愛知中3同級生刺殺事件

2021年11月、愛知県弥富市で起きた男子中学生による同級生殺人について記す。

加害生徒は現行犯逮捕されているが、報道では犯行の動機についてやや不可解な供述内容が伝えられている。

 

■概要

11月24日8時10分頃、弥冨市立十四山中学校から「正門に急いできてほしい」と消防へ119番通報が入った。生徒のひとりが腹部を刃物で刺され、心肺停止で市内の病院に運ばれたが、搬送先の病院で10時35分頃に死亡が確認された。

死亡したのは同中学3年生伊藤柚輝さん(14)。始業前の時間帯に別のクラスの同級生から廊下に呼び出され、腹部を包丁で一突きされた。死因は出血性ショック死。刺し傷は、大動脈や内臓にまで達し、肝臓を貫通していた。

加害生徒(14)は犯行後、刃物を持ったままその場に立ち尽くしており、教員の指示におとなしく従った。殺人未遂容疑で現行犯逮捕。「私がやったことで間違いない」と容疑を認め、25日朝、愛知県警は殺人容疑に切り替えて名古屋地検に男子生徒の身柄を送致した。

 

■緊急会見

11月24日、弥冨市教育委員会や十四山中学校関係者は緊急記者会見を開いた。

黒川利之校長は「なぜこんなことをやったのか私たちもよく分からなくて非常に混乱している」としつつ把握できた事件の状況を説明した。

 

同校は7時45分に開門、8時10分から「読書タイム」が設けられているため、事件の起きた8時頃にはクラス担任やほとんどの生徒が教室内にいた。3年生は2クラスあり、同校では別のクラスの教室への出入りが禁じられているため、廊下に呼び出したものとみられる。

腹を刺された被害生徒は血を流しながら自分のクラスへ戻り、倒れ込んだ。担任はAEDと心臓マッサージの処置をするとともに、職員室に通報。現場となった2階では悲鳴が響き、「教室内に結構な出血があった」。

両生徒の間にトラブルがあったのかについて、校長は「今のところ思い当たるところがない」、市教委の渡辺一弘課長も「これまで何かトラブルがあったかは分かっていない」と述べるに留まった。過去のトラブルも確認できず、11月上旬の市教委アンケートには2人に関するいじめの記載などはなく、11月中旬の修学旅行には両生徒とも参加していた。

夜に行われた保護者向けの説明会では、児童のメンタルケアへの希望が多く出された。学校からはスクールカウンセラーが一人派遣されると説明されたが、市教委から増員を要望する旨の回答があった。その後、文科省も追加配置に必要な財政支援を行うことを発表している。事件の背景が不透明なことに加え、受験シーズンを控えていることもあり、思いがけない事態に保護者らも不安を募らせた。

 

■被害生徒と加害生徒

柚輝さんは三人兄弟の真ん中で、保護者などからも「あいさつもよくできて人から好かれる子」「下の学年の子の面倒を見たり、ハンディのある子とも分け隔てなく優しく接するのをよく見かけた」「仲間外れやいじめをするような子ではない」とされる。

リーダーシップのある、学年の中でも目立つような中心的な存在だった。2年生のときは生徒会に入り、「学年を越えて仲良くなりたい」と全校生徒での球技大会を提案するなど、とにかくスポーツが好きだったという。一方で、威張っている訳ではないが命令口調が多いとする声もあった。

小学時代に柚輝さんと一緒に登下校していた女子生徒(16)は「友達思いですごく良い子。十四山中は人数が少なくアットホームで、先生たちも生徒をよく見てくれた。何かトラブルがあれば事前にわかるはず」と語った。

 

十四山地区は名古屋駅から車で約30分ほど離れた田畑に囲まれた長閑な地域で、同校は全校生徒139人と市内では最も小規模な学校だった。子も親も保育園時代から知っている者同士と言い、地域の結びつきは強かった。

加害生徒は両親、兄、祖父母、曾祖母の合わせて7人家族。昔からこの地に暮らす名士とされ、祖父はかつて市役所の幹部として2006年弥富市と十四山村の合併に尽力した地域のまとめ役とも目された。父親は農業系の仕事に従事し、自治会長なども務めた。少年は身長170センチ以上あり恵まれた体格をしていたが、寡黙で目立たない印象とされ、学校でも取り立てて指導が必要な生徒とは見なされていなかった。

小学生の頃は祖父のスマホでずっと「パズドラ」をやっており、外で友達と遊ぶ姿は見られなかったという。厳格で教育熱心な家で育ち、兄と比べられたり、受験が近づいて好きなゲームを遠ざけられるなどして不満を募らせたことなども考えられる。

双方と面識のある地元住民は、加害生徒は「注意されるとうるさいと怒ったり、上級生に敬語を使わずため口で喋ることもあった」「俺は他のみんなと違うというオーラを出していて、少し変わったところがある子」と言い、「和気あいあいとした学校の中で、2人の関係は距離があったと思います」と話している。同級生のひとりも「友人のひとりだが親友という訳ではなかった」と二人の関係を語る。

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柚輝さんと加害生徒は同じ小学校に通い、男子10人女子14~15人の1クラスで、当時は同じサッカー部に所属していた。中学にはサッカー部がなかったこともあり、柚輝さんは野球部、加害生徒はバレー部に所属し、2年生では同じクラスだった。双方の兄同士も友人関係だった。

十四山中出身者で娘を通わせる保護者は「土地柄、荒っぽいヤンキーとか不良っぽい子が要る中学でもないし、いじめが起これば大人がすぐ気づけるはず」「多感な年頃でもあるので、逮捕された生徒の思い込みによるところが多分にあるのではないか」と語っている。

 

■トラブル

愛知県警は事件の動機について、当初、加害生徒は柚輝さんから「いやなことをされた」趣旨の供述をしていることを発表。11月26日には「嫌なことが続き、今の生活がどうでもよくなった」と被害生徒に対する動機以外にも複数の不満が重なっていたことを仄めかす供述があったとされるも、トラブルの具体的な事実などは明らかとされず、供述の真偽も含めて慎重な取り調べが続けられた。

凶器とされた柳刃包丁は刃渡りが約20センチ。20日にコンビニで購入したプリペイドカードを用いて自分のスマホからネット通販で購入されたことが判明。1998年に中学校教諭刺殺事件で用いられたバタフライナイフ、2008年秋葉原無差別殺傷事件で用いられ銃刀法強化ともなったダガーナイフなどは、有害玩具規制の対象で青少年への販売や貸与が禁じられている。しかし日用品刃物として用いられる包丁は規制の対象外である。

 

同26日、身柄を名古屋少年鑑別所に移送。

28日には加害生徒が「いやなこと」の一部について「いじめ」と表現していることが明らかとされる。

また学校側は「いじめがある」とした加害生徒のアンケート結果を市教委に報告していなかった事実が指摘されている。加害生徒は前年9月の生徒会選挙に立った柚輝さんの応援演説に参加していた。21年2月のアンケートで「いじめがある」と回答し、演説をやりたくないのに協力を強制されて「嫌だった」、「不快に思う発言があった」旨の回答をしていた。その後、教諭が柚輝さんに「相手の気持ちになって行動しなさい」と注意を行い、加害生徒にも面談で様子を確認して「最近は大丈夫」と答えたことから、両者の関係は改善されたものと判断していた。

 

そのほか調べに対し、「数人の友人と話している際に、途中から割って入ってくるのが嫌だった」「給食当番だった被害生徒から加害生徒に箸をなかなか渡してもらえなかった」といった日常的な不調和があったとも報じられている。

中日新聞は、11月14日から16日にかけての修学旅行での加害生徒のスマホ没収トラブルを伝えている。ゲーム好きだった加害生徒は密かにスマホを持ち込んでいたが他の生徒に見つかり、学校から指導を受けていた。「事件の10日ほど前に殺害を決意した」などの供述からも、このトラブルが犯行の引き金となった可能性もある。

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しかし上記のような経緯で殺害の動機を持つにいたるものだろうか。元中学生としては、人間関係の葛藤は青春時代につきもの、「どうでもよくなった」と思うには導火線が短か過ぎはしないかと思ってしまう。相手を不快に思ったり、嫌々言うことを聞いたり、不信感を抱くといったことは往々にしてある。直接相手に自分の気持ちを伝えられない生徒、親や教諭に相談できず抱え込みがちな生徒、趣味や部活に打ち込んでストレスを発散することができない生徒もいるかもしれない。

三者としてはズル休みや不登校になるなり、相手に包丁を突き刺す前に殴り掛かるなど、他にやり様はなかったのかと思えてしまう。加害生徒のナイーブすぎる感性と被害生徒への奇妙な執着心を感じさせる。いわゆる“陽キャ陰キャ”論にするつもりはないが、自分とかけはなれた幼馴染への嫉妬に近い感情などもあったのではないか。

 

社会心理学者で少年犯罪に詳しい新潟青陵大・大学院碓井真史教授は、加害生徒が被害者意識を持ちやすいタイプだった可能性を挙げ、うまくいかないのはあいつのせいだと無理矢理関連付けてしまう「心理的視野狭窄」が起きていたのではないかと指摘する(『女性セブン2021年12月16日号』)。

またFNN・めざまし8に出演した碓井教授は、ノーマークのこどもが突然起こす凶悪事件を防ぐことは非常に難しく、追い詰められる前に周囲の大人に話せるかが重要だとした上で、「こども同士のことを大人に話すことは“裏切り行為”だって思うので、“事前にこどもたちに教えておく”」こと、日常的に相談しやすい雰囲気をつくっておくことが未然防止につながるとした。

 

■ネットの反応

下の画像は地域掲示板で事件当日に行われたカキコミ。

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事件当日、同学年であれば加害生徒と被害生徒は分かっていただろうが、生徒らは事件について何も知らされておらず、授業は自習に変更され、給食を済ませての早帰りとなった。

仮に上のような事情をすべて知りうる人間がいるとすれば、同じLINEグループに入っていたか、同学年の人間関係を熟知した密接な関係者である。時刻としては生徒も投稿可能ではあるが、特徴的な体言止めや投稿先サイトからして現役中学生による投稿とは甚だ考えにくい。

では学校サイド、教諭がこうした投稿を行った可能性はないか。常識的に考えて、教諭が生徒間のLINEグループ関係を把握していることはなく、当日に生徒への聞き取りなどは行われていない。これは警察関係者も同様である。

翌25日にはネタ元は不明だが、ワイドショーやWebメディアに「LINE外し」の文字が躍った。しかし少なくともこのカキコミは悪意のあるデマである。「同じ女の子をスキだった」などと煽り立て、興味を引こうと「燃料投下」を狙った人間によるものだ。

事件当日の24日加害生徒の自宅からスマホが押収されており、上述の凶器の購入履歴が確認された。その後も捜査は続けられているが、「グループLINE外し」の噂に類する仲間外れトラブルは確認されていない(12月4日『デイリー新潮』)。

 

また筆者が理解に苦しむこととして、未成年加害者の実名や顔写真を求めるネット世論の風潮がある。実名や顔が分かったところで、誰に利するものとお考えなのか。ただ「隠されているから知りたい」「守られているから壊したい」と匿名で暴れる仕草は見ていて気持ちが良いものではない。犯罪者の卒アル写真を見て喜べる人間は余程幸せなのだと思う(皮肉)。

本件と直接かかわるものではないが、2022年4月から少年法改正により18歳と19歳を対象に「特定少年」という位置づけが採用され、起訴された場合は20歳以上と同等の実名報道が行われることになる。また20歳未満の事件については検察から家庭裁判所へ一律に送致され、保護処分とするか否かが検討されるが、刑事処分が適当として検察への「逆送致」される範囲が従来より拡大される。

世論は厳罰化を求めているというが、こうした措置が加害者の更生・社会復帰を妨げる社会を反映していること、ただでさえ困難な社会復帰を実名報道や顔写真で阻まれた元服役囚たちがどういう行動をとるかまで考えていくと私には憂うべき世相にしか思えない。

 

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〔2021年12月15日追記〕

殺人と銃刀法違反の非行内容で逮捕されていた加害少年は14日、家庭裁判所へ送致された。今後、保護処分とするか刑事処分が相当として地検に逆送するかが検討される。同日、被害生徒の両親が文書でコメントを発表した。

「事件により息子が亡くなったことを今でも信じられない、信じたくない気持ちです」

と悲痛な心境を語った。家では弟の面倒をよく見てくれていたと言い、家族の誕生日や父の日、母の日の民にプレゼントや「今幸せに暮らせるのは父さんとママのおかげです」と気持ちのこもった感謝の手紙をくれるのを夫婦でいつも楽しみにしていたという。

加害者については、「愛情をもって育ててきた大切な息子を奪い、取り返しのつかない凶悪な行為をしたことについて絶対許すことはできません。一生をかけて償ってもらいたいと思っています」と述べ、家裁に対して厳重な処分を求めた。