映画『ミルク』感想

1978年、米国初の同性愛をカムアウトした公職者ハーヴィー・ミルクは己の暗殺を予期して、その半生を録音して残していた。

「生き方をかえたい」
72年、40歳を迎えたミルクは若いボーイフレンドと共にLAカストロ通りで商売をはじめ、街はまたたく間にゲイの新天地となる。
警察のゲイ弾圧を契機に、ミルクは市政委員や州下院に立候補する。日常化した弾圧、公権力の度重なる迫害に対して、彼は恐怖するのではなく立ち向かうことを選んだのだ。
米国での同性愛者差別は、宗教観、家族観に根付いている。同性愛は神の摂理に背く行為であり、社会の病理であるとみなされてきた。
アニタ・ブライアントらによる同性愛者弾圧運動を発端に、声を押し殺してきた全国のゲイたちにも連帯と闘争の火が灯る。

「きみたちに希望を与えよう!」
78年、市政委員に。
待ち受けていたのはブリッグスによる〈提案6号〉、同性愛者クビ切り法案。
公民権か 市民戦争か ゲイに権利を‼」
同性愛者公民権の制定と廃止の議論は、全国的なムーブメントとなっていた。ハーヴィー・ミルクはカミングアウトを推進した。同性愛者という見分けのつかない“敵”を、誰もの周囲にいる“隣人”であることを知らせ、彼は人権派の嚆矢に躍り出る。そして彼は、その闘いに、かつての自分に、打ち勝つのだ。


「ねぇ ハーヴィー、新しい世界で新しい友達を持つべきだよ」


よりよい明日への希望。
「どうかムーブメントを続けてほしい。それは“私たち”のためだ」
ハーヴィー・ミルクは現代の同性愛者や社会弱者たちに、小さな希望をつないでくれた。

遺言テープを元にしているせいか、人間像としてのミルクはあまり描かれておらず、事件の経緯や世相を強調した内容になっている。
だがエンディングが進むにつれ、彼が抱えてきた恐怖や政争の渦中で垣間見せる虚しさ、闘いの連続に打ちひしがれる人間的な脆さが極めて短いシークエンスとして走馬灯のように思い起こされた。
ショーン・ペンの演技は圧巻である。