極私的に好きな怪談・怖い話

怪談の「怖さ」「面白さ」は小説や映画同様、聞く側の想像力や人生経験などにも左右される。また同じ語り手でもいくつか聞けば「響く話」とそうでもないものもある。細かくいえば、語り手・聞き手のコンディションやシチュエーション(舞台はライブ/賞レース/番組/配信なのか、独演か否か)等といった環境面の影響によって、同じ話者・同じネタであっても常に“表情”や“味わい”が異なる。怪談は、落語や漫才と同じく「話芸」のおかしみを伝えてくれる文化といえるであろう。

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自分は怪談本はあまり読まないしライブも行かない、たまに自宅でYouTube視聴するくらいのライト層なので、無数にある怪談のなかから「自分好み」といえる名作に出会うチャンスは大して多くない(怪談をあまり見聞きしたことないよーという怪談ビギナーさんは上の過去記事もどうぞ)。

語り手の固定ファンになって追い続けるというよりは、気になる語り手や怖い話を広く浅く探すタイプの愉しみ方である。ここでは万人向けではないかもしれないが、今の個人的嗜好に合った怪談や語り手さんをいくつかご紹介する。読者のまだ知らない語り手さんや味わったことのない怪談の愉楽に出会う一助になれば幸いである。

 

■ 原 昌和さん(the band apart)『ミイラ山』

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いわゆる怪談師ではなくOKOWA等でも活躍する怪談好きベーシスト原 昌和さん。こちらはグッドモーニングアメリカたなしんさんの配信出演時に披露してくれた話で、話中にはDOLCEのTSUKASAさんが登場する。全国を周るバンドマンの広い交友関係が怪談蒐集につながっていることが窺える。

原さんのラフな語り口と体験談ならではの描写力によるリアリティ、謎の宗教というモチーフも相まって他にはない質感の怖さを味わうことができる傑作。

 

■優月 心菜さん×ぁみさん(ありがとう)

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“見える”元セクシー女優(現在は歌手・声優)・優月心菜さんと芸人、怪談家として活躍するぁみさんによるコラボ配信企画、怪談ぁみ語にてvol.8まで公開中。

優月さんのマシンガン女子トークの勢いで語られる数多の怪異と、営業で鍛えられたぁみさんの聞き手力(話の引き出し方、リアクション等)が絶妙で、((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルではなく“日常系怪談”を楽しめる。

現在は優月さんの個人チャンネルも開設されて後日譚なども聞かせてもらうことができるが、個人的には一人喋りよりもこの企画でのテンションの高さが好き。

 

 ■川奈 まり子さん『ぶんしん』(動画1:11:00から1:30:00あたり)

こちらは怪談作家として活躍する川奈まり子さんが、いたこ28号さんが主宰する『押忍!怪談バカ一代』の特別企画『怪談女子怪2 愛は怪談を救う!』で披露した実話怪談(コロナ禍でZOOM方式による配信)。単著『実話怪談 出没地帯』(2016,河出書房新社)に収録のほか、ニュースサイトしらべぇでの連載コラムでも読むことができる。

本人が直接出会う訳ではないが、確実に自分の身近に存在する自分そっくりの人物。ジャンルとしてはいわゆるドッペルゲンガー(生き写し)話になるのだが、次第に現代ヒトコワに思えてくる部分もあって、入れ替わり説までとび出す展開に想像力が刺激される。

 

 ■ヤースーさん(スマイルシーサー)の沖縄怪談

 高名な“ユタ”をオバー(祖母)に持つ沖縄出身の芸人スマイルシーサー(ウリズン桜から改名)・ヤースーさん。上の動画はありがとうぁみさんの怪談番組『怪トーク』の沖縄SPで、沖縄在住の怪談研究・作家をされている小原猛さんも出演されており非常に聞き応えがある。

ヤースーさんも“見える人”なため、怖い演出や語りの技術ではなく“霊が身近にいる日常”を伝えてくれる貴重な話者。後輩芸人・桃ニ鶯(モモニウグイス)のダイカイジュウさんと開設したYouTubeチャンネル『トクモリザウルス』でも様々な怪談を披露されているが、この回の爪痕を残そうとやや前のめりな感じが好き。

 

■村上 ロックさん『お祈り』

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スリラーナイト歌舞伎町で怪談師としても活躍する俳優・村上ロックさんが『住倉カオスの怪談語ルシス』で披露したシンプルながらも人間のおぞましさが凝縮された傑作。学ラン姿にモヒカン頭がトレードマークという印象的なビジュアルからは想像できないロックさんの誠実なお人柄と丁寧な語りが、話の“怖さ”をより増幅させてくれる。

神社に行くと私たちはつい自分のためのお願い事をしてしまうが、本来の“神”は畏怖の対象であり、お祈りは神がもたらす“災い”を鎮めるためのものであったことを再認識させられる。溺れる者は藁をもつかむではないが、真に神頼みが必要になった時には自分がお祈りしている相手がもはや神か紛いものかも見分けがつかなくなっているやもしれない。

 

怪談家ぁみさん『古い神社』(2021年1月23日追記)

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 番組出演のほか、LIVE活動も積極的なありがとうぁみさんが終演後にお客さんから聞かせてもらったというお話。こんなお話があって…でも実はそれで終わりじゃなかった的なメタ構造と不可解なパラレルワールド感で脳にじんわりと効いてくる。

いくつも怪談を見聞きすると、どこかで聞いたシチュエーション、登場人物が違うだけの似たような話に目敏くなる。短尺にまとめられる必要な情報だけを取捨選択すること、話者同士が切磋琢磨し合う内に似たような構成や語り口を用いることもある(たとえば牛抱せん夏さんなどはかつての演劇的要素が削がれ、スリラーナイトで同僚の村上ロックさんから語りのテンポの影響を受けているように思われる)。この話もやや出来過ぎている感があるが、実話/創作論争ほど不毛なものはなく、そうした怪しさ・不確かさ・不調和をすっかり信じて味わう、信じた上で裏切られるというのも一興だと考える。

 

■田中 康弘さん『山怪』について

山怪』(2015,山と渓谷社)の著者で写真家・ルポ作家の田中康弘さんが日テレプラス松原タニシのホラーシリーズ』 に出演。近年の“山ガール”や“キャンプブーム”の影響もあるのか、シリーズ累計25万部突破という大ヒットを記録している。厳密には怪談ではなく阿仁マタギをはじめとした山と生きる人々のルポルタージュ集、民俗学に近いフィールドワーク取材の賜物である。

作品自体の怖さよりも、田中さんの幅広い知見や考察が非常に興味深い(TBSラジオ『SESSION-22』出演回も面白かった)。“山で出会う怪異を狸や狐の所為にする”という説はまさに目から鱗。ちなみに山と渓谷社YouTubeチャンネルでも小編朗読を公開されている(動画としてはやや見づらい)。

 

■安曇 潤平さん『アタックザック』

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昨今の山怪談ブームの先駆けともいえる『山の霊異記』シリーズを著した登山家・作家の安曇潤平さんが『最恐!怪談夜話 BSホラーナイト』(2009)出演時に披露された怪作。怪談誌『幽』での兼業作家として始めたデビュー連載が2004年から、初の単著『赤いヤッケの男』(本作『アタックザック』も収録されている)が2008年と遅咲きである。

山岳愛好家ならではの登山にまつわる現代怪談を得意とし、訥々とした語り口と的確な描写力で山ならではの孤独感や不穏な空気感を登山未経験者にも伝えてくれる。HP北アルプスの風(信州ぶらり旅紀行)の更新は2013年で途絶えているが、裏ホームページで一部作品を公開中。近年は『怪談のシーハナ聞かせてよ』等に出演。現在はTwitterで近況を知ることができる。