大阪NSC8期生、吉本天然素材初期メンバー。先輩芸人からのいじめやプライベートのトラブルを契機に2001年ごろ精神疾患を発症し、閉鎖病棟に入院。2011年R-1グランプリで復帰し、現在は活動をセーブしつつ野良の躁鬱病ピン芸人として、ネット番組おちゅーんLIVE、石野桜子の監禁Baby Reboot等に出演中。痔は手術済み。
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怪談・都市伝説・講談・落語・裏実話・・・「怖い話」ならジャンルレス&プロ、アマ、性別、国籍、一切不問の1vs1タイマントークバトル!大阪発信のWEB番組・おちゅーんLive!が放つ、最恐王者決定トーナメント。「怖い話」を語る行為を、ひとつの技術と捉え、「話」としての怖さとともに、話者の「話術」「個性」までをも包括的に評価し、「今、最も怖い話を語る者」を明確にし「最恐」の称号とともにチャンピオンベルトを与える為の組織。
私は、ちょっと精神疾患で閉鎖病棟に入ってたんですけれども、面会に来るのは母親ぐらいでした。ただ、一人だけ友達がきてくれたんですよ。今日はその友人の話をします。
Yちゃんは、中学時代の同級生で、親友というほどでもなかったんですけども、好きな本とかの種類が一緒で、まぁ、楽しく話をしてたんです。
中学卒業してからは、あんまり連絡を…というか、全く連絡を取らなかったんですが、10年以上ぶりに家の留守番電話に声が入ってました。
“同窓会のお知らせ”でした。
入院してますから行けるわけがないんですね。でも折り返して、行けないよ、ってことは言おうと思って電話しました。
そしたらYちゃんがめっちゃ喜んでくれて、
「もうありがたいわぁ。みんな忙しいか知らんけど、あかんてことすら電話してけぇへんねん。ほんま助かるわ」って。
その声がもう朗らかで、言わんでええこと言ってしまったんです。今の私の状況です。重いでしょ、10年以上ぶりにそんなん言われたら。
でも、ほろっと「実は今ちょっと精神病棟に入院してんねん」って。そしたらYちゃん、「お見舞い来たい」って言ってくれて。
(いや、それは・・・)
当時私ね、10㎏以上太ってたんです。もちろん綺麗な服も持ってきてない。お化粧もしない。女の見栄もある。人間の見栄もある。
でも、「Yちゃんに会いたい」って気持ちの方が勝ってもうたんです。だから、つい面会の手続きを取りました。
もう当日は、後悔で、
(同窓会の話のタネをただ探りに来るんじゃないんだろうか)
(動物園に来るような気持ちで来るんじゃないのか)
(芸人が落ちぶれて…)
被害妄想で頭がパンパンなんです。
でもYちゃんは、一瞬でそれを溶かしてくれました。
「石野さん、久しぶりやん」
「同窓会な、みんな忙しいから、なしになったわ」
「昔好きやった本持ってきたで。入院してたら暇やろ」
変に同情することもなくて、すごい助かったんです。
だから私、また甘えてしまって、
「私なぁ、自殺したくてここに居んねん。外に居ったら勝手に死んでしまうから、ここに閉じ込めてもらってんねん」て。
そしたらYちゃん、
「“死にたい”なんか私も思うよ。誰かて思うって。思うぐらいはええねんって」
めっっっちゃうれしかったんです。
だってね、みんな言うんですよ、“死にたい”なんて思ったらあかん、って…
だからもうそれが本当にうれしくて。
Yちゃんはそう自分が思ったとき、“日記”を書くんですって。もう思ったことをいっぱい書く。
「お父さんお母さん先立つ不孝をお許しください」みたいな、不謹慎かもしれへんけど、死にたい場所ランキング、死ぬときの状況ランキングとか書いてるうちに笑けてくる。
「だから桜子ちゃん、一緒にここで書こうよ」
そっからもう、きゃっきゃきゃっきゃ言いながら書いたんですよ。
そのときのことは、今思い出しても“幸せ”です。
なんか、“放課後”みたいでした。
でも、面会室ってそんな長いこと居られないんですね。
「そうや、これな、どうせ自分暇やし、清書して手紙で出してくれへん?」って住所教えてくれて、「これ、私一人暮らししてるから気軽に遊びに来てよ」。
「分かった、行くわ。手紙も出すわ」
バイバイって、そのときは楽しく解散しました。
で、私は看護師さんに頼んで、封筒とか買ってきてもらって、手紙を書いて出しました。で、「ありがとう!」ってまた留守電が入ってて。時間が経って、退院して、連絡して、その子のうちに遊びに行けることになったんです。
昔から頭が良くてしっかり者の人だけあって、シンプルな綺麗な家で、一人暮らしにしては広いんですね。さすがやなぁ、と思って。なんか持っていったお菓子とか食べながら、またきゃっきゃきゃっきゃ言うて。
ああ、このままずっとここに居たいなぁ、って思ってたら、
「今日泊っていったらいいやん」て。
「泊まる!泊まる!」
で、トイレ借りたんです。
ドア開けたら、
(…別の部屋やった。ああ、失礼なことした)
って閉めようとしたら、中に、ふと、私の写真が見えたんですよ。
面会室きてくれたときに、2人で2ショットを記念で撮ったんです。
(飾ってくれてる!うれしい)
と思って、ちょっと中まで入って見てしまったんですね。
その写真は、2ショットを真ん中から切り取って、“私の方だけ”をボードに貼ってるんです。その隣に私が出した“手紙”が貼ってありました。
(んん~?)
その隣に、全然知らん女の人の写真が。それもどうやら2ショットをトリミングしてる感じ。で、その下にまた手紙。
言いようのない違和感が、腹から湧いてきて…
(いやいや、でも自分の写真を絶対飾りたくないって人は居る。私もどっちかといえばそうやから…)
言っても、拭えなかったんです。
だからってずっとそこにいる訳にもいかないんで、トイレ行って、お部屋に帰った。
Yちゃんが「遅かったなぁ。どしたん、迷ったん?」
正直に言うたらよかったんですけど、「いや、迷ってないよ」と言っちゃった。
そしたら
「もしかして、見た?」
「…見てないよ」
「ふぅ~ん・・・」
もう、この家帰らなあかん、て思いました。
もう言葉にできない恐怖感を感じて、(これは病人の妄想であろうと、今日は帰ろう、失礼であろうと…)と思って、
「ごめん、Yちゃん。具合が悪くなってしまった、だから今日は失礼する」
「ええ~、泊まっていってよ」って止めてくれるんです。
「ごめん、今度来たとき“必ず”泊めてもらうから…」って言って、鞄持って帰ろうとしたら、
Yちゃんがその鞄をガッと掴んで、
「なんでよ!全部!用意!してたのに!」
逃げるように帰りました。
この話は、これで全部なんです。
これで終わりなんですよ。
ただ、OKOWAに出るに当たって、Yちゃんのことを調べました。何もなかったらボツにすればいい。
そしたら、その時期、Yちゃんから“同窓会のお知らせ”が来た人は一人もいませんでした。
そして、Yちゃんの周りで、自殺者が多数出てました。
それで、やっと気づいたんです。
ああ、私、面会室で、“遺書”を書かされてたわ。
〈了〉