5都府県連続強姦・放火事件について

1998年ごろから2003年にかけて5都府県で起きた単独犯による女児への強姦(未遂)および連続放火事件について、加害者はすでに逮捕・服役中の事案であるが、風化阻止・予防啓発を目的として概要や所感などを記す。

また「女児強姦」「放火」はともに凶悪な重犯罪であり、反復されやすい特徴があるともいわれる。犯罪の性質や背景を知ることで、防止に向けて何ができるのか(何が行われているのか)を確認してみたい。

 

尚、強姦罪については2017年の刑法改正に伴って「強制性交等罪」と変更された。該当行為の範囲が拡大され、「3年以上」の有期懲役から「5年以上」へと厳罰化された。また重要な変更点として、強姦・強制わいせつの「非親告化」と「性差の撤廃」が挙げられる。これにより被害届がない事案についても捜査・起訴が可能となり、それまでは男性から女性に対しての強姦のみが認められる犯罪だったものが、性差に関係なく成立する犯罪と認められた。本件は改正前の事柄なので、特に断りのない場合は「強姦」「強姦罪」と記す。

 

■概略

2003年7月22日、岡山県警大阪府高槻市牧田町に住む無職・尾上力(おうえ ちから・34)を住居侵入、傷害等の容疑で逮捕した。

同年6月19日16時ごろ、岡山市内で帰宅途中の女児(10)の後をつけて訪問客を装って男が家に押し入り、「殺さんから言うことをきけ」と女児を脅迫、押し倒すなどの暴行をした。母親の帰宅により姦淫は免れたものの女児は後頭部打撲などの怪我を負った。当日、付近で尾上が貸し自転車を利用していたことから捜査線上に浮かびあがり逮捕につながった。

調べに対し、「99年ごろから大阪、岡山、兵庫、京都、東京で女子小中学生を襲った」と余罪の供述をし、その数は40件近くにも上り、警察は裏付け捜査を急いだ。

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はたして強姦致傷・未遂等合わせて15件について起訴され、2004年9月、大阪地裁における公判で検察側は懲役20年を求刑した。

しかし、判決前の11月、尾上は大阪拘置所から警察・検察関係者に宛てて手紙で「もっと多くの事件を起こしている。もう一度警察で調べてほしい」と更なる余罪を自ら示唆。大阪府近辺における116件をはじめ、1都2府13県をまたいでおよそ200件もの放火を自供した。

検察側は尾上を「空前絶後の放火・強姦魔」と糾弾し、求刑のやり直しを求めたため、公判は一時中断。あとになって放火を自供した理由については「黙っているつもりだったが、拘置所でいじめられて耐えられず、余罪を自供すれば拘置所から出られると思った」と述べた。

 

■犯行について

尾上は大阪府高槻市に生まれ、高校卒業後、私鉄会社に就職するも、奈良県で少女強姦未遂事件を起こして解雇。2002年、勤務先の配達ピザ店で売上金の着服が発覚して職を失っている。強姦目的に遠方まで赴いて女児を探し回ることもあれば、勤務中の外出先で偶然見かけた女児を襲うこともあった。強姦・強制わいせつ以外にも下着の窃盗や放火が常習化しており、「いたずら目的で子どもを探しながら、ゲーム感覚で火を点けた」と供述している。

 強姦致傷・未遂の被害者は7歳から13歳までの女児15名。立件された中で既遂は1件で、9歳女児に対して姦淫を行い、処女膜裂傷やPTSD心的外傷後ストレス障害)を負わせた。犯行後も度々電話を掛けて被害者や母親に対して卑猥な暴言を浴びせたり、被害者宅付近にいることを伝えるなど執拗な追い打ちを加えている。また別の1件では、女児が大声を出して暴れたため首を絞めて殺害を目論んだが、無抵抗になったため殺害を中止したとする殺人未遂を認めている。

おおよその手口としては、気に入った女児を見つけると家まで後をつけていき、女児自らが玄関を解錠する様子から家族の不在を確認して侵入し、刃物をちらつかせるなどして脅迫し服を脱がせ、陰部を押し当てるなどしたものとされる。ときに親の知り合いを騙って、予め行き先や帰宅時間を聞き出し、犯行に費やせる時間を逆算する狡猾さもあった。

被害者側が裁判の影響などを鑑みて親告せず泣き寝入りしたケースも考えられるが、未遂の14件では「大声や泣きながら抵抗する」「家族が帰宅する」「(加害者の)職場から呼出がかかる」などによって目的を遂げず逃走していることから、野蛮な犯行でありながらも極めて小心だったことが窺える。体格や腕力の面で御しやすい女児を狙う卑劣さも尾上のそうした性質が影響していたと考えられる。

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参考:強制性交等 認知・検挙件数・検挙率の推移/令和2年版犯罪白書

再開された取調べでは放火およそ200件について道路地図に書き込むなどして詳述したが、すでに「煙草の不始末」「出火原因不明」などとして処理されていた事案も多く、立件されたものは13件にとどまった。被害損額は3億円近くに上るとされる。

2001年9月25日、東京都墨田区八広の木造二階建てアパートが全焼した火事では、2階に住んでいた植田敏夫さん(60)が逃げ場を失って飛び降りた際に死亡。02年2月10日未明、同区京島では民家など3棟、延べ約345平米が全焼し、小西アイさん(80)が全身にやけどを負って間もなく死亡した。そのほか板橋区男性(70)、大阪府高槻市女性(62)、同市女性(74)の合わせて5名の犠牲者が出ている。周辺にも多くの延焼被害が生じ、合わせて40人以上が避難を余儀なくされた。

 調べに対し、「野次馬が集まったり、消防隊員が必死に火を消したりしている様子を見て満足感を得た」などと供述。趣味の「アマチュア無線」で消防無線を聞きつけて現場に駆け付けるようになったことがきっかけとなり、やがて自ら火付けに手を染めるようになったという。手口は、納屋や空き家に侵入して着火することもあれば、現に人がいるアパートや戸建て家屋で見つけた段ボールや衣類に放火することもあった。

消火活動の規模が大きくなることを狙って住宅密集地を選び、空き家の押し入れに着火物を入れて発覚の遅れを狙った隠蔽工作や、被害の拡大を企図してプロパンガスのゴムホースに着火するなど、次第に悪辣で手の込んだ犯行へとエスカレートしていった。翌日の新聞で放火先から死者が出たことを知っても悔い改めることはなく、その後も平然と放火を繰り返し、やじ馬に紛れて消火活動の様子を眺めていた。

 

■判決

検察側は現住建造物等放火13件などを加え、改めて無期懲役を求刑。

「死刑と思っていた。罪を軽くしてくれというつもりはない」(最終意見陳述)

 

2007年2月19日、大阪地裁で判決公判が行われた。中川博之裁判長は、「被告人の性格、性癖の深刻な問題性に根ざす犯行であり、被告人の社会規範を全く意に介さず、他人の尊厳を踏みにじる人格態度には人間性の片鱗さえ見出しがたい」と犯行の凶悪さを厳しく諫めた。刑事責任は非常に重大で「死刑選択の余地もないとはいえない状況」だとした上で、捜査・公判において犯行のすべてを認めており、強姦未遂と全ての放火について「自首」とみなし、「更生にはなお多大の困難を伴うとしても、その可能性がないとまでは言えない」と酌量の余地を示し、求刑通り無期懲役を言い渡した。

 

■放火と殺人

尾上の放火行為から結果的に5人の犠牲者を出しているが殺人罪には問われない。一般感覚では、人がいる家に放火したら殺人と同じようにも思えてしまうが、放火行為そのものがどれだけの被害を生むかは不確定であることから火付け人に殺意があったと立証することが難しいとされ、両者は法的に区別されている。殺害を目的として、その手段に放火を用いた場合には「放火殺人」として殺人罪に問われるものの、本件ではその犯行は場当たり的で動機が「一種の気晴らし」とされており、新聞を見て後から犠牲者のあったことに気付くなど、殺意の証明はやはり困難と言える。

刑法第108条・現住建造物等放火の罪は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」とされており、2004年の刑法改正以前には当時下限が「3年以上の有期懲役」とされていた殺人罪よりも重刑とされてきた。だが戦後の放火事件で、殺人罪・致死罪の適用なく死刑とされた事件は1957年に起きた昭和郷アパート放火事件(死者8名を出しているが現住建造物等放火と保険金詐欺で起訴)のみである。たとえば同じ放火でも、2019年7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件では、容疑者が「死ね」と言いながら社員に直接ガソリンを浴びせたことから、明確な殺意が認められるため殺人罪に問われることが考えられる。

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火付け人の殺意の証明については、裁く側の考えによって結果主義(行為と結果との因果関係に基づいて処罰を決めること)とするか、責任主義(責任なければ刑罰なし)とするかで裁量にぶれが生じるといわれる。

結果主義的な判決が下された事例には、2003年に起きた「館山市一家4人放火殺人事件」がある。12月18日深夜3時過ぎ、一軒家の玄関に積まれていた古新聞に放火され全焼、住民の一家4人が焼死体で発見された(長男は仕事で外出中、祖母は入院中だった。強風により周辺7軒も全焼)。2005年2月千葉地裁(土屋靖之裁判長)は、焼死を高尾康司被告による「未必の故意」(確定的ではないが行為によって犯罪的結果を引き起こすかもしれないと認容しつつ行為に及ぶ心理状態)による殺人罪を認定し、死刑判決を下した。弁護側は「結果の重大性から逆算して“未必の故意“を認めてしまった判決で、放火と殺人の線引きがされていない」と主張し、無期懲役が相当として控訴。2006年9月東京高裁(須田賢裁判長)は控訴棄却、2010年9月最高裁(横田尤孝裁判長)は上告を棄却し、死刑が確定した。“未必の故意”は確定的故意に対する概念だが、裁判官の推量に任せられる部分が大きく、心象が判断を左右する裁判員制度や死刑確定の是非などをめぐっての問題も孕んでいる。

(本筋とはずれるが、1998年に起きた和歌山毒物カレー事件の裁判も物証や動機の解明もないまま“未必の故意”が認められ、林眞須美被告に対し死刑判決が下された。現在でもヒ素鑑定などの証拠能力への疑義が呈されており冤罪とする説もある。)

 

放火行為は、復讐などを動機とした計画性が高いケースもあるが、尾上のように感情の解放(憂さ晴らし)が動機となることも多い。以前扱った埼玉・千葉連続通り魔事件でもあったように腕力の備わらない未成年であっても繰り返されるおそれがある上、焼け跡から犯人に結び付く証拠を得づらい。 その場合、被害者や放火対象などの手口から類似性を見極めることが難しく、犯人像のプロファイリングに時間がかかり、本件のように常習化させてしまうケースもある。だが犯行期間の間隔が短いことで、犯行の類似度が高まるとの研究結果も出ている(Canter, D. , Fritzon, K. 『Differntiating arsonists:A model of firesetting actions and characteristics』1998)。

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尾上が自白した放火事案に「煙草の不始末」「出火元不明」がどれほど含まれていたのかは不明だが、同じように警察の見込み違いや初期段階での調査力不足によって闇に埋もれてしまった犯罪、犯行の特徴が見過ごされてしまうことも実際にある。国内の放火事件は、2000年前後に認知件数およそ2000件程度だったものの近年はおよそ1000件程度にまで減少しているが、検挙率についてはおよそ75パーセント程度の横ばい状況が続いている。放火にかぎらず、今後も犯罪のデータベース化や犯罪傾向の解析が進めば、より現場地域や被害者からもたらされる一つ一つの一次情報の重要性が増すことからも、その任に当たる派出所の“お巡りさん”たちの一層の捜査力が期待される。

 

■こどもへの性犯罪と再犯

13歳未満のこどもを対象とした強制わいせつ犯の再犯率は84.6パーセントと極めて高い(平成27年版犯罪白書・性犯罪者の実態に関する特別調査について)。性犯罪の多くは、対象者の年齢・容姿などに加害者の好みやこだわりが現れる特徴がある。なかでも年少者を対象とした性犯罪者には、他の犯罪者(成人対象の性犯罪を含む)とは異なり、自らの犯罪を正当化し継続するような認知的歪みが特徴とされる。

たとえば広島県で元教諭・森田直樹が児童に行った46件もの連続強姦事件では、犯行中にも女児に「先生」と呼ばせ命令に従わせていた。十分な知識を習得していないこどもに対しては強気に振舞えるということだろうか。尾上にも、年齢・立場・体格差などによって相手をコントロールできる状態に快感を得る偏った思考が見受けられる。

 

日本では、2006年から性犯罪再犯防止指導(R3)が行われており加害者は認知行動療法に基づく再犯防止プログラムの受講が義務付けられ、仮出所後も保護観察所に通って指導を受ける。受講者は自らの犯行に至ったプロセスと歪んだ認知を見直し、感情統制の仕方を考えながらライフスタイルやコミュニケーションの改善により社会への適合を目指すものであり、被害者感情への理解も促す。

再犯防止プログラム受講者は非受講者に比べ再犯率が低いとされる一方で、刑務所という特殊環境での受講では、実際に社会に出てからの再犯抑止効果は薄くなるとの見方もある。下の2つの記事では元性犯罪加害者(累犯者)による生々しい証言で治したくても治まらない「更生の難しさ」が語られている。

www.bengo4.com

www.fnn.jp

警察では、法務省からの情報提供を受け、13歳未満への性犯罪を犯した出所者については所在確認が行われており、必要に応じて本人同意のうえで面談を行うものとしている。

児童への性犯罪に関連して、2017年の刑法改正で、新たに監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が加えられたことも重要である。刑罰としてはそれぞれ「懲役6か月から10年」・「懲役5年から20年」で強制わいせつ罪・強制性交等罪と同等となる。監護者とは、親や養護施設職員といった児童(18歳未満)が経済的・心理的に依存せざるをえない相手のことで、通常の学校教員や習い事の指導員などは含まれない。だが、これまで監護者から児童への性的虐待児童福祉法違反(最高刑で懲役10年)が適用されていたことと照らし合わせれば、児童福祉保護の観点や性犯罪の厳罰化が読み取れる改正である。

 

刑罰については、旧強姦罪であれば3年以上20年以下の有期刑、現行の強制性交等罪では5年以上20年以下の懲役が科される。こうした卑劣な性犯罪が繰り返されることや累犯の多さに対し、インターネット上では「去勢を義務付けよ」「体にICチップを埋めて監視しろ」といった意見も多く聞かれる。だが 憲法第36では「拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と定められており、刑法第9条において、刑罰は死刑、懲役、禁固、拘留、罰金、科料、没収による7種類しか認められていない。

被害当事者であれば復讐心から直情的な主張になってしまうことも理解できるし、それは正しい反応だと思う。だが、はたして「黥(げい)」「入墨刑」のように生涯レッテルを貼ることで回避できる犯罪なのだろうか。言うまでもなく強制性交等は非人道的な行為であり、被害者のその後の人生にも大きな影響を及ぼすことを考えれば、筆者も性犯罪に対する量刑は軽すぎるように感じる。たとえば10歳で強姦被害に遭ったとして30歳になる頃には加害者が世に放たれる、と想像すると相手が何歳であろうと恐ろしくて身の毛がよだつ。相手が監護者であれば尚のこと被害者は逃げ場のない恐怖感や憎しみを抱えて生きていくことになるだろう。だが極端な重罰化や、制裁的な意味合いに偏った発想に至る昨今の風潮についても筆者はやや疑問に感じる。

 

■各国の対応と化学的去勢 

 

世界における性犯罪の再犯抑止の動きとして、そもそもの性衝動を除去するために物理的去勢(精巣摘出などの外科手術)のほか、薬物による化学的去勢を採用する国や地域もある。物理的去勢については人権侵害に当たる残酷な処置との見方から反対意見が多く、趨勢としては多くの国で化学的去勢(薬物療法とする国もある)へと移行しているとされる。化学的去勢の現状と課題については、国立国会図書館の発行するレファレンス誌824号掲載の小沢春希氏によるレポート『性犯罪者の科学的去勢をめぐる現状と課題』に詳しく紹介されている。

化学的去勢の代表的なものは、定期的な薬剤投与によってアンドロゲン(男性ホルモン) をコントロールし、性的興奮を引き起こすテストステロンのはたらきを思春期前の状態にまで抑えるというものである。定期的な投薬を中断すればテストステロンのはたらきは回復されるため、恒久的に性機能を損失させることを目的とした物理的去勢とちがい、可逆的な措置ともいえる。

女性蔑視が激しいとされるインドでは、2012年にデリーでバスに乗車中の女性が集団レイプされた事件を受けて国の性犯罪対策見直しを求めるデモが激化し、翌13年にムカルジー大統領は取り締まり強化を掲げ、強姦罪の死刑適用を認める大統領令を発布。2020年に加害者4名(6名が逮捕されたが、1名は収容中に死亡し、公式には「自殺」とされた。1名は未成年ですでに釈放)が死刑執行された。

絞首刑が行われた刑務所の前には、死刑支持派の人々が手に国旗を持って祝賀行事を行い、カウントダウンや歓声が上がった。事件後に被害届を出す人が増えたこともあり、性暴力に関する被害届の数は減っていない。2018年の認知件数は3万3356件に上り、10年間で約55パーセント増加しており、およそ16分に1回の割合でレイプ事件の通報があった計算になる。処刑前に行われた執行者クマールさんへのAFPによるインタビューでは「死ぬことになっている連中は獣のようなものだ。人間ではない」「残虐な人間だから、命を失うことになる」「家族を含め周囲の人々はいつも私によくしてくれるが、今回の処刑後は、私に対する尊敬の念が高まると確信している」と語っている。

www.afpbb.com

一方、別の強姦事件では、その発覚をおそれて女児の目を潰して犯行に及んだり、口止めのために姦通後殺害にまで至るケースも確認されており、被害者の父親が加害者の手首を切り落とすといった私刑が行われる事案も発生した。重罰化によって抑制された犯行もあったかもしれないが、これらは却ってより凶悪化に走らせたり被害を拡大させる“負の側面”ともいえるかもしれない。

 

インドネシアでは、2016年にスマトラ島で発生した14歳女児に対する10代少年グループによる集団強姦事件を受けて、ジョコ・ウィドド大統領は未成年者に対する性犯罪の罰則を強化する大統領令を発し、強制的な化学的去勢のほか、行動確認用チップの埋め込み、死刑適用も可能とした。2020年にフランス人男性による300人以上に上る少女への強姦事件が発覚し、死刑適用も取り沙汰されたが獄中で自殺を図り、その後死亡した。 

アメリカではカルフォルニア州など複数の州で、有罪判決を受けた小児性愛犯罪者の公表や、仮出所者に対しての化学的去勢を義務付けている(憲法修正第8条「残酷で異常な刑罰の禁止」に抵触するとして反発もある)。

フランスやドイツでは化学的措置は、医学的見地からの判断としてパラフィリア障害(異常性欲により自身や相手に苦痛を与え、害となる可能性が高いもの)が認められた場合、「治療」行為として提案され、実施には本人の同意が必要とされている。

 

一見すると、フランスやドイツのような仕組みであれば再犯を望まない受刑者の人権にも配慮され、本人の将来のためにもよい仕組みのようにも思われる。だが欧州拷問等防止委員会による報告によれば、受刑者は化学的去勢に同意しなければ仮釈放の見込みはないという暗黙のメッセージを受けていたという。真に「自主的」な任意ではないとされ、化学的去勢は性犯罪者の釈放条件であるべきではない、と提言している。

 また化学的去勢には性的興奮を抑える効力が認められるものの、性犯罪者釈放時の実施件数はそれほど多くはなく、性犯罪抑止の有効性・再犯率低下にどれほど効果があるのかを示す比較データが不足しているとされる。また生物的な介入によって、体重増加・血圧増加・女性化乳房・骨密度現象などさまざまな副作用が報告されている。一部には投薬停止後に、投薬以前よりもテストステロンの水準と再犯率が増加したとの報告もある。万が一にも再犯の可能性が高まるのであれば、投薬を停止する措置を行えないのと同じではないだろうか。

アメリカでの性犯罪者への対応について、弁護士ザカリー・E・オズワルドは、男性は女性より厳格な基準で訴追されていること、化学的去勢を宣告する裁判官の裁量が性別バイアスに基づいているため、男性は女性より高い比率で化学的去勢を宣告される格差が生じていると主張している。また刑法学者マーク・レンゼマによる2005年のレポートによれば、電子モニタリングによる犯罪抑止効果は期待できないとしている。

 

■所感

筆者自身、なぜ性犯罪の有期刑はこれほど短いのか、と以前から感じていた(いる)。刑法学や心療医学の専門家ではないため、本稿後半の、どういった再犯防止対策がなされているのか、各国の刑罰事情や具体的な化学的去勢の運用上の課題について、調べて初めて知るようなことばかりであった。裏を返せば、それだけ被害者に向けた同情と感情論ばかりで事件の根幹である加害者を傍観してきたということでもある。無論、「罪を憎んで人を憎まず」では許されないが、繰り返されないため・繰り返させないための支援を考え、これ以上の悲劇を生まない社会をつくることが加害者でも被害者でもない人間に課された使命でもある。法整備の見直し状況や元加害者たちのその後、社会復帰と更生を直接サポートする人たちについて知ることも冷静な議論をしていく上で大切だと感じた。

最後になりましたが、被害にあわれたみなさまの回復と心の安寧を願っております。

 

 

参考:

■性犯罪者処遇プログラム研究会報告書(平成18年3月)

 http://www.moj.go.jp/content/000002036.pdf

■内田亜也子『被害の実態に即した性犯罪背策の課題』立法と調査2020.7

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2020pdf/20200708051.pdf

根強い女性蔑視 厳罰下でレイプ増加 インド 5年ぶり男4人を絞首刑 - SankeiBiz(サンケイビズ):自分を磨く経済情報サイト

新潟女児殺害のような犯罪が「刑罰」では防げないエビデンスを示そう(原田 隆之) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)