反行為とは考えがたく、余罪を追及するための「別件逮捕」ではないかとする見方が強い。

gendai.ismedia.jp

上の『週刊現代』2020年12月12・19日号リンク記事では、全国紙記者から次のような情報がもたらされている。

「実は両県警は、A容疑者を、昨年、茨城で起きたある重大殺傷事件の重要参考人と見ているのです。

当局は、A容疑者が事件当日に現場周辺にいたというGPS記録を持っているようですが、犯行に繋がる直接証拠がない。それで別件で逮捕し、自供を引き出そうとしたのです」

19年に「茨城で起きたある重大殺傷事件」とはなにか。

www.pref.ibaraki.jp

茨城県警が公表する2019年の未解決凶悪事件に該当するもので、地理的な要因から察するに9月に起きた「境町大字若林地内における殺傷事件」、一家4人が殺傷の被害に遭った“ポツンと一軒家”事件が当てはまる(他5つの掲載事件は茨城県央部の事案であり埼玉県三郷市からはやや距離がある)。

それでも埼玉県三郷市から茨城県境町の現場までおよそ37キロ、車で約50分ほどかかり、生活圏とはやや離れた距離である。

sumiretanpopoaoibara.hatenablog.com

 

ここでは参考までに、同容疑者が過去に埼玉・千葉両県で起こした連続通り魔事件について振り返ってみたい。

 

 

■事件の概要

2011年11月18日17時過ぎ、埼玉県三郷市鷹野の市道で、帰宅途中の市立中学3年の女子生徒(14)が背後から刃物で切りつけられ、右顎下に約5センチ、深さ約10センチの頸動脈に達する深い切り傷を負った。

帰宅途中の男性が発見し119番通報。女子生徒は約10日にわたって入院。現場近くの会社の防犯カメラに自転車に乗った男の姿が映っていた。

 

同年12月1日、三郷市の事件現場から約2キロ離れた千葉県松戸市栄町西3の路上で、下校途中の小学2年生の女児が転倒したところを胸や右わき腹、右腕など6か所を刃物で刺され、一部肺近くに達する全治10日の怪我を負った。

女児は数百メートル離れた自宅まで泣きながら帰宅し、母親が通報。黒っぽい上下の服とキャップ帽子を身につけた若い男性が自転車で逃走したとの目撃情報が寄せられた。

 

12月5日17時過ぎ、三郷市高州の路上で自転車に乗っていた通信制高校2年・岡庭某(当時16)を警官が職務質問したところ、バッグに未使用の折り畳みナイフ(刃渡り15センチ)と鉈(刃渡17センチ)を所持していたため、銃刀法違反容疑で現行犯逮捕。

三郷での事件後、「ナイフを持ってうろついている人がいる」「校内にナイフを持ち込んでいる生徒がいる」等の情報が県警に寄せられたことから、捜査線上に男子生徒が浮上し警戒を強めていた。

調べに対し、「歩いている人を誰でもいいから殺そうと思った」「女性を狙った」と上記2件の犯行について認め、さらに「三郷市松戸市で三十件ほど放火した」とも供述。殺人未遂2件、自動車や倉庫など非現住建造物放火6件、動物愛護法違反2件など合わせて13件の罪に問われた。

(※同時期の12月2日15時50分頃、上記の現場からおよそ10キロ離れた千葉県柏市の路上で、塾帰りの小学4年女児と2年の弟が背後にカッターナイフを持った男が無言で立っているのに気づき、姉弟が走って逃走する事案が発生。若い男性、黒づくめの服装という目撃談から同一犯かと見られたが、岡庭は関与を否定した。その後、県外でも類似犯ともとれる事案が頻発し、各地で部活動休止、集団下校措置などが相次いだ。)

 

 

■事件までの生い立ち

地元では名士とされる岡庭家の長男に生まれ、両親と弟の4人暮らし。父親は建材を扱う会社を経営しており、地元消防団を取り仕切る有力者で、親類には代議士もいる。

(※同姓ではあるが親戚ではなく、付き合いもない旨が公表されました。事実誤認による表現、読者に誤解を与える記載があったことを深く謝罪いたします。2021年5月訂正。)

 

同級生らによれば「特に目立つことはないが明るい性格」とされるが、「小学校高学年のときは、虫とか結構殺していた」という。

中学の卒業アルバムでは、一人だけカメラから顔を背けて写っており、将来の夢を「大学進学」、尊敬する人や好きな言葉を書く欄に「ないです」と記入していた。

近隣住民によれば「家族仲は良かった」「真面目。(登校グループの)班長さんやっていて、そんなことする子じゃない」とされ、幼馴染の証言では「どちらかというと文科系の顔。おばあちゃんがすごくかわいがっていた」という。

逮捕を知った祖母は「2、3日前に会ったときは、普通の子ども、普通の子ですよ。こういう風な事件を起こしているなんて夢にも思っていませんでした」「ただただ、びっくりです。被害者の女の子、おっかない思いしたんじゃないかと思うと、全く、何て言ったらいいか言葉に表せない。申し訳ない」と謝罪し、「お前どこでどうなっちゃったの?っていうかもしれないね、会ったら。信じられないですよ」と驚きを隠せない様子で語った。

本人は後の供述で、中学時代からホラー映画などで女児や女性が苦しむシーンに性的興奮を覚え、自己満足のために猫を殺すようになったとしている。自宅で小動物捕獲用のケージを仕掛けたり、素手で尻尾をつかんだりして捕獲し、千枚通しで刺した上、ケージごと土中に生き埋めにしたり、地面に叩きつけた上、金槌で殴打して殺害していたという。

 

千葉商科大学付属高校の商業科へ進学。ゲームをきっかけにナイフに興味を覚え、父親に頼んでインターネットで購入してもらい71本ものコレクションがあった(事件では用いられていないが、所持が禁じられているダガーナイフも押収された。ダガーナイフは、08年に起きた秋葉原無差別殺傷事件で凶器に使用され、翌年施行の改正銃刀法により自宅保管も禁止された)。

1年生の後半になると、同級生にメールで猫の虐待動画アドレスを送りつけたり、「護身用」と称してナイフやスタンガンを校内で見せびらかして「知らない人に使ってみようかな」などと話しており、クラスでやや孤立した存在になっていった。インターネットで人が切り殺される映像を見ていても、両親から制限されることはなかったとされ、「人を殺せばもっと性的な興奮や満足感が得られると思った。刃物を持って女子小中学生を尾行した」と述べている。

11年の春、小中学校の同級生が松戸市で開かれたカードゲーム大会で岡庭に再会したが、レアカードをファイル1冊分持っていたのが印象に残った程度で「目立つタイプではなかった」と話す。

10月、三郷市内にあるマンション駐車場でバイクが炎上する火災が発生し、友人に現場写真を見せて自分の犯行だと話していた。2011年11月1日、瓶詰めにした猫の首切り遺体を教室に持ち込むトラブルを起こす。2日に職員が説明を求めると「おもちゃだ」と答えたが、7日、母親と学校を訪れ、退学して進路変更することを担任に伝え、15日に学校に退学届けが郵送された。退学後は通信制高校に転入していた。

■公判

 

2013年2月19日から開かれた公判で、岡庭は冒頭陳述で「殺して首を持ち帰ろうと思った」と証言し、起訴内容を認めた。

検察側は刑事処分が相当として懲役5年以上10年以下の不定期刑を求刑、弁護側は医療少年院送致の保護処分を求めて裁判は争われた。逮捕後に行われた精神鑑定で、広汎性発達障害と診断されている。

 

被害に遭った三郷の女子生徒は右目が思うように開かず頭痛に悩まされており、「昼でも夜でも一人になるのが怖い」といった被害による後遺症を明かした。また事件当時「襲われて悲鳴を上げると、口元を歪めて笑っているように見えた」と言い、「自分が死ななかったから犯人は満足できず、次の事件を起こしたのではないか。女の子(松戸の小2女児被害者)に申し訳なかった」といった供述さえあった。

また検察によれば、岡庭が犯行に使った包丁を舐めていたとみられること、殺害目的がなかなか達成できない鬱憤を放火で紛らわせ、更には放火の様子を友人に撮影させる等、事件前後の異常行動が指摘されている。

岡庭本人は、事件前にも別の女子中学生を包丁で刺そうと、埼玉・千葉・東京を自転車で徘徊しており、女子学生に悲鳴をあげられて逃げ出したこともあったと供述。

三郷市での事件後、自宅のパソコンで検索し、「血が出たときを思い出して性的に興奮した。またやりたくなった」とも供述。弟に自身の犯行だと話したが、冗談だと思われ相手にされなかったという。学校に猫の瓶詰めを持っていった理由については「仲間が欲しかった。喜ぶかと思った」と説明している。

 

2013年3月12日、さいたま地裁(田村真裁判長)は「強い殺意に基づく凶悪で、計画的に行われた通り魔的犯行」と事件の重大性を指摘。

広汎性発達障害の影響と両親の養育環境が動機につながったとして刑事処分を退け、「医療少年院で長期間にわたって矯正教育を施し、保護観察所に両親の監護態度を改善させるのが最良」「再犯を防止する社会の要請にも適う」との判断から、家裁への移送を決定。

精神科医との関わり合いによって閉ざされた心の窓を開くことが必要だとし、最後に「罰を受けないで済んだと間違わないでほしい。医療少年院に長く入ることになる。重い罰だ。君は変わる必要がある、変わらないといけない」「君が社会に受け容れてもらえる人間に変わって戻ってくることを願う」と語りかけた。

 

埼玉家裁は岡庭を2週間の観護措置とした後、医療少年院へ送られた。埼玉県警は父親に対しても県青少年育成条例違反(71本のうち16点が指定有害玩具)で書類送検した(週刊女性PRIME)。

2015年、被害女性が、岡庭と両親に慰謝料などの賠償を求めて提訴し、さいたま地裁は約1900万円の支払いを命じた。祖父が自宅裏の敷地を売却するなどして賠償金を工面したとされる。18年頃に医療少年院を退院後、下の名前を「由征」に改名した。

 

 

■関与の可能性(20年12月時点での筆者見解)

記事にあった「GPS情報」以外にも相応の状況証拠があって今回の逮捕へと至ったはずだが、個人的な見解としては、岡庭は境町一家四人殺傷事件には関連していないのではないかと思う。

 

第一に、既述の通り、三郷市と境町ではやや距離が離れていること。もちろん地元での再犯というのはさすがに躊躇するであろうし、県境を越えて初動捜査を掻い潜る越境犯罪を狙った可能性は考えられる。車やバイクであれば行き来に苦はない距離ではあるが、三郷市を中心に考えるとあえて境町にまで足を伸ばすだろうかと疑問に思う。利根川を越えて茨城県での犯行を狙うにしても守谷市坂東市の方が近場であり、利根川近郊の農村地域には孤立した家は比較的見つかるものである。

 

第二に、境町の事件は「個人」というより「家」を狙った犯行に見える点。岡庭が過去に起こした通り魔事件の動機は少女に対する加害による性的興奮であった。

「通り魔事件」ではあるが、池袋通り魔事件(1999)や土浦連続通り魔事件(2008)のような人生に絶望し自暴自棄になった末の道連れ的大量殺人、老若男女問わず「誰でもよかった」「死刑上等」のケースとは異なり、若くて非力な女性を狙った「性犯罪」と見なすことができる。

共に「殺人未遂」に留まっており、このとき最後まで殺害を遂行したかったのか、あるいは恐れおののく表情や悲鳴で満足して去ったのかは分からない。事件当時16歳だったことや猫殺しやバイク放火といった前歴から考えると、反撃されるリスクが小さい「少女たち」をターゲットにしたように思われる。

小林家の当時小学生だった次女は、かつての岡庭であれば標的にしてもおかしくない対象かもしれない。だが少女を目当てに、寝ているとはいえ家族全員が揃っている自宅を襲撃するだろうか。岡庭も十代の頃より体力はついていようと思うが、もし女児を狙うのであれば、両親を惨殺してまでもというよりは、やはり一人歩きのときや自分に有利なタイミング等を狙うのが筋ではないか。

 

  第三に、境町事件の長期化である。事件発生当初から情報提供のなさが危ぶまれており、捜査対象範囲の拡大や懸賞金が設けられるなど進展が望まれながらも難航している。「事件当日、現場周辺にいたGPS記録」がどれほど近くだったのかは分からないが、おそらくは茨城・千葉・埼玉で前科のある者について相当数サーチをかけ、「刃物」「小学生女児」といった関連項からマークしたものと考えられる。物的証拠に乏しいための別件逮捕という印象を受ける。

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[21年1月6日追記]

2021年1月3日『Fridayデジタル』に類報があったので、前掲の『週刊現代』記事と比較して確認したい。

friday.kodansha.co.jp

こちらの記事では、境町事件を銘打っており、送検の際に「各社のカメラマンが殺到した」ことからも、内々には境町事件の別件逮捕と認識されていたことが窺える。現場にはガスマスク装備の捜査員も導入されており、爆発物処理班も待機していた。

「別件は微罪にもかかわらず、Aは長期にわたって身柄を拘束され、念入りに取り調べを受けています。警察当局はAの商品購入履歴の情報や防犯カメラの画像解析によって、いくつかの状況証拠を得ているようです。ただし、ガサが入ったAの自宅から凶器など決定的な証拠は見つかっておらず、またAにつながるDNAや指紋も茨城の事件現場には残っていません。

有力な目撃者は当時13歳だった長男ですが、事件のショックが大きく、面通しは難しいでしょう。結局、Aの供述を引き出すしかないのが現状です」(全国紙担当者)

こちらの記事では、「商品購入履歴の情報や防犯カメラの画像解析によって、いくつかの状況証拠を得ている」と報じている。

境町の現場周辺は中心街から離れた農村地帯で、商業施設は非常に少ない。大型スーパーマーケットは境大橋付近の市街地まで出るか、坂東市岩井まで南下するか、いずれにせよ7キロ前後、車で15分程度かかる。たとえば境大橋付近の大型小売店やホームセンターなどで(コロナ禍前の)事件当時に黒っぽいマスク、催涙スプレー、刃物を購入したとすれば有力な判断材料といえるかもしれない。

 

三郷市と境町という生活圏とはいえない距離に住みながら、どのように小林家と接点を持ちうるかという点についていくつか検討してみたい。

小林さん一家が境町に引っ越してくる前に接点があった可能性。祖父が亡くなり小林さん一家が境町に越してきたのが事件のおよそ10年前の2009年頃。それまで光則さんは埼玉県のご実家でクリーニング店を営んでおり、引っ越し後に県内で転職した。だが09年当時、岡庭は14、15歳、小林さん一家は光則さんが30代後半、美和さんが40歳前後、長女が小学生、長男が幼児、次女は乳児で、クリーニング店という業種からも相当に近隣かなじみでなければやはり接点は見出しにくい。

釣り堀客としてへら鮒センターに通っていた可能性。釣り人であればホームとなる釣り場以外にも“遠征”に出掛けることは少なくない。たとえばそこで小林さんの家人とトラブルになった、あるいは娘たちに接触を図ったなどがあれば、小林さんが敷地にロープを張った理由としても妥当に思われる。

だが境町事件のエントリでも述べた通り、“ヘラ師”は年齢層が高く、20代の岡庭が何度か通えば受付や利用者に顔がさす。そうした証言を得ていたのかは不明だが、GPS記録などが「近くを車で移動した」程度のものではなく「度々釣り堀に訪れていた」「夕方の閉業後もずっと留まっていた」などを示すようなものであれば警察の疑惑を持つにも納得がいく。

長女との接点があった可能性。大学生の長女がバイトなどをしていたかは不明だが、車と電車を日常的に利用していたことから、行動範囲の広さや年代から見ると、一家の中では長女が最も接点を持つ可能性が高いようにも思える。

あえて接点がない家を狙った犯行の場合。快楽殺人であれば、捜査を攪乱させるために、あえて過去に接点のない相手を狙って凶行に及ぶといった可能性もゼロとは言い切れない。犯人は夫婦を襲った後、子ども部屋へ行き、長男と次女は殺害に及ばず立ち去っている。目的が小林さんご夫婦(あるいはいずれか)の殺害にあったとすると、電気を点けて「目出し」状態とはいえ顔を晒しておきながら子どもたちの殺害に及ばなかった点は境町事件で最も不可解ともとれる行動である。これについては、以前から長女または次女を暴行あるいは誘拐するつもりだった(がサイレンの音で断念した)とする説などがある。

 

 

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〔2021年2月追記〕

2月15日、茨城新聞で「警察手帳の記章偽造容疑で男逮捕 境署」の報。記事では、「警察手帳の記章に酷似した記章計3個」を偽造したとして、境署と県警捜査1課は15日に「埼玉県三郷市、無職、男(26)」を逮捕したと伝えられた。

 

翌16日、この逮捕を待ち構えていたかのように『週刊女性2021年3月2・9日号』でノンフィクションライター・水谷竹秀氏の記事が公開された。

 

www.jprime.jp

気になった点は以下。

・近隣住民は、人となりについて「本人を見たことがないからわからないんです」と口にする

・茨城の事件と何らかの関係があるかもしれないという情報は当初、警察庁から漏れたもの。逮捕時は埼玉県警が主導で茨城県警署員が1人同行していた

・小林光則さんは境町に引っ越した当初は埼玉県にある実家のクリーニング店に通っていた。場所が遠いため、茨城県内のゴミ処理施設へ転職

・「メディアが前のめりになって騒いだだけの印象」「一家とのつながりが全くない」(全国紙社会部記者)

・母親「びっくりしている」「(免許は)持っていません。息子は車を運転できないです」「(通り魔事件から)もう9年間、ほとんど外出していません」 

・容疑は警察手帳を偽造販売した疑い

 

さらに22日、同逮捕を受けて『デイリー新潮』でも記事が掲載された。

www.dailyshincho.jp

気になった点は以下。

・当初は殺人予備罪の容疑で家宅捜索されるとの情報があった(令状を取った段階では、爆弾を作るため薬物を大量購入しているとの情報を掴んでいた)

・20日間の満期拘留後、消防法違反で起訴。2か月の起訴後拘留ののち、茨城県警に移送されて「自宅にニセ警察手帳があった容疑」で再逮捕

・でっち上げた訳ではないので違法性のある「別件逮捕」には当たらない

・県警への移送は本格的に聴取を行う狙いがあるかもしれない

 

 

硫黄逮捕時に無職だったことや母親へのインタビューの様子からも、おそらくは昼の勤めに就くことなくほとんどを自宅で過ごしていたと考えられる。どれほど「酷似」していたのかは疑問だが、女性記事では「偽造販売」とされていることから自身で警察官になりすまして悪用しようとしていたのではなく、ゲームキャラクターなどのコスプレ用小道具として販売していたと筆者は考えている。犯罪は犯罪だが、警察手帳のレプリカ品はいくらでも流通しており、趣味を生かしてグッズ製作でもしていたような印象を抱いた。

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硫黄逮捕時から「爆弾」の話は聞かれたが、茨城県警はどういった経緯でこの情報を掴んだのか、そしてそもそも爆弾製造と境町の事件がどうつながったのか見当がつかない。

岡庭の母親が語るように周囲から煙たがられていたのであれば、「硫黄」を買い込む家人を近隣住民が偶然見掛けて、「大量の硫黄、ほかにも色々・・・もしや爆弾!?」といった発想につながり、地域内で話が膨らんで通報された可能性はないか(ないと思う)。あるいはネット注文でそれらしき大量購入履歴が発見されていたのか。

女性記事にあるよう、免許不所持とすれば行動範囲は限られる。三郷市鷹野から境町の現場まで自転車だと2時間近くの道のりである。雨降る深夜の農村落のはずれ、土地勘のない者ならば数百メートルと離れない間にスマホのナビに頼るであろう場所だがはたしてGPS記録はどこで反応していたのか。それとももっと容易に現場へのアクセスが可能な「別の人物」とつながりがあると見込んでいるのか。

 

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[2021年5月追記]

21年5月7日、茨城県警は防火条例違反、公記号偽造で逮捕・起訴されていた埼玉県三郷市の無職・岡庭由征(26)を、境町の住宅で夫婦二人を殺害した容疑で逮捕した。

7日16時に境警察署で行われた逮捕会見では、岡庭と被害家族に接点はなかったと説明された。聞き取りや現場鑑識などから岡庭容疑者が浮上し、11月の別事件(硫黄の不法所持による殺人予備)での家宅捜索で押収された約600点を調べた結果などから関与の疑いが強まったとされる。

 

文春オンラインの記事では、岡庭の家族について詳細な記事を扱っている。11月の硫黄逮捕時の「(逮捕は)大した容疑ではないし、殺人事件なんかやったわけではない。警察が騒ぎすぎだ」とする父親の言葉を載せている。

水谷竹秀氏による週刊女性プライムでの続報記事では、「由征には全然会っていないから何もわからない。仕事もやってんだかやってないんだかもわからない」とする同敷地内別宅に暮らす祖父の言葉を紹介し、家族関係の崩壊を炙り出している。

フリーライター高橋ユキ氏によるNEWSポストセブン記事では、岡庭の旧名について触れ、小学生の頃、いじめを受けてコンプレックスを抱くようになったこと、異性に対して攻撃衝動が強い性向があることに着目している。

 f:id:sumiretanpopoaoibara:20210509165137j:plain

これまで硫黄以外の押収物などは明らかになっていなかったが、7日産経新聞では「まるで実験室のようだった」とする容疑者の部屋を見たことがある捜査関係者の証言を取り上げ、硫黄の他にも猛毒のリシンを含有するトウゴマ、抽出に使う薬品を押収したと報じている。上の文春記事でも「硫黄の他に、複数の刃物やフラスコ、ビーカーなどの器具も確認されている」と記されており、どの程度まで製造できていたのかは不明だが実験していたことは事実らしい。

 

岡庭は自動車運転免許を所持しておらず、普段は自転車で外出していたことが明らかにされ、茨城県警は小林さん宅までの約30キロの移動手段に自転車が用いられたと見ている、と8日・産経新聞が報じた。自宅からはスポーツタイプのものを含む複数台の自転車が押収されていた(スポーツタイプ数台押収 現場まで自転車で移動か 茨城一家殺傷 - 産経ニュース)。

9日午前、身柄を水戸地検に移送された。