いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

座間男女9人殺害事件について

事件発覚から約3年、現在公判中の通称・座間男女9人連続殺害事件について、風化阻止の目的で事件の概要と個人の感想を記しておきたい。 

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2020年9月30日、東京地裁立川支部において白石隆浩被告の公判が開始され、同被告は「起訴状の通り、間違いありません」と起訴事実を認めた。弁護人は、被告と被害者との間に事前に殺害の承諾があった(承諾殺人)とし、被告は当時心神耗弱状態にあり責任能力がなかったか、著しく低かった、と主張。しかし白石は弁護人およびその主張を不服とし、弁護側からの被告人質問への回答を拒否、検察側からの質問にのみ答えるという異例の公判となっている。判決は12月15日、計24回の公判が予定されている。

被害者は、当時15歳から26歳の男性1名女性8名。逮捕の9日後には、被害者遺族により実名と顔写真の使用をしないよう要請がなされたものの、多くのマスコミはこれを無視して被害者9人を実名・写真入りで取り上げた。公判では個人特定を避ける配慮として9人を被害順にA~Iと符合して行われており、本文ではそれに倣って被害者A~Iと記す。

 

■事件概要

2017年8月上旬から10月にかけて、白石はTwitter,CacaoTalkなどのSNS(会員制交流サイト)を通じて複数人と交流。男女9人をそれぞれ呼び出し、自宅アパートで首を絞めるなどして失神させた上、うち女性8人に対して強制性交を行い、9人の首を吊るなどして窒息死させ、遺体を細かく解体し、一部を自宅付近のゴミ捨て場やコンビニのゴミ箱などへ遺棄したものとされている。また一人目の被害者Aからアパート契約のために預かった51万円と所持していた現金約6万円、BからIについても所持金数百円から数万円をそれぞれ奪っている。起訴内容は、女性8人に対する強盗・強制性交等殺人、死体損壊・死体遺棄。男性1人について強盗殺人及び死体損壊・死体遺棄

被害者たちはいずれもSNS上で自殺願望を語っており、白石はそうした心理に付け込み「一緒に死のう」「自殺を手伝う」等と心中や自殺幇助を持ちかけるメッセージを送るなどして接触を図っていた。

A(21)…8月下旬に行方不明。中学でいじめに遭いその後家出や自殺未遂を繰り返す。「失踪します。必ず戻ってきます」と書き置き。駅で携帯電話発見。

B(15)…8月28日に行方不明。学校生活で悩み。8月28日は始業式だったが欠席。駅で携帯電話発見、防犯カメラに姿が確認された。

C(20)…8月15日、Aの紹介で共に白石と会う。高機能自閉症があり、介護の仕事・恋愛・バンド活動など対人関係で悩み。8月29日、ライブに行くと言って行方不明。唯一の男性被害者。

D(19)…9月15日夕方、バイトに行くと言って行方不明。

E(26)…8月に2度目の離婚。9月24日夕方から音信不通となり行方不明。

F(17)…過去にもSNSで知り合った人物を頼って家出。9月18日「首吊りか練炭希望」とツイート。

G(17)…9月30日昼前、「昼食を買ってくる」と出掛けたまま行方不明に。

H(25)…10月18日夕方、コンビニのアルバイト勤務後、行方不明。長らく引きこもり状態だったが半年前からバイトを始めていた。

I(23)…10月21日作業所を出てから行方不明。軽度の知的障害があり、9月から八王子のグループホームに入居。相武台前駅の防犯カメラに白石とIらしき姿が確認された。

白石はAから預かった金を返済したくないと考え、殺害しようと思ったと語っており、その際に性欲が溜まっていたこともあり昏睡させてレイプしたところ、思いのほか快感を覚えたという。以後の女性たちについては金銭目的ではなくはじめから強姦目的だったと証言している。唯一の男性被害者Cは、8月にAの紹介で白石と3人で会っており、その際には希死念慮が薄れたとしてその日は酒を酌み交わして別れている。白石によれば、このときCはAに対して好意があったように見えたという。A殺害後、Cは白石にAの所在(安否)を確認したとされ、白石はCを生かしたままでは(A殺害の)事件発覚につながると考え「口封じ」のために殺害したとしている。

 

 ■事件の発覚

9人目の被害者Iは通信用に同じID、パスワードを使いまわしており、それを知っていたIの兄がTwitterに接続したところ、白石のアカウントが浮上した。10月24日に捜索願を提出。Iの兄がTwitterで情報提供を呼び掛けたところ、過去に「会って食事をしたことがある」という女性が現れる。警察は容疑者の身元を割り出すため、彼女に10月31日JR町田駅への「おびき出し作戦」を依頼。白石の到着を見計らって女性が「ドタキャン」するかたちで、捜査員が帰宅する白石を尾行し、逮捕につながった(※)。

(※日テレNEWS24によれば、捜査に協力した女性は事件発覚の6日前、自殺志願の書き込みをして白石との接触を持ったが、彼女におごらせて元気にカレーを食べる姿を見て違和感を覚え、自宅への誘いを断ったという。当時、捕まってほしいという思いから捜査に協力し、おびき出し作戦の成功にも喜んでいたが、本事件から程なくして自殺している)

 

■犯行について

白石は過去の逮捕で得た知見により「位置情報」から身元が判明することをおそれ、当初は自殺志願者たちに「失踪」を偽装させるためスマートフォンを海に捨てるように指示していた。また被害者との待ち合わせの際には、周囲に「家出」と気取られぬよう「手ぶら」で来るようにといった細かな指示もあった。とくにAには警察への捜索届が受理されないように予め「失踪宣告」まで書かせている。www.youtube.com

対象をアパート自室に連れ込むと、精神安定剤睡眠導入剤を混入したアルコール類などを被害者に飲ませて意識を混濁させ、首を絞めて気絶させた上で女性には強制性交等に及び、最終的にロープ等で絞殺する手順だった。当初は“自殺”に見せかけて遺棄することも想定しており、第三者の手による絞殺の痕跡を誤魔化すためロープと首の間にタオルを挟んでいた。精神安定剤は被害者Aの所持品、睡眠導入剤は6月と9月に白石が虚偽の受診で予め得ていたものである。

通信記録によれば、インターネットで「殺し方」「死刑」「自殺幇助」「嘱託殺人」等を検索し、牛の解体動画や「人を食べるときの注意事項」といった猟奇サイトへのアクセスも確認されている。具体的な犯行手段の想定や自分に及ぶ刑罰について思慮が及んでいたことは明らかである。

解体は単独で浴室内で行い、効率について考えながら作業しており、「一人目は三日かかったが、二人目からは一日で解体できるようになった」と証言している。室内にはクーラーボックス3つ、工具箱5つがあり、その内7つから、猫用のトイレ砂に埋もれた状態で9人の頭部、腕、脚 、240本ほどの骨と乾燥した内臓等が見つかった。解体に使われたとみられるノコギリ、替え刃、キリ、キッチンばさみ、包丁2本と、ロープ、結束バンド等が押収された。包丁ではすべってしまうためキッチンばさみで肉を切り、肉片や内臓、細かい骨などは煮込んで、ペット用トイレシートで包んでから密封式ビニル袋に入れ、さらに新聞紙で覆ってからゴミ袋に詰め、アパートから離れた場所へ一般ゴミとして廃棄した。ロープとガムテープは白石が被害者Aとはじめて会ったときに購入したもので、解体用の刃物は入居前に揃えていた。多くの消耗品が必要で、一体の処理におよそ5000円程かかったと証言しており、生前のCに対して「給料は入りましたか」「手持ちは一万円くらいありますか?」など費用の当てにしていた節も見受けられる。処理時の臭いをごまかすためにカレールー等を試している(尚、人肉を食べてはいないと証言)。犯行前は遺体を山などへ捨てに行く想定もあったが、(ペーパードライバーで)車の運転ができず処置に困っていたとも述べている。

事件当初、「遺体発見の一週間ほど前、3人の男がコンテナボックス2個を運び込むところを見た」という近隣住民(83)による目撃談が報じられた。2か月で9体という殺害・解体ペースの異常なほどの早さも疑問視され、一部ネット上では複数犯説、臓器売買や人身売買説などに結び付ける向きもあった。だが駅近くの住宅街の木造アパート2階を借りて大掛かりな組織的犯行を行うメリットはなく、臓器売買説に至っては荒唐無稽としか言いようがない。個人的には、車を運転できない白石には大型コンテナを運ぶ術がないため、購入にインターネット通販かホームセンターなどを利用した際の単なる「配送業者」だと思われる。公判では、A殺害の2日後にクーラーボックスを買い足したとも証言している。

 

■生い立ちと家族

元々は両親と白石と妹の4人暮らし。父親は大手自動車メーカーの部品工場に勤め、後に部品設計等を手掛ける自営業になった(座間は日産のお膝元である)。白石が幼少の頃に座間市内の一軒家を購入。近隣住民によればごく普通の家族。父は社交的で、母は不愛想。白石は5歳下の妹(1、2歳下とも)の面倒をよくみていたが、高校生の頃にはほとんど姿を見かけなくなったという。事件との関連性は不明だが、小学生時代に「首を絞め合って失神ゲームをやって失神したことがある」と同級生に語っていた(フジテレビ系列『とくダネ』)。歯や視力の矯正などを受けていること、習い事はしていなかったが中学2年の頃から塾通いで携帯電話を持たされていたこと等からしても、子ども時代に経済的な困窮はなかったと考えられる。小学時代から中学1年までは野球、中学2・3年では陸上部に入っていた。中学文集では「勉強や遊びよりもひたすら部活を頑張っていた気がします」と記すが、文章量は他の児童の半分ほどの少なさで、両部活動の集合写真にその姿はない。

横浜にある県立商工高校の国際経済科へ進学。成績やスポーツで目立った業績はなく、あだ名は「ハム」。格闘技が好きだったので高校1年のとき柔道部に入ったがほどなく辞め、2年になると授業のサボりや居眠りが目立ったという。週3~5日はホームセンターやスーパーでアルバイトをしており、友人には「一人暮らしをしたいから金を貯めている」と話していた。家ではゲームに没頭していたという。同級生らの証言によれば、ホテルで睡眠薬を飲んで集団自殺を図り2週間ほど学校を休んだ時期があった(TBS系列『ビビット』)、自殺サイトで知り合った人たちと練炭集団自殺しようとした(『週刊新潮』2017年11月16日号)等と白石自ら学校で淡々と語っていたとされている。また拘置所での取材によれば、SNSでのナンパ行為は「17歳から」と話している。

高校卒業後、白石はバイト先のスーパーに正社員として就職し、戸塚で一人暮らしを始める。同時期、母親と妹が家を出ている。父親は周囲に「(妹の)受験のため」と説明していたが、その後夫婦は離婚。妹は学業に優れ、有名私大を出て一般企業に就職したとされる。白石のスーパーでの勤務態度に問題はなかったが2年余で退職(昇給前で給料は手取り14万円程。当時パチンコやスロットにハマり金欠だったという)した。豊島区に移り、電子機器販売の会社員やパチンコ店従業員など職を転々とし、人材派遣会社エクセレントで風俗向けスカウトマンとなり歌舞伎町界隈で活動していた。女性にはマメで優しかったとされるが、悪評も多い。歌舞伎町時代の関係者は、白石の印象を「細かくて勘繰り癖が激しく、何かあると店との仲介者も含め、あらぬ風評を立てるトラブルメーカー体質。嫌いなタイプだった」と語っている(日刊スポーツ)。斡旋した女性から200万円を横領しようとしたとも言われ、Twitter上では氏名・顔写真が公開され「極悪スカウト」と注意喚起される等トラブルも多かった。また当時交際していた女性の知人によれば、交際相手へのDVがあったとも言われる。

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2017年2月、白石は職業安定法違反の疑い(“未成年”や“本番行為”を扱う違法風俗店への売春人材斡旋)で茨城県警に逮捕される。逮捕後は実家に戻り、派遣アルバイトなどをしていた。当時の同僚らは「挨拶や言葉遣いは丁寧」「人付き合いはなかった」「黙々と作業していた」といった印象を語っている。2017年6月に懲役1年3か月、執行猶予3年の有罪判決が下され、以降働きには出ていない。本事件の発覚当時も執行猶予中の身柄だった。

「それまでも頻繁に実家には顔を出していて、顔を合わせると必ず挨拶をしていました。8月頃に、お父さんが“今日はこれから息子と飲みに行く”と嬉しそうに話していて、本当に自慢の息子という感じでした」(『週刊ポスト』2017年11月17日号)

いつからか実家2階の白石の部屋は全ての窓を光を遮るビニールのようなもので目張りされて、夏でも閉め切りだったといわれる。本件の発覚後、実家で一人暮らしをしていた父親は姿を消し、元の家から1時間ほどの場所で暮らしていた母・妹も転居を余儀なくされた。

 

■内面について

白石の内面、人間性のようなものについて少し深掘りしてみたい。2018年4月から東京地検立川支部で5か月を掛けて精神鑑定を行った結果、事件当時の被告には刑事責任能力はあったとされている。このエントリを書くにあたって、白石被告の証言は週刊誌のweb媒体に依拠するところが大きい。というのも、白石は自ら「取材料」として面会時の差し入れ上限額3万円を求めて、積極的に記者たちに“売り込み”を行っており、金払いのよい雑誌記者には度々証言を行ってきたからだ(新聞社やNHKなどでは基本的に接見で金銭授受をしない)。それら接見取材の記事を辿っても白石には犯行までの計画性、違法性への認識などはあったと見て差し支えなく、事件については概ね犯行事実を包み隠さず語っている印象を受ける。

当然、白石の証言が全て真実とは限らない。高校時代には周囲に「集団での自殺未遂」をほのめかしながらも、事件後の取材に対し「私自身、自殺しようと思ったことは一度もない」と矛盾した証言をしている(後述)。犯行についても同様の手口を繰り返したためか四人目以降の被害者について「よく覚えていない」としており、記憶違いや誤解から捏造された記憶・発言もあるだろう。今後の公判ではおそらく検察側の主張に合わせた応答をしていくに違いない。さらに週刊誌の取材向けには見栄や虚勢を張った嘘、あるいは懇意にしている記者に対する“リップサービス”さえ混じっているかもしれない。また2017年11月1日放映のフジテレビ系『とくダネ!』で、元同僚女性による「(仕事ぶりは普通だったが)ちょっと変わったところがあって、男性と添い寝する副業をしているって同僚が話していた」という証言が紹介された。白石がその電子機器販売会社にいたのはスーパーを辞めた後、おそらく2011~2012年頃(21~22歳前後の頃か)のことと思われ、「添い寝屋」が主に女性向け風俗アルバイトとして広がりを見せていた時期である(参考までに、女性利用者向けの男性キャストによる添い寝屋を題材にした山崎紗也夏による漫画『シマシマ』のモーニング(講談社)連載が2008~2010年。2011年には深夜ドラマ化もされている)。時期的には「男性利用者向けの男性による添い寝屋」ももしかすると実在した可能性はある。白石が(性指向に関わらず)金欠からそうした風俗アルバイトに手を出していたとしても不思議ではない。だが個人的には、元同僚が「又聞き」として語っていることや、前述の「集団自殺未遂」の件と合わせて考えると、「変わった人」だと思われたいがために白石がついた嘘か、驚くようなことを言って会社の人がどういう反応を示すかとからかったのか、あるいは「白石が添い寝屋について話をしていた」程度の事実が社内で膨らんで「白石は添い寝屋をやっていた」「しかも男性向けだったらしい」と尾ひれがついていったもののようにも思える。嘘か真か、真偽を確かめるすべはないものの、ワイドショーが取り挙げるようなスキャンダラスな側面について、白石には自己演出的な発言も多分にあるのではないかと私は考えている。他人にどう見られたいかを意識し、相手によってキャラクターを演じ分けるという意味では、その後「首吊り士」などのアカウントを使い分けて自殺志願者たちの心理的抵抗を下げようとしたことにもつながっていく。

 

白石のキャラクターや内面について考えるとき、私が各記事を参照していて特に気に掛かったのは、白石の「金」に対する執着、「女性」への偏見、「家族」との距離感についてである。

 

■「金」に対する執着

生い立ちの章で述べた通り、白石は幼少期から金に困っていたようには思われない。パチスロで金欠になったスーパーの社員時代の二十歳前後から「金」に対する執着が強まったと考えられる。またスカウトマン時代について「色管理(恋愛感情があるように見せかけて女性を従わせ、風俗店などで働かせること)」をしていた噂もあることから、この時期に自分で働かずに女性の“ヒモ”になりたいという願望を募らせたか、一時的に“ヒモ”生活を経験したのではないかと私はみている。

人生の、どの時点に戻りたいと思うのか。質問すると、迷わず答えた。

「ひとつは、高校進学のとき。進学校に行って、大卒になっていれば、給料が変わったでしょう。高卒の給料と、大卒の給料が違うって知らなかったんです。知っていれば、大学に行ってました。

 もうひとつは。高校卒業後、働いた『スーパー』を辞めなければよかったと思います。社会保険がものすごくしっかりしていて、充実していました。いま思えば、いい会社だなと思います」(『週刊女性』2020年9月22日号) 

ここでも思考の軸となるのは「金」である。一般的な感覚では、高校時代や前の職場でやり直したいとするならば本意でなかろうとも「もっと学識を広げたかった」「若いときにもっとパーッと遊びたかった」「周囲の人間に恵まれていた」「仕事にやりがいがあった」等と取り繕うものではないか。「金」という判断基準に左右されて自分の感情を出せなくなっているようにすら見える。自ら死刑を覚悟していると言いながらなぜそれほど「金」に執着するのかと思えば、“自弁(個人で購入できる弁当)”で400円のからあげ弁当や売店のお菓子を買ったとか、「おカネがないと本当に辛いと中の人からも教えてもらったので、出来るだけ蓄えて拘置所に行きたい」等と話している(『FRIDAY』2018年9月28日号)。被害者Aについて、白石は「(預金があったようだから)生かしておいてヒモになればよかった」、人を殺害する見返りが「50万では安すぎる」と発言し、反省するどころかもっと金を引き出せたのにという趣旨の後悔をにじませている。楽して稼ぎたいという思いはある程度理解できるものの、他人を犠牲に、ましてや命を奪ってなお呵責もないほどの「金」に対する執着は異様に映る。

 

■「女性」への偏見 

白石は「首吊り士」「パチプロ~」「_(アンダーバー)」「死にたい」等5つのアカウントでSNSを利用し、自殺願望のある女性たちとの交流を重ねる。検察官は「やりとりのあった対象」は37アカウントあったことが捜査段階で確認されたとし、ジャーナリスト・渋井哲也氏の面会取材によれば実際には「13人と会っていた」との証言を得ている。裁判官から「殺害した人とそうでない人の違いはなにか」と問われた白石は、

「自分に対して好意を持っていて、お金を持っていそうな場合、レイプをせずに、生かして帰しました。長期的にお金を引っ張ろうと思っていました」(2020年10月16日『文春オンライン』)

 としている。文言通りに受け取れば、金づるとして生かすか、性欲のはけ口として使い捨て、という極端に歪んだ女性観が白石には通底して存在している。10月21日の公判では、被害者Dの解体中も白石の部屋には加害に及ばなかった「別の女性」が出入りしており、殺害時にはカラオケ店に行ってもらっていたことが明らかとなった。その女性は「夜の仕事」をしているため「お金が引っぱれる」と判断し、「仕事で体を求められる女性はしないほうがいい」「しない方が親密になれる」と判断して性行為には及ばずに10日間ほどアパートに滞在させている(女性は「親が心配している」として自ら立ち去った)。白石は「警察に通報するかもしれないとも考えましたが、大丈夫だと思いました。知り合って、時間も経っていたし、信用、信頼、恋愛、依存のいずれかの感じがありました」とスカウトマン時代に養われた勘を働かせている。事実、女性は解体中の部屋に出入りしているが通報はしなかったという(2020年10月23日『文春オンライン』)。白石の女性に対する観察力・洞察力は人並みかそれ以上に思える。

 

学校でも職場でもいじめは絶えない

毎日のように通う場所、会う人間とうまくいかないと精神的にどんどん追い込まれていく

世の中にはニュースになっていないけど自殺未遂をしてしまって苦しい思いをしてる人がたくさんいると思います

そんな人の力になりたいです

#自殺

上は「首吊り士」アカウントから発信されたtweet。自殺志願者に寄り添うような文言や首吊りを指南してほしい人は私信をくれるようにといった内容。そして以下は、事件発覚から一年後に白石が語った自殺志願者へのアプローチについてである。

「あのアカウントは、完全に精神が弱っている子の気を引くためのキャラクター作り。『死にたい』というつぶやきとともに、『学校がイヤだ』とか『彼氏が欲しいのにできない』とか具体的な悩みを発信しているかたは特に取り込みやすい。

 そういうツイートをしている人を毎日5~10人くらい物色してアプローチしていました。1割くらいのかたから返信がありましたね。だいたい、『死にたい』と言う人なんてみんなかまってほしいだけ。それをうまく聞き出して、懐に入っただけです。自殺サイトではなくツイッターを使ったのは、以前、風俗店に女性を紹介するスカウトの仕事をしていたとき、ツイッターで女性を募集したらすごく集まりがよかったから。私自身は、死にたいと思ったことなんて一度もないです。

 被害者のかたたちのことは、最初から欲望の対象として見ていて、自分の家族や友人、お世話になった上司といった“大切な人たち”とは別の次元にいる。自分の中で線引きができているから、殺したことへの後悔とか、遺族に対する申し訳ないという気持ちとかって、一切ないんですよね」(『女性セブン』2018年11月1日号) 

白石はSNS上では自殺指南者・支援者・共感者などの顔を演じ分けて、その実は単なるレイプ魔だったと自認している。そして重要なのは、白石にとって「被害者の方たち」は“大切な人たち”とは別次元の、殺しても罪の意識を感じない対象だったという偏見である。

2017年8月18日に最初の犠牲者となる女性Aと座間市内の木造アパートを内覧し賃貸契約、22日から一人暮らしを始めた。この場所は父親が暮らす実家から3㎞しか離れておらず、保証人や物件探しも父親が行っていた。平成26年に同アパート1階で遺体が発見されており、白石が借りた2階の部屋もUBロフト付で2万2000円という格安のいわゆる「事故物件」(本事件後、家賃は11000円まで下落した)。仲介業者は、少し時期を待てば割引になると説明したが、父親はそれを断り早い時期での入居を希望。被害者Aへの犯行は入居の翌日であった。

「(職業安定法違反で)執行猶予中でした。次、逮捕されれば、実刑になると思っていました。そのため、レイプして、お金をうばって、殺害しないといけないと思ったんです」(2020年10月16日『文春オンライン』)

 やや分かりにくい文言だが、白石の人間性が現れている言い回しだと思うので細かく順を追って見ていきたい。

・白石は「執行猶予中」である

・次また逮捕起訴されれば「実刑」を食らう

・それはどうしても避けたかった

・Aに多少の貯金があることが分かった

・Aを金づるにして“ヒモ”になりたかった

・当初は借りたアパートでの同棲を持ちかけた(Aには白石が働いて養うと話していた)

・Aを殺す気はそもそも薄かった(公判で白石は「一緒にいた時間が長かったので、好意はありました」「ひどいことをしたと後悔している」と供述。8月18日前後にAと合意の上で性交渉を持ち、以降Aはメールの敬語がなくなり、スキンシップをとる等、それ以前より好意的になったとしている)

・交際相手の有無をAから直接聞かされてはないが、「私(白石被告)以外の男性との付き合いがあるような雰囲気だった。2度目のホテルで性交渉を持ちかけたが断られたこと、そして、自分のこれまでの過去の経験上、短期的にお金をひっぱることはできるが、長期的には難しいと思っていた」と供述。

・Aから預かった金を踏み倒したかった

・返済せずにいれば「男性」の登場や「警察沙汰」が怖い

・そうなる前に「失踪」したことにしてしまえば、金を返さずに捕まらなくて済む

・だから殺害することに決めた

・性欲が溜まっていたので、意識を失ったAをレイプし、思いのほか快感を得た

・レイプがバレれば実刑なのでAを殺害

・遺棄するのに輸送手段がないため解体処理

・処理にも5000円程かかるが見つかる訳にはいかない

・多少の金を奪いつつ、殺し続けなくてはいけない

という極めて利己的な発想である。白石の発想には常に「鼻先の人参を追いかける馬」のような、目先の快楽に対して短絡的な行動を選択してしまう性質が窺える。手取り14万円ではパチスロで存分に遊べないからと転職を繰り返し、法に触れてでも自分の稼ぎのために悪質スカウトを繰り返し、「自殺願望のある女性」は性欲のはけ口にできると考え発覚まで残忍な行為を繰り返した。2か月の間に被害者含め13人と会ったという証言が事実とすれば、週をまたがず次から次へと同時進行で接触していったと考えられ、あまりにも性欲に忠実な異常な行動力である。

なおAの交際相手について、『週刊新潮』2017年11月23日号では警視庁詰め記者の言質として「実は、Aさんにはスリランカ人の交際相手がいました。白石はそれを知っていたから“一緒に住もう”ではなく、“アパートにいつでも遊びにきていいよ”と友人関係を装って誘い出し、犯行に及んでいます」(実名部分をAとした)と語られている。 

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白石被告が住んでいたアパート間取り(『小説新潮』2019年8月号)
冒頭でも示した通り、白石は弁護人からの質疑に対して基本的に無言の態度を取っている。自身は起訴事実を認めており、死刑を受け容れる立場であり、自分の同意なく減刑を求めようとする弁護人など望まないという考えを表明している。

「僕は今の弁護人も解任したいのに、裁判所が却下するんです。でも、諦(あきら)めません。来週の公判前整理手続きでも、裁判所に解任を請求するつもりです。刑事訴訟法第38条の3の1の2によると、『被告人と弁護人との利益が相反する状況にあり弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき』には、裁判所は弁護人を解任できるんですから。今の弁護人は弁護士が守るべき『使命』にも違反している。弁護士の使命は、依頼人の『正当な利益を実現すること』なんですよ(『弁護士職務基本規程第22条』)。だから、僕には彼の解任を請求する権利がある」(『FRIDAY』2019年11月1日号)

「今の」とある通り、はじめに着任した弁護人は取調べに際して黙秘を薦めたが、却って警察の追及が激しくなって白石の心が折れ、すでに一度解任請求を行っているのだ。こうした発言を見ても、白石の知能水準が劣っているとは思えず、むしろ自分の利益のために進んで学んだ節さえ窺わせる。しかしながら、さも法律を盾に自らの正当性を主張しているように見えるものの、その実は「自分の思い通りにならないと嫌だ」という幼稚さや「弁護人の言いなりになどなるものか」という受動的攻撃性(受け身的な反抗)、「自分が従えているのだ」と言わんばかりの支配欲やプライドの高さなどが透けて見える。また検察や裁判官に対しては質問に答えていることは、彼らを(短期結審と死刑を求める)自分のコントロール下に置きたい意図があるようにも思われる。

第11回公判では、4人目の被害者Dについて、殺害時の記憶は「断片的」としつつ、「相手が普通にしている状態を襲うことが快感につながった」と述べた。Dとは一緒に自殺する名目で顔を合わせるが、自殺方法の話題や悩みの話にはならなかったとしていることから、それまでの薬物による酩酊状態などの手筈を経ずに意識のある状態で強姦に及んだのではないかと思われる。3人への犯行が思い通りにいって驕りが生じたのか、Dには携帯電話のGPS偽装工作はしていなかった。しかし想定と違って自殺への段取りを踏もうとしない相手に対して、強引な手法をとって目論見を達成できたことで「快感」につながったとも考えられるのではないか。

これは私の想像に過ぎないが、白石は女性に対しても「この女性なら暴力で支配できるな」「この女性には心酔しているふりをして金を無心しよう」「こいつは金にならないから…」等と値踏みをし、キャラクターを演じて女性を手玉に取り、思い通りにコントロールしている状態に快感を得ていたのではないか。普段はおとなしくマメな白石だが、他人を自分の思い通りにしたいというパーソナリティが先鋭化されて、暴力的手段、DVやレイプとなって表出したようにも見える。

スカウトマン時代の悪行から、希死念慮の強い女性は扱いやすい、若い女性であれば風俗等に沈めれば金づるになる、あるいは風俗勤務の女性や短期間で大金を稼ごうとする女性には希死念慮を抱く者が多く金づるにしやすいとインプットされていったのであろう。とはいえ、風俗スカウト界隈で目を点けられている白石には女性を風俗に沈めることは難しく、風俗志望ではない一般女性に目を付けるしかなかった。しかしそうした発想を定着させるまでには、「女性」に対する恨みと復讐の意味合いが根底にあったのではないか。 その背景として、白石の思い通りにならなかった女性たち、母と妹の存在が大きいと私は推測している。

 

■「家族」との距離

白石容疑者は知り合った女性たちに対して「“きょうだい”はいない」と話しているが、実際には、母親について家を出ていった妹がいる。なぜそんなつかなくてもよさそうな嘘をついたのか。

女性セブン』2017年11月23日号では、精神科医の片田珠美氏に事件後の報道などを基に分析を依頼している。

「白石容疑者はごく小さい頃に“母親に見捨てられた”という感覚があるのではないでしょうか。お母さんはできのいい妹をかわいがり、自分のことに関心がないと感じていて、思春期の微妙な時期に、母親や妹への憎しみが募った。だから、彼の内的世界では“2人はいなかったこと”になってしまっているのかもしれません。

白石容疑者は高校時代から自殺願望を抱えていて、実際に睡眠薬を大量にのむという自殺未遂を起こしたことがあるとも報じられています。その自殺願望には、“母親への復讐”という意味合いがあるのかもしれません。自分自身が自殺願望を抱いて思春期を過ごしたので、10代の女の子たちに自殺をそそのかした可能性もあります」

 拘置所に収監後、家族は一度も面会に訪れておらず、手紙のやりとりもないという。継続取材を続けるジャーナリストの渋井哲也氏は「白石はそのことについて何も思っていないというが、少しだけ家族は自分と関係ない、とかばっているように感じた」と述べている。

また白石は弁護人の裁判で争う姿勢に異を唱える理由として、「裁判が長引くと、親族に迷惑がかかる」とも述べている。高校時代あたりから父親とは折り合いが悪いというが、親子の距離、家族の間柄にしては妙に空疎な印象を覚える。それでいてアパート探しは白石本人ではなく父親が行っていたという点も腑に落ちない。執行猶予中で家にいる息子と二人きりでは諍いになるため、どうにかして追い出したかったのかもしれない。近隣住民によれば「お父さんは家のお手入れが好きで、よく植木にハサミを入れたり、落ち葉を掃いたり、2階のベランダで洗濯物を干す姿を見ました」「(東日本大震災のときは)定職につかない息子の世話をしながらボランティア活動もされていました」「息子さんは、たまに実家に帰っていたようです。そんなとき、お父さんはとなり近所に『息子と飲みに行くんです』『彼女ができたんですよ』とうれしそうにしていたんです。仲のいい親子で、息子さんがこんな事件を起こすとは……」と語っている。近隣住民から見れば家庭的な面倒見のよい父親のようでもあるが、別居について「娘の受験で」と取り繕っていたように、白石の父親は外面を非常に気にする性質のようにも見受けられる。 彼らは本当に「ごく普通の家族」だったのだろうか。

離婚した母親とついていった妹についてはプライバシーの観点からか詳細な情報は得られず、離婚原因なども明らかになっていない。だが妹の高校受験という大事な時期に別居していることから推測するに、「不倫」のような一時的なものではなく家庭内不和は恒常化しており、白石の高校卒業(および就職による経済的負担の軽減)を見越して別居に踏み切ったとも考えられる。余談になるかもしれないが、倒産の危機もささやかれた日産が仏ルノーからカルロス・ゴーンをCOO(最高執行責任者)として迎えたのが1999年。国内の車両・部品工場5か所の閉鎖と国内生産台数の減産、全世界でのグループ人員2万1000人削減と下請け企業の約半数をカット、子会社・関連企業の株式売却を軸とした中期経営目標「日産リバイバルプラン」を発表し、当初3か年の計画を1年前倒しで達成した。事件に直接的な関係はないが、白石の父親にとっては取引先の減少など仕事に少なからぬ影響はあったと考えられる(当時白石は小学校高学年にあたる)。高校時代には父親との関係が悪化していた白石は(就職して一人暮らしを始めるとはいえ)実家に残ったことからすると、母親との間には確執があったのではないかとも考えられる。あるいは母親は成績優秀な妹を寵愛するようになり、白石は反感を募らせていったのかもしれない。また母親の職業は不明だがおそらく妹の付属高校・私大の学費などは父親負担ではないかとも考えられ、もしそれに生活費の援助もしていたとすれば、白石がパチスロにハマっていた二十歳前後には家の経済状況も厳しくなっていたと想像できる。

 

臨床心理士として多くの凶悪犯の接見や鑑定をしてきた長谷川博一氏の著書『殺人者はいかに誕生したか 「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』(新潮社)を先日読んでいたこともあって、白石の家族に対する感情は土浦無差別殺傷事件の金川真大のそれに近いような印象を受けた。

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金川は、殺人の動機について「死刑になって死ぬため」、被害者への気持ちについて 「ライオンがシマウマを襲うときに何か考えますか」と人間らしい情念が欠如しているともいえる挑発的な態度をとり続けた。こうした点は白石とは異なり、排他攻撃的な気性が見受けられる。だが金川は自らを社会から逸脱した存在と位置づけ、その攻撃性は「常識に洗脳された人間」という自分のことを理解しようとしない全ての人間に対して向けられている。それでいて文通や面会には積極的で、質問には答えようと努力し、嘘はつかない特徴も顕著だったとされる。

ここで白石による家族に関する証言を見てみよう。

「父と母と妹の4人家族でした。母はとても優しく料理が上手な方でした。

 親からの愛情という意味では恵まれたと思います。歯の矯正をしてくれましたし、視力矯正で病院に通わせてくれました。お母さんの料理も美味しかったです。妹とは幼いころは遊んでいましたが、だんだん疎遠になっていきました。思春期になると兄妹ってそんなものじゃないですか?」

「地域の総合進学塾へ行っていました。母親に言われて、なんとなく通っていた感じですね。父親は、仕事中心でしたので、子育てに関わっていませんよ」

「このころ(高校のころ)父親と仲が悪く、早く自立したかったんです。ただ思春期的なやつで、些細なことでケンカしました。“早くお風呂に入れ”とか」(『週刊女性』2020年9月22日号)

 下は、金川の家族に関する質疑である。

父親の嫌いなところは——

コレといってないですねぇ。てか、ほとんど記憶がない。怒られるのはイヤだけど、これはフツーですし。さわいでいたら、静かにしろってヤツね

父親の好きなところは——

ないですな

父親はどんな人か——

マジメだねぇ。仕事頑張ってるねぇ。ガンコじゃないがカタブツだねぇ。エンジョイって言葉知らないかもね。理屈っぽい人かなぁ。動物で例えると牛馬の類。

 

母親の嫌いなところは——

別にないですね

母親の好きなところは——

う~ん、これといって。ま、ゲーム買ってもらったことぐらい

母親はどんな人か——

人畜無害な感じ。柔和。フツーの主婦。ああ、そういえば父母ともに操り人形でしたね。常識の。

 

両親の関係は——

関係は希薄。仲はよくもわるくもない。会話はないね。淡白ですなぁ。ま、父が家にいないからね。

 いづれも他人行儀と言うか客観的に「家族ってこういうものだよね」と定型的に語ったかのような似た印象を受ける。金川の父親は外務省のノンキャリア官僚、母親は教育熱心な専業主婦。不登校や進学・就職がうまくいかなかった金川は家に居場所がなかったに違いない。3人の妹弟は「家族の雰囲気が嫌い」「家族全員が本音を隠していて、関係が希薄でバラバラ」「家族に対して関心がない」と語り家族との縁を切りたいとまで訴えており、それでも金川は「傍から見れば不仲に見える状態でも、普通です」と擁護する。彼の心のはたらきについて、長谷川氏は本来存在している感情を無意識的に「無きもの」としてしまう防衛機制「否認」の一種と捉えている。異常な家族関係や解消されない鬱屈を無効化して受け容れることで自我を保ってきたのである。白石も「家族」に対する感情をあまり表しておらず、自分のことについては饒舌な反面、家族についてはオブラートに包み隠そうとしているような印象を受ける。白石の母妹についての情報はおそらく裁判でも出てこないと思われるが、白石の一部女性に対する支配欲は母と妹に対する意趣返しの屈折した表れなのではないかと私には思える。白石は父親に逆らうこともできず、「家族」を壊してしまったのは母妹だと納得したかったのではないか。そのために女性に対する歪んだ感情を膨らませていき、自分より弱い女性たちを食い物にすることが憂さ晴らしのような快感になっていったのではないかと思うのだ。

 

■自殺志願者について

本事件を受けて、2017年12月、 LINE、FacebookTwitter Japanなどが加盟する青少年ネット利用環境整備協議会では自殺に関する情報への対応策や類似犯罪の未然防止のための提言をまとめている。しかし既述の通り、「自殺志願者」と彼らを狙う犯罪は後を絶たない。自殺者は年間およそ2万人余り、とくに若年層には増加の傾向が認められ、15~39歳の年代別死因として最も多いとされ、世界的に見ても珍しいという。精神衛生や自殺予防のリテラシーは足りていない現状である。

被害者Cのメモアプリには「これからの私の選択は、いろんな人を傷つける」とあり、Twitterには「こんなクソみたいな人生でも一時だけでも良い思いをした」と投稿していた。人権家を気取るつもりはないが、Cの遺した言葉には「死にたい」感情と同じだけ「生きたい」という感情が含まれているように思える。自殺志願者の感情は振り子のように「死にたい」「生きたい」の間を行きつ戻りつし、言葉や行動に感情が伴わない場合も多い(顔も知らない男の家に行くことも「ふつう」ならありえない発想だが、悶々と悩み続けて冷静な思考判断さえ適わなくなった彼らの行動をだれが責めることなどできようか)。「だれかに殺してほしい」という感情は「自分の力で命を絶つことができない」ことや悩み疲れて「もはや自分で生死の是非を選択できない」ことの裏返しであり、それでも生きているということは「もう死にたい」という感情がいまだに自分の行動を制御できていない・支配されていない・自由な状態であるともいえる。裁判での争点として“承諾殺人”であったか否かが今後も論じられることと思うが、白石の毒牙には掛からなかったものの後に自ら命を絶った「おびき出し」協力者のことを顧みても、本当のところは被害者本人も含めて誰にも分からないと私は考えている。

1998年ドクターキリコ事件や2005年自殺サイト事件以降、自殺志願者の集う“自殺サイト”への取り締まりは強化され、2010年代にはSNSがネガティブな心情を吐き出す場所になった。様々なユーザーに開かれた空間だからこそ悩みを抱える者同士が励まし合ったり、医療保健機関や専門家などからの情報やアドバイスを得やすい反面、利用を誤れば本件のように犯罪者を誘引してしまう。情報量の多さなどもあって一般の人には「死にたい」といった危険信号が却って見過ごされやすい側面もある。誰にも気づいてもらえない、理解してもらえない孤独な感情。本当に弱った時、目の前に手を差し出されれば、相手の顔も見ずについその手を握ってしまうということはありうるのだ。

本稿の筆をとった理由のひとつは、一人でも多くの自殺志願者にこの事件を知ってもらい、たとえ希死念慮に苛まれてSNSで弱音を吐こうとも間違ってもこうした事件の被害者にはならないでほしい、自分の命を他人に委ねるという考えだけは選択しないでもらいたいという願いからである。はたして亡くなった被害者の気持ちはいかばかりか、安易に「10人目の被害者になりたかった」等という自殺志願者がいなくなりますように。

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〈2020年12月15日追記〉 

 2020年12月15日午後、東京地裁立川支部裁判員裁判の判決公判が行われ、矢野直邦裁判長は、被害者らは依頼を撤回したり全員が殺害時に抵抗していることから「殺されることを拒絶していた」と指摘し殺害を承諾していなかったと認定、犯行時の被告には周到な計画性や死体の隠蔽処理など刑事責任能力に「全く問題がない」とし、求刑通り死刑を言い渡した。

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〈2021年1月5日追記〉

2020年12月18日、白石被告の弁護側が控訴したが、同21日に被告本人が控訴取り下げを申請。

2021年1月4日の控訴期限を過ぎたため、白石被告の死刑が確定した。

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↓各相談窓口↓

特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク

SNSやチャットによる自殺防止の相談を行い、必要に応じて電話や対面による支援や居場所活動等へのつなぎも行う。様々な分野の専門家及び全国の地域拠点と連携して「生きることの包括的な支援」を行う。

実施日時 2020年5月1日から
相談時間 月曜日・火曜日・木曜日・金曜日・日曜日 17時から22時30分(22時まで受付)
水曜日 11時から16時30分(16時まで受付)
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Twitter よりそいチャット公式アカウント別ウィンドウで開く
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主要SNS(LINE、TwitterFacebook)及びウェブチャットから、年齢・性別を問わず相談に応じる。 相談内容等から必要に応じて対面相談・電話相談(一般電話回線の他に通話アプリ(LINE、Skype等)にも対応)及び全国の福祉事務所・自立相談支援機関・保健所・精神保健福祉センター児童相談所・婦人相談所・総合労働相談等の公的機関や様々な分野のNPO団体へつなぎ支援を行う。

実施日時 2020年4月1日から2021年3月31日(通年)
相談時間 毎日 第1部 12時から16時(15時まで受付) 第2部17時から21時(20時まで受付)
毎月1回 最終土曜日から日曜日 21時から6時(5時まで受付) 7時から12時(11時まで受付)
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10代20代の女性のためのLINE相談

特定非営利活動法人 BONDプロジェクト 

10代20代の女性のためのLINE相談。

実施日時 2020年4月1日から2021年3月31日
相談時間 毎週 月曜日・水曜日・木曜日・金曜日・土曜日
第1部 14時から18時(17時30分まで受付) 第2部 18時30分から22時30分(22時まで受付)
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こどものためのチャット相談

特定非営利活動法人 チャイルドライン支援センター

18歳以下の子どもが対象。 電話相談(0120-99-7777/16時から21時)と、チャットによるオンライン相談を実施。

相談時間 毎週木曜日・金曜日・第3土曜日 16時から21時(チャット実施日カレンダー別ウィンドウで開く
チャット チャイルドラインチャット相談別ウィンドウで開く
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www.mhlw.go.jp