狩撫麻礼、谷口ジロー『青の戦士』感想

狩撫麻礼原作×谷口ジロー画、1980−81年ビッグコミックスピリッツ連載のアウトローボクシング劇画。


ライト級ボクサー・礼桂(レゲ)、戦績は32戦12勝20敗。
全てKOで勝負が決する彼の試合はボクシングフリークたちを熱狂させ、「負け星のメイン・イベンター」と呼ばれていた。
凄腕トレーナー兼プロモーターのダンジェロはその「神秘的(ミステリアス)な戦士(ボクサー)」を一目見て惚れ込み、全てを投げうって一世一代の賭けに出る…



孤独のグルメ』『坊っちゃんの時代』等で広く知られる谷口ジローは、1970年代後半から80年代にかけて関川夏央、狩撫らとコンビを組み、多くの劇画を著していた。
狩撫麻礼は、小池和夫の「劇画村塾」1期生として学び、レゲエやジャズをはじめ黒人文化を取り込んだ独自のダンディズムやハード・ボイルドな作風によって、79年のデビュー以来コアな人気を博した。数々のペンネームを用いており、韓国で映画化され、カンヌ映画祭審査員賞となった『オールド・ボーイ』の原作者・土屋ガロンも彼の名義の一つである。


谷口が2017年11月、狩撫が2018年1月に相次いで逝去したことは記憶に新しい。さらに、60年代から長きに渡り数々の偉業と伝説を打ち立てたヘビー級王者・モハメド・アリも2016年に亡くなっている。本作では、アリが終わらせたヘビー級ではなく、ライト級が舞台になる。
単行本1巻、300にも満たないページ数の中で描かれる数試合の「ボクシング」は、格闘マンガの進歩を経た今日においては表現に物足りなさを感じるだろう。興行師たちの暗躍や、「勝敗」にカタルシスを得ない主人公の態度もまたボクシングマンガ、スポーツマンガと呼ぶには相応しくないものかもしれない。



物語後半、ボクサー以前の礼桂の過去や並外れたハードパンチの謎が明らかになるにつれ、読者は妙な感触を味わうことになる。
人知を超えた能力の覚醒に至った経緯を、かつて礼桂がネパールで修めた瞑想などの宗教体験へとフュージョンさせていく。
1970年代、三島由紀夫の自決や連合赤軍といった“赤の革命”が失敗に終わる中で、礼桂は日本を抜け出てネパールへ入ったとされている。血の革命の敗北から神秘主義“青の時代”への移行を描こうとした大胆な挑戦ともとれるのである。

当時の“空気”というものを私は知らないが、宗教学教授・柳川啓一から薫陶を受けた島田裕巳が農業ユートピアを目指す「山岸会」へ入会し、中沢新一が「チベット密教」へと傾倒した時期と丁度重なることは偶然の一致ではないだろう。政治の時代に取り残され、世紀末を生きる若者たちはカウンターカルチャーであるヒッピー・ムーブメントの余波や新宗教へと関心を寄せたのである。

チベットのモーツァルト (講談社学術文庫)

チベットのモーツァルト (講談社学術文庫)


(連載の都合とはいえ)異常なほどの焦燥感で物語は進展し、Bob Marleyを引きながら壮大なエンディングを迎える。



“奴らはすべてのラスタマンを殺せはしない”

“状況(やつら)はすべての予言者(ラスタマン)を殺せはしない”