つくば高齢夫婦殺害事件について

 事件の風化阻止のため、2017年末に起きたつくば市高齢夫婦殺害事件について概要の説明および考察を行う。

 

物証や目撃情報などに乏しい事件だがいくつか思いつくことを記す。想像しうる可能性について述べた一部事実に基づかない内容になるが、故人や遺族、関係諸氏に対する誹謗中傷の意図はないので何卒ご了承願いたい。

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2018年1月1日元日の夕方、年始のあいさつに訪れた次女夫婦らがつくば市東平塚に暮らす両親のもとを訪れた際、二人の遺体が発見された。

被害者は建築業を営む小林孝一さん(77)と妻・揚子さん(67)で、子どもたちは独立しており夫婦2人暮らし。遺書や凶器は発見されなかった。

司法解剖の結果、死因は頭部などの挫傷による失血死と判明し、茨城県警は殺人事件と断定して4日捜査本部を設置した。

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■事件当初

1日16時40分ごろ、次女の夫が「2人が倒れている」と通報。正面玄関は施錠されており、次女夫婦は長女から借りた合鍵で中に入った。

12月30日18時頃、次女が電話で揚子さんと話しており、元日の訪問予定を伝えていた。また31日朝8時以降、揚子さんの携帯電話には複数回着信があったがいずれも「不在着信」となっていたことから、当初2人が30日18時以降から31日8時の間に殺害された可能性が高いと見て捜査が開始された。

孝一さんは2階和室(寝室として使用)で寝具の間でうつぶせ、揚子さんは和室を出てすぐの2階廊下であおむけに倒れており、いずれも寝間着姿。死因はともに「頭部外傷による失血死」、凶器は「表面が平らな鈍器のようなもの」と見られているが特定には至っていない。孝一さんは後頭部を中心に数か所(8から9か所?)の外傷と右腕骨折、揚子さんは顔面から後頭部にかけて傷は十数か所に及び、頭蓋骨に「骨折線」、腕に皮下出血(防御創)も見られた。

発見当時、玄関や勝手口は施錠されていたが、以前カラオケ店として使用していた1階と住居部分の2階の窓が数か所未施錠になっていた。日頃使用していたとみられる自宅の鍵は建物内で見つかっている。2階和室には荒らされた形跡がなかった

■現場について

敷地は周囲が雑木林や果樹園に囲まれており、隣り合う家などはないものの、数十m裏手には新興の住宅が垣間見える。住宅構造を比較すると小林さん宅は建売住宅や代々続く農村型邸宅とはやや異なる。

国土地理院による航空写真では1980年5月には同位置に建物らしきものが確認できたが、1977年5月撮影の写真では森林しか確認できないため、およそ40年前に建てられたと推察される。現在の地図でいえば、古くからある農村部とつくばエクスプレス開業(2005年)以降の新興住宅や商業区域が入り混じる緩衝地域にあたり、着工当時はまさしく「森の中の家」である。建設業で腕をならした孝一さんが自分の手でイチから建てたことが窺える。

家に面した道路は、道幅が車2台分の細い通りで、南北数百mにわたって小林さん宅以外に店舗や民家、防犯カメラなどはない(事件当時は不明だが、2020年現在は小さな外灯が点々と設置されている)。交通量自体は多くないものの日中は“抜け道”として利用する車もある。

小林さん宅のある「東平塚」地区の人口はそう多くないが、新興住宅が多い「学園の森」「苅間」、大学生向けアパートや学生宿舎のある「春日」地区など、周辺人口は非常に多い。近くを通る国道408号は交通量が多く、車で数分の場所に大型ショッピング施設、国立研究施設、大学施設が存在する等、広域的に捉えれば“僻地”といった印象は全くない。

だが局地的に見れば、深夜になると著しくひと気がなくなる雑木林が続くためか、付近には「不法投棄禁止」の警告表示が存在する(過去に不法投棄があった場所に土地所有者が設置するのが通例)など、人目の届きづらい場所であることも確かである。

 

2018年4月、事件後に空き家となっていた現場から指輪やネックレス等貴金属820万円相当が侵入窃盗被害に遭うなど、時間帯によって「死角」となりやすくピンスポット的に防犯性は低い立地といえる。

(2018年9月、転売された盗難品から土浦市右籾の無職・内川誠(47)、無職・伊藤幸子(42)、住所不定自称塗装業・浅海博章(46)の関与が発覚し、窃盗容疑で逮捕。夫婦殺害との関連性はないと見られている。)

 

■事件報道と夫婦の人柄

 12月末に揚子さんと話したという60代女性によると、31日22時頃に小林さん宅の前を通った際、2階の部屋の電気だけがついていたと言い、「夫婦仲もよかったので、驚いた」と話している。

夫婦を知る50代女性は「2人は近所付き合いが殆どなかったし、人に恨まれるようなことも思い当たらない」と語る(2018年1月2日,朝日新聞)

近隣住民によると、小林さんは自宅に防犯カメラや防犯照明器具のセンサーライトを設置していた。事件当時も設置・作動していたかどうかは明らかではないが、日頃から防犯に気を使っていたという。

捜査本部は、小林さんが建築業で使う阿見町の作業場など数か所を捜索した。(2018年1月8日,茨城新聞)

 夫婦は近所のスーパーから帰宅した12月30日19時30分頃から、揚子さんの知人が自宅を訪れたが反応がなかった31日7時頃の間に殺害

現場に残された血痕などから、犯人は2階にある腰高窓からベランダに出て逃走したとみられる。(2018年12月26日,読売新聞)

 捜査開始からおよそ1年間で捜査員のべ7900人以上を投入したが、情報提供は24件と少なく、夫婦の交遊関係からもトラブルは浮上しなかった。だが揚子さんが30日夜に近所のスーパーへ買い出しに行ったことや31日朝に知人が訪問していたこと等が公表され、犯行時刻は30日19時30分ごろから31日午前7時頃までのおよそ12時間ほどに絞られた。

 

建設業でも設計から大工仕事、鉄骨関係まで器用にこなした孝一さんは、約30年前、本業とは別に自宅1階を改装した居酒屋を開店。そこで働いていたのが揚子さんだった。当時2人は共に別の配偶者があったが、のちにそれぞれ離婚し、約10年前に再婚した。

かつて居酒屋の常連だったという近所の住民は「孝一さんがすごく良い人でとにかくいつもにこにこしていた。揚子さんは客扱いが上手。だから結構みんな来ていた」と営業当時を振り返る。2人はカラオケが好きで衣装を着て大会などにも参加していたという。経営は順調で店舗を増やして揚子さんが切り盛りしていたが、約5年前に「年でもう疲れたから」と経営の第一線からは退き、店を人手に貸すようになった。周囲の人々は金銭トラブルもなく、怨恨をもたれるような人柄ではなかったと語る。

一方で、ワイドショーの取材を受けた揚子さんの親族女性は「モノをはっきりいう子。ワーッと言っちゃうんですよね」「どこかで恨まれてるのかな、知らないところで誰かいるのかなとも思う」と語っている。

知人女性は小林さん宅の前で「黒いジャンパーの男」の後姿を2度目撃したことがあり、車ですぐに去ったという。そのことを生前の揚子さんに伝えると「石を投げてトイレの窓ガラスを割られたりとかは何回もあった」と何者かによる嫌がらせを繰り返し受けていたことを明かしたという。また夏ごろには新聞や庭の花がなくなるといったトラブルが続き、孝一さんがそのことを警察に相談したと聞いた住民もいる。(同ワイドショー)

2018年12月31日,朝日新聞では、孝一さんの長男・照幸さんが取材に答えている。

署で父の遺体と対面すると、鼻がつぶれ、目の横が切れていた。「犯人を殺してやりたい。悔しい」と怒りと悲しみでいっぱいになった。

照幸さんにとって「父は何でも1人でできる職人」で、あこがれの存在だった。溶接や電気工事、内装まで1人でこなし、事故現場となった自宅も孝一さん自らが建てたという。

照幸さんにとって義母となる揚子さんとは、そりが合わなかった。孝一さんの所有物を揚子さんが売ろうとしたことなどがあり、口論になることがしばしばあった。

揚子さんとの不仲を知る友人から「犯人視」されたこともあり、捜査員からは連日事情聴取を受けたことで精神的苦痛を負った。「トラブルがあったことは事実だから仕方ない」「本音では、俺じゃないぞと早く疑いを晴らしたい」と胸中を明かした。

 残念ながら照幸さんの想いとは裏腹に、事件から一年を境にぷっつりと報道されることもなくなってしまっている。ご夫婦の人柄について上の証言からは、孝一さんは職人タイプだが不愛想ではなく温厚、揚子さんは商売っ気があり利発なタイプと推測される。

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■考察①犯人像について

まず2階和室に荒らされた痕跡がなかったこと、事件後の4月に空き巣窃盗が行われた(金品が手つかずで残されていた)ことからも「窃盗目的」の可能性は極めて低く、殺害そのものが目的の犯行ではないかと考えられる。

 

この可能性を推し進めて考えると、孝一さんの仕事関係の線は比較的薄いように感じられる。

ワイドショー内で「鉄骨関係の専門家として業界では知られていた」との証言が紹介されており、畑違いの居酒屋経営に乗り出すほどであったことからも、事業は順調だったと考えられる。仕事関係で殺害の動機となりうるほどの恨みを持つとすれば、「雇用主にひどい扱いを受けた」といった社員のハラスメント被害や、「取引で大損させられた(騙された)」といった経済的被害に関する不満などが考えられる。そうした立場の人物であれば、始めから窃盗が念頭になくとも殺害後に何がしか物色するのではないかと考えられるのだ。

ではかつて営業していたカラオケ居酒屋関係はどうか。

接客業であるから些細なことで他人から恨みや嫉みを買ってしまう可能性もなくはないし、配偶者の存在を知りながらも横恋慕して言い寄る客などもあったかもしれない。だが第一線を退いて(店貸に移行して)すでに5年経ってなおも殺害動機になりうるほどの恨みや相当の恋愛感情があったとすれば、当時の従業員や常連客なり周囲が察するものもあったはずである。従業員とも親しい間柄だったらしく「(店に立たなくなってからも)カラオケをしによく顔を出していた」「(揚子さんが)店の大掃除のときにおせちを持参してくれた」といった証言がある。店の規模・業態としても、強い恨みをもつ者があればすぐに捜査線上に浮上するものと考えられる。

 

ご夫婦が再婚に至るまでの経緯についての詳細は分からないため、再婚を前提として離婚したのか、偶々それぞれが離婚した後で再婚につながる交際へと発展したのかといった順序は定かではない。だがお互い離婚前からオーナー店主と従業員として知り合いだったことから考えれば、同時期に「他の交際相手」がいたとはやや考えづらい。離婚時期や理由、元配偶者についての情報は出ていないが、離婚前に勤めていた従業員などは夫婦のいざこざ等についておそらく多少耳にしていたと思われ、元配偶者についても早々に捜査の手は及んでいると考えてよかろう。離婚直後であればともかく、離婚成立から少なくともすでに10年以上が経過していること、それぞれの娘や息子たちが独立しており、「夫婦で正月のあいさつに出向く」「塗装業の孫(照幸さんの息子・力也さん)が孝一さんの仕事を手伝う」など離婚・再婚後も親子の交流は続いていたこと等から、元配偶者の怨恨という線はないと筆者は見ている。

 

小林さん宅の独特の立地に焦点を当てて地図をみると、素人目には仮にここに家がなかったとしたら新興住宅街がもっと広がっていたかもしれないと想像が浮かぶ。小林さんが過去にどういう経緯でこの土地に居を構えたかは定かではないが、上述のように40年ほど前(1970年代末あたり)に森をピンスポット的に拓いて家を建てており、「近所の人とも交流がなかった」といった証言からも、おそらく代々この土地を所有していた訳ではなかったと思われる。孝一さんは建築業界の伝手でこうした未開発の土地を入手したのかもしれない。やや特異ともいえる立地や10数年で一気に進んだ周辺開発の状況を鑑みると、上述したワイドショーで取り挙げた「黒いジャンパーの男」や繰り返された嫌がらせは、“地上げ屋”とまでは言わないが“追い出し屋”のようなものだったのではないかと勘繰ってしまう。不動産会社から土地の購入を提案されていたとしても、孝一さんは自分でイチから建てた思い入れの強い家だからこそ離れがたかったのではないか。よもや殺害に至るほどの立ち退き要求があったとは常識的には考えにくいが、「黒いジャンパーの男」や嫌がらせに絡むひとつの仮説として記しておく。

『直撃いばらき つくば夫婦殺人 あす半年』2018年6月30日,毎日新聞

どうしても気に掛かるのは「家族」である。上の記事ではご夫婦それぞれに「子どもが3人いた」とされている。各人について把握できていないがおそらく30~40代の壮年期にあたる世代であろう。孝一さんの長男・照幸さんが親元を離れて弁当屋を始めたように、6人それぞれの人生がある。力也さんのようにすでに成人を迎えたお孫さんも何人かいるかもしれない。照幸さんと揚子さんの「そりが合わない」きっかけとなった「孝一さんのものを売ろうとした」一件も、例えば「孝一さんと前妻との思い出の品」や「孝一さんが昔使っていた工具」などであれば、揚子さんが不要と考える気持ちも対立する照幸さんの気持ちも幾分理解できる。

10年前までほとんど面識もなかった相手が「父」「母」になれば誰しも戸惑って当たり前だし、親が選んだというだけで自分が気に入って家族に迎え入れた訳でもない。もしかすると夫婦関係の齟齬をそばで見ながら育った子よりも、単純に小さい頃かわいがってもらったという印象の強い孫の方が、以前の「祖父」「祖母」に愛着があったかもしれない。正面切って諍いになっていなくとも、「新しい親」「新しい祖父母」を迎えるという家族関係の変化に行き違いやわだかまりを抱く子や孫がいた可能性は十分に考えられる

下の平成30年版犯罪白書によれば、「非高齢群」65歳以下の加害者のうち被害者の「子」は7.8パーセントで、「孫」の項目は抽出されてないが「その他親族」のうち数パーセントは含まれていると考えられる。「子」や「孫」が殺害に絡む事案は概ね1割程度と考えても、離婚・再婚があり子どもが6人いた小林さん夫婦の家族関係と照らし合わせると、これは少なくない数字のように私には思われる。

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■考察②犯行について

元配偶者や他の交際相手などの線を消してもよいのではないかとする理由としては、「時間の経過」以外にも「犯行」について思う所があるからだ。

まず逃走経路が2階ベランダであることから、比較的運動能力が高い人物が推測される。冒頭の画像やgoogleストリートビューでも確認できる通り、小林さん宅の構造は「倉庫」や「雨よけ」「塩ビ配管」「母屋よりやや低層の増築部分」等から、一見すると母屋2階ベランダに侵入しやすそうな印象を受ける。運動能力が高くない人であれば怪我のリスクをおそれるかもしれないが、若者やある程度高齢でもたとえば孝一さんのように高所の現場作業に慣れている人間(職種であれば大工や庭師、果樹園農家など)であれば「上れそう」と思わせる外観なのだ。そのためおそらく犯人は10代後半から50歳前後、あるいは高齢でも60歳代で、運動能力に長けた人物像が思い浮かぶ。

元配偶者や仮に他の交際相手がいたとしても被害者より一回り以上若くなければ侵入は難しいのではないかと思われる(情報がない以上、若い元配偶者・交際相手がいた可能性は否定できないが)。だがそうした親密な関係性であれば、他人に依頼する契約殺人ではなく自らの手で相手に復讐したいと考えるであろうことから、元配偶者や元交際相手による犯行の線は個人的にはあまり考えてはいない。

 

また「犯行時刻」についても実証はできないが状況から絞り込むことはできる。小林さん夫婦がスーパーから帰宅したのがおよそ19時30分頃。また寝間着姿で発見されていたことから考えても犯行は就寝直前から就寝中と推測される。既述のように農村部と新興住宅地が交錯する地域のため、暮れではあるがスーパーやショッピング施設、飲食店等は比較的開いていた(小林さん宅から最も近いスーパーは24時間営業)。店舗もほとんどないような農村集落であれば住民の就寝も早いかもしれないが、すぐ裏手の新興住宅街には深夜まで起きている家族もいたと考えられる。普段のような通勤の車は少なかったにしても外食や買い物の用事で23時頃までは小林さん宅の前の道を通った車が何台かはあったのではないかと思われる(当夜の営業時間は定かではないが、1kmほどの場所にファミリーレストランが3店舗集まっている)。この通りは道幅も狭く「小林さん宅」のほかに何もないためそこに車が停まっている等すれば印象に残りやすい。隣接する果樹畑にも駐車できる程度のスペースはあるが、裏手の新興住宅地から発見されるリスクもあるため、まず深夜に襲撃したと考える方が自然である。筆者の見立てでは、深夜0時以降から5時の間、周囲の家が寝静まり他に車が通らない時間帯に侵入したと見ている。

 

「凶器」に「表面が平らな鈍器のようなもの」が用いられる点については大きな疑問が残る。鈍器で殴打するシチュエーションというとTVドラマ等ではよく「突発的」「衝動的」に手近なモノを凶器にしての犯行を描く際に用いられる。まさしく“力任せ”ともいえる犯行であり、ご高齢とはいえ2人を骨折させ死に至らしめる程度に殴打を繰り返していることから男性による犯行と考えてよいと思う。

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平成30年版犯罪白書によれば、殺害に用いられる凶器の約5割が刃物、およそ1割が鈍器とされる。「表面が平らな鈍器のようなもの」という鑑識はおそらく頭蓋骨に受けた打撃から推定されたものと考えられる。

凶器は持ち去られていることから、持ち運び可能な鈍器を具体的に考えると、たとえば直径20~30センチ程度の大きな卓上灰皿、硬度のあるブロックレンガ、太い角材の切れ端、トロフィー類の重みのある土台や卓上時計、厚手の四角い花瓶などが思い浮かぶ。いずれにしてもそれなりに重量とサイズがなければ殺害に用いる「鈍器」にはなりえず、小型のリュックを背負っていたとしても「刃物」や「スタンガン」「ロープ」等に比べて携帯性は劣る。そうすると犯人は「鈍器」を用いる計画ではなかった可能性も考えられる。たとえば鞄に刃物などを携帯していたが侵入時の物音でご夫婦が目覚めて部屋から逃げ出そうとしたところを慌てて後ろから殴ったのではないか。ベランダや室内にあったモノを咄嗟に凶器に使ったことは十分に考えられる。あるいは侵入と逃走のことも含めて考えると、2階ベランダに上る際に「アルミ製の軽い脚立」等を用い、人目を嫌って2階まで持ち込んだ場面も想像できる。突発的にそうしたモノで凶器に代用した可能性もゼロではないだろう。

 

すでに述べたように、私は31日未明(30日深夜~31日明け方)を犯行時刻と考えている。だがこの日取りにもやや不自然さを感じる。年末年始は休業の人が多く、生活のルーティーンが著しく変わるため、普段より夜更かししていたり早朝から遠出したりと行動が不規則で予測しづらい。不在になる家も多くなる一方で、31日の朝に来訪した揚子さんの知人や1日にあいさつに訪れた次女夫婦のように、年末年始は人の出入りが多くなるケースも大いにある。日本人の常習的窃盗犯などはそうした慣習も考慮して事に及ぶとされる。もしこの日付に意味があるとすれば、①平日は犯人が仕事などで多忙を極める、②早々に、あるいは年内に夫婦を殺害したい意図があった、③早々に遺体を発見してほしい意図があった、④犯人が上記のような慣習に無頓着だった、などの理由が挙げられる。①であればやはり被害者と同年代ではなくひとまわり以上若い世代と考えられる。②については近々に被害者とトラブルとなり期間を空けず殺害に及んだケースがそれに当たり、だとすれば周囲の人間が聞き知らなかったとしてもおかしくない。また芸能人の年末結婚ではないが、あえて話題が集中しづらい年末年始の時期を狙ったということも考えられる。③通例であれば加害者は発見を遅らせたい意思がはたらくものだが、いわゆる暴力団の見せしめ等によくあるケースであえて“不審死”“殺人事件”であることを生存者に知らしめて脅す目的である。この事件では孝一さんは建築業の第一線からは退いているためやや薄い線かもしれない。④はそうした発想に至らない若者や心神耗弱者、慣習に疎い外国人などが想定される。令和元年の住民基本台帳では市民人口が23.7万人、うち在留外国人が約1万人と人口比は高くないものの外国人人口は県内では抜きん出て多い。金品を奪わずに殺害に及んでいる点などは、2019年8月に茨城県八千代町で起きた老夫婦殺傷事件(※)を彷彿とさせ、もしかすると近隣で外国人とのトラブルがあった可能性も否定はできない。

(8月24日3時すぎ、八千代町に住む大里功さん宅に「目出し帽」の男が土足で侵入し、功さん(76)が刃物により胸や腹10数か所を刺され死亡、妻・裕子さん(73)が腹を刺され重傷を負った事件。9月、現場から2㎞の寮で暮らすベトナム国籍の農業実習生グエン・ディン・ハイ容疑者(21)が逮捕された。前日に出刃包丁を購入しており、金品には手を付けていなかった。殺害の動機は明らかにされていないが、『週刊女性』の記事では、功さんの趣味である「釣り」や「ゴミ捨て」にまつわる外国人とのトラブルを取り挙げている。)

 

逃走について。31日未明の天候は晴れ、気温は‐1~1℃。真冬の深夜に徒歩移動はやや考えづらいものがある。「鈍器」が持ち込みであれば自動車かバイク、「鈍器」が現地調達であれば自転車も交通手段として考えられる。バイクや自転車であれば現場周辺で隠し置くには都合がいい。付近にコンビニエンスストアはなく、小林さん宅から北西は古くからある農村集落、南手に抜けると新興住宅や商業施設などは多いものの道路側を映す防犯カメラは限られる。

自動車、バイクでの逃走であればNシステム(ナンバー自動読込装置。運転者の判別も可能)に映り込む可能性もあり、小林さん宅付近にも設置個所がある。下の略図は、国道408号を右側の太線、小林さん宅を「K」、Nシステムを「N」でそれぞれの位置関係を表している。408号と小林さん宅に面した通りがほぼ平行に位置しているため、Nシステムを避けることはたやすいのである。そして国道まで出てしまえば深夜でも交通量があるため目立たず逃走できたのではないかと思われる。

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ここまで様々な可能性を思いつくままに論じてきたが、現状公開情報が少なく、ご夫婦自身も周囲の(代々暮らしている)地元住民との付き合いが薄かった面もあり、二人の生活実態や外部の人間関係などについて予測が立てづらい事件でもある。

筆者は、捜査進展のカギはおそらくこの5年ほどのご夫婦の隠居生活の中にあるのではないかと感じる。新たな追加情報が出てこない以上、当時の夫婦の暮らしぶり(どういうものを好んでいたか、どういう場所に通っていたか)や体調変化(失礼な話かもしれないが、たとえば認知症など夫婦二人暮らしだと発見や対応が遅れるケースも多い。また健康食品や民間療法などにアクセスしている可能性もある)、周囲の関係者の変化(事業に失敗した等)を今一度洗い直す必要がある。

いかような動機を持つ犯人にせよ、今も素知らぬ顔で暮らしていると思うと、恐怖以上に怒りがこみ上げてくる事件である。捜査の進展と一刻も早い解決を願ってやまない。

 

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(2021年1月15日追記)

茨城県警は、逮捕につながる情報提供に対し、最大100万円の遺族による私設懸賞金(2024年1月14日まで)が設置されると発表した。

孝一さんの長男・照幸さんは「情報提供者の個人情報は必ず守られるので、どうか勇気を持って犯人逮捕にご協力いただきたい」と話している。

■情報提供は県警フリーダイヤル (0120)144559 まで。

www3.nhk.or.jp


 

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