筑波研究学園都市と都市伝説について

筑波研究学園都市は、昭和40〜50年代にかけて国の研究機関(機能上、都内に必要としないもの)が多数集約されて整備された計画都市である。1985年につくば科学万博開催、その後、研究機関の多い町村が合併して現在のつくば市になった。
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https://www.city.tsukuba.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/219/nenpyo11.pdf

地方都市というと多くは昔からの城下町や門前町、駅などをベースにした周辺開発、あるいは郊外では大型ショッピングモールなどが中心となり、国道(街道)沿いにチェーン店が立ち並んで商業区域が形成される。
だがつくばでは学園都市地区(いわゆる研究機関の敷地)と周辺開発地区(いわゆる農村集落)とが大通りを隔ててモザイク状に分散しており、「線」的・「面」的な商業地域は形成されていなかった。短期間に造成された特殊な計画都市の「弊害」として、「住みづらさ」「都市のいびつさ」は長く指摘されてきた。これは大学生や研究者ら「新規移住者」が人口比率に対して大きな割合を占めており、人口の新陳代謝が活発なこととも関連していると思われる(流出入者が多く、他地域と比較されやすい)。

現在はつくばエクスプレス(TX)線終点駅となっている「つくばセンター」もかつては中規模なバスターミナル機能が主で、周辺に宿泊施設と西武百貨店ジャスコ(イオン)などが一体となった複合商業施設「クレオスクエア」があるだけで、商店街や風俗街のような雑然とした賑々しい様相はない。
田舎と都会が混然となった都市の特徴を表すエピソードとして「電気街に集うヤンキー」の話を紹介する。つくばセンターから程近い場所に東新井という地区がある。1980年代(万博の前後)に商業開発が進み、JOYPACK(通称ジョイパ。当初はレストラン営業だったが業態を変えた)、EXCEL(エクセル。パチンコ、ゲームセンター、飲食店を備えた大型遊戯施設)といった大型“ディスコ”が県内外の若者たちを惹きつけて活況を呈した(当時ダイエーの屋上駐車場でドライブインシアターも行われていたという)。その後、土着の走り屋・ヤンキー文化と結びついて周辺はナンパスポット化し、夜な夜な県警とのいたちごっこが繰り広げられた。1990年代半ばから2000年代にかけて同地区にサトームセン石丸電気などの家電量販店、パソコンショップ等が集まり“つくば電気街”などとも呼ばれた(学生や研究者などが多く『ウィンドウズ95』以前からパソコン文化浸透の素地もあった)。なかでも石丸電気は広大な駐車場を備えていたことから、警察の目を逃れてローリング族が夜間に流入。なぜか夜の電気街で県警がヤンキー摘発に奔走するという光景が見られた。

歴史ある地域という訳ではないが、界隈では比較的多くの「都市伝説」が囁かれてきた。
都市成分の特殊性に加えて、都市部と農村地域との文化的隔絶、若者の遊ぶ環境が少なかったこと、また筑波大学には大規模な「学生寮(宿舎)」があり代々語り継がれる「下地」があったこと等に起因すると考えられる。全国の小中学校で「七不思議」が成立するように、孤立した変化の少ない環境と構成人員の流動性が、都市伝説の継承を補完していたといえよう。
今日では、鉄道開通に伴う新規開発(ベッドタウン化)と定住型世帯の増加、大型ショッピングモール出店等による余暇の変化、初期に整備された公団や機関施設・大学の老朽化に伴う撤去や大規模な建替えが行われ、都市機能や人口構成は様変わりしつつある。さらにインターネットの普及と利用環境の変化によって、若者たちが感じる地理的な「不便さ」、心理的な「不自由さ」はそれ以前に比べると薄まっていると考えられる。
1970年代後半に流行った「口裂け女」は、当時増えていた「子どもの塾通い」という環境要因・時代背景に関連付けられて語られることが多い。筑波研究学園都市もその変貌に伴って、今後都市伝説が誕生・定着しにくくなることも懸念される。昭和から平成にかけて、この街に積み重ねられてきた数々の都市伝説は、まるでかつて街を訪れた若者たちの「足跡」、「時代の残滓」のようにも思われる。

都市伝説・ロアは、その性質上多くの語り手によってリライトとリワークを繰り返される。
いまや通用しない風説や目にすることのない光景(駄菓子屋、電話ボックスなど)はやがて語られることはなくなっていく。
平成の終わりという節目に、次の「語り手」へとバトンをつなぐ意味で、筑波研究学園都市にまつわる都市伝説を下に遺しておく。既存の都市伝説と混ざったようなものも含まれるが、発祥については明らかにしない。



【地下空間】
研究都市と大学の地下には、事実として全長7.4㎞にわたる広大な共同溝が埋め込まれ、上水道、冷暖房配管、廃棄物運搬管、電力線、TVケーブル線等のライフラインが集約されている(マジで)。
この共同溝や首都機能代行を担って計画された都市であることに因んで、「国内に有事の際、研究者らの知的エリートや皇族、政治家などが避難する核シェルターになっている」「公にできない国家機密機関の存在」「皇居につながっている」といった説が囁かれている。

【きさらぎ駅】
2000年代、某掲示板発祥の都市伝説として有名な「きさらぎ駅」。実在しない場所ともいわれていたが、2018年現在Web上のとあるマップで位置検索を行うと、筑波大学構内にある池付近を示す。学内には当然のこと路線は存在していない。

【S十字路、Iカーブ】
一見すると普通の十字路だが、夜になると白い服を着た女の幽霊が現れて運転手を邪魔するため、交通事故が異常に多いという話。調査してみると目の錯覚を引き起こしやすかったり、草木が伸びると見通しが利かなかったり、昼は見通しが良くても夜は外灯が少なかったりと、道路には気づきにくい危険な要素が潜んでいることも少なくない。Iカーブは曲率が徐々にきつくなることから、度胸試しにチャレンジした二輪車が多数事故に遭っている。都道府県・市町村レベルで見てもこの地域では交通事故が多いことも関連しているかもしれない。

【架空の事故現場】
道路に花が手向けられ、他に誰もいないのに座って何かをしきりに喋っている男性を見掛ける。「交通事故のご遺族の方かな」と思っていると、後日、別の場所で同じ男性がまた同じことをしている。事故現場なのかどうかさえ分からないが、同様の男性の目撃談は後を絶たない。

【人面魚・人面犬
1990年前後に起きた人面犬・人面魚ブームに追随するように、「遺伝子組み換え実験で誕生したものが逃げた」「大学の池で飼育されている」と噂された。バリエーションとして、「研究用にカニクイザルが大量飼育されている施設がある」「2mの巨大ネズミを見た」等無数に存在する。「放射線漏洩による」といった悪質なデマよりもジョークの成分が強い。時代の変化によって野良犬そのものを見掛ける機会が減り、国民総スマホ時代になったため、今後、人面犬のような噂ブームは起こりづらいと考えられる。誕生するとすれば猫やカラスのような別の生き物で、加工動画などになるのではないか。
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【大学成立の背景】
かつて学生運動の本拠とされてきた某大学が、新都市構想の一環として機能移転された。現在の場所に移転する際、政治運動の抑止・根絶も目論まれていたと考えられている。
左派系教職員は移転時に異動が認められなかった、学生寮は当時複数人同居がまだ一般的だったが「組織の温床」化を防ぐため個室部屋にされた、建造物は「シンボル化」「拠点化」しにくい構造である、本部棟は機動隊が侵入しやすい立地である、など。学生自治会はなく、現在も政治運動はほとんど見られない。筑波大学にかぎった噂というより時代背景による事実である。

【大学の3S】
学生運動対策として大学が学生に講じる3S政策「Study(研究),Sports(運動),S〇〇」が存在するという話。
3つ目は「Sex(えっち)」「Self Abuse(自慰)」「Speed(走り屋)」など諸説ある。
他にやることがない「陸の孤島」とも称され、絶望の果てに「Suicide(自殺)」に行きつくとされる。
セックス以外やることがないため、同棲、学生結婚も多いと言われている。かつては公道でのレースや山地での峠攻めなどが盛んな地域であった。「毎年学生が3〜4人自殺する」「大学生の自殺率は日本一」と言われ都市構造や地理要因を採る説もあるが、学生数が多いというだけで人口当たりの自殺率としては著しく多いという訳でもない。

【学園祭闘争】
政治闘争はなかったものの、「学園祭」開催を求める運動が起きた。
大学本部棟への侵入は困難を極めたが、地下共通溝から潜って侵入できた学生がいたという話。地下共通溝に入ったら除籍、という噂もある。

【H宿舎の2号棟】
大学構内には宿舎が3か所にある。H宿舎群は11号棟まであり、棟ごとに番号が振られているにもかかわらず2号棟が存在しない。2号棟を建設しようとすると色々なトラブルが相次いだために、計画が立ち消えになってしまったというもの。放射線量が異常に高かった、かつて陸軍の死体置き場だった、職員用宿泊施設に転用された等、諸説ある。2号棟予定地だった区画は駐車場にされた。

【深夜の幽霊ランナー】
深夜に足音を響かせながら宿舎内の壁を突き抜けて走り回るランナーの目撃が相次いだ。会った人に「ゴールはどこ?」と尋ねるという。機転を利かせた学生の一人のおかげで、晴れてゴールテープを切る事が出来、成仏できたのか姿をあらわさなくなった。運動学部が存在しておりスポーツが盛んで、昼夜を問わずランナーが多いことも遠因かもしれない。別名「走る体専」。
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【星を見る少女】
H宿舎6号棟4階のある部屋の窓辺で、毎夜星を見上げている女性がいる。それに気づいた近所の男子学生が、「ロマンチックな女性だ」と毎夜眺めているうちに好きになってしまった。あるとき、思い切って彼女の部屋を訪ねてみると、部屋に姿があったのにドアを叩いても彼女は出てこない。管理人に頼んで鍵を開けてもらうと、窓辺で首を吊って死んでいる彼女の姿を発見する。この男子学生が後に自殺するパターンもある。よくある都市伝説の類型のひとつだが、大学宿舎の存在がより在学生たちに関心とリアリティをもたらしている。

【トイレの色が違う】
H宿舎8号棟と9号棟の間にあったトイレに他と違う色の個室があり、そこだけ頻繁に水周りがおかしくなる。かつて室内で焼身自殺があり、水を求めているからだとされる。

【開かずの間】
かつてサッカー元日本代表のG選手も暮らしたというO宿舎には「開かずの間」が存在する。かつてこの部屋で、そこに住んでいた学生の彼女が首吊り自殺をしたことに端を発し、以来、この部屋では毎夜すすり泣くような声が聞こえるようになり、寄り付く人がいない開かずの間になった。また宿舎で自殺者が出ると、3年間新しい入居者を入れないという言い伝えがある。
また寮室の「鍵穴」がタテ→ヨコに回すタイプとヨコ→タテに回すがあり、いずれかは自殺者が出た部屋とされる。

【風化老人】
I宿舎の二人部屋に現れるという風化老人という亡霊の話。服も体もボロボロに風化しており、古文書を読む姿で現れるという。また宮田登『都市空間の怪異』に、体が風化しかけている老人がランニングをしているという「風化じいさん」の記載がある。

【工学系のF棟】
他の研究棟と比べてかなり高い、赤い建物がある。その高さから、飛び降り自殺をする人があったとされ、一時は自殺予防の看板まで立てられた。この建物の外壁はもともと小豆色で、完成から歳月を経ても色あせるどころかさらに赤が鮮やかさを増しているといわれる。10階の窓から外を見ると自殺者の姿が見え、時にそれらの霊に誘われる。屋上への鉄扉が厳重に施錠され、屋上は強固な策に覆われているとされる。

【目の樹】
大学校内の「ゆりの木通り」という並木道に立っている木の幹の多くに、枝打ちした痕が残っていて、それがまるで目玉のように見えるという話。広大な敷地に池や並木道などが多いキャンパスで、手入れが行き届いていることから切り痕はよく目につく。見慣れないと恐怖を感じるかもしれない。

【池】
大学の池からアヒルor錦鯉を捕獲して食べた学生が除籍になったという話。

【博士号事件】
2013年、学内の池に学章付きのアヒルボートが突如出現した事件。
詳細は下リンクに詳しい。
tsukuba-daigaku.com

【さまようバス停】
日によってバス停が移動し、橋の途中や道路の真ん中などにも出没した。酔っぱらった学生による犯行と言われている。

【幻の第四学群
現在では変更されたが、かつて筑波大学では学部・学科ではなくナンバー学群制が敷かれていた。
設立当時、第一学群が「基礎学群」、第二が「文化・生物学群」、第三が「経営・工学群」とされ、国際総合学やシステム工学系といった先端分野を集約させた応用的・学際的部門として「第四学群」が構想されていたが、結局実現には至らなかった。
以後、秘密裡に存在が囁かれる幻の学群として「大学地下に存在する謎の組織」といったフィクショナルな存在として扱われていた。

【つくばロボ】
地下空間でロボット工学の粋を集めた巨大ロボットが制作されており、有事の際に出動するとされる。
エキスポセンターにある高さ50mのH-Ⅱ型ロケット模型が戦闘用ソードに、国土地理院にあった直径32mの巨大VLBIアンテナは盾になるとされる。
おとなりの牛久市にある全長120mの立像・牛久大仏を試作機とする説もある。

【『悪魔の詩』翻訳者殺害事件】
ムハマンドの生涯をテーマにした英小説『悪魔の詩』を邦訳した大学助教授が校内で殺害された実在の未解決事件。
原作の内容がムスリム社会への冒涜だとみなされ、作者のみならず各国の翻訳者・出版関係者が命を狙われたため、暗殺説が有力視されている。
殺害現場付近のエレベーターが動かなくなり「開かずのエレベーター」にされた等の噂が出回った。
sumiretanpopoaoibara.hatenablog.com

【梨泥棒】
大学の学生が近隣の畑から梨を盗んで除籍されたという話。大学建設反対派、学生向けアパート反対派の地主の畑だったともいわれている。
農地の周囲に張られているネットは獣除け・虫除けではなく「学生除け」だとされる。地元住民と学生とのトラブルはどこにでもあるとは思うが、梨の産地・茨城らしさに溢れている。

ソアラ坂】
1983年、高級スポーツカーが急な登り坂を猛スピードで走ったところ、街路樹に激突し、助手席に乗った学生が死亡したといわれる坂。今でもたまに突き刺さっている等のバリエーションがある。

【姉さんの壁】
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市内にある公務員住宅712号の壁面にあうヒビが『姉さん』と文字のように読める。
この建物と道路をはさんだ向かいにファミリーレストランがあった。店から出てきた幼い弟が、先に道路を渡っていた姉の元へ行こうと飛び出して、車にはねられ亡くなるという事故があった。
その後、弟の無念によるものか、地震でこの壁面に亀裂が走り、子供が最後に叫んだ「姉さん」という言葉が浮き上がった。

【#筑波大学は核実験を辞めろ】
2016年前後から茨城県南部で体感地震が起こるとTwitter上で同上のタグやツイートが発生する。ときに【第四学群】や【地下空間】との関連も噂される。
個人的には嫌いじゃないブラックジョークだが、地震や核爆弾などの悲劇に遭われた方も存在し、不愉快に感じる方は少なくない。大学側から風説の流布による威力業務妨害で訴える日もそう遠くないのではないか、と予感させる(が、勿論そういう冗談が通じない世の中になってほしいわけではない)。
※追記。2020年に大学公式アカウントを詐称して「同大学では一切の核実験を行っておりません」という悪ノリ便乗ツイートが発生した。