出会い系

中3の夏、大学生のM君から、2人×2人で海に行かないかと誘われた。
地元は海から結構遠いので、多分深夜帰りか、泊まりになる。
多分そういうことなんだろう。
以前M君とも一緒に遊んだYちゃんに話をした。
夜中に帰ると親に心配かける、泊まりの方がマシ、とか言って結構乗り気だった。



Yちゃんと私は駅で拾ってもらって、車で3時間くらいかけて隣県のO海岸に行った。
運転席のS君は、M君の大学の後輩で、色白で物静かで、私の知ってる大学生の中にはいないタイプだった。
多分M君に強引に連れて来られたんだろうな、と思った。
女どころか男にも心を開かない、とか、研究用の実験動物と付き合ってる、とかってM君に冷やかされていた。
S君は怒りもせず静かに笑っていた。



Yちゃんと私ははじめ後部シートにいたけど、どこかのサービスエリアでいつの間にか席替えされて、私は助手席になっていた。
そういうところでYちゃんとM君はウマが合っていて、後部シートは賑やかそうだった。
S君は相変わらずハンドルを握ったまま、聞かれたことに応えるくらいで、一度も私の方を見ることもなかった。
私は退屈そうに食べたくもないプリングルスをずっと食べ続けていたから、バカだと思われていたのかもしれない。
時代遅れのカーステレオから、どっかの国のティーンアイドルとラブフールばかり流れていた。



花やら蝶やらフルーツ柄がプリントされた極彩色のビキニ。Yちゃんの水着を見て、日本の海で着るかソレと結構ヒいた気がする。
今にして思えば、若い内しか着られないものは醜くたって着ておけばよかったなって思う。
一応ね、と言ってYちゃんは私にコンドームを手渡した。
更衣室から出ると、M君は、ビーチで一番輝いてる、とか言ってYちゃんを大げさに持ち上げた。何事にも分かりやすい方が男の人にとっては親切なんだ、と知った風に思った。



青いってほど青くない海と、白いってほど白くない砂浜は、暑いってだけの夏にちょうどいい。



途中で買ったビーチボールは思っていたより膨らまない。
残酷なくほど続かないビーチバレーを諦めて、ボートでばかり遊んだ。
M君とS君にボートを引っ張らせて、私は仰向けのまま空ばかり見ていた。
シンデレラはきっと夢を見ていたのだろうと思った。
遊んでないと息してないくらい苦しい。
そんな私を時折ひっくり返して笑ってくれる優しいみんな。



席についたら食べ物が運ばれてくるくらい選択の余地がない方がいいに決まってる。
何が食べたいかとか、他の人の注文とかどうでもいい。
カレー味のカレーは甘いくせに塩っぱい。
砂を噛む感触がイヤで半分残す私を見て、「そういうところが好き」とYちゃんはゲラゲラ笑った。
飲めないお酒に付き合ってあげるフリをして、私は不貞寝した。



S君は居残りで私のお守をさせられていたらしい。
海の家から締め出されて、ビニールシートに戻ってみたけど、M君たちはいなかった。
もう日が暮れるのに、まだ泳いでんのかね、とS君はぼやいた。
潰れかけのビーチボールと格闘するS君を見ながら、私は変に申し訳なく思った。
平日とあって、周りも結構な人たちが帰路についていた。
探してくると言って岸まで走った。



私は苦もなく沖に浮かぶボートを見つけたけれど、気づかないふりをして戻った。
ボートの陰では男と女が波に揺れていた。
S君は、小さく畳んだシートの上で、荷物と一緒に体育座りしていた。
ごめん、見つからなかった、と誤魔化すようにペプシコーラを渡すと、2人で帰ろっか、とS君は慣れないジョークを返した。



人もまばらになって、話すこともなくて、手持ち無沙汰に日が暮れていった。
急にS君が立ち上がって、先に花火やっちゃおう、と車まで走って取りに行った。
どう考えても多すぎる花火とバケツを抱えてよたよた歩くS君は、誰がどう見ても紛れもなくカッコ悪かった。自らゴールを祝福しておきながら、ライターを忘れたことに気付いて慌てて往復する姿は、そのときビーチで一番輝いていた。



何本かパチパチとやっていると、M君とYちゃんが戻ってきた。
「ボートが沖まで流されて」「死ぬほど大変だった」らしい。
S君も様子を察したのか、場はなんとなく2人×2人のままだった。
賑やかな昼の海よりも、何もない夜の海の方が好きだと気づいた。
私は急に元気になって、潮風に流されるパラシュート花火を子犬のように追いかけた。



線香花火が終わって、M君がボートにごろんと寝転がると、両脚の隙間にYちゃんが収まって、彼の両腕が迎え入れる。
私が2人から目線を外すと、初めてS君と目が合った。花火のごみとバケツを持つと、行こう、と言って歩き出した。
サンダルに入ってくる砂ばかりが気になるような素振りで、私も後に続いた。
S君は溢れかえったゴミ箱のそばに花火の燃えカスを丁寧に置き、バケツを洗いながら、足、と言った。
私がきょとんとしていると、もうシャワーが使えないことを教えてくれた。
足を洗う姿を見られることは世界で一番恥ずかしいことだ、と学校でも教えるべきだ。



助手席でいつまでも名残り惜しそうに足先を拭く私を見るともなく彼は何を考えていたのだろう。
沈黙していると心臓の音まで聞かれてる気がして、ただ波の音が聞きたかった。
なんか恥ずかしいな、って嘯いた。
タオルを動かす私の手を不意に制止させたかと思うと、S君はエンジンをかけ、窓を開ける。
そういうんじゃないから、と私の目を見ながら小さく笑った。
どういうんじゃないのか分からない私は、年相応にきょとんとしていたに違いないのだけれど、S君は運転席のシートを倒して私に背を向けて横になった。



呼ばれた気がして目覚めると、車に近づいてくるM君とYちゃんがいた。
仲良く水着にTシャツ姿で、寒い寒いとはしゃぐ2人を見て、私も肌寒いことに気が付いた。
近くのファミレスで暖まろうって話になって、私はベリー系のパンケーキをぺろりと平らげた。
ひと口目で無意識に、うまっ、とか口走っていたらしく、Yちゃんはハグするほど大喜びしていた。
口にしたことはないけど、私はYちゃんのそういうところが羨ましかった。



いつの間にか席替えされて、Yちゃんと私は後部シートで疲れた子犬のように眠り、気付いたら車はもう地元の駅前に着いていた。
外は鬼のような日差しで、エアコンの効いた車内でも体がべたついていた。
暑いからやるよ、とM君が頭に巻いていたタオルを差し出すと、くせーし、いらんわ、とYちゃんは笑った。
真似してS君も、いる?とステューシーのパイル地のハットを差し出したので、くせーけどサンキュー、と礼を言って、さっさと貰って車を降りた。
私が今まで生きてきた中で、このときほど上手く、咄嗟にサンキューを言えたことはない。