いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

片岡健『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』感想

片岡健『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(2019、笠倉出版社)の感想など記す。

いわゆる死刑囚、無期懲役囚との対話本であり、読み切りやすいコンパクトな文量で8事件を取り上げており、重大殺人犯との距離感なども近すぎず遠すぎずバランスがとれていて、各事件の概略や裁判での争点、社会的影響や疑問点などもつかみやすい良書である。(死刑確定後は面会、手紙のやり取り等が原則禁止されるため、取材は係争中当時のもの)

平成監獄面会記 (サクラBooks)

塚原洋一さんの作画で『マンガ「獄中面会物語」』もリリースされている。(未読)

マンガ 「獄中面会物語」

 

著者・片岡健氏は1971年広島県出身のノンフィクションライター、フリージャーナリストとして新旧様々な事件を取材している。出版社リミアンドテッド代表。編著に『絶望の牢獄から無実を叫ぶ—冤罪死刑囚八人の書画集—』(鹿砦社)、『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』など。

note.com

YouTubeチャンネルdigTVによる連続シリーズ【和歌山毒物カレー事件の真相を追う】などにも出演されている。

www.youtube.com

 

■目次

多くの事件報道は捜査機関や関係者への取材、裁判の傍聴などの客観的な取材が主流であり、「犯人の身勝手な主張をそのまま伝える」では報道にはならない。とはいえ、警察が伝える公式・非公式な情報、家族や近隣住民が知る人物像だけでなく、「凶悪犯」とされる人物の肉声を聞きたいというのも事件の真相究明を願う人々の本望である。

まえがきで片岡氏は「会えるなら、できるだけ会いたいといつも思っている」「だれもが知っているような有名事件であっても、犯人本人に会ってみないと分からないことが必ずあるから」と殺人犯たちの実像に迫る上でのこだわりを述べている。

筆ぶりからは法権力に対して前のめりに疑ってかかるような姿勢は見受けられないが、40名近い面会体験を通じて通常の報道では削ぎ落されてしまう捜査体制の問題点、少年凶悪犯や刑法39条の法倫理的課題、捜査当局や司法の根幹に係わる「冤罪」の疑惑まで丁寧にキャッチアップしている。より真実性を追い求めて犯人と対峙する姿勢は、裏返せば「凶悪な犯人像」を分かりやすく「編集」してお茶の間に提供する類のメディアに対する批判精神をも伴なう。

 

元厚生事務次官宅連続襲撃事件(平成20年)—「愛犬の仇討ち」で3人殺傷

小泉毅

相模原知的障害者施設殺傷事件(平成28年)—19人殺害は戦後最悪の記録

植松聖

兵庫2女性バラバラ殺害事件(平成17年)—警察の不手際も大問題に

高柳和也

加古川7人殺害事件(平成16年)—両隣の2家族を深夜に襲撃

藤城康孝

石巻3人殺傷事件(平成22年)—裁判員裁判で初めて少年に死刑判決

千葉祐太郎

関西連続青酸殺人事件(平成19~25年)—小説「後妻業」との酷似が話題に

筧千佐子

鳥取連続不審死事件(平成16~21年)—太った女の周辺で6男性が次々に…

上田美由紀

横浜・深谷親族殺害事件(平成20~21年)—無実を訴えながら死刑確定

新井竜太

いずれも凶悪事件には違いないのだが、執拗な残酷描写や犯人の偏執的な側面ばかりにクローズアップして貶めるようなこともない。いわゆるゴシップ誌にありがちな金やセックス、犯行の異常性で読み手の妄想を刺激するような煽情的な書き方は抑えられ、書き手の良識やバランス感覚を窺わせる。各事件のブリッジに付されたコラムも短いながらも凝縮された内容で“食後のデザート”のように味わい深いので、事件マニアでない方にも読みやすい一冊かと思う。

以下、忘備録も兼ねて簡単に各事件に触れておきたい。

 

■元厚生事務次官宅連続襲撃事件

2008年11月18日、さいたま市南区で元厚生事務次官だった夫とその妻が自宅で刺殺体となって発見される。その夜、約13キロ離れた東京都中野区で同じく元厚生事務次官の自宅に宅配便を装った男が押し入り、在宅していた妻が包丁で襲われて瀕死の重傷を負った。

当時、社保庁年金記録に膨大なミスがあることや不正流用などが取り沙汰されていたことから、在職時に年金行政改革に携わっていた両氏を立て続けに狙った「年金テロ」ではないかとする見方が強まった。

しかし同晩、凶器の包丁を持参して小泉毅(46)が自首。「34年前、保健所で殺された家族の仇討ちだった」と真相を語った。保健所による動物の殺処分は厚生省管轄の狂犬病予防法が法的根拠になっている。とはいえこどもの頃に愛犬を殺処分されたことの、いわば逆恨みというべき犯行理由は容易には受け入れがたい。

著者は小泉との対話、生い立ちから襲撃計画までを丹念に調べ上げ、その主張は本意であると結論付けている。さらに「私が殺したのは、人ではなく、心の中が邪悪なマモノである」と言い切る小泉の独自の論理に、動物愛護の側面から共鳴する支援者がいることに驚きを滲ませる。社会における善悪の基準とは何なのか考えさせられる事案である。

 

■相模原知的障害者施設殺傷事件

意思疎通のできない障害者を「心失者」と呼び、死刑も覚悟の上で犯行に踏み切ったと語る植松聖。2016年7月26日未明、かつて勤務先であった神奈川県相模原市の知的障碍者施設「津久井やまゆり園」を襲撃し、入所者19名を殺害、施設職員を含む26名に重軽傷を負わせた犯人は、Twitterでの「世界が平和になりますように。beautiful Japan!!!!!!」という犯行声明と自撮り画像の投稿、警察車両で移送される際に映された不敵な微笑みによって、身勝手な論理を振りかざす差別主義者のようなイメージを先行させた。

片田珠美氏の著書『拡大自殺—大量殺人・自爆テロ・無理心中』でも指摘されたように、自分の人生がうまくいかないことに対する社会への恨みを、障害者への差別感情へと投影した「拡大自殺」の側面が極めて強い事件である。また当時ドナルド・トランプ前大統領やイスラム過激派ISILからの強い感化を認めており、「心失者の安楽死」のほか「大麻解禁」「美容整形の促進」など独自のマニフェストのような考えを主張し、犯行直前には政治家の賛同を得ようと直訴していた。

sumiretanpopoaoibara.hatenablog.com

自己愛性パーソナリティ障害と診断された植松について、片岡氏は「美」に対する執着と自身への強い劣等感を読み取る。肥満や障害者に対して強い差別感情を露わにする一方で、著しく自己評価も低い側面を指摘している。漫画家の母親を持つ植松は個性的な絵画を描くことでも知られる(一時期はタトゥー彫師に憧れていた)が、獄中で描いた「心失者」のイラストは、男が障害者に対していかに強く「醜」を感じ、おぞましいほどに嫌悪していたかが伝わってくる。

 

■兵庫2女性バラバラ殺害事件

2005年1月9日、兵庫県相生市の溶接工・高柳和也(39)は自宅で交際相手の女性(23)と口論になった末にハンマーで頭を殴り、その場に居合わせた女性の友人も口封じのため撲殺した。風呂場で2人の遺体を解体して姫路港や上郡町の山中に遺棄した。当時のメディアは、高柳が2001年に交通事故で母子を死亡させて実刑判決を受けて仮出所からすぐの犯行だったといった凶悪性、事件性を見過ごした姫路署の捜査怠慢や被害者情報に関する虚偽のリークを行った等の対応を糾弾した。

「かんたんなことばだとわかるけど むずかしいことばはわからない(IQ63)」

高柳の手紙は知的障害を窺わせる内容で、会えば発話コミュニケーションにも難がある。実家は汲み取り便所で被害者の実家よりも小さく、女性が「資産家の息子」と言われて信じていたとは考えにくい。判例を具に確認していくと、被害者は「資産家の息子」を騙る高柳に騙されているフリをして金銭を要求し、果てには暴力団員の伯父の名を出して逃げられないよう追い詰めていったと弁護側は情状の余地を求めていた。

高柳は身分の詐称や殺害、死体遺棄については認めながら、知的障害であることを当局に利用され、思うままに調書がつくられてしまったと訴える。滋賀県・湖東記念病院の呼吸器取り外し事件でいわゆる「グレーゾーン」の西山美香さんが取調官に誘導されてやりもしない犯行を認めてしまった冤罪事件と根幹は近しいように思う。「殺人犯は死刑で当たり前」と考える方もいるかと思うが、捜査当局はどんな手を使ってでもホシをあげることに躍起になる。捜査の目的が事件の真相解明ではなく「凶悪犯づくり」になると危惧される。

 

加古川7人殺害事件

2004年8月2日未明、兵庫県加古川市に住む藤城康孝(47)は同じ町内の親族ら2家族7人を金づちと骨すき包丁(牛刀)で次々と殺害し、1人が瀕死の重傷を負った。犯行後、自宅にガソリンや灯油を撒き放火して現場を後にする。車を壁に激突させ、助手席シートに火を放つなど自殺を試みるが、車内のガソリンに引火して驚いて車から飛び出したところを身柄確保される。大やけどの治療後に逮捕という流れは後の京アニ事件を思わせる。

片岡氏が面会したのは事件から9年後の上告中で、「職員からのいじめ」で精神的苦痛を受けており取材は辞退したいと一度断られ、その「いじめ」について聞かせてほしいと願い出てようやく実現した。その内実は職員の通常業務や規範行動が、藤城にとってはいやがらせや監視に感じるらしい、いわば典型的な被害妄想に苛まれている状態だった。そもそもの事件の動機も、藤城が子どもの頃から「本家」にあたる伯母や近隣とのトラブル(盗み聞きや悪口を言われたり、暴力を受けたりした)により「積年の恨みを晴らすため」とされたが、周辺住民からは10数年前から藤城が投石や迷惑行為を繰り返しているとして警察に相談しており、3度の精神鑑定でも妄想性障害を指摘されている。

刑法第39条に照らし合わせれば、「心神喪失者の行為は罰しない、その刑を減軽する」とされ、藤城の状態や鑑定結果を踏まえれば減刑されてもおかしくない。しかし一審神戸地裁・岡田信裁判長は、「精神障害ではなく、人格障害の特徴を有していたにすぎない」と藤城の完全責任能力を認め、死刑判決を下した。責任能力の判断は裁判官による専権事項とされており、精神鑑定の結果と齟齬が生じていても問題がない。裁判員制度導入前の最後の死刑囚となったが、はたして裁判員裁判であればその結末は変わったのであろうか。2021年12月21日死刑執行。

www.asahi.com

 

石巻3人殺傷事件

2010年2月、DV被害のため宮城県石巻市の実家に逃げのびた少女(18)を追って、交際相手の無職少年(18)が連日押しかけ、10日早朝、少女を匿っていた姉、姉の友人女性を牛刀で殺害、姉の交際相手である男性も説き伏せようとしたが重傷を負わされ、少年は交際相手を車に押し込んで逃走。その後、市内で未成年者略取誘拐の現行犯で逮捕され、3人の殺傷についても立件された。逃走中には同伴させていた後輩少年に罪を着せ、少女にも口裏を合わせるよう指示していたとされる。

少年少女とも学校に通っておらず、赤ん坊を授かったが定職に就いてもいなかったこと、少年自身も被害者であり加害者ともなったDV、過去の暴走行為、周囲は交際や出産に難色を示していたことなどから、非行少年の暴発的犯罪としてメディアは報じた。

2014年8月に面会の際、23歳になっていた千葉祐太郎は事件当時の記憶がないと言って片岡氏を驚かせる。しかも知り合って1カ月ほどだった後輩少年に盗んでこさせた「牛刀」は殺害のためではなく抵抗された際に「脅すつもりで」用意した、そもそも殺し目的で向かうのであれば後輩少年だってのこのこ付いてくるはずがない、と主張する。取調べでは当時の状況を語ることができず、被害者遺族の極刑を望む訴えを受けて「殺すつもりで」押し入ったことにされてしまったという。彼の弁護士も殺傷の事実は認めているが、その経緯については大きく事実誤認があると見ている。

千葉いわく、少女の姉に通報された途端に頭が真っ白になったという。2度の精神鑑定では千葉は情動行為(憤怒や不安などから突発的に起こる情動の運動性爆発で、本人の判断の余地なく遂行される)が指摘されており、意識障害による記憶の欠損も認められ、弁護側が行った臨床心理士の鑑定では解離性障害に陥っていたとの意見もあった。

千葉の犯行当時の凶暴性を供述したのは、同伴していた後輩少年だった。しかし彼自身も千葉の控訴審で、捜査官から「被害者の気持ちを考えろ」と圧力を掛けられて一審では事実とは異なる(検察の主張に沿った)証言をしてしまったと内実を明かしている。裁判員裁判における初めての少年事件で死刑が確定したことで知られる本件だが、検察側は裁判員を味方につけるためのある種の印象操作を行ったと言ってもよいのではないか。

www.jiji.com

が、当然のことながら一審での「事実」認定が覆るはずもなく、2016年に死刑確定。その後も「事実」認定の見直しを求め再審請求が行われているが、2021年10月、最高裁への特別抗告は棄却された。

 

■関西連続青酸殺人事件

2014年、4人の夫や交際相手らが次々と不審死を遂げ、10億円以上に及ぶ多額の遺産を手にしたとされる女が注目を集めた。取材に対して「私は人を殺すようなアホな女やないです」と言い返す筧千佐子(逮捕当時75)を、メディアは黒川博行が著した小説『後妻業』に擬えて「後妻業の女」と呼んだ。複数の高齢者向け婚活サービスに登録し、年より若く見える装いや貞淑な考え、男心を掴む仕草で多くの同世代男性を手玉に取ったとされる。

京都府警は青酸化合物を用いた3件の殺人および重篤な青酸中毒に陥らせての強盗殺人未遂の疑いで逮捕、起訴。2017年に京都地裁で行われた裁判員裁判ですべて有罪とされ死刑判決が下された。

 

片岡氏が面会を始めたのは死刑判決直後である。逮捕前から筧に取材を続けていた記者からは、逮捕後に認知症が進行したと噂され、公判中も供述に激しく変遷があることが伝えられていた。最初の結婚から20年ほどして夫が病死して失くして以降、大阪で印刷会社を一人で切り盛りしたが50代半ばで廃業。一男一女のこどもたちも巣立った後、婚活に励むようになった、印刷業で使っていた青酸化合物を手元に残して。

認知症患者の記憶は子ども時代のことでもときに鮮明になったり、数分後には全く逆の内容を語り出したり、あるいは全く別の出来事や人間と取り違えていたりと、聞き手を非常に困惑させる。聞き返すとまた別のことを言い出したり、取り繕ってその場しのぎの(すぐばれるような)言い訳をしたりする。しかも詐欺師のように騙そうという意図や、他人の目には自分がこう映るはずだといった深慮もなく、何のてらいもなくそうした言動を行う。

片岡氏の問いに対して、女は「殺したのは筧さん(最後の夫)だけです」と声を荒げ、殺す理由がないとして他の犯行を否定する。それは一見すると認知症による事実誤認のように見える。だが突飛な見方をすれば、彼女にとっては一人目も二人目も三人目も区別がなく、初めの夫とは別の「男」を殺して金を奪うという意味で一度きりのことと認識されていたのかもしれない。同じような犯行を繰り返していたのではなく、いつからか認知症を患った彼女が認識できたのは「筧さん」だけだった可能性もあるのではないか。

片岡氏は「認知症により、これらのこと(筧さん以外に対する犯行)を全部忘れてしまったのか。それとも元々、人を殺すことや嘘をつくことに罪悪感を一切覚えない人間なのか」、「悪人というより何か重篤な精神医学的な問題化、心理学的な問題を抱えた人物なのではないかと思うようになった」と、筧のサイコパシーな性質なのか認知症の影響なのか見定められずに当惑を示している。

 

鳥取連続不審死事件

2009年、「毒婦」と呼ばれた2人の女が注目を浴びた。周囲の4人の男性が不審死した首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗(34)と周辺で6人の不審死が疑われた本件の上田美由紀(35)である。ふたりは共に美人とは見なされがたい肥満体で、なぜ男たちが彼女に金を貢いだり騙されていたのかと人々に下世話な関心を抱かせた。

虚飾に塗れた生活をブログで綴っていた木嶋とは対照的に、上田は2度の結婚やいくつかの同棲を経て、内縁の男性(46)と5人のこどもと共に「ゴミ屋敷」状態の平屋アパートで暮らしていた。上田は男と共に働いた多数の詐欺や窃盗と、男性2人の殺害容疑で逮捕、起訴される。殺害については否認したが、2012年12月に全て有罪とされ死刑判決を受けた。

2人の男性は上田との間に金銭トラブルを抱えており、亡くなる直前には現場となる海や川へ上田と一緒に向かったことが確認されていた。遺体からは共に睡眠薬が検出されており、一緒に軽食をとっていたことも明らかにされた。

片岡氏によれば、上田は前項の筧千佐子と趣きがやや異なる意味で自らの冤罪を訴えることが指摘されている。手紙では礼儀正しく、性格がよさそうな文章が綴られ、会えば褒め上手で、とても嘘を言っているとは思えない表情で「息をするように嘘をつく」人物と評され、「嘘をよくつくが、嘘は決してうまくなかった」とたしなめられている。虚言癖は、劣等感が強くプライドの高い性格、努力は続かないが他人に認められたい欲求、孤独や寂しさから周囲に構ってほしい承認欲求などと表裏一体にある。被害に遭った男たちは、女を愛していた訳ではなく、憐れんで捨て置けない気持ちに付け込まれてしまっていたのかもしれない。

 

■横浜・深谷親族殺害事件

2009年8月、埼玉県深谷市に住む男性(69)が一人暮らしの自宅で包丁を刺されて死亡しているのを知人から通報を受けた警察官が発見する。県警は交際相手らの証言から高橋隆宏をマークし別件逮捕で殺害について追及した。半年間に渡って再逮捕と起訴を繰り返し、2010年6月にようやく高橋は自白を開始する。しかし殺害について認めたものの、首謀者は3つ年上の従兄弟・新井竜太だとしたため、殺人容疑で揃って逮捕される。

調べを進めると、2008年3月、戸籍上は高橋の養母にあたる女性(46)が新井の母親が経営する内装工事会社兼自宅の浴室で溺死しており、3600万円の死亡保険を受け取っていたことが判明する。高橋は出会い系サイトで知り合った女性たちに売春などをさせてヒモ暮らしをしており、彼女も「金づる」のひとりだった。高橋は本件についても新井の指示で保険金目的で殺害したと自供。新井は男性殺害に使用された凶器や「事故死」した女性にかけられた保険などに深く関わっており、高橋の「自白」に強く裏打ちされて共犯を確実視されてしまう。

公判で高橋は反省の態度を示して無期懲役となり、対照的に新井は無実の訴えが「不合理な弁解に終始し、責任逃れに汲々としている」と悪印象を招いて死刑判決が下される。詳細は本書や片岡氏の記事でご確認いただきたいが、裁判資料の調べや新井の釈明、高橋からの返事の手紙を踏まえ、高橋が苦し紛れに新井を首謀者にでっち上げた冤罪事件だと氏は確信している。