いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

茨城県境町一家殺傷事件について【ポツンと一軒家】

 茨城県境町一家殺傷事件について、風化阻止を目的として事件の概要説明およびその考察を行う。www.pref.ibaraki.jp

 

 

■事件の概要

 3連休の最終日2019年9月23日未明、茨城県境町は強い雨

深夜0時38分頃、110番に「何者かが侵入してきた」「助けて」「痛い痛い痛い痛い痛い」と女性が通報。ようやく自分の名前を答えられるような取り乱した状態で、救急車は必要ですかの問いに「いらない」と答えるも再度確認すると「やっぱりいる」と混乱があった(疑問①後述)。通話は1分ほどで途切れ、警察から掛けなおすが応答なし。物音はしたが他の人物の声は入らなかった。

 

およそ10分ほどで警察が現場に到着するも、2階寝室で会社員・小林光則さん(48)、パート従業員・小林美和さん(50)の夫婦2人が遺体となって発見された。通報は、発見時2階寝室に転がっていた子機から美和さん自らが掛けていたものとみられる。

当時小林さん宅には夫婦と3人のこどもがいた。2階別室で寝ていた中学1年・長男(13)は手足を刺され重傷、小学6年・次女(11)は催涙スプレーのようなものを手にかけられ両手に痺れなどの軽傷を負った。1階で寝ていた大学3年・長女(21)に怪我などはなかった。

 

■遺族の証言

長男と次女によれば、犯人は部屋の電気を点けてベッド(机の上にベッドがある一体型のもの)から降りるよう指示したという。「いきなり襲われた。怖かった」「(自分たちを)襲ったのは一人だったと思う」「暗くて顔はよく分からなかったが男性だと思う」「サイレンの音が聞こえると“ヤバイ”と言って(部屋から)出て行った」、また犯人の服装について「帽子とマスク姿、腰に黒いポーチ」と説明している。

長女は事件当初「物音やサイレンの音で気付いた」と報道。

「長女は事件のショックが大きく、しばらく事情を聴くこともできなかった。長女には女性の捜査員が付き『大変だったね』などと声を掛けるところから始めた。その様子を見る限り、彼女が事件に関わっているとは到底思えない」(関係者)(2019年10月3日東スポweb)

のち「2階でケンカのような言い争うような声が聞こえた」「恐くて部屋から出られなかった」との報道(10月3日東スポweb)があり、証言が変わったとの指摘もある(疑問②後述)。その後、長女が交際相手に助けを求める電話をしていたことが分かっている(10月24日朝日新聞)。

 

■住居、家族について

家の周囲は木立に囲まれており、外からでは家があるのかないのかもよく分からない。出入口は住宅の北側と東側の二か所。北側は釣り堀の駐車スペースと重なっており、当時は境界ロープが張られ、足元は雑草が生い茂った状態。東側を通常の出入り口としており、こちらには見知らぬ相手によく吠えるとされる飼い犬がいたもののこの晩は吠えなかった(※)。

地図を見れば、住居の周囲は林、その周りを畑と水路に囲まれており、一番近い隣家まで釣り堀池を隔てて約200mはある孤立した立地であることから「ポツンと一軒家」と形容するメディアもある。そんな農村地域の一角ではあるが、家の前の町営釣り堀はヘラブナ釣り師たちには知られた存在で、シーズンの週末ともなると県内外から100人近く集まる人気スポットだという。

(※事件当時、小林さん宅南手にある中古車販売業者で住み込みの従業員2人が起きており、犬の鳴き声はなかったがサイレンの音は聞いたと証言。)

 

この家は元々美和さんの実家で、かつて美和さんのご両親は自宅敷地内で鯉の釣堀、金魚養殖などを営んでいた(現在の町営釣り堀とは別)。美和さんの父親が亡くなり、母親の一人暮らしを案じて、10年ほど前に埼玉から一家で引っ越してきた(事件当時、母親は体調を崩しており入院中、と近隣住民の談)。

光則さんは引っ越しを機に実家のクリーニング店から会社勤めに転職。美和さんは郵便局にパート勤め。長男は父・光則さんがコーチを務める地元野球チームに所属し、試合では両親揃って応援する姿も見られた。長女は車と電車を乗り継いで県外の大学に通学しており、最近近所で恋人の男性が目撃されることもあった。長女の友人という女性は、「お父さんは雨の日、子どもの送り迎えをしていた。お母さんも真面目な人。家に遊びに行くこともあったが普通の家庭で、トラブルは考えられない」と話した。 

 

(上のmapでは見通しがきく状態で撮影されているが、9月の事件当時は木々や下草が鬱蒼と生い茂り、池の向こうからでは家屋があるとさえも分からない、よもや「通路」としては殆ど使えない状態となる。犯人が入念な下見を行っていたとすれば冬から春にかけて訪れていた可能性が高いと思われる。)

 

 ■警察の捜査

警察は100人体制で捜査本部を設置。当初は「土地勘があり、住居の構造を知っていた可能性もある」「夫婦を知る人物」による「怨恨目的の犯行」とみて捜査を開始。

・1階、2階とも無施錠の箇所があり、カギを破壊した形跡などはなかった。住居1階浴室脱衣所の窓に出入りした痕跡があることから警察は外部による犯行とし、1階の部屋に立ち寄った形跡がないことから素通りして2階へ直行したとみられる(疑問③後述)。

・寝室の遺体は光則さんがベッドにうつ伏せ、美和さんがベッドに右向きの状態。死因は失血死。背中に傷はなく、防御創があり、顔、首、上半身をめがけて十数か所の傷があった。損傷の大きかった光則さんは肺にまで達するほどの深い刺し傷、美和さんは首の切り傷が致命傷になったとみられる。

・金品を物色した形跡がない。

・雨天で周辺はぬかるんでいたが、屋内に土足痕はなし。

・北側の藪で血痕の付いた一組のベージュ色のスリッパが発見される。現場に駆け付けた警察は東側出入口からアプローチしており、犯人は北側を通って逃走したと思われる(疑問④後述)。

・凶器に使われた刃物、スプレーは発見されていない。

・長女の交際相手は重要参考人として呼び出しを受けるが早々に関与を否定されている。

・長女は恋人に助けを求める電話を掛けている(10月24日朝日)。

・夫婦の携帯電話の通信履歴、近隣住民や勤め先への聞き込みなどで、2人がトラブルを抱えていた様子や、だれかに恨みを買うといった話は全くなかった。近隣住民は光則さんは温厚、美和さんは子どもたちのために働くしっかりもので、夫婦仲も良好だったという。

・屋内外に家族・警察・救急関係者のものではない足跡が複数発見されたが、犯人との関連性は不明。事件当日の大雨でタイヤ痕などの捜索は難航したとの報道。

・事件から約1か月で延べ1500人の捜査員を導入。170件以上の情報が寄せられた。

・事件から約2か月で捜査範囲を隣の坂東市に拡大。

・事件から約6か月で延べ5300人の捜査員を投入。約230件の情報が寄せられた。

・小林さん宅のすぐ南側にある中古車業者の防犯カメラに手掛かりになるものは写っていなかった(警察・救急車両のみ)。

付近の防犯カメラ(※)の解析を終えているが容疑者特定には至っていない。(※境町9か所、隣接する坂東市7か所、現場から2.5㎞離れたコンビニエンスストアなど。コンビニのある国道354号は数十秒に1台ほどの交通量だったとされる)(また2020年9月現在、北面のポンプ小屋や釣り堀受付所裏手にも防犯カメラが設置されているが、事件当時それらの防犯カメラ情報は出なかったため事件後新たに取り付けられたものと考えられる。)

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画像の人物は、別の強盗事件の犯人

・上の防犯カメラ画像の人物は、一部でこの事件の犯人などとされているが、本件発生より前に別件で逮捕されている。

 

 これより疑問、他の事件との類似性などを検討しつつ、すでにある諸説を参考にしながら想定される犯人像などについて考えていきたい。

 

疑問①「やっぱりいる」…侵入者が間近に居り、警察に今すぐ来て助けてほしいあまりに動揺して出た発言と思われる。また「何者かが侵入してきた」趣旨の通報をしているという報道から、「侵入者をほとんど見ていない」あるいは「(すぐには思いつかない)見知らぬの相手」であったと考えるのが妥当。文字にされると不可解に見えるが、身内や知人をかばっている等の発想は不自然である(知人等であれば通報する前に話し合う)。

寝室・寝具の様子、声のトーンなど詳細は分かりかねるが、犯人が夫を切りつけている最中に、真横のベッドから電話を掛けていたとは考えにくい。おそらく犯人が夫を襲撃している間に、部屋の奥隅か、あるいはクローゼットや押し入れ、ベッドの下のような場所に籠って電話を掛けたと推測する(夫の状態が視界にないため通報時に救急車という発想に結び付けづらかったのかもしれない)。「痛い痛い」と発したことも切りつけられた痛みというより、犯人に無理矢理引きずり出されてベッドに押し付けられる際に発したものと推察され、通報を切ったのは犯人によるものと思われる。

(追記;あるいは、犯人が夫を殺害後、妻には手出しせずに一度寝室を出た。すると妻の通報の声が聞こえて、寝室に電話があったことを知った犯人は慌てて戻ってきて、妻を歯牙にかけた。「いたいいたい…」という流れも考えられる。)

 

疑問②長女の証言について…文言だけを読むと趣旨が変わったような印象を受けるが、長女は極度の心神喪失状態であったことを考慮に入れておかなくてはならない。また①②に関連して『週刊実話』2019年10月17日号に気になる記事がある。

それにしても、同事件は謎ばかりで情報も錯綜している。

「通報があった時、警察官が『救急車を呼びますか』と聞くと、美和さんとみられる相手は『いらないです』と報じられているが、『そんなことは言っていない』という話もある。また、“マスクをつけた人物に襲われたと長男と次女が話している”と早い段階で出たが、事件が事件だけに県警も慎重に捜査しており、“被害者とは面会しただけ。まだ事情聴取していない”と、当初は否定する情報も取材現場で飛び交った。

これは事件に当たった社会部記者による証言とされるが、地元境署の事件直後の混乱を象徴した記述である。

警察は、公にすべき情報と、犯人しか知りえないような秘匿すべき情報とを精査してからマスコミ各社に発表するが、事件直後の段階では整理がつけられなかったのである。たとえば事件直後はまだ長女と外部犯(交際相手など)の線などが潰しきれておらず、情報統制が難しかったのではないか。

そうしたことを加味すると、長女の発言は趣旨が変わったというよりも、上の10月3日東スポ記事のように警察から長女への調査対応が変わったことが考えられる。「事件に気づいたのはいつ?」「2階から人の声、物音を聞こえなかったか?」など質問の仕方によって返答が変わっただけのようにも思える。

「言い争うような声」については、おそらく父親が抵抗したり、通報時の母親の悲鳴が含まれていると思われるが、2階にいた弟妹が目覚めず1階で目が覚めるような声量だったのか、あるいは事件当時、長女は(たとえば交際相手とのメールなど夜更かしをして)熟睡しきっていなかったため物音や声が聞こえていたのか、など疑問が残る。

 

疑問③犯行について…犯行の流れを想定してみたい。犯人ははじめに2階にある夫婦の寝室へ向かう。寝た状態の父親に対して、肺まで突き刺さる一撃を加え、さらに執拗に攻撃を続ける。横で目を覚ました母親は慌てて受話器を持って、2人から距離を取り110番通報をする。電話は祖母が入院中だったため緊急連絡用に枕元にあったと推測される。犯人は父親が事切れたことを確認し、次に母親をベッド上まで引っ張り出して電話を切る。金銭など殺害以外の目的があればこのとき何か会話が交わされていたかもしれない。犯人はベッド上で母親を殺害。子ども部屋へ移動し、電気を点け、ベッドにいる2人を確認。引きずり下ろすようにしたのか口頭で命令したのかは定かではないが2人をベッドから降ろし、威嚇のため刃物とスプレーで危害を加える。サイレンの音を聞いて「ヤバイ」と呟き部屋を後にする。

家族の就寝時間は不明だが、どの部屋に誰が寝ているかまで分からなくても外から見て室内灯の消える様子などで「2階に寝室があること」は視認できる(おそらく犯人は消灯を確認してから寝入るまで1時間程度は待機したのではないか)。あるいは深夜に何度か通い、何時ごろどの部屋で寝ているといった就寝習慣を把握していたかもしれない。いずれにせよ犯人は家に人がいない時間帯ではなく、人が確実にいる時間帯を狙っており、「居空き」「忍び込み」などの窃盗目的とはやや考えづらい(※自動車窃盗については後述)。

 

長女だけが無傷だった、犯人が接触すらせず2階に上がったのはなぜか。もし長女が目的であれば、まず1階にいた長女を拘束してから他の家族に接触しなければ、通報や逃亡のおそれがある。また合理的に考えれば一人でいるところを狙う方が苦労しない(交際相手がおり、外出は車移動となるため狙う機会は限られるかもしれないが)。

たとえば「長女が両親への不満を口外していたのを聞きつけて代理で殺害するようなストーカー」でもいれば長女にだけは危害を加えずに…ということもあるかもしれないが、相当に倒錯した偏執者であり、こうした事件になる前に多くの兆しや余罪があって然るべきである(ストーカー説は後述)。

筆者の考えでは、犯人が外から小林さん宅を下見した際、1階で寝る習慣のある人物(長女)の存在に気付いていなかったのではないかとも思えるのだ。たとえば大学生と聞くと夜更かししてもおかしくないイメージだが、長女は車と電車を乗り継いでの遠距離通学だったため消灯・就寝時間が親弟妹と同じタイミングだったかもしれない。また長女の寝室が遮光カーテンや死角に当たっていたなどして、犯人の目に入らず、親と子が2階の二部屋に別れて就寝しているかのようにイメージされた可能性もある。報道では家の内部を熟知した者による犯行かのように伝えられているが、犯人は必ずしも小林さんの家族構成・3か所の寝室を熟知していなかったことも考えられるのではないか。

 

また夫婦を殺害した後、なぜ子ども部屋に入ったのか。夫婦殺害が主目的であれば立ち寄る必要性はあまり感じられない。ここで注目したいのは長男・次女に対して与えた危害に関してだ。犯人は、2人をベッドから降りるよう指示し、長男には手足を切りつけ、次女には手に向けてスプレーを吹きかけている(ベッド上の妹の手にスプレーを噴射して降りるように指示したとする解説もある)。これについて犯人は子どもたちに対して危害を加えてはいるが、殺意は見られないとみなすことができる。単に逃走の邪魔をされないために危害を加えるのであれば、ベッド上で顔に向けてスプレーを吹きかけてしまえば20秒で済む話で、ここでの犯人の目的は単なる足止めではない。また「予備の凶器」を準備するのであればスプレーよりもサバイバルナイフ等刃物の方が携行にかさばらずに済む。犯人の行動は子どもに対しては初めから殺意がなく、あえて自分の存在を見せしめたかったかのような印象を受けるのだ。スプレーは負傷などに備えた「予備の凶器」ではなく、子ども相手にビビらせる用途(せいぜい目くらまし用途)としてわざわざ準備したものだったのではないかと感じている。

 

疑問④逃走について…北側出入口でスリッパが発見されたことは非常に疑問ではある(後述)が、ぬかるみや生い茂った草、境界ロープに引っ掛かるなどして脱げたものか、運転のためにスリッパが邪魔になって捨て置いたとも考えられる。警察犬で念入りに確認しながらも追跡には繋がらなかったことからも、犯人は小林さん宅北側にバイクないし自動車を停めていたと思われる(豪雨の深夜に、自転車や徒歩でいる方が目立つ)。

距離までは推測できないが、強雨のなか部屋でサイレンが聞こえる時点ですでに救急車両は数百m圏内にまで迫っていたとも思われ、犯人はほとんど警官の到着と入れ違うようにして現場を去ったのであろう。敷地内に潜み、警官の挙動を見計らってから現場を離れた可能性もある(目と鼻の先に警官がいたためスリッパを回収する余裕がなかったとも考えられる)。だとすればパトカーは東側出入り口を通って、小林さん宅の南手に駐車してあることから、犯人は心理的に追跡を恐れて北西へ向かうものと推測される。

ごく近場の人間であれば別だが、おそらく計画殺人であることから警察の捜査の遅れを狙ってまず茨城県から離れることが考えられる。境町はその名の通り茨城・千葉・埼玉の県境に位置し、日本三大河川のひとつ「利根川」によって隔てられているため、規制線が敷かれる前に川を越えれば初動捜査の網をかいくぐることを期待できる。語弊があるかもしれないが茨城県西エリアは北関東連続幼女誘拐殺人事件、今市小1女児殺害事件のような“越境犯罪”に適した地理的条件に適っている。あるいは隣県から越境して犯行に及ぶために、この家に狙いをつけた可能性すらある。

周到な計画であれば、自動車ナンバー読み取りシステム(Nシステム)や防犯カメラのことを考慮に入れて幹線道路や高速道路を避けたい心理が働いたかもしれない(最寄りの高速道路インターチェンジとなる境古河ICは境警察署の目の前でもある)。だが一刻も早く県境を超えることを考えて動いたとすれば現場から10分強の「境大橋」から埼玉県幸手方面へ逃走するのではないか。境大橋近辺は古くは交通の要所に当たり、現在も深夜営業を行う大型小売店(ドン・キ〇ーテ)や温浴施設、道の駅などが集中しており、夜でも交通量は多い。なお一部サイト等によれば境大橋を通過する際にNシステムが存在するという。

 

ヘラ師トラブル説

 ヘラブナ釣り愛好家を俗にヘラ師と呼ぶが、北出入口に境界ロープを張っていたことから、過去にヘラ師とのトラブルが生じていたのではないかとする見方がある。シーズンには日の出から日の入りまで長時間営業で不特定多数の人間が出入りするため、不法投棄や騒音被害などあったかもしれない。引っ越してきてから10年も経って今更ロープを張るのだから何か近々にきっかけがあったと考えるのは自然だ。

地元のヘラ師にでも聞けば小林さん宅の家族構成くらいはすぐに分かるかもしれない。釣り堀の客層までは分からないが基本的にヘラブナ釣りは高齢者が大多数を占める趣味で、三十代四十代でも若くて印象に残る。ベテランのヘラ師は“連れ”とまではいかずとも共通の釣り場や釣具店へ通ううちに“顔なじみ”ができる。トラブルメイカーのような人物であれば余計に多くの人が記憶しているであろう。釣り掘再開から客への聞き込みも度々行われる中、「そういえばあの若いヘラ師来なくなったなぁ」「あの人、一時期よく来てたけど見なくなった」などと、事件を境に姿を現さなくなった人物が後々浮上してきてもおかしくない。

 

自動車盗難と外国人説

 2019年7月16日午前3時頃、蕨市内の自宅2階にいた高校2年生男子が窓から入ってきた男に首を切られる事件があった。侵入者は一階に駆け下り玄関から逃走。男子生徒と部屋に駆け付けた父親は「面識のない男」と証言。11月15日、技能実習生として2017年に来日し翌年在留期限が切れたにもかかわらず偽造在留カードを使用したとして逮捕されていた住所不定無職・柳偉強容疑者(22)を男子高生切りつけの強盗殺人未遂容疑で再逮捕した。調べに対して柳容疑者は「高そうな車がとまっていたので狙った」「車を奪って売るつもりだった」「殺すつもりはなかった」と一部容疑については否認。捜査関係者によると、事件当初、男子高生は男に「車のカギの場所」を聞かれたと証言している。柳容疑者は、近隣の防犯カメラの映像などから浮上した。

 疑問③でも述べたように大人が確実にいる時間帯を狙った関連性から自動車盗難の線を考えてみる。2019年の都道府県別の「住宅侵入」盗犯罪遭遇率(どれくらいの割合で住宅侵入盗犯罪に遭っているか)を確認すると、ワースト1が茨城県で639軒に1軒が被害に遭っている(ワースト2位福島県1/1073軒、ワースト3位千葉県1/1087であるから群を抜いて被害が多いといえる。北から福島、茨城、千葉と隣接する県である)。これらの県では古くから続く農村地域が多く、そうした家々は敷地が比較的広く隣家と離れており、施錠意識が低い傾向がある。また家族構成によっては自家用車を複数台所有していることが多い。マスコミ報道では「4年くらい前にトラクターなど農業用機械の盗難が多発した」「大きな犯罪は少ないが泥棒は多い」といった近隣の窃盗被害に関連付けた報道もある。

しかし茨城県警察2019年市町村別【乗り物盗】【住居侵入窃盗】件数を確認すると、自動車盗難はつくば市土浦市牛久市といった「県南地域」の被害数が際立っており、住居侵入窃盗についても境町は特段被害が多い地域とはいいにくい。また上で挙げた蕨市の場合、隣接する川口市に中国人などのエスニックコミュニティが非常に発達しており、在留カードの偽造や盗難車転売などに「犯罪グループ」が背後に関わっていたと考えられるが、茨城県西、千葉県野田市、埼玉県幸手市など近隣地域では(各市町村に数百から3000人程度の在留外国人は存在しているが)埼玉県南地域ほど大規模なエスニックコミュニティはなく、茨城県南部のような目立った自動車盗難の頻発は確認できない。

また他の方の仮説で、子ども部屋でサイレンの音を聞いて言い残した「ヤバイ」が、はたして「ヤバイ」だったのか、「やべぇ」だったのか、「やっべ!」だったのか、報道では分からないがその細かなニュアンスで日本人か外国人かの印象は大きく変わると述べられており、印象的だったので紹介させていただく。

 

農業技能研修生(農業実習生)説

 同じ2019年の8月24日、茨城県八千代町平塚で刃物で腹部胸部を複数箇所刺すなどして大里功さん(76)を殺害、妻・裕子さん(73)に重傷を負わせる事件があった。県警は9月2日、現場から2㎞ほどの場所に住むベトナム人農業技能研修生グエン・ディン・ハイ(21)を逮捕(刃物購入は認めたが犯行は否認。大里さん夫婦との接点や動機も不明)。逮捕の決め手とされたのは現場に残された「足紋」であり、そのことは逮捕後の9月5日頃には報道されている。

この事件では「足紋」が有力証拠とされ、先に挙げた蕨市切りつけ事件(同年7月)も事件直後、侵入の際にフェンスやベランダに遺した「靴跡」が押収されたことは報道されている。境町事件の犯人は「雨天時」を狙ったであろう計画性や「侵入の際スリッパを用いていた」ことからも、近々に起こった蕨市、八千代町の事件報道を参考に「足跡」「足紋」にかなり注意を払っていたと思われてならない。

境町と八千代町の現場は13㎞程度の距離に位置し、車で30分程とそう遠くはない距離である。時期や地理的に近しいこと、また来日外国人による犯罪のワーストが近年ベトナム人となったこと等から“農業実習生”説が注目される。また共に「刃物を使った残忍性の高い殺傷事件」であること、茨城県はアジア圏からの農業の技能研修生受け入れが多いこと等もそうした説を補強している(参考:『農業の外国人依存度、1位は茨城県 20代は半数』2018年8月9日日本経済新聞)。茨城労働局によると、県内の農林業に従事する実習生は2019年10月末時点で6378人に上る。そもそもが貧困層をターゲットにした出稼ぎ労働の斡旋であり、現地送り出しブローカーの悪質さや国内の監理団体による不正、雇用先での搾取などが露見し、制度自体が問題視されるようになって久しい。また妊娠すると帰国させられることから堕胎遺棄する事件技能実習生同士のトラブルによる殺人事件など凶悪な事件も近年増加している印象はある。しかしながら、いわば“金目当て”で来日している技能実習生による犯行ならば、1階を物色せず真っ先に2階寝室に向かうだろうか。

もしかすると周囲の畑などで接点があり、帰国前に凶行に及んだ等とも考えられなくはないが、小林さん夫婦は会社勤め、郵便局パート勤めでそもそも農業研修生や外国人コミュニティとの接触の機会がほとんどなさそうな点や、近隣住民の聞き込みには周囲の畑の持主にも及んだと考えられるがそうした線が浮上していない点からも、技能研修生による犯行もゼロとは言わないがやはり薄い。

 

ストーカー説

 2019年9月26日放送のフジテレビ系番組『バイキング』の近隣住民への取材によれば、小林さん宅入口には以前より防犯灯があったがその先にもつけたいと要望があり検討してつけることになったこと、2019年になって美和さんが北側駐車スペース沿いに(上述の)境界ロープを設置していたことを紹介。元警視庁刑事で防犯コンサルタントの吉川祐二氏のコメントによれば、自分の知らぬ間に相手の恨みを買うこともあるとし、美和さんや長女へのストーカーが存在した可能性に言及。番組では美和さんの自衛ともとれる行動はその存在に気付いていたからではないかとの見方を示した。

しかし実際に女性が男性からストーカー被害に遭ったとすれば、今日ではすぐに警察や身内に相談するであろうし、(単身世帯で頼れる人間がいないのであればまだしも)周囲のだれにも明かさず自力で解決しようという発想には至らないだろう。防犯灯やロープの設置も発案や手続きしたのは美和さんかもしれないが、もちろん光則さんに相談の上と考えられる。さらに美和さんにストーカーへの恐怖があったとすれば、とくに娘たちを守るためにも警察への通報や子どもへの注意喚起などあってしかるべきと考える。またストーカー対策が必要と考えたとすれば、容易に侵入できてしまう境界ロープよりも防犯カメラを検討するだろう。「森の中」ともいえる住宅環境から、夜に帰ってくると周囲が暗くて不便に感じていたり、過去に釣り客が管理事務所と誤って北側通路から訪ねてくることがあったりといった「防犯」以外の設置理由も考えられる。防犯灯や境界ロープの設置は、ストーカー対策というよりは、小林さんたちの住環境整備の意識によるものかと推察する。

また仮にストーカー目線で考えてみても、元々は夫婦のどちらか一方を狙っていたとすれば自宅に押し入るよりは、待ち伏せなどして単独でいるところを狙う方がリスクは小さい。はじめから夫婦両方の殺害を目論んでいたとすると、自分の愛情を踏みにじられたと感じて夫婦への憎しみへと転じる前に、一方的な愛情を募らせる(相手にアプローチする)接触段階がそれなりの期間あったと考えられる。だとすると、やはり既述のように警察や周囲の人間に何かしら相談する可能性は高まる。

犯行についても、居住地を知っているのであるから相手の反応を見るために手紙を送りつけたり、嫌がらせをするにしても脅迫状、不法投棄、窓ガラスを割る、車をパンクさせる、不審火といった細かいアクションを重ねてから発展していくのが通例ではないだろうか。一方的に敵意を募らせた偏執的精神障碍者による逆恨み的犯行の可能性ならゼロとはいえないものの、一方的に好意を募らせ過剰行動に出る“一般的なストーカー”の線はないように思う。

 

不倫相手説 

 この仮説を裏付ける証拠は何も明らかにされておらず、故人の名誉を傷つける意図はないが、夫婦に恨みをもつ人物、当人同士しか知らない(家族や周囲の人間に明かしたくない)人間関係、といった状況から妄想しうる犯人像のひとつとして紹介する。

夫婦のいずれかに不倫相手がおり、恨みを買ったとする仮説。当人たち以外に家族や周囲の人間は誰も認識しておらず、過去に出入りがあったため夫婦の寝室を知っており、子どもに罪はないとして殺さなかった。不倫相手本人による犯行か、あるいは実行犯に依頼したとするもの。

「夫婦仲は良さそうだった」とする近隣住民の証言を除けば、そういった人物が存在したと仮定すると事件へ発展してもおかしくないようにも思える。“田舎の人目”を思えば「過去に(小林さん宅に)出入りがあった」とまでは納得しづらいものの、既述のように下見に訪れていれば寝室が2階であることは分かる。しかし不倫関係があれば、定期的に直接コンタクトをとれる相手(仕事関係など)でなければ、基本的には携帯電話でやりとりをすることになる。職場への聞き取りや通信履歴を確認しても浮かんでこないとなると可能性はやはり相当薄い。

 (不倫相手が携帯電話を持たせていれば両親の携帯電話にも通信履歴が残らない、という意見も目にしたが、それもやや考えにくい。殺害後に携帯電話を回収したとすれば血痕など何かしらの形跡が残りそうなこと。また通信各社の回線情報・通信時間などによって契約端末も抽出可能と考えられる)

(本件とは無関係だが、2013年、境町塚崎で就寝中の夫が妻の浮気相手の男性に殺害される事件もあったため想起されやすい。)

 

元夫説

 2019年10月某サイトに書かれたカキコミ。

奥さん、再婚なんだってね。
長女は奥さんの連れ子で下2人が夫婦の子。

 2020年8月某サイトに書かれたカキコミ。

この家に長年牛乳配達をしているおばちゃんの話では、犯人は元夫だと言ってました。長女は自分の子だから無傷なのは当然だし姿も長女には見られてない。再婚したときも相当揉めたらしいと。そして元夫は家から出されてしまったらしい。この辺りは夜真っ暗で余程の家の構造を熟知してない限りピンポイントで夫婦の寝室にたどり着くのは無理と言ってました。犬も普通知らない人にはものすごく吠えると。ちなみに犬も大変可愛がってたと。現在まったく捜査ところか放置状態になってると言ってました。

 常識的に考えて牛乳配達員に家庭内の事情まで知る由はない(分かるのは家族構成程度)。「牛乳配達員」を騙ったデマであろう。仮に地元でこうした噂が存在するとすれば、長女と長男の年齢が少し離れており、長女だけが無傷だったことから立った妄想的中傷・陰口の一種と思われる。あるいは犯人がどこのだれだか分からない(自分もいつ危害に遭うかもしれない)状態よりも「自分とは無関係な人物」と想定することで安心感を得るような一種の防衛本能が生み出した噂とも捉えられる。元夫の存在を確認することはできないが、もしも嫉妬や恨みを抱くような元夫が存在するとすれば逃走する意味もなく早々に最重要参考人に上がっているはずだ。

 

 最後に、筆者としては「誰でもいいから殺してみたかった」類の妄執につかれた20~30歳前後の日本人男性を犯人像と見立てている。はなから子どもを殺害する気がないように見える点とあえて姿をさらしている点、通報されてからサイレンが聞こえるまで少しタイムラグが生じている点が引っ掛かるのだ。

子ども部屋では「ヤバイ」以外は無言だったことからしても子ども部屋での滞在時間は2~3分ほどの短時間と思われ、そう考えると母親に刃を向けて(通報を切って)から7~8分ほど過ごしていたことになる。刃物で十数回も切りつける犯行も、刃物の質にもよろうが随分悠長に感じなくもない。上野正彦『死体は語る』で書かれていたように、非力なためとどめを刺すことが容易ではなく事切れた後も切りつけていたのだろうか。だが見方を変えると、人を切りつける感覚を味わっていた(いたぶっていた)ようにも見受けられる。殺害直後の放心もあったかもしれないが、母親が失血死に至る様子を眺めるなどしばし感傷に浸っていたのではないか。あるいは、八千代の事件の犯行を真似て捜査の目を逸らすカモフラージュのためにそうしたのでは…と考えるのは穿ちすぎであろうか。

またサイレンが聞こえて「ヤバイ」発言は、普通に考えれば「もう警察が来た。捕まったらヤバイ。逃げなきゃ」の意味と捉えられる(外国人説含め語彙力の問題と言われればそれまでだが)。何が何でも復讐してやるといった夫婦への怨恨が主目的であれば、目的を遂げた後になって今更「ヤバイ」という発想には至らないようにも思える。言い換えれば大人(2人)を殺害し逃亡まで完遂することまでを目的に計画していた印象を受ける発言なのだ。いずれにしても前述のような近々の事件や犯罪、小林さん宅の立地について多少の知識はあるが、強盗殺人の経験はない者による犯行と考える。

 

 事件からすでに時間が経過し、情報の更新も停滞しており捜査の行き詰まりを思わせる。亡くなられたおふたりのご冥福をお祈りするとともに、ご遺族のみなさんの心の安寧のために一刻も早い事件解決を願います。

 

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(2020年9月20日追記)

9月19日茨城新聞クロスアイに「犯行当時の外見」と「スリッパ」について追加情報があったので引用する。

中肉の黒っぽい長袖と長ズボン姿で、黒っぽいマスクのようなものと帽子を着け、目だけ見える状態だった

県警は住宅の母屋につながる北側の小道で、血痕が付いたスリッパが見つかっていたことも明らかにした。家族の証言から、小林さん宅のものと確認された。捜査関係者によると、血痕は被害者のものである可能性が高く、犯人は小道を通って逃げたとみられる。 

 事件当時はコロナ禍以前ということもあり、現在ほど黒っぽいマスク(白ではないマスク)は広く流通していなかったため、犯人は「闇に紛れての犯行」を余程意識していたことが窺える。筆者は上述「疑問4」の項について、スリッパは犯人が事前に持参していたものと想定して執筆しており、「小林さん宅のもの」であったことは想定外であったため若干の加筆をしてみたい。

 

北側駐車スペースに車を停めていたという考えは依然として変わりない。犯人は林を抜けて侵入し、泥の付着などがあったため靴を浴室の外に置いていったか、あるいは浴室で靴を脱いでおいた。通常のスニーカータイプであればウェストポーチ・ヒップバッグの類では入れる容量がないため、屋内で携行はしなかった。あるいは携行していたと考えると、地下足袋やいわゆる「アクアソック」タイプの履物、薄手のサンダルなども考えられる。

スリッパの血痕の存在については発見当初(事件直後の2019年9月24日)から報道されていたが、一晩雨ざらしの状態だったこともあり正確な検証が難しいのかもしれない。しかし発見してただちに血痕と判明するほどの状態から推察するに、ポツリポツリとした少量のシミではなく、現場寝室で凶行の際に直接付着したものではないかと思われる。夫妻が就寝前に履いていたスリッパを寝室で調達した可能性もゼロとはいえないが、そうであれば屋内各所に足痕を残すことになる。侵入時に「足音」や濡れた「足跡」、滑りやすいこと等を嫌って1階(玄関や廊下など)で調達し2階へ上がったと考える方が自然であろう。

またなぜ投棄していったかについては、上述の脱げてしまって放置した可能性に加え、万が一検問などで止められた際に「小林さん宅のもの」を所持していては言い逃れできないという心理も働いて乗車前に靴に履き替えたのかもしれない(そもそも車中に泥にまみれたスリッパがあるだけでおかしい)。そう考えるとスプレー缶は処分に困るものの、犯行に使った刃物は逃走時に釣り堀池、あるいは越境の前後に利根川などで投棄している可能性もあるだろう。

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(追記)

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(2020年9月19日、23日追記)

事件発生から1年を機に、「境町大字若林地内における殺人・殺人未遂事件捜査に協力する会」によって「令和2年9月23日から令和5年9月22日まで」の3年間に事件解決等に結び付く情報を提供した者に最高限度額100万円の私的懸賞金を支払うことが発表された。この「事件捜査に協力する会」は地元の防犯協会や町民、警察OBらで構成する有志の会である。

家族を襲ったのは中肉の男で、黒っぽい帽子とマスク、それに黒っぽい長袖と長ズボンを身につけ、日本語を話していた。

亡くなった小林光則さんの父親はFNNの取材に対し、「ほとんど、なんだかわからない状態。区切りがついたような、つかないような出来事ですから...」と複雑な胸中を語っている。更にその後の取材で、現場周辺で作業着姿の不審な人物が目撃されていて、警察が聞き込み捜査を行っていたことがわかった。(2020年9月18日FNNプライムオンライン)

 

2020年9月23日,茨城新聞クロスアイでは、長男の元同級生が今も連絡を取り合っている様子や、近隣住民の犯人への怒り、コロナ禍で地域の結びつきが減ってしまい事件の風化を危惧する声などを紹介している。町が推進する家庭用防犯カメラ補助制度は、昨年度40件、今年度32件の申請があったとしている。

町が設置した防犯カメラは昨年度までに79台、本年度までの累計では129台に達している。

 

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(2021年1月6日追記)

現時点で関与は認められていないものの、本事件との関連が疑わしいとされる逮捕劇が2020年11月にあった。容疑者が過去に起こした事件、また本事件との関連について下のエントリを参照されたい。

sumiretanpopoaoibara.hatenablog.com

 

(2021年5月9日追記)

5月7日午後、昨年から県警が身柄を押さえていた岡庭由征(26)を夫婦殺害の容疑で逮捕した。詳細は上のリンク・埼玉・千葉連続通り魔事件についてをご参照されたい。

本稿は事実と異なる記載、筆者の見当違いも大いに含まれるが、ニュースサイト、アフィリエイトサイトではない個人のブログなので、事件の流れや筆者の考えの過程を残す意味でこのまま保存する。

今後、裁判などの進捗は機会があれば別記事としたい。