旧西那須野町女子大生殺害事件について

2001(平成13)年4月、栃木県西那須野町(現・那須塩原市)で起きた大学生女性の殺人事件について、風化阻止の目的で記す。

未解決のまま事件から20年が経過した2021年4月の慰霊式で、栃木県警本部捜査第一課早藤晴樹課長は「被害者の無念を晴らすため『必検の思い』、容疑者を必ず検挙する思いで捜査に邁進していく」と決意を語った。

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これまでに捜査員述べ9万6千人を動員するも犯人検挙に結び付く有力な手掛かりは見つかっておらず、情報提供も年に数件ほどと事件の風化が懸念されている。

 

栃木県警察/殺人事件などの捜査にご協力を!

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■概要

4月14日(土)午前4時20分頃、栃木県西那須野町太夫塚の民家の駐車場で女性が仰向けで倒れているのを、帰宅した住人、新聞配達員女性(51)らが発見し110番通報した。

遺体は白いブラウスに素足といういでたちで、大量の血が流れており、一目で「生きているとは思えない」と感じたという。大田原署員が駆けつけたところ、若い女性は背中を中心に首、胸、腹など約10か所を刃物で刺されており、すでに事切れていた。

 

死亡した女性は近くのマンションに住む国際医療福祉大学看護学科4年生前田笑さん(24)と判明。

マンションの周囲をぐるりと囲むように移動した血痕が残されていたことから、当初は帰宅した際に襲われたものとも考えられた。

しかし前田さんの部屋にも血痕があり、物色されたような痕跡もあった。死因は心臓を刺されたことによる失血死。性的暴行の痕跡はなかった。

 

現場はJR東北線の西那須野駅から約600メートル、西那須野町役場南側の閑静な住宅街の一角。賃貸住宅も多く、人の入れ替わりが激しい地域とされる。

近隣の主婦が午前3時頃に「助けてという女性の声が十回以上聞こえた」と証言しており、大田原署は同時間帯に前田さんが何者かに襲われたものとみて捜査本部を設置した。

 

 

■逃走と追跡

血痕など現場状況から、自室で刺された後、玄関を出てからマンションの周囲を移動し、民家の前で力尽きたものと推測された。

ベランダのドアは施錠されており、東側の窓は無施錠だったが格子があり侵入の形跡はなかった。捜査本部は「自ら招き入れた」「顔見知りの可能性が高い」と判断し、前田さんの交友関係を中心に調べを進めた。

部屋は道路沿いに面していたが、一度は道路側とは逆方向へ逃げ、回り込むようにマンションのベランダ側を移動。再び自分の部屋の脇を通り、20~30メートルほど北にある借家の玄関前(カーポート下)で倒れていた。

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借家1F のガラス窓は割れて血が付着しており、遺体の手の甲にも傷があったことから、前田さんが助けを求めて窓を割ったとみられている。また遺体の頭は道路側を向いており、犯人によって道路側まで3メートルほど引きずられたような痕跡があった。

 

■被害者

前田さんは長野県伊那市に実家があり、3姉妹の末っ子。高校卒業後は専門学校でデザインの勉強をしたが中退。母親、上の姉と同じく看護師を目指していた。

 

ルームシェア

99年7月から同じ大学に通う友人女性と2人でルームシェアをしており、およそ20世帯ほど入る3階建ての2LDKマンション、1F道路側に面した部屋を借りていた。同居人は合鍵を持っていたが、当時外出中だった。

玄関はカードキー方式でオートロック型ではない。だが捜査員が部屋を訪れた際は施錠されていた。カードキーは特殊な型で、一般的な鍵屋での複製は難しいという。

前田さんのバッグの口が開いており、財布は離れた位置にあった。財布には小銭しかなく、紙幣を抜き取られた可能性もある。ルームメイトの部屋は荒らされていなかった。

前田さんが使用していたカードキーは発見されていないが、携帯電話は部屋に残されていた。前田さんは携帯電話を複数所有し、大学の友人やバイト先、趣味のスノーボード仲間に加え、「出会い系サイト」を通じたメル友など交友関係が広かった。

■事件前の動向

事件前日の13日(金)午前、前田さんは突如友人に電話で恋愛相談をしていた、と新聞記事は伝えている。記事に詳細はないが、事件から2年後のライターの松田コウ氏の筆によれば、前田さんは好きではない相手から好意を伝えられて困っている素振りだったとされる。

大学は数日前から新学期が始まっており、前田さんもその日は講義に出席していた。午後4時からパチンコ店のアルバイトに出勤。自宅から大学まで約8キロで、バイト先は大学と自宅の中間にあった。夕方以降の通話記録はなく、送受信した複数件のメールにも待ち合わせや訪問を伝えるやりとりはなかった。

パチンコ店の業務は23時過ぎに終えていたが同僚らとしばらく談笑し、14日午前0時25分過ぎに1人で自分の車で帰路についた。

帰宅途中の14日、パチンコ店の制服姿のままコンビニに立ち寄り夜食などを購入。午前1時ごろに防犯カメラでその姿が確認されている。おにぎり4個、たこ焼き、ジュース2本を購入。普段からバイト帰りにはよく立ち寄っていたようで、いつもは1人分の弁当類を購入していたがその日に限って量が多くレンジでの温めも要望しなかった、と店員は記憶していた。

それ以降の前田さんの目撃情報はないが、買い物の後そのまま帰路についていれば少なくとも午前1時半までには帰宅していたと考えられる。

 

 

■遺留品

マンション向かい側(現場民家の東隣)にある町営駐車場のトイレ裏で、犯行に使われた刃渡り20センチの文化包丁が発見されている。前田さんたちが普段使う包丁はマンションにそのまま残されており、新品ではない痕跡があることから犯人が持ち込んだものと見られた。

マンション付近と町営駐車場で犯人のものとみられる「足跡」が確認されている。サイズは26センチ前後と推定され、靴ひもではなくファスナー形式の中国製の運動靴に使用されている。町内1キロ圏内でも650円で販売されている量産品である。

 

■車

前田さんの自家用車は白のセダン車で、普段はマンション所定の駐車場に停めていた。だが殺害当時は上記町営駐車場のトイレ脇に停められており、車のキーも差したままだった。

またマンション周囲に残されていた血痕は、前田さんが普段停めていたマンション所定の駐車位置を避けるようについており、犯行時はこの場所に車が停まっていたと考えられる。

車内からも前田さんの血痕が見つかっており、前田さん本人が刺された後に乗ったという訳ではなく、返り血を浴びていた犯人が車に乗り込んだ際に付着した可能性が指摘されている。

 

■不審情報

2001年に入ってから不審な黒い乗用車が止まっていたと近所の住民が目撃されていた。乗っていた男は20~30歳代で短髪。車内で煙草を吸っていたという。

前田さんが入居した年の99年12月、部屋から現金6万円とショルダーバッグが盗まれる事件があった。就寝中に無施錠の玄関から侵入したものとみられている。また読売紙は、殺害事件の半年前にも同マンション1F の別の部屋で何者かがベランダに侵入しようとする騒ぎが発生していたと報じている。両案件とも犯人は逮捕されていない。

 

また殺害のあった当夜、町営駐車場で車がアイドリング状態で停車していた情報もあるが、車の特定には至っていない。直接目撃してはいないものの、男性の叫ぶような声、低い唸り声、小走りに走り去った直後、車のドアを勢いよく閉めて急発進させたような「音」も近隣で聞かれている。

 

■ネット上の噂

インターネット上では様々な噂や見方が飛び交う。

「前田さんの友達と付き合っていた」関係で一緒に遊んだことがあるという人物による2014年のカキコミでは、ルームメイトが「口が悪い根性悪い酷い性格の人」とされ、犯人がルームメイトを襲いに来た可能性を述べている。また「噂」として、当時「付き合っていたパチンコ店の彼氏が自殺した」という話を聞いたとしている。

別の掲示板サイトの2018年頃のカキコミでは、「事件の一月後ぐらいに重要参考人が自殺してる」、「パチンコ店勤務の彼氏が自殺したんだよね」とあるが、関係者の自殺の真偽、情報の出処は不明である。

 

■消えた重要参考人

産経新聞では事件翌日の4月15日、現場近くで手に怪我をしている男性が目撃されたことを報じている。捜査本部の調べでは、現場から前田さんとは異なる型の血液が検出されており、犯人が怪我を負っている可能性が高いとされていた。現場に残されていた「血液型」が同男性と同じであることが分かった。

さらに男性は現場で見つかった足跡と同じ型、サイズ26センチの「ほぼ一致する」スニーカーを所持。男性は前田さんと同じマンションの上階 に住んでおり、聞き込みに訪れた捜査員に対して事件当日の帰宅時間について偽って説明していた。

21日、捜査本部は新聞配達業の中国国籍男性(43)に対して重要参考人として事情聴取を開始。調べにより事件当日の14日、新聞販売店の仕事を欠勤していたことが分かっていた。前田さんとは面識があり、金にも困っていたという。マンションのカードキーはやや特殊で、初見では扱いが難しいとされているが、同じマンションの住人であれば当然熟知していたことになる。

しかし事件後約1か月後の記事では中国人男性に関する続報はなく、以降、事件に関する報道は下火となった。

 

 

■消えた理由の検討

上の産経新聞報道を重視するならば、どうしても重要参考人とされた中国人男性に疑いが残ってしまう。

だが1か月と経たずに疑いが晴れていることから、犯人とするに足る確証が得られなかったというよりかは、犯人とは断定しえない潔白の証拠が見つかったものと推測できる。

 

聞き込みに対する「嘘」の証言についても同男性への疑惑が増す要因のひとつである。過去エントリ木下あいりさん事件のように犯人がシラを切っているケースが考えられるからだ。

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しかし出入国管理法違反(不法滞在など)や軽微な犯罪(窃盗、違法薬物など)といった“事件とは関係のない隠しごと”があったとすれば、警察の追及を免れるためにその場しのぎで偽った可能性は十分考えられる。

この男性の詳細(在日中国人か、来日何年目か等)は分からないが、たとえば日本語が不自由で捜査員との意思疎通がうまくいかなかったといった可能性もゼロではなく、かつての精神疾患者などのように「早期解決」を重んじる捜査当局によってあらぬ疑いをもたれて濡れ衣を着せられるケースもないとはいえない。

 

部屋で発見された犯人とみられる靴跡にしても、廉価な量販品となればそれだけ多く流通しており、サイズについても購入層のボリュームは比較的大きい。同じ靴、同じサイズを所持しているだけでは犯人とみなすことはできない。

男性が新聞配達だけをしていたのか別の仕事もあったのか、家族や同居人はいたのかは伝わっていないが、たとえば後になって男性の周辺で確たる「アリバイ」が見つかった可能性はある。

 

また「血液型が一致」したもののDNA型鑑定により全く別人と断定された可能性も考えられる。

日本の犯罪捜査におけるDNA型鑑定は、89年に科警研がMCT118型検査、HLADQα型検査を開発・実用化した。92年、DNAの取り扱いなど法整備が進められ、宮城、東京、大阪、広島、福岡の科捜研で導入。96年にはTH01型、PM検査が導入され、精度を向上させた。本事件当時4種の検査法が運用されていた。一方で足利事件など90年代初頭の鑑定技術は精度が低く、運用上の問題点も多く指摘されている。

鑑定を逆手にとって恣意的に「犯人」を生み出すならまだしも、精度を向上させ既に技術が確立されたDNA型鑑定で「人物の同定」を誤る、真犯人を取り逃がすというようなミスは到底考えづらい。

 

 

■出会い系

自宅で待ち合わせるような通信履歴がないにもかかわらず、交友関係の広さや「出会い系サイト」の使用などから、警察をはじめ「知人説」は根強い。

1999年のDoCoMoiモードのリリース以降、友人や恋人、メル友をつくることを目的としたいわゆる“出会い系サイト”が乱立し、携帯所持の普及とともに利用者も拡大していた。匿名性などから未成年者が犯罪に巻き込まれるケースや売買春の温床となりやすいことは早期から指摘されていた。

2001年上半期(1-6月)の「出会い系」関連の検挙件数は302件で、前年の「年間」件数104件の約3倍。2002年上半期は793件で、「前年同期」の2.6倍に激増している時期である。

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2001年4月、京都市東山区学生寮に住む19歳の女子大学2年生が「メル友と会う」と言い残して行方が分からなくなり、2日後、宇治田原町禅定寺を流れる宇治川で水死体となって発見された事件が起きている。

北海道北見市から進学してきた彼女も地元や学内のみならず他大学の運動部サークルマネージャーを務めるなど交友関係は広かった。橋から落とされたとみられ腰骨骨折など外傷はあったが、胃の内部に大量の水道水が含まれていたことから別の場所で水死させられ川に遺棄されたものとみられた。

翌月、京都市内の質店で女性が使用していたブランド品のバッグが質入れされたことで山科区に住む25歳の元土木作業員男性が逮捕。逮捕直前にも出会い系で知り合った別の28歳会社員女性を車中で絞殺し、綾部市の伊佐津川に遺棄していたことが発覚した。売買春の金額について揉めたことが動機とされ、“京都出会い系連続殺人事件”等と呼ばれる。

 

2002年7月、宮城県仙台市に住む16歳の高校生女子が行方不明となり、翌月、塩釜港付近で腐乱死体となって発見されたいわゆる“宮城女子高生出会い系サイト殺人事件”が発生している。彼女は一時的に栃木県宇都宮市の叔母の許で暮らし、宇都宮の通信制高校に在籍していた。

そうした出会い系絡みの事件が全国的に続発していた世相などを鑑みれば、本件についても栃木県警は出会い系サイトの内容照会や交友関係は一通り洗ったと見てよいかと思う。尚、利用者の年齢制限や処罰の強化を軸としたいわゆる“出会い系サイト規制法”が成立するのは03年7月のことである。

 

■諸説の検討

大学かバイト先の人間関係ならば、通信履歴を残すことなく直接会って待ち合わせの約束ができたかもしれない。だが彼女が通っていたのは当時は男子学生の少なかった看護系であり(同キャンパスに通う学生の6割が女性だった)、職場の同僚も数は限られる。

また以前からの顔見知りとなれば、相互監視ではないが「好意を抱いている」「以前交際を断られた」といった関係性を周囲に隠し通すことは難しく、事件後の些細な変化にも自ずと注意が向けられるであろう。

 

それならばパチンコ店に通っていた客が一方的に恋愛感情を拗らせて犯行に及んだ「ストーカー殺人」の線はないか。もちろん当局もは常連客などに聞き込みして不審客の洗い出しも行っているとは思うが、客から「アプローチされた」「体を触られた」「手紙を貰った」といったトラブルになりかねないアクションがあれば同僚に相談したり、上司に報告がありそうなものである。

また前田さんに決まった交際相手がいたとすれば、その人物を慕うあまりに彼女への憎しみを募らせた逆恨みストーカーの線もありうるのではないか。だとすれば前田さんとの接点が薄く人間関係に浮上していない可能性も考えられる。

現場状況や靴のサイズから推測すれば犯人は男性であるように思えてならないものの、部屋では前田さんの逃走を許し、遺体の搬出(隠蔽)を途中で断念したかのような現場状況からは犯人の「非力さ」が感じられる。玄関から見知らぬ女性が訪ねてきたとすれば、前田さんは「ルームメイトの知人」か誰かと誤解してドアを開けてしまったなども考えられなくはない。

 

コンビニで防犯カメラに前田さんの姿は確認されているものの、当時のカメラの解像度や機能は今日よりかなり劣る面もあり、周囲に写り込んでいる他の客や駐車車両の特定などは難しいかもしれない。

西那須野、大田原周辺は栃木県内でも平野部で比較的開発された土地(いわゆる郊外の地方都市)だが、深夜ともなればコンビニくらいしか営業していない。車社会のため、コンビニでも飲食店でも駐車場を有している。犯人は「コンビニにくる若い女性」を待ち伏せて尾行された可能性も考えられる。

 

■居空き

筆者としては、無施錠を狙った窃盗犯、「居空き」を狙った常習犯が濃厚ではないかと考えている。過去の窃盗事件、侵入騒ぎと同一犯かは分からないがその可能性も排除できない。

一般的な感覚では侵入窃盗の被害に遭えば恐怖心から引っ越し等を考えるが、転入直後の学生で、しかもルームシェアといった事情からか、前田さんたちはその後も部屋に留まっている。犯人が開けた可能性もないではないが(道路側の)窓が無施錠であったりと、防犯意識は特段強くなかったようにも感じられる。バイトで疲れて深夜に帰宅、手には荷物とコンビニ袋。迎えてくれるルームメイトもなく、真っ暗な部屋に帰宅した彼女はつい施錠するのを怠ってしまったのではないか。

 

まず1食分とは考えづらい食料品の買い物は「2人分」とも解されるが、「翌日分のまとめ買い」とも捉えられる。朝から大学、晩までバイトとくたびれ果てて、ルームメイトも不在だし翌日は土曜日で「授業もないし部屋でゆっくり過ごそう」としていたのかもしれない。

「ブラウスだけ」の着衣についても詳報が聞かれないため見方が分かれるところだが、人はセックス以外でも服を脱ぐ機会が当然ある。「入浴」である。前田さんの部屋に着いて1F角部屋ということ以外詳しく分からないが、たとえば浴室の様子が見えなくても、シャワーの音やガス給湯装置の湯沸かし音などで外からも「入浴」の気配というのが分かる。深夜であれば尚更である。

 

物盗りが、深夜に帰宅してチャイムを押すでもなく自ら解錠する女性の姿を目にしたとすれば「一人暮らし」と誤解してもおかしくはない。また部屋がカードキーで「初見では扱いが難しい」というのも、ある程度の窃盗常習犯であれば「ああ、このタイプか」と察しが付くものかもしれない。入浴が始まったとなれば部屋はもぬけの殻だと考えて、犯人は侵入に及んだ。

玄関から中を窺うと浴室に人の気配がある。犯人は真っすぐ居間へと進み、部屋や財布を物色。だが入浴中の前田さんは異変に気付き、一度脱いだブラウス(バイトの制服シャツ)を羽織って恐々部屋に近づいた。犯人もまさかの出来事に動転し、どう対処してよいのか分からず前田さんの部屋で揉み合いになった。

前田さんは刺されながらも、犯人が負傷した隙を突いて、助けを求めて部屋から脱出。犯人の追跡を逃れようとマンションを一周し、「助けて」の叫びも深夜の住宅街に空しく響き、民家のガラス戸を叩き割るも最後の頼みだった住人はそのとき家に居なかった。

 

マンションとは別の駐車場に前田さんの車が停められていたことに関して、所定の位置に「別の車」が停まっていたため前田さんが別の駐車場に停めた、相手が後で来ることを見越して所定の位置を開けておいた、といった見方もできなくはない。道路側直近の位置であるから来客者による無断駐車等も考え得るが、前田さんの車にキーが付いていたことと照らし合わせれば、所定の位置に停まっていた前田さんの車を「犯人が移動させた」と見るのが妥当だろう。

遺体が道路側へ3メートル程「引きずられた形跡」との表現からは、「自分で這ったような形跡ではなかった」ことが読み取れる。

犯人は現場でとどめを刺した後、遺体を隠匿ないし移動させようと考えた。だが自分の車に血まみれの遺体を乗せる準備がなく躊躇したか、そもそも車がなかったためか、「前田さんの車」に乗せることを思いつく。裸に近い格好の彼女が車のキーを持っていたとは考えづらく、犯人はわざわざ部屋まで探しに戻った可能性が高い。逃亡に際してはカードキーで施錠まで行う余裕まで窺える。

しかし犯人は遺体が重く手間に思ったのか、自身の怪我の程度が悪く手こずったのか、それとも新聞配達や車が通りがかったりしたためか、死体遺棄を途中で投げ出したかのように見えはしまいか。遠く人目のつかない場所へ死体を遺棄したとしても使った車はどうするか、どうやって自分の車(ないし自宅)まで戻ってくるか等と思案するうちに頭は混乱、時間と共に怪我の痛みも増してくる。作業を諦め凶器もその場に放り出して、急に慌てて逃走したかに思える。

 

年恰好までは分からないが、部屋で一度は取り逃していることから推測するに男性であれば相当に非力な人物。現在の那須塩原市大田原市周辺で窃盗を繰り返していたと考えられる。侵入窃盗ともなればその日の暮らしにも困窮しており、主に深夜の犯行だったとすれば社会との接点は薄い。工場の単純労働者や年金世代の独身男性などが思い浮かぶ。蓄えがなく、転居もできずに近くで同じような犯行を繰り返しているかもしれない。

90年代後半のギャルブーム、社会問題化したダイヤルQ2やJK売春、00年代の“出会い系”犯罪のピークに「半裸の死体」となれば当然、何らかの性犯罪や痴情のもつれを誰しもが思い浮かべる。そうした社会の捉え方、警察の見立てとはかけ離れたところに真犯人は潜んでいるように思う。

 

 

■所感

長期未解決事件が「雪解け」するブレークスルーとして、犯人の「お漏らし」がある。

2021年、神戸市北区男子高生刺殺事件の犯人とされる元少年(事件当時17歳、逮捕時28歳)が逮捕され、大きなニュースとなった。逮捕された男は事件当時現場周辺に住んでおり、後々「人を殺したことがある」旨を口外していたと名指しの通報が入り、捜査が急展開したとされる。

また2004年、茨城大学に通う女子学生の遺体が清明川河口付近に遺棄された事件でも、女性はバイトやサークルなど交友関係が広く、直前まで交際相手と自室で過ごしていたことなどから捜査の方針が定まり切らず、捜査は難航した。

だが事件から8年後、犯人のひとりが周囲に犯行をほのめかす発言をしたことから通報につながり、事件は大きく進展。被害者とは全く交友のない、かつて近隣市に暮らしていたフィリピン人労働者3人組による性的暴行を目的に思い付いた「流し」の犯行だった。

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犯人の「お漏らし」や勇気ある通報を黙って待つばかりではいられない。DNA型鑑定は長期未解決事件を解決へと導く最後の頼みの綱として、現在も更なる技術開発が進み、2004年以降はデータベース化も行われている。

2001年2月に広島県福山市明王台で起きた主婦殺人事件は、21年夏に刃物を所持していたとして銃刀法違反容疑で調べを受けた竹森幸三(67)に任意でDNA採取を求めたところ、事件現場に残されていた血痕の型と一致した。

竹森は当時同市で造園業を営んでいたとみられ、現場から5キロ程の場所に住んでいた。調べに対して当初は「記憶にない」と容疑を否認したが、21年10月25日に逮捕。翌月「腹部を刺した」「宅配を装って女性宅に入った」と容疑を認め、広島地検に起訴された。事件から20年8か月、発生から逮捕まで最長の記録だという。

 

血痕試料が採取されていることから本件も解決の希望は残されている。10年経っても20年経っても被害者の悔しさ、残されたものの悲しみは失われることはなく、事件は時間が解決するわけではない。凍てついた時計の針を動かすことができるのは捜査員のたゆまぬ努力だけである。我々市民にできることは「助け」を求める声には素直に耳を傾け、すぐに通報すること。今後も事件の進展に期待したい。

 

前田さんのご冥福とご遺族の心の安寧をお祈りいたします。

 

 

情報がある方は 那須塩原警察署 0287-67-0110 まで。