豊田市女子高校生強盗殺人事件

2008年、愛知県豊田市の農道で下校中の高校1年生の女子生徒が殺害された事件について、風化防止の目的で記す。

14年間で警察はのべ約87000人を捜査に動員し、およそ1700件の情報が寄せられているが、現在も被疑者の割り出しに至っておらず、捜査特別報奨金制度の対象として広く情報提供を募っている。

www.pref.aichi.jp

 

情報提供は

豊田警察署 特別捜査本部 フリーダイヤル 0120-400-538 まで

 

 

■概要

5月3日(土)5時30分頃、愛知県豊田市生駒町切戸の農道で、愛知教育大付属高校に通う清水愛美さん(15)が遺体となって発見された。制服姿で田圃に仰向けに倒れており、横に通学用の自転車が倒れていた。下校途中で何者かに襲われたとみられ、制服は泥だらけで、両脚とも靴は脱げており片方が遺体の下で見つかるなど争ったような形跡があった。

 

前日の2日(金)、愛美さんは部活動を終えて18時45分頃に校門近くで友人と別れ、自転車に乗って一人で下校した。しかし普段ならば帰宅しているはずの19時半を過ぎても家に戻らず、携帯電話の応答もないことから家族は通学路や付近の捜索に周った。当初、携帯電話は呼び出し音が鳴っていたが、途中から不通になった。

家族は21時半頃、高校に連絡を取り、深夜24時近くになって交番へ届け出たがその後も発見できず、3日未明に豊田署へ捜索願を提出。署員や家族、知人ら数十名で通学路周辺を中心に夜通しの捜索を続け、警察は捜査範囲を絞り込むため携帯電話キャリアに依頼し、微弱電波から地域の絞り込みを行った。早朝5時30分頃、位置情報を基に付近を捜索していた知人女性が農道よりやや低い田地の中に変わり果てた少女を発見した。

 

■地域と現場

現場は伊勢湾岸自動車道の豊田南インターから西約150メートルで、学校から約3キロ、自宅まであと1キロ程の地点。周囲を田畑に囲まれた一角で街灯もなく、見通しの利く田園地帯だが19時過ぎともなれば暗闇に包まれる。一番近い民家でも50メートル程離れており、現場を訪れた元愛知県警中警察署長・玉越清美氏は「犯人が待ち伏せしやすい場所である」と指摘している。

 下のストリートビューは2012年撮影のもの。現在では運輸会社や食品小売り会社の物流拠点が建設され、事件当時の閑散とした風景は失われている。

 

学校近くにコンビニが一軒あったが、工場や農地の間を抜けて通学していたとみられ、途中に市街地はないため監視カメラはごく限られていた。

近郊には大きな工場が点在するため、普段は農道のそばを通る県道56号名古屋岡崎線にも車通りがあるのだが、この日は大型連休と重なって交通量が少なかった。また県道56号の上方に湾岸高速道路が通っており、大型トラックの通行量が多いため、悲鳴を上げたとしても車の音でかき消されて遠くまでは聞こえなかったと考えられる。

 

中心市街からは外れた市の西端部に近く、多くの市町と隣接する地域である。被害者が通っていた高校は刈谷市であり、その北に位置する豊明市で起きた母子4人殺人放火事件(2004)の現場へも車で15分の距離である。

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拳母(ころも)市をルーツとした旧豊田市は県のほぼ中央に位置していたが、2005年4月に東部の6町村と合併して現在のボリュームになった(広さ918平方キロは県の約17.5パーセントを占め県最大、人口42万人は名古屋市に次ぐ)。製造品出荷額は全国一位で、その85%、11万人以上が自動車関連企業で働いており、ほか精密機械などの工場も多い。一方で、平野部ではコメの生産も盛んであり、事件現場はちょうど工場密集地と宅地区域の間に位置する田園地帯だった。

豊田市は人口約42万人に対して犯罪認知件数約7000件と際立って犯罪が多発している訳ではなく名古屋市一宮市に比べれば人口当たりの犯罪発生率は低い水準である(尚、愛知県は平成19年から30年まで12年連続で侵入窃盗被害件数ワーストの記録がある)。

2008年(平成20年度)の豊田市の犯罪発生件数について目立った動向を確認しておくと、前年に比べて空き巣、自動車盗、オートバイ盗、自販機盗は増加、粗暴犯、知能犯、居空き、自転車盗は減少している。「強盗」は13件から16件に増加、「強制わいせつ」は27件から23件に減少している。むしろ街頭犯罪に関して言えば、2004年に全体で5793件だったものが2008年には3615件と大きな減少がみられる時期である。

 

■被害状況と遺留品

遺体は左手首に切り傷、顔面に打撲痕が複数あり、多量の鼻血が出ていたことから、被害者は突然顔面を殴られるなどして抵抗できなかったものとみられている。司法解剖の結果、死因は口元の圧迫か、鼻血などが詰まったことを原因とした気道閉塞による「窒息死」と推認された。死亡推定時刻は2日19時25分から発見までの間とされている。

ミニタオルを口に詰められ、首には幅3.8センチで伸縮性のある黒色のビニールテープ日東電工社製・電気絶縁テープ)が7重に巻きついていた。このテープは直接の死因ではなく、首に対して緩く巻き付いた状態で見つかっており、元は犯人が口元のタオルを押さえるために巻いたものが外れ落ちたと考えられる。

 

捜査本部の発表では、被害者は「乱暴された形跡はない」とされ、遺体から犯人の体液は検出されなかったと伝えられている。だが被害者が若い女性、それも大金の所持が見込めない学生を狙ったことを踏まえれば、襲った動機はわいせつ目的だった可能性が高いと考えられている。

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遺留品について、靴と携帯電話は遺体のそばにあったが、通学用の黒色のショルダーバッグ(アディダス社製のスポーツバッグ)は周辺で発見されなかった。繋がらなくなった携帯電話は泥水に浸水したためか故障したものとみられている。

口に詰められていた薄い水色のミニタオルは被害者の所持品ではなく、犯人の遺留品とみられており使用感があった。サイズは25×25センチで「Sunlight」の刺繡が施されたもの。

名古屋市内の環境資機材製造・販売会社が販売促進用に製造したもので光触媒加工が施されている。2005年までに約1000枚を製造し約750枚が流通しているが、その大半は建築・塗装会社に配布されていた。そのうち流通記録が残るのは370枚前後で130枚が県内へ配られている。ほとんどはイベント会場で配布され、一部は市販もされていた。

遺体近くには被害者とは別の足跡が一種類だけ残されており、単独犯との見方が強まった。2009年段階で数種類まで絞り込まれたとされるが、靴の種類やサイズ等は報じられていない。

 

遺体発見と同じ5月3日6時頃、遺体発見現場から南東へ12キロ離れた岡崎市稲熊町の小呂(おろ)川沿いの草むらに捨てられている泥の付いたバッグを散歩中の女性が発見した。豊田市の現場から車で県道26号を通って30分程の距離で、周辺に住宅は多いが地元の人以外は滅多に通ることのない、車がすれ違うのがやっとという細い道路沿いである。

 

バッグには教科書、腕時計、電子辞書、弁当箱など女子生徒の所持品が入っていたが、部活で使用した濃紺色のジャージ上下(アディダス社製で水色のロゴ、ライン)が見つからなかった。尚、普段使っている財布は自宅に置いてあった。

下半身の下着が奪われていたとの報道もあり、ジャージが持ち去られたとみられる状況と合わせて「女性の衣類に異様に執着を示す変質者」といった見解も見られる。

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切っていない新品の結束ベルト

また2009年12月、白い化繊製で先端にプラスチックの留め具の付いた荷造り用の結束ベルト(大阪府のロープ製造会社が5年以上前から生産し、全国で年間2000本超を販売)が遺体近くに輪の状態になって落ちていたことが報じられた。元々は長さ2mと3メートルの2種類で幅25ミリの製品だが、見つかったものは長さ約50センチほどに切られていた。犯人が事前に切って持参し、被害者の腕を縛って拘束する際に用いたものと見られている。

遺留品の流通経路を調査した結果、現場から北東約10キロの豊田市内のホームセンターでの取り扱いが確認され、2010年4月、事件の約2週間前に同じ種類の結束ベルト、ビニールテープを一緒に購入した客がいたことが明らかにされている。

産経新聞は、この結束ベルトに貼られたシールから男のDNAが検出されていたことを報じている。シールは購入後に貼られたと見られ、DNAは犯人のものの可能性があるという。検出されたDNAは不完全で、塩基配列全ては明らかになっていないが、県警は個人の絞り込みは可能としている。記事からはどのようなシールなのか、採取されたDNA片は何に由来するものかといった情報は明らかにされていない。

また被害者の着衣に手袋痕があったことも分かり、犯人は手袋着用だった可能性が高い。首のビニールテープは鋭利な切断面から、現場で刃物を使って切ったものとみられ、周到な計画性が指摘されている。

 

■予兆?

愛美さんは両親と3人の兄との6人暮らし。3月まで通っていた中学では副生徒会長、卓球部では副キャプテンを務めるなど「縁の下の力持ち的な存在」として活躍し、みんなから「まなちゃん」の愛称で親しまれていたという。中学時代は人の役に立つ仕事に就きたいと語り、尊敬する人に母親を挙げて同じ看護師の夢を抱いていた。

責任感が強く真面目な人柄で、卒業文集には「いろんな人に助けられ、たくさん支えられてきて2年半、卓球を楽しく続けられたと思います。これからも感謝の気持ちを忘れることなく生きていきたいです」と綴っていた。学業も優秀で、高校へは推薦入試で進学。高校ではサッカー部のマネージャーを務めていた。

 

愛美さんは携帯電話で当時若者に人気があったプロフ(携帯電話向けプロフィールサイト)に短い日記を綴っており、事件直前には何かしらの不安をほのめかすような記述が見られ、事件との関連が疑われた。

2008年5月1日

07時05分;なんであんな日に限って見ちゃったのかなあ… ほんともういや…

17時00分;気にしてるって思われたかなあ…

19時00分;なんかこわいんだけど お母さんおそいよお

22時07分;違うんだよね…?気のせいだよね?

2008年5月2日

12時12分;気持ち悪い 部活どうしよ

事件を知ってからこの文章だけを見ると、たとえば愛美さんが1日以前に「見てはならないもの」を目撃してしまい、その後、だれかにストーキングされるなどの不安に怯えていたかのようにも読み取れる。

 

実際、現場農道につながる県道26号は以前から「変質者ロード」とも呼ばれ、露出狂の出没や女性が身体を触られる事案が過去にもあったと報じられている。また同時期に周辺地域では女子生徒を狙う事件が相次いでいた。高校周辺でも4月半ばに下校中の女子生徒が体を触られそうになる、4月30日に付近で露出男が現れるなどの不審者情報を受け、校内でも注意喚起を呼び掛けていた。

4月21日夕方、現場から北東へ約12キロ離れた名鉄豊田市駅の公衆トイレで個室の壁の隙間から女子高生が携帯電話でカメラを向けられる覗き事案があった。

4月23日19時過ぎ、現場から北へ約8キロ離れた愛知県東郷町春木の路上で、愛美さんと同じ高校に通う別の女子生徒が自転車で帰宅途中に覆面をした若い男に押し倒され、腹を蹴られるなどの暴行を受けた。

4月25日19時半ごろ、現場から東へ約3キロ離れた豊田市若林東町赤池の農道で、自転車に乗った高校2年の女子生徒がバイクに乗った男に襲われている。道を尋ねるように声掛けして接近すると、手首をつかんで髪を引っ張り、押し倒す事案が発生していた。

4月29日15時20分ごろ、同じ若林東町内で書店内にいた小学生の女子児童が黒いジャージを着た男に手をつかまれ、店内のトイレに連れ込まれる事件もあったという。女児は逃げて無事だった。

 

事件直後も、わいせつ犯罪は収束しなかった。

5月9日23時20分頃、岩倉市石仏町の農道で高校2年生の女子生徒(16)が自転車で通行中に襲われ、顔面を殴打されて草むらに連れ込まれ下半身を触られるなどし、頭部に打撲などの軽傷を負った。近くで引っ越し作業中だった男性教諭が悲鳴を聞きつけて犯人を取り押さえ、一宮市千住町に住む自動車部品会社社員F(33)が現行犯逮捕されている。

5月12日、愛知県東部で下校途中の高校の女子生徒の後をつけて自宅に押し込み、ナイフで脅して乱暴するなどした刈谷市里山町の派遣工員Eが強姦致傷の疑いで逮捕された。過去にも同様の前歴があり、自宅から豊田市の現場が近いことから本件との関連も疑われたが同年12月に強姦容疑で再逮捕されて以降の続報はない。

5月15日には豊田市平芝町で女子中学生が自宅マンションに帰宅したところ、男に背後から体操服を切りつけられる事件も発生している。この生徒に怪我はなかったものの、体力に劣る女子生徒をつけ狙う事件は後を絶たない。

9日に事件のあった岩倉市はやや遠方にはなるが、こうして見ると女子生徒や若い女性を狙った暴行事案が続発していることに恐怖を覚える。だが日頃、大きく報道されないだけ、視聴者側もあえてそうしたニュースに注目していないだけで、このような事案は連日連夜、全国至る所で起きている。愛美さんもそうした犯罪に巻き込まれ、不幸にして命までをも奪われてしまったのではないかとの見方が強い。

 

大学や高校では監視カメラを設置し、部活動の短縮など警戒態勢が敷かれ、それまで連携できていなかった周辺の小中学校とも不審者情報の広域共有ネットワークを結んだ。事件や相次ぐ不審者情報による危機意識の表れか、市教委と警察、学校が連携して不審者情報を提供する緊急配信メールは事件前3078件だった登録数が、半年余りで1万1300人に急増したという。

 

■見当違い?

メディアでは愛美さんのプロフの情報を基に、中学時代に同級生の交際相手がいたことも一部には報じられており、犯人は単独犯で土地勘があったとみられること等から一部ネット上には、学校関係者による犯行や「恋愛関係のこじれ」を疑う声もあがった。

だが2008年6月、掲示板サイトに被害者と「小中学校が一緒」で「同じ高校の子に(被害者の近況を)聞いた」という人物からそうした意見を否定するカキコミが行われている。曰く、愛美さんは2007年(中3)の冬から交際がスタートしたが、事件より前に相手側が部活動に支障が出るとして彼女を振ったとされ、彼女の方にはまだ未練があったのだという。

プロフに書かれた「見ちゃった」「違うんだよね…?」というのは「元カレ」が別の女子生徒と仲良くしている場面を見てしまったことにショックを受けて書き込んだのではないか、と推測している。

現在では愛美さんらのプロフの内容を遡って検証する術はない。掲示板へのカキコミは匿名で行われたもので当然「なりすまし」や身バレ防止のために身分を偽っている可能性もある。だが、事件から一か月以上が経って報道がやや落ち着いてきたタイミングでのカキコミ、あえて自らの立場を「被害者の友人」とはしていない(被害者に近い友人からの伝聞として記していた)こと、他のユーザーとの複数のやりとりから鑑みるに、全く無縁の第三者による投稿とは思えず、少なからず愛美さんと近しい筋から得た情報と思われる。

別れても復縁したりつかず離れずの関係というものもあり、「元カレ」だったのか「継続中」だったかの交際状況を判断することは難しいものの、愛美さんは不審者などを目撃した訳ではなく元カレと別の生徒の親交(逢引き)を目撃したとする推測の信頼度は高いのではないか、と筆者は考えている。無論、元交際相手や元交際相手と親しくしていた生徒らが事件に係わりがあるとは考えていない。

 

また2008年7月9日、愛知県警捜査1課と豊田署による合同捜査本部は春日井市白山町に住む会社員H(24)を強制わいせつの疑いで逮捕した。2007年11月20日19時頃、長久手町町道で帰宅途中だった事務員女性(25)を押し倒し、下着の中に手を入れて下半身を触るなどした容疑である。

近郊では2007年1月頃から徒歩や自転車で帰宅中の10~20代女性を襲う事件が約30件発生。白いトラックに乗る黒っぽい「目出し帽」を被った男、身長約180センチでスリムな体型といった目撃情報から被疑者として浮上したもので、先述の2008年4月に東郷町で発生した類似の暴行事案との関連から愛美さん殺しへの関与も視野に入れた捜査が慎重に続けられていた。

トラックはHが勤務する建築資材販売会社のもので帰宅途中の19~21時頃にかけて犯行に及んでいたと見られ、3年前まで豊田市北部の妻の実家に居住していたことから周辺にも土地勘があったとされる。しかし続報は確認できなかった。

 

2010年3月、愛知県警捜査1課と愛知署は、日進市岩崎台に住む名古屋市立小学校教諭O(42)を強制わいせつ致傷の容疑で逮捕した。2月28日0時半頃、長久手町で帰宅途中だった女子大学生(21)に後ろから抱きついてタオルで口を塞ぎ、ナイフを突きつけて「殺す、言うことを聞け」と脅して馬乗りになって胸を触るなどのわいせつ行為に及び、手足に怪我を負わせていた。

Oは逮捕当初「長久手の現場には行ったことがあるが、やっていない」と容疑を否認。周辺では2008年から2010年にかけて同じような手口の事案が10件以上起きており、警察は十徳ナイフ、手袋、タオルや粘着テープ、帽子などの遺留品からOを特定。同一犯の可能性があるとみて余罪を追及。玄関先でナイフを突きつけて行為を迫ったり、無施錠の窓から侵入して入浴中だった住民女性を襲うなど4件で起訴された。12月、名古屋地裁は強制わいせつ致傷、強姦未遂によりOに懲役9年(求刑懲役18年)の判決を下した。

本殺人事件との関連については触れられていないものの、計画性をもって襲撃に及びながらも遺留品や被害者の目撃に対して隠蔽するまでの周到性が感じられないなど共通項は少なくない。わいせつ目的の場合、きっかけは性衝動であることから、周辺の下見などはあったにせよ個人の識別まではせず、「制服」「20代前後」といった見た目の好みで狙いをつけて犯行に及んでいたことが推測される。

 

2010年4月、中日新聞は捜査関係者や地元住民への取材から、事件のあった5月2日19時過ぎに現場近くの農道を西へ歩くジャージ姿の手袋をした男の目撃情報が複数あったと報じている。上下とも黒色で、白い手袋をしていたとの証言もある。また近くの別の農道では、同じ時間帯に黒っぽいRV車が停まっていたとの情報も伝えている。

また2018年5月の産経新聞では、事件当日の18時半頃に現場周辺で不審な黒っぽい多目的スポーツ車SUV)が低速走行しているのが目撃されていたことを報じている。周辺では約1か月前から似たような車の目撃が複数あったが、事件後は途絶えたといい、下見や物色に訪れていた可能性もある。(※一般的に「RV車」と「SUV車」に明確な区分はないため、上の中日新聞と同じ目撃情報の表現・表記ちがいと思われる)

 

外国人労働者について

豊田市といえば日本最大の企業城下町ともいわれ、アメリカの姉妹都市デトロイトと並んで自動車産業が盛んなことで世界的にその名が知られている。2021年、東京五輪に参加した重量挙げウガンダ代表選手ジュリアス・セチトレコ氏(21)が滞在先の大阪府泉佐野市のホテルから行方をくらませて「トヨタがあると聞いて仕事があるのではないかと思った」と名古屋を目指したニュースは記憶に新しい。

犯人の国籍に関する情報は発表されていないものの、事件後にアシがついていないことから、外国人労働者などが就労を終えて「帰国」したことも充分に想像される。「外国人が怪しい」とする根拠にはならないが、愛知県、なかでも豊田市周辺の「地域性」として工場勤めの外国人労働者が多い点について少し触れておきたい。

 

1990年の出入国管理法改正、93年の技能実習制度などにより、いわゆる出稼ぎ目的の就労が右肩上がりに増えた結果、近親縁者や工場での住み込み仕事を求めて多くの外国人労働者とその家族が愛知県へ、豊田市周辺地域へと集まった。事件のあった2008年当時の愛知県の外国人登録者は228,432人で、うち34.7%(79,156人)をブラジル国籍保有者が占めている。

とりわけ豊田市保見ケ丘、保見団地は外国人集住地区として広く知られており、約8900人いる住民の約半数が外国出身者で、その大半の3984人がブラジル国籍である(ブラジル人が住民全体の45.4%)。市内で暮らすブラジル人の約4分の1がこの団地に集住しており、地区の標識や掲示にはポルトガル語が併記され、周辺では輸入食材なども容易に手に入る。

1972年に造成が開始されたマンモス団地だが、大手企業が製造拠点を海外に求めたことで入居者のあてが外れてしまい、その補填として法人への「社員寮」として貸借するようになり、90年代に日系ブラジル人たちが大量に入居するようになった背景がある。

当初は「日系人」として日本人のコミュニティに「同化」しようとする移住者も多かったが、やがて駐車、ゴミ出し、騒音など文化や生活習慣の違いから日本人住民との間でトラブルが顕在化した。仲間や家族が増えたことによって同化の必要性が薄まり、長期間の滞在でも日本語を習得できない学習困難児童が増加するなど新たな問題も生じた。

かつて親から日本のことをよく聞かされて育った日系2世は日本語能力があり、敬意や思い入れを抱く者もいた。だが幼い頃に連れてこられて言葉も分からず、虐めに遭うなど日本人コミュニティから拒まれた意識を持つ日系3世、4世に当たる若者たちは非行に走りやすく、反社会勢力化する傾向が危惧されている。暴力団に在日中国人、朝鮮人が多く在籍する背景とも近いものがある。

 

保見団地では1999年に右翼団体街宣車でブラジル人住民らに対する嫌がらせ行動を行い、一部青年らとの間で衝突が勃発するなどして全国ニュースにも取り上げられ、国内における移民問題の先進例として注目を集めた。

2000年代には自治会や行政、NPO法人の連携により、日系人生徒の学習支援、青少年の自立・就労支援、外国人就労者向けの日本語講座や支援セミナーの実施、情報誌の発行など、日本人住民との相互理解に向けた取り組みが展開され、事態は改善に向かっている。

 

事件後のことなので余談にはなるが、2008年秋のリーマンショックを契機とした金融危機は、自動車関連企業に深刻なダメージを与え、派遣型雇用の多い工場労働者たちの暮らしにも直撃した。たとえば2009年1月には豊田市上郷町でコンビニ店を狙った連続強盗が立て続けに発生し、逮捕された日本人の派遣会社員A(33)は「派遣の仕事が少なくなり収入が減った。郷里の家族に送金するために金が必要だった」などと動機を供述していた。

凶悪犯罪について外国人による犯行を疑う声は多く聞かれるが、豊田周辺は全国各地から期間工の働き口を求めて日本人労働者も大勢集まっている。そうした中には不安定な雇用環境に身を置く経済的不安を抱える者も少なくない。他所からの移住者であれば孤立感が生じる素地もあり、見方によっては犯罪に手を染めやすい側面もあるかもしれない(だが前述のように人口当たりの犯罪件数は決して多くはない)。

2010年代にはベトナム人の割合が大きく増加し、2021年10月の住民基本台帳によれば外国人17,445人の内訳を国籍別にみるとブラジル6,443人に次いで、ベトナム2,645人、中国2,280人、フィリピン2,041人などとなっている。世帯数を見ると、ブラジル3,091世帯、ベトナム2,257世帯、中国1,048世帯、フィリピン785世帯であり、ベトナム人は滞在歴が短いこともあり単身者世帯の割合が非常に多いことが窺える。

 

 

■わいせつ犯罪について

殺害こそなかったものの、直近でも本件とよく似たシチュエーションが想起される事件が発生している。

2022年2月、静岡県浜松市の会社役員T(36)が強盗・強制性交等の疑いで逮捕された。1月23日22時頃、愛知県豊田市の路上で歩いていた女性(20)に対し、背後から口を塞ぎ、性的な暴行を加えた上で下着一枚を奪い取ったとして、容疑を認めた。

Tはその一週間後となる1月30日にも同様の事犯を起こしており、強盗致傷の疑いで4月に再逮捕。7時頃に知立(ちりゅう)市の集合住宅敷地内で徒歩で帰宅中だった女性(18)を押し倒して馬乗りになった上、口を塞ぐなどの暴行を加えて膝を擦るなどのけがを負わせ、下着一枚を奪った。2人に面識はなく、防犯カメラの解析などによりTが浮上。調べに対し「下着をとろうとしたわけではなく、女性の体を触る目的だった」と容疑を否認したが、警察は余罪がないか洗い出しを急いでいる。

 

前述のように豊田の殺害現場周辺は複数の町村と隣接し、知立市ともすぐ近い。静岡県浜松市は愛知県豊橋市などと隣接するが、豊田市知立市とは80キロ以上離れており、東名高速道を使えば70~80分程度の距離である。Tに土地鑑があったのか、仕事などで頻繁に訪れていたのか等の詳報は伝えられていないが、県を跨いだ越境犯罪であれば捜査の網を抜けられると見て犯行に及んでいたことも充分考えられ、関与を疑うまでには至らないが「暴行をして下着を持ち去る」という点で本件との類似性が感じられる。

下着を奪った点について、①性的暴行に及ぶつもりで下着を剥ぎ取った段階で犯行を諦めて逃亡したのか、②下着に執着があり、性的暴行とともに下着の持ち去りも念頭にあったのか、③下着に著しく強い執着があり、性的接触や強姦する意図はなく、生身から剥ぎ取った下着の持ち去りが本来の目的だったのか、その動機は判断がつきづらい。

しかし性器に触れたり、姦通を遂げることが最大の目的だとあれば、必ずしも下着を全て脱がせる必要はない(たとえば膝下まで脱がせたり、下着が脚に引っ掛かったような状態でも犯行は可能である)。

刑法第240条で強盗致傷は「無期または6年以上の懲役」、刑法第181条で強制わいせつ等致死傷は「無期または3年以上の懲役」とされる。強盗のありなしで量刑判断が変わるため、強盗容疑については否認しているとの見方もできる。

 

元受刑者の出所後10年間の再犯率を見た場合、「殺人」の再犯率は1%未満だが、「性犯罪」では15.6%に達する。性犯罪は累犯性が強い犯罪といわれ、逮捕されず一度味をしめてしまえば、加害者は恐怖におののく被害者の拒絶や抵抗すらも「本当はうれしいくせに」と誤認し、自らの行為を歪んだかたちで正当化してしまう。たとえば2009年に千葉県松戸市で起きた女子大生強姦殺人放火事件で無期懲役とされた堅山辰美受刑者は、公判で「女性は常に『強姦されたい』という思いがありながら、殺されるのが嫌だから拒むのだと思っていた」と述べるなど異様な心理状況を語っている。

www.crimeinfo.jp

日本では性犯罪者に対して認知行動療法に基づく「R3」と呼ばれる性犯罪者処遇プログラムを導入している。受講者の出所後3年間の再犯率は非受講者に比べて7.5ポイント下回る一定の効果をあげているが、とはいえ再犯率は依然として高水準である。性衝動の誤った引き金、認知の歪みは並大抵に「完治」しうるものではなく、元加害者への治療支援が充分ではないとする議論もある。

下の産経新聞記事では、認知行動療法と合わせてホルモン抑制のための薬物療法、「化学的去勢」の導入が必要ではないかと指摘されている。

www.sankei.com

 

■所感

素行に問題のない高校生がそこまで深い恨みを買うとは思えず、前述の通り、金銭目的であれば若い高校生を狙うのも筋違いである。本件はわいせつ目的の犯人が意図せず死亡に至らしめてしまった事件ではないかと筆者は考えている。 

 

不可解なのが、岡崎市内の川沿い(道路脇)に遺留品のバッグを遺棄している点。犯人がバイクで走行していたのであれば、せめて発見を遅らせるために「川の中」に遺棄しそうなものだが、ガードレール沿いの茂みに放置されていた。岡崎市東名高速道を隔てて東部に「森林」が広がっており、なぜ市街地の人目につく場所に遺棄したものかは合理的な説明がつかない。

先述した別のわいせつ犯のように事前準備はしていたものの事後の証拠隠滅までは念頭になかったのかもしれない。たとえば犯人は「殺害」したとまでは思っていなかった、そこまで本格的な捜査になるとは思っておらず適当に遺棄したとも考えられる。また車を使用していたとすれば、右ハンドルで川面を左に見ながら走行中に窓から放り投げたが川まで届かず陸に残されたなどの場面も想像される。

 

遺留品の特徴からは、建築・工事関係の職種との関連が窺える。強盗団が人を拘束する際には基本的に手でも切りやすい「ガムテープ」を用い、汎用品であることから犯罪者にとってはアシが付きづらいメリットもある。一般人が手足の拘束を想定した場合でも、段ボールや雑誌を結わえるようなビニールロープかガムテープ、ワイヤーコード類で何重にも巻くといったアイデアが先に思いつくだろう。事件2週間前にホームセンターで購入した人物が犯人とは断定できないが、拘束具に荷物結束用の長いバンドをカットしたり、タオルで猿ぐつわを噛ませるためにガムテープ幅のビニール絶縁テープを使うという発想は、やはりそうしたものが身近にある、業務で毎日のように使い慣れている犯人と見るのが妥当ではないか。

加えて遺留品の多さから、犯人は証拠隠滅の意図なくすぐにその場を逃げ去ったと考えてよいかと思う。にもかかわらず、バッグを奪っておそらくはジャージだけを持ち去ったこと、遺体の隠蔽はせず下着だけを剥ぎ取っていったことから、犯行のそもそもの動機は「着衣」に主眼があったと見ている。顔面を殴打してタオルを嚙ませ、倒れた隙に下着やバッグを奪い、静かになったことを不審に思って巻き付けていたテープを外すと息をしていなかったといった場面が想像される。

 

豊田市に現場や事務所があったのか、岡崎、豊川、岡崎、新城などの愛知県南東部、あるいは浜松など静岡西部から名古屋方面へ向かう仕事で県道26号を行き来するうち、暗い時間に下校する学生たちの姿を認めていたのかもしれない。

だが押し込み強姦や拉致ではなく夜道での通り魔的な犯行様態、気道が詰まるほどまで執拗に悲鳴を上げられることを恐れた態度からは犯人の「臆病さ」が見て取れる。周辺地域のわいせつ犯罪の多さから警察は当初から累犯者に当たりを付けて捜査したがホンボシには至らなかったことやバッグの遺棄の稚拙さと併せて考えれば、他に犯行を完遂したことのない初心者わいせつ犯のように思われる。しかし他のわいせつ犯や不審者情報が都合よく煙幕の役目となり、真犯人に逃れる猶予を与えてしまった。

 

はたして犯人がその後もわいせつ犯罪に手を染めなかったとも限らない。場所を変え、やり口を変えて再び悪行に手を染める可能性は皮肉なことだが他の犯罪より高いのだ。わいせつ犯に「逃げ得」を与えてしまえば歪んだ常習犯を生み出すことにつながる。のぞきや痴漢といった軽微とされる犯罪も、被害者にとっては消し去ることのできない心の傷となり生涯与える損失は計り知れない。日頃から自衛・警戒を怠らないことももちろん大切だが、警察の捜査や安全パトロール、地域の見守りなど、犯罪を起こさせない・巻き込まれない生活環境デザインを心掛けたい。

 

亡くなられた愛美さんのご冥福と、ご遺族の心の安寧をお祈りいたします。

 

 

 

豊田市外国人データ集

https://www.city.toyota.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/767/24.pdf

愛知・高1女子殺害 未解決のまま10年「なぜ、こんな目に」 - 産経ニュース