いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

石野桜子『同窓会のお知らせ(Yちゃんとの再会)』書き起こし(OKOWAチャンピオンシップ2019開幕戦より)

石野桜子

大阪NSC8期生、吉本天然素材初期メンバー。先輩芸人からのいじめやプライベートのトラブルを契機に2001年ごろ精神疾患を発症し、閉鎖病棟に入院。2011年R-1グランプリで復帰し、現在は活動をセーブしつつ野良の躁鬱病ピン芸人として、ネット番組おちゅーんLIVE、石野桜子の監禁Baby Reboot等に出演中。痔は手術済み。

 

OKOWA:OTUNE KOWAI OHANASHI WORLD ALLIANCE
怪談・都市伝説・講談・落語・裏実話・・・「怖い話」ならジャンルレス&プロ、アマ、性別、国籍、一切不問の1vs1タイマントークバトル!大阪発信のWEB番組・おちゅーんLive!が放つ、最恐王者決定トーナメント。「怖い話」を語る行為を、ひとつの技術と捉え、「話」としての怖さとともに、話者の「話術」「個性」までをも包括的に評価し、「今、最も怖い話を語る者」を明確にし「最恐」の称号とともにチャンピオンベルトを与える為の組織。

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 私は、ちょっと精神疾患閉鎖病棟に入ってたんですけれども、面会に来るのは母親ぐらいでした。ただ、一人だけ友達がきてくれたんですよ。今日はその友人の話をします。

 

 

 

Yちゃんは、中学時代の同級生で、親友というほどでもなかったんですけども、好きな本とかの種類が一緒で、まぁ、楽しく話をしてたんです。

中学卒業してからは、あんまり連絡を…というか、全く連絡を取らなかったんですが、10年以上ぶりに家の留守番電話に声が入ってました。

“同窓会のお知らせ”でした。

 

入院してますから行けるわけがないんですね。でも折り返して、行けないよ、ってことは言おうと思って電話しました。

そしたらYちゃんがめっちゃ喜んでくれて、

「もうありがたいわぁ。みんな忙しいか知らんけど、あかんてことすら電話してけぇへんねん。ほんま助かるわ」って。

その声がもう朗らかで、言わんでええこと言ってしまったんです。今の私の状況です。重いでしょ、10年以上ぶりにそんなん言われたら。

でも、ほろっと「実は今ちょっと精神病棟に入院してんねん」って。そしたらYちゃん、「お見舞い来たい」って言ってくれて。

 

(いや、それは・・・)

当時私ね、10㎏以上太ってたんです。もちろん綺麗な服も持ってきてない。お化粧もしない。女の見栄もある。人間の見栄もある。

でも、「Yちゃんに会いたい」って気持ちの方が勝ってもうたんです。だから、つい面会の手続きを取りました。

もう当日は、後悔で、

(同窓会の話のタネをただ探りに来るんじゃないんだろうか)

(動物園に来るような気持ちで来るんじゃないのか)

(芸人が落ちぶれて…)

被害妄想で頭がパンパンなんです。

 

 

 

 でもYちゃんは、一瞬でそれを溶かしてくれました。

「石野さん、久しぶりやん」

「同窓会な、みんな忙しいから、なしになったわ」

「昔好きやった本持ってきたで。入院してたら暇やろ」

変に同情することもなくて、すごい助かったんです。

 

だから私、また甘えてしまって、

「私なぁ、自殺したくてここに居んねん。外に居ったら勝手に死んでしまうから、ここに閉じ込めてもらってんねん」て。

そしたらYちゃん、

「“死にたい”なんか私も思うよ。誰かて思うって。思うぐらいはええねんって」

めっっっちゃうれしかったんです。

だってね、みんな言うんですよ、“死にたい”なんて思ったらあかん、って…

だからもうそれが本当にうれしくて。

 

Yちゃんはそう自分が思ったとき、“日記”を書くんですって。もう思ったことをいっぱい書く。

「お父さんお母さん先立つ不孝をお許しください」みたいな、不謹慎かもしれへんけど、死にたい場所ランキング、死ぬときの状況ランキングとか書いてるうちに笑けてくる。

「だから桜子ちゃん、一緒にここで書こうよ」

そっからもう、きゃっきゃきゃっきゃ言いながら書いたんですよ。

そのときのことは、今思い出しても“幸せ”です。

なんか、“放課後”みたいでした。

 

でも、面会室ってそんな長いこと居られないんですね。

「そうや、これな、どうせ自分暇やし、清書して手紙で出してくれへん?」って住所教えてくれて、「これ、私一人暮らししてるから気軽に遊びに来てよ」。

「分かった、行くわ。手紙も出すわ」

 

バイバイって、そのときは楽しく解散しました。

で、私は看護師さんに頼んで、封筒とか買ってきてもらって、手紙を書いて出しました。で、「ありがとう!」ってまた留守電が入ってて。時間が経って、退院して、連絡して、その子のうちに遊びに行けることになったんです。

 

 

 

 昔から頭が良くてしっかり者の人だけあって、シンプルな綺麗な家で、一人暮らしにしては広いんですね。さすがやなぁ、と思って。なんか持っていったお菓子とか食べながら、またきゃっきゃきゃっきゃ言うて。

ああ、このままずっとここに居たいなぁ、って思ってたら、

「今日泊っていったらいいやん」て。

「泊まる!泊まる!」

 

で、トイレ借りたんです。

ドア開けたら、

(…別の部屋やった。ああ、失礼なことした)

って閉めようとしたら、中に、ふと、私の写真が見えたんですよ。

面会室きてくれたときに、2人で2ショットを記念で撮ったんです。

(飾ってくれてる!うれしい)

と思って、ちょっと中まで入って見てしまったんですね。

 

その写真は、2ショットを真ん中から切り取って、“私の方だけ”をボードに貼ってるんです。その隣に私が出した“手紙”が貼ってありました。

(んん~?)

その隣に、全然知らん女の人の写真が。それもどうやら2ショットをトリミングしてる感じ。で、その下にまた手紙。

 

 

 

言いようのない違和感が、腹から湧いてきて…

(いやいや、でも自分の写真を絶対飾りたくないって人は居る。私もどっちかといえばそうやから…)

言っても、拭えなかったんです。

 

だからってずっとそこにいる訳にもいかないんで、トイレ行って、お部屋に帰った。

 

Yちゃんが「遅かったなぁ。どしたん、迷ったん?」

正直に言うたらよかったんですけど、「いや、迷ってないよ」と言っちゃった。

 

そしたら

 

「もしかして、見た?」

 

「…見てないよ」

 

「ふぅ~ん・・・」

 

もう、この家帰らなあかん、て思いました。

もう言葉にできない恐怖感を感じて、(これは病人の妄想であろうと、今日は帰ろう、失礼であろうと…)と思って、

「ごめん、Yちゃん。具合が悪くなってしまった、だから今日は失礼する」

「ええ~、泊まっていってよ」って止めてくれるんです。

「ごめん、今度来たとき“必ず”泊めてもらうから…」って言って、鞄持って帰ろうとしたら、

Yちゃんがその鞄をガッと掴んで、

 

 

「なんでよ!全部!用意!してたのに!」

 

 

 

 

 

逃げるように帰りました。

 

 

 

この話は、これで全部なんです。

これで終わりなんですよ。

 

 

 

ただ、OKOWAに出るに当たって、Yちゃんのことを調べました。何もなかったらボツにすればいい。

そしたら、その時期、Yちゃんから“同窓会のお知らせ”が来た人は一人もいませんでした。

そして、Yちゃんの周りで、自殺者が多数出てました。

 

 

 

それで、やっと気づいたんです。

 

 

 

ああ、私、面会室で、“遺書”を書かされてたわ。

 

 

 

〈了〉