いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

平成の神隠し・坪野鉱泉肝試し女性失踪事件について

2020年3月4日、富山県警は同県魚津市で消息を絶った同県氷見市の当時19歳の少女2人が乗っていた乗用車が、同県射水市八幡町にある伏木富山港付近の海中で見つかったことを明らかにし、車内にあった複数の人骨を少女2人のものとみて確認を急いでいる、と発表された。

 

「坪野鉱泉」巡り長年憶測 転落目撃者特定が転機 富山新港内で人骨(北日本新聞社

https://webun.jp/item/7642731

 

現代の神隠しのひとつとして知られた『坪野鉱泉肝試し失踪事件』が24年ぶりに大きく進展したのである。ご家族の気持ちを考えると、どこかで生きていてほしかった、あまりに時間がかかり過ぎたとはいえ、ようやく発見されたことにささやかながら安堵するとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。

 

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(以下、事件について推論を述べていくが、亡くなられた方を非難したり冒涜する意思はないのでご了承願いたい。ご遺族関係者の方の気分を害してしまったとしたら申し訳ありません。)

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 1996年5月5日午後9時すぎ、氷見市に住む19歳屋敷恵美さんと、高校時代の同級生だった田組育鏡(たくみなるみ)さんの2人が「肝試しに行く」と告げて車で出発。午後10時ごろ、射水市の旧・海王丸パークで友人と会っている。深夜、友人宛にポケットベルで「魚津市にいる」とメッセージを残し、そのまま消息を絶った事件である。

2人が向かった先は、「魚津市」「肝試し」から廃墟・心霊スポットとして有名な通称・坪野鉱泉と呼ばれる廃ホテル(旧・ホテル坪野)ではないかと見られた。

かつてレジャーホテルとして賑わったが、1982年に倒産。市街地から10㎞以上離れた山間部という立地のためなかなか引き取り手がつかず、再建のめどもないまま荒廃。やがて近県からも暴走族が集まる場所(たまり場)として知られるようになり、1990年には敷地内の薬師堂で全焼火災が発生するなど、地域住民の間では治安の悪さが懸念されていた。

ヘリ捜索や山岳捜索隊を動員するなど事件事故の両面から大掛かりな捜査が行われたが発見や有力情報には繋がらず、失踪から1年後(2人の成人を待って)、半公開捜査に踏み切った。今となれば未成年者保護の観点からか、情報公開が遅れたことも事件を長引かせた要因と考えられる。

日本国内では年間8万人超の行方不明者が発生し、多くが10代20代の若者による家出、約1万7000人が高齢者の認知症等疾病に係るケースで、所在や死亡が確認される件数も年間概ね8万人超であるから、ほとんどの事案は遅かれ早かれ「解決」されている。だが少数ながらも未解決、原因不明といった特異なケースは“神隠し”として取り沙汰され、人々の記憶に刻まれる。

なかでも本件は「肝試しに行ったきり行方不明」という怪談話さながらの背景、舞台が心霊スポットという性質も相まって、「地権者に暴力団関係者が絡んでいた」等の噂、北朝鮮による拉致事件との関連など、2人の失踪について様々な憶測を呼んだ。

 

例として下のオカルト系サイトでは拉致説を唱えている。

okakuro.org

 

GoogleマップYouTube等動画サイトでは、近年の坪野鉱泉跡の様子を垣間見ることができる。

www.google.co.jp

 

失踪した2人の画像や服装と車種などからイメージされるのは“今どきのフツーの女の子”。

二人の特徴はA子さんが身長154センチ、左利きで八重歯、鼻の横に水疱瘡跡がある。当日の服装は白いブラウス、黒字に白の縦じまのミニスカート、黒のカジュアルシューズだった。

B子さんは身長167センチ、黒のTシャツにうぐいす色の綿パン、黒の革靴で、茶髪に染めていた。
二人の乗っていたB子さんの車は九五年式スバルVIVIOの黒、ナンバーは「富山50 そ 14―02」。 

(読売新聞北陸支社版1997年5月4日17面富山よみうり)

 県警の調べによれば、2人は以前海洋丸パークで知り合った友人から坪野鉱泉が「肝試しの場所」だと聞かされ、失踪前にも訪れたことがあったという。5月5日、勤め先のスーパーで懐中電灯に使う乾電池を購入した屋敷さん(上のB子さん)はバイト仲間に「今晩肝試しに行こう」と誘うが断られ、田組さん(上のA子さん)に電話を掛けたとされる。

デートやナンパのスポットだった海洋丸パークに出入りする社交性や、肝試しに行きたがるような好奇心からして、行動的で活発な印象を受ける。

 

5月5日、2人は地元・氷見市から直接魚津市山中の坪野鉱泉へ直接向かわず、射水市湾岸部の海洋丸パークに立ち寄っている。確認できないが、事前に一緒に肝試しをする「仲間」と待ち合わせていたか、あるいは仲間にふさわしい相手を狩る(ボーイズハント)ために立ち寄ったと見てよいのではないか。「いつものダチと前に入ったことのあるお化け屋敷に入ったって面白さ半減だ、キュンキュンできる相手と一緒にイチャコラしよう!」といったノリで立ち寄ったとしてもおかしくない。

そこで(おそらく偶然に)友人(性別等は確認できず)と会った後、午後10時すぎに国道8号線の富山~滑川の市境で魚津方面へ向かう2人の乗った車が確認されている。目撃証言なのかカメラに収められていたのか定かではないがガソリンの給油が確認されており、2人はこの時点で少なくとも魚津方面には向かっている。はたして“2人きり”で向かったのだろうか。実は同行者、別の車両に乗った「仲間」たちと坪野へ向かっていた可能性もある。

そこからの足取りは途絶えることから、人目につかない山間部、おそらく坪野鉱泉へと向かったと思われる(他の肝試しスポット等に行った可能性もあるが、行動の突発性や時間帯からして過去に行ったことのある場所と考えられる)。実際に建物に侵入したのか、すぐ引き返したのか、「仲間」といたのか、あるいは坪野で別の男性グループと遭遇して「現地調達」したのか、詳細は全くつかめていない。

 

深夜未明、友人へのポケベルを送信。時刻は定かではないが、山間部の電波状況や「魚津にいる」という内容からして、坪野ではなく市街地で送信したのであろう。もしかすると坪野帰りに小休憩でもしていたのかもしれない。また陰謀論的な立場を取りたくはないが、送信したのは本人でない、発信場所が魚津市内でなかった可能性も否定できない。

だが車輛が海洋丸パーク付近で発見されたとなると、自力で運転して戻ってきたと推察される。深夜の山道を乗りなれない(他人の)車で運転するとは考えづらく、坪野鉱泉で何者かに拘束されたり殺されたりしていれば隠蔽するにせよわざわざ市街を通ることなく車ごと崖や山奥で処分するはずだ。

なぜ2人は再び海洋丸パークを訪れたのか。ゴールデンウィークで夜遊びしたかったには違いない。だが数時間前に2人で訪れていたにもかかわらず、わざわざ深夜の海洋丸パークに戻ってくるのは不可解である。そうすると2人きりや坪野で「現地調達」した何者かと再訪した訳ではなく、行きの海洋丸パークから坪野に同行した「仲間」がいた、「仲間」の車が置いてあっりもう少し一緒に遊びたかったなどしてみんなで「戻ってきた」というのが自然な流れではないか。

 

24年前に行方不明、19歳の女性2人乗車か…港の海中から軽発見・車内に人骨 : 国内 : ニュース : 読売新聞オンライン

 上の記事には、2014年にあった“目撃者が複数人いる”という情報提供を基に調査を進め、目撃者3名を特定。今年1月事情聴取を照合して「96年の大型連休の深夜に、旧海王丸パーク付近で、駐車場から女性2人が乗った車が海に転落した」と見通しをつけ、1月下旬から海中捜査開始、3月4日の引き上げにつながった経緯が書かれている。

2014年にあったタレコミから目撃者3名の特定まで6年近く経過していることについては、当初、信ぴょう性の低い情報として扱われていた、詳細ではない匿名文書や匿名電話など消極的捜査協力だった、目撃者特定の裏取りに時間を要した等の要因が想像される。タレコミした人物は何者か、いつどのようなかたちで情報を得たのかは不明だが、身内や事件関係者ではない第三者とすれば、情報を得てからそれほど長く秘匿していたとも思えない。15年以上という時間の経過や環境の変化で、沈黙を守ってきた目撃者が気を緩ませて口を滑らせたと見るのが妥当ではないか。

では目撃者がすぐに警察に証言しなかった、公にできなかったのはなぜか。目の前で人や車が海に落ちれば、普通は公園や港湾の管理者なり警察なりに自発的にすぐに通報する。当時なにか後ろめたいことがあったと考えるのが妥当であろう。2人に直接的に関与していたか、あるいは現場近くで別の違法行為(違法薬物、未成年者の飲酒喫煙など)をしていた、表沙汰にしづらい個人的な事情(職業などの社会的地位、浮気・不倫など)があったとも考えられる。目撃者の男性3名の関係は公表されていないが、3人とも赤の他人ではあるまい。

[追記・富山新聞3/6、捜査関係者によれば、3人は友人関係で、女性たちに声を掛けようと近づいたところ、車がバックで急発進し、海に転落した、責任追及が及ぶことを恐れて通報しなかった旨を証言している、とのこと]

 

 無論、目撃者の男性3名が「彼女たちを車ごと海に落とした」とは断定できない。だが偶然その場に居合わせて「車が海に転落した」様子を見かけただけで3人揃って20年以上秘匿してきたとも到底思えない。

筆者の考えでは、2人は坪野鉱泉に行った、その帰りに自分で友人にポケベルを打った、と見ている。だが帰りに海王丸パークに再訪する行動経路と照らし合わせると他に「仲間」がいたように思えてならない。でなければ辻褄が合わないのだ。思い浮かぶ仮説をふたつだけ書いて終わりにする。

 

ある男性グループが彼女たちの誘いに乗って坪野鉱泉で肝試しに付き合い、海王丸パークに戻って痴情のもつれ等から暴行や殺害に及び、隠蔽のために車ごと海に落とした。目撃者3名はグループの一員か、あるいはグループと交友があって車を沈めるために後から呼び出されたメンバーではないか。

 

ある男性グループが彼女たちの誘いに乗って坪野鉱泉で肝試しに付き合い、海王丸パークに戻り、遊び足りなかったのか駐車場で複数の車(やバイク)で追いかけっこをしていたところ、2人の乗った車が勢い誤って海に転落し、発覚を恐れたグループは逃走。目撃者3名はグループの一員か、その場で意気投合して追いかけっこに参加したギャラリーや別グループという可能性もある。

 

 

事件なのか事故に近いものだったのか、真相が詳らかにされるかは分からないが、静かに進展を見守っていきたい。

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(2021年1月27日追記)

既報の通り、2020年3月、車両と2人の遺体が引き上げされており、その発見は3人の男性が車両の転落を目撃していたことによるものであった。

週刊女性』2021年2月9日号に掲載のノンフィクションライター・水谷竹秀氏による記事によれば、屋敷さんの父親は男性3人の証言について懐疑的だとされ、警察は事件の終息を図りたい様子だと伝えられている。そのほか現在の坪野鉱泉内のようすなども紹介されている。

www.jprime.jp

 男性3人の証言について、屋敷さんの父親は、週刊女性の取材にこうきっぱり言った。

「全く信用していません。3人が誰かも知りません。警察に聞いたけど、それは教えられないと」

 では捜査継続を希望しているのだろうか。父親は続けた。

「それも警察に伝えたけど、確たる証拠はないから対応できないと。納得するも何も、もう過ぎたことやから、それでよしとせんとあかんのやって。娘はそれだけの人生だったんやなあと……」

 富山県警の担当者は「今後必要に応じて捜査をしていく」と説明している

警察としても、たとえば男性3人が殺害に係った決定的証拠など、証言との明らかな齟齬・追及すべき点が出てこなかった以上、いつまでも人的リソースを割くことはできない。

3人が彼女たちの死因に直接関わっていなかったとしても、「車両の動作トラブル」やタイヤ痕といった事故説特定の証拠が検出されないために、故人の遺族でなくとも「もしかすると…」という事件説への疑念は拭いきれるものではない。

いかなる事件も長期未解決化させてはならないのである。